「Exhibition(展示会)に求められるもの」[コラムvol.282]
出典))「The Trade Fair Industry in Asia 8th edition」(UFI)より筆者作成

 去る12月9日(水)、東京ビッグサイトで「Japan Exhibition Forum 2015」(主催:一般社団法人日本展示会協会)が初開催された。同フォーラムは、全国の展示会主催者、展示会場、関連サービス業がブースを出展する他、世界の展示会業界団体のスピーカーによる講演や各種セミナーで構成された、いわば「展示会業界のための展示会」という内容であった。

 本コラムでは、同フォーラムでの世界の展示会業界団体のトップの方々による、世界の展示会のトレンドに関する講演、また世界の展示会に関するデータから、Exhibition(展示会)に求められていることについて考えてみたい。

アメリカ、アジアにおける展示会トレンド

 同フォーラムでは、アメリカの展示会業界団体「International Association of Exhibition and Events(IAEE)」のPresident and CEOであるDavid DuBois氏、およびアジアの展示会業界団体「The Asian Federation of Exhibition and Convention Association(AFECA)」のPresidentであるWalter M S, Yeh氏の両氏から、近年の展示会のトレンドをテーマとした講演があった。筆者は、両氏の話に共通するポイントは以下の2点であったと考えている。

 1点目は、「若い世代への対応」である。IEEEのDubois氏は、展示会に関する課題の一つとして、“ミレニアル世代(※主にアメリカで1980年代~2000年代初頭に生まれた10代、20代の総称)をどう展示会に呼ぶか”があるという。これは、ミレニアル世代は幼いころからデジタル機器やインターネットを活用しているため、わざわざ足を運ばなくてもインターネットを活用すれば事は足りるという意識があるといった背景がある。こうした課題への対応策として同氏は、展示会でのデモンストレーションなどにより“Experience(経験)”という価値をどう向上させていくかがポイントとなると語っていた。またAFECAのYeh氏も、Generation Y(※1980年~1995年生まれの世代。前述のミレニアル世代に重なる)はデジタルに慣れ親しんでいることから独特の行動パターンがあり、その対応として“Off lineで質の高いものを提供すること”の必要性をあげていた。

 2点目は「(情報通信)技術の発展」である。Dubois、Yeh氏ともこの点については「もはや“トレンド”というものではない」という趣旨で話をしており、特にYeh氏は、スマホで何でも出来る状況の中、Wi-Fiや充電場所の整備は「あって当たり前のもの」になってきていると指摘していた。こうした状況は日本にとっても同様のものであり、今後の対応が求められる事項であろう。

アジアにおける展示会の成長

 両氏の講演の中でも多少触れられていたが、近年のアジア各国では展示会が成長している。DuBois氏からも、「33.8%のアメリカの展示会主催者は、アジアで展示会を開催したいという意向がある」という調査結果(2014)が紹介されており、今後アジアでの更なる成長も期待できる状況にある。下記グラフはアジア主要国の展示会出展面積の増加率(2007年を基準)を示したものであるが、台湾を筆頭に各国で概ね右肩上がりに増加していることが分かる。しかし残念ながら日本については、2011年の東日本大震災の発生以降徐々に増加傾向にはあるものの、未だ2007年の水準には戻っていないのが現状である。もちろんこの背景には、日本が90年代にはすでに国内主要都市に展示会場が完成していたことからやや成熟した状況にある一方、アジア各国は今が成長の段階であることがある。実際、出展面積自体は日本は約200万㎡でアジア2位(1位は中国の1,000万㎡)であり、3位の香港の約94万㎡とはまだまだ差がある。しかし、アジア各国で、東京ビッグサイトより大きな展示会場が近年建設されている(あるいは建設中である)状況であったり、施設の増改築が行われていたりする状況をみると(筆者も今年はこうした施設を実際に見る機会が多かった)、やはり勢いの差を感じ、日本において展示会場をどう増加させていくのかも求められる事項と考えられる。

出典))「The Trade Fair Industry in Asia 8th edition」(UFI)より筆者作成

出典))「The Trade Fair Industry in Asia 8th edition」(UFI)より筆者作成

東京ビッグサイトで展示会が約2年間開催できない恐れ?

 展示会を開催する場所の問題として日本で大きな話題となっているのが、2020年のオリンピック・パラリンピックの東京開催時の東京ビッグサイトの使われ方である。東京都は、2015年10月22日、現時点での計画案として、「ビッグサイトは2019年4月から2020年11月までの20ヵ月間、オリンピックのメディア施設として全面的に使用される」と初めて公式に発表している。もしこれが現実になるとかなりの数の展示会が中止になってしまうこととなり、展示会業界のみならず日本の産業界全体にとっても大きな問題となる可能性がある。

 こうした事態を回避するため、日本の展示会業界団体である一般社団法人日本展示会協会は、メディア施設の代替施設を東京ビッグサイト近隣に建設し、オリンピック・パラリンピック終了後は展示会場として転用する要望書を総理大臣に提出している(詳細は日本展示会協会のHP(http://www.nittenkyo.ne.jp/)をご参照いただきたい)。

 無論、施設を作るとなるとその建設費もさることながら、その後の運営をどうするかといった様々な課題が浮上してくることとなる。しかし、日本の展示会を国際的な視点でも活性化していくためには、この状況をうまくプラスの機会と捉え、開催場所の拡大という「場」の整備、また展示会がもつFace to Faceの魅力を高めるという「中身」の向上の両方に取り組んでいくことが必要なのではないだろうか。