売りたいものの“先”にあるもの ~ソフトクリームに隠された秘密~[コラムvol.303]

 ソフトクリームといえば、子どもから大人まで幅広い世代に愛されるスイーツですが、先月開催された第13回デザート・スイーツ&ドリンク展(2016年4月13日~15日、東京ビッグサイト)でも、ソフトクリームの総合メーカー日世(株)のソフトクリームの試食には長蛇の列がありました。(同展の様子はフォトレポートNo.38をご覧下さい)

 テーマパークや道の駅などで売られているイメージも強いソフトクリームですが、日本に定着するようになった歴史や理由を紐解いてみると、実に興味深いストーリーがありました。

日本人にとってのソフトクリーム

  

 氷菓としての歴史をたどると4000年前の中国にまで遡りますが、それがヨーロッパ、アメリカへと伝わり、ジェラートやアイスクリームへと発展していきました。冷凍技術も向上し、作りたてのアイスクリームを提供するためにアメリカで考案されたのがオートマティック・ソフト・サーブマシンです。日本で初めてソフトクリームが登場したのは、1951年のアメリカ独立記念日に神宮外苑で開催された米軍主催の祝典であると言われています。その後、デパートや喫茶店などでも販売されるようになりましたが、当時はまだ高級品でした。1970年の大阪万博をきっかけに日本各地へと広まり、駅ビルやスーパーなどでも販売されるようになりました。

 このようにして、我々の生活に浸透していったソフトクリームですが、日世(株)が実施した調査によると、ソフトクリームを食べる頻度として最も高いのが「半年に1~5回」(50.7%)ですが、次いで「月に1~3回」(29.5%)、「週に1~7回」(10.2%)という結果になっており、約4割の人が月に1回以上食べていることがわかります。また、直近でソフトクリームを購入した場所は「遊園地・観光地・テーマパーク」が24%、「高速道路のサービスエリアや道の駅」が21%の順になっており、やはり観光地で購入されることが多いこともわかります。

図1 ソフトクリームを食べる頻度

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図2 ソフトクリームを買った場所

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誰からも愛される理由

  

 日本では様々なスイーツが登場し、目まぐるしく流行が変わっていきますが、ソフトクリームは流行に左右されることなく確固たる地位を築いているように見えます。上記のようなデータをみると、改めて観光地とは切っても切れない存在となっていることがわかります。ここまで浸透した理由と高いリピート率の理由はどこにあるのでしょうか。

●“作りたて”を“その場で”食べる醍醐味

 ソフトクリームを食べるには専用のマシンがある場所に行かなければならず、かつ、作りたてをその場で味わうことに醍醐味があります。つまり、そこに行った人でなければ体験できないことが大きなポイントであると言えます。

●地域らしさを表現できる多彩なバリエーション

 ソフトクリームは、フレーバーやコーン、トッピングで様々なバリエーションを作ることができるため、全国各地で地域の特産品を使ったソフトクリームが考案されています。話題性を狙った珍しいフレーバー等も誕生しており、その地域や気候・気分によって選ぶ味を変えられるという楽しみがあります。

●楽しい思い出とともにある存在

 日世(株)が実施した調査でもう一つ面白い結果があります。それは、ソフトクリームを食べる時は「いつも誰かと」が52.4%、「誰かとが多い」が24.2%といったように、誰かと一緒に食べることが多いという点です。日世(株)は、「ソフトクリームは親しい人と美味しさを分かち合う喜びを感じるもの」としています。

 食べる頻度の高い世代としては、子供はもちろんですが、30代~40代が特に高いようです。これは子供連れの家族が頻繁にソフトクリームを食べることを意味しており、子供の時に親に食べさせてもらった人は大人になってからも自分の子供と食べる傾向にあるようです。購入したばかりのソフトクリームを誤って落としてしまった場合は、無償で新しいものと交換してあげることを店舗(場合によっては費用を日世(株)が負担)にお願いしているそうです。「ソフトクリームが楽しい思い出とともにあってほしい」という願いを陰で支える姿勢には驚かされるものがあります。

図3 ソフトクリームを食べる時の同伴者の有無

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売りたいものの“先”にあるもの

 

 日本のソフトクリームの質の高さや豊富なバリエーションは恐らく世界から見ても珍しい存在であるといえますが、さらに見てみると、ソフトクリームは、単に観光のコンテンツとしてだけでなく、たくさんの旅行の楽しさや人の「幸せ」をつくってきた存在と言えるのではないでしょうか。こうした形で我々の生活に浸透したのは、美味しさの追求はもとより、ソフトクリームを取り巻くシチュエーションや思い出をより良いものにしたいという、ソフトクリームの“先”にあるものを見据えた想いがあったからこそではないでしょうか。

参考

日世株式会社