富士信仰と外国人 ~巡礼路を歩き、富士信仰を“感じる” [コラムvol.325]

 10月15日(土)から三週にわたって放送された「ブラタモリ(NHK)」、山梨県の“富士山”特集、皆さん、ご覧になられましたでしょうか。私は、「リバース!富士講プロジェクト(*1)」とも関わりが深かった、「#52 富士山麓 ~富士山最大の玄関口はどうできた?~」を、特に大変興味深く視聴させていただきました。

  • 10月15日(土) #50 富士の樹海 ~日本を支えた?樹海の正体とは!?~
  • 10月22日(土) #51 樹海の神秘 ~日本を支えた?樹海の正体とは!?~
  • 10月29日(土) #52 富士山麓  ~富士山最大の玄関口はどうできた?~

 

 さて、そのブラタモリの3回を超えて、今回もコラムは「富士山」を話題に書かせていただきます(連続4回目!)。

 今年度、リバース富士講プロジェクトでは、旅行会社や出版社、日本在住の外国人の方々を対象に、富士講を中心とした富士山の奥深い魅力を体感するファムトリップを実施しました(6月、8月)。本コラムでは、特に8月のファムトリップ「富士山の巡礼路、麓から五合目を歩く」を取り上げて、外国人の感じた富士信仰、その伝え方などについて考えてみたいと思います。

■富士山の巡礼路、麓から五合目を歩く 概要
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日本人の宗教観、信仰を伝えることの難しさ

 一説に世界には、キリスト教徒が22億人、イスラム教徒が15億人、ヒンズー教徒が9億人いると言われています。そして、日本では現在約2億人の信者が、神道、仏教、キリスト教などの各宗教団体から報告されています(文化庁)。しかし、総人口よりも多い信者が存在する一方で、一般的な世論調査における「特定の宗教に入っている」との回答は、2~3割程度なのだそうです(統計数理研究所)。

 多くの日本人が、古来より、山、海、川、木、岩など森羅万象に神(仏)が宿ると信じ、自然に敬意を払い共生してきました。いくつもの神(仏)が存在するという日本人独特の宗教観、信仰を、外国人、特に一神教を信奉する方々に、ご理解いただくのは容易なことではありません。

 だからこそ今回は、山梨県立富士山世界遺産センター学芸員で、富士山の歴史文化研究の第一人者の堀内眞氏や、富士河口湖町学芸員の杉本悠樹氏、富士の国やまなし通訳案内士会会長の松井由美子氏らスペシャリストにガイドを特別にお願いし、綿密な打合せと入念な準備を行った上で実施しました。

富士山への畏敬の念、富士山と全国各地とのつながり、富士信仰の世界観に引き込まれる

 

 参加者は、富士山世界遺産センター見学、北口本宮冨士浅間神社への参詣後、馬返から富士スバルライン五合目まで、富士講ゆかりの巡礼路(吉田口登山道)を、堀内氏、杉本氏、松井氏らの古い絵図や写真等を用いた分かりやすい解説を受けながら登って行きます。

 天気にも恵まれた巡礼路は、木漏れ日も美しく、馬返からの道中には、富士山禊所跡、鈴原天照神社(一合目)、富士山御室浅間神社(二合目)、三軒茶屋(三合目)、大黒天小屋(四合目)、井上小屋(四号五勺)、富士山雲切不動神社(五合目)など、次々と史跡が現れて来ます。こうした史跡が数多く残るのは五合目までで、六合目以上とはだいぶ様相が異なっています。

 参加者は、ガイドの解説に高い関心を持って聞き入り、神社や周囲の風景を写真やビデオに収めていました。

 

325-1 ■北口本宮冨士浅間神社「大鳥居」前の川
「富士信仰には、鳥居をくぐる際のルール、みそぎのルール、服の着方のルール等、様々なルールがある。こうしたルールを指導するのも御師の重要な役目だった。」などとの解説を聞き、富士講員に習い、北口本宮冨士浅間神社「大鳥居」前の川で身を清める参加者
325-2 ■北口本宮冨士浅間神社「吉田口登山道」の起点
「吉田口登山道には江戸の富士講により奉納された数々の石碑が残っている。年代を見ると江戸時代のものだけではなく、近代以降のものも多く残っており、富士講の信仰が現代にも息づいていることが分かる。」などとの解説に聞き入る参加者
325-3 ■馬返、石造りの鳥居前
「現在の馬返には、灯籠や鳥居等、江戸時代の絵図に描かれた景観がほぼそのまま残っている。鳥居は「渋谷道玄坂吉田平左衛門」という人が奉納したもので、鳥居に名前が彫られている。」などとの解説を受けながら、巡礼路を歩き始める参加者
325-4 ■大黒天小屋(四合目)
解説板を前に、「四合目は別名大黒天小屋と言い、かつては大黒天を祀る場所だった。江戸の庶民の民間信仰が富士山中にも存在していた証と言える。」などとの解説を受ける参加者

(参考)ファムトリップ後、参加者が投稿したブログ等
Things to see and places to go near Mount Fuji “The historic Yoshida Trail ” Subiendo el monte fuji ruta fujiko

外国人に日本の歴史文化を効果的に伝えるために ~参加者アンケートより

 登山後、参加者にはアンケート調査を行い、各視察先の印象や満足度等をお尋ねしています。その中でも、今回特に印象に残っているご意見は以下の通りです。これらは、外国人に日本の歴史文化を伝える際に留意すべき事を示唆しています。

 ○異なる信仰を持つ外国人として、神社などは実感として捉えにくいが、洞穴や滝など自然の中にある巡礼地に行くこと、また長い時を経てきた木々などを見ることによって、富士講の人たちが感じたであろう神聖な気持ちに近いものを感じることができたと思う。

 ○過去の様々な話は、近代日本と江戸時代、さらにそれ以前の時代とを結び付ける素晴らしい方法だと思う。物事がなぜ起きたのか、ある慣習がどこで始まったのか、伝承について説明することができたら、聴衆を違う時代へいざなうことができる。

※上記はアンケート調査の回答を忠実に日本語訳したもの。

リバース!富士講プロジェクトの現在(いま)

 ファムトリップの成果を踏まえて、リバース!富士講プロジェクトでは、現在ガイドとしてご活躍で、富士信仰、富士講に高い関心を持っている方々を対象に、富士信仰、富士講に関する内容を中心とした「ガイド研修会」を開催しています。

 10月の第1回目は、今回ご紹介した、まさに「麓からの登山編(馬返~五合目)」。座学、実地の2日間をかけて開催しました。講師は言うまでもなく、堀内氏と松井氏!

 今後は、既存のガイドの方々の協力も得て、本プロジェクトでは、世界文化遺産としての理解の深化に向けた活動を、より強力に展開していく予定です。
 富士山ファンの皆さん、「リバース!富士講プロジェクト」に、引き続き、ご注目ください!

*1:「リバース!富士講プロジェクト」(山梨県富士山世界文化遺産保存活用推進協議会)は、多くの方々に、富士講文化の一端に触れていただき、「富士山は神聖な御山、信仰の御山である」という認識を高めていく、ひいては世界文化遺産としての理解の深化を図ることを目的としている。「富士講」とは、富士山への登拝を目的として結成された山岳信仰の民間組織。近世には関東・中部をはじめ全国の一般庶民にまで広がりを見せ、今も全国各地に残る「富士塚」は富士講と深い関わりを持っている。
https://www.jtb.or.jp/researchers/column/column-worldheritage-fuji-yoshizawa/