600冊の時刻表の使われ方-インターネットにはない「過去」 [コラムvol.124]

 当財団が運営する「旅の図書館」は、公益事業の一環として観光文化の振興を願い、1978年10月に開設され、どなたでも無料でご利用いただけます。ご利用いただける資料には、国内・海外の観光や文化に関する図書、雑誌、ガイドブック、地図等、約32,000冊、観光地のパンフレット、時刻表、航空会社の機内誌等があり、中でも国内時刻表は、1872(明治5)年5月号から最新版まで、約600冊をご提供しています(1973(昭和48)年1月号以降は全号所蔵)。国内時刻表は、機内誌と並んで非常に多くの方に利用されており、2009年度は延べ約1,800冊が利用され、このうちバックナンバーの利用が約1,300冊を占めます。

 ■時刻表バックナンバー検索サイト
 https://jtbf-opac01.limedio.ricoh.co.jp/drupal/

 交通機関の時刻表もインターネットで容易に検索できるようになりましたが、過去の時刻表はやはり冊子で調べるしかありません。国内時刻表のバックナンバーは、様々な目的で利用されていると想定されます。
 例えば、「自分史を執筆するため」という目的でのご利用です。「●年●月にどこそこへ行ったので、そのときに利用した列車の時刻表が知りたい」「●年●月●時●分上野発青森行きの列車に載ったのだが、水戸以降は奥羽本線か東北本線か」「学生時代に北海道を鉄道で回った。今は廃線になってしまっている。その当時の路線図と時間を知りたい」等、修学旅行や新婚旅行、学生時代の旅行など、かつて利用した列車についての正確な情報を知るために国内時刻表が利用されています。
 直木賞作家である山本一力氏が原稿を書くにあたり、自分が上京した際に利用した列車等をお調べに来館されたこともあります。

 先日は、総務省から太平洋戦争中の下関~韓国間の連絡船の時刻表が知りたい、というお問い合わせもありました。残念ながらお客様が必要とされる年月の時刻表がなかったため、近い月の時刻表でお調べしたところ、地図に航路は載っていたものの、時刻表は掲載されていませんでした。戦時中は、航路の安全確保のため、つまり敵の攻撃を受けないよう、あえて時刻表を掲載しなかったようです。
 2005年の福知山線脱線事故の際には、在京テレビ各社が同路線の時刻を調べに来館されました。

 時刻表は、鉄道だけでなく、バス・航空・宿泊についても掲載されているため、ガイドブックのかわりに宿泊料金の変遷等を調べる学生さんもいらっしゃいますし、当財団の研究員も観光地への航空便の数や機材の変遷を調べるために古い時刻表を利用することもあります。

 このように、時刻表には多様な機能があり、鉄道ファンの楽しみだけでなく、旅行や観光の研究にも活用いただける貴重な資料なのです。
 当館では、できる限り多くの国内時刻表バックナンバーをご提供することも大切なミッションと認識し、古書店で購入し欠号を補完しておりますが、入手できない号もあります。また、昭和の時刻表であっても痛みが激しいものもあります。もし古い時刻表をご寄贈いただけるのであれば、大変嬉しく存じます。ご協力、よろしくお願いいたします。

左(最古)
旅の図書館が所蔵する
最古の時刻表
(明治5年5月号/復刻版)
右(3冊)
写真左から、終戦直後昭和20年9月号、
JR民営化時1987年4月号、
21世紀最初かつ900号目の2001年1月号

※2020年10月追記:現在、古い時刻表(1985年以前。復刻版を除く。)につきましては、傷みが激しくなってきましたため、閲覧は研究目的の方に限らせていただいております。詳しくはこちらのページをご確認ください。