観光研究図書の独自分類から見えてきたこと [コラムvol.308]

 現在、移転に向け準備を進めている「旅の図書館」は、“観光の研究と実務に役立つ図書館”を目指しています。その実現のための取り組みの一つとして構築した観光研究資料の独自分類から、その効用や近年の観光研究の傾向の一部をご紹介します。

観光研究図書をいかに分類するか?

 

 図書館は、図書をはじめとする煩雑で膨大な資料を一定のルールで分類管理し、利用者に提供する仕組みをもつことから、「図書館はシステムである」ともいわれます。そして、これらの資料を体系的に管理する上で欠かせないのが「日本十進分類法(NDC)」です。NDCは、分類記号に「0」から「9」のアラビア数字のみを用いて、第一次区分(大分類)、第二次区分(中分類)、第三次区分(細分類)へと順次10ずつの項目に細分していく分類方法です。11とか12の分類ではなく、10ずつの分類とすることで数字に意味をもたせ極めてシンプルに体系的な分類を可能にしています。このNDCは、1920年代に森清氏によってデューイ十進分類法(DDC)の体系を元に作成されたもので、その後日本図書館協会内に設置された分類委員会によって改訂が重ねられており、日本の図書館のほとんどがこの分類法を用いています(現在は新訂十版が最新)。

 ところが、いざ観光研究図書を分類しようとすると、既存のNDCでは不具合が多いのです。たとえば、NDCによれば、観光は第一次区分「6(産業)」→第二次区分「68(運輸・交通)」→第三次区分「689(観光事業)」と、第三次区分でようやく登場するにすぎず、そのため、この分類で観光の図書を分類しようとすると、すべて「689」に分類されてしまい、さらに詳細な分類をしなければ図書の分類ができません。

 一方で、観光学は、単一の学問ではなく、歴史学や地理学、社会学、人類学、心理学、経済学、経営学、統計学、都市計画学など、あらゆる既存の学問領域を使って観光の諸事象を分析・研究する学際的学問であるため、NDCの689という小さな分類の中ではとうてい収めることが難しいのです。

 こうしたことから、観光研究資料を分類するためには、それに対応した分類が必要なのですが、わが国ではまだ観光学の体系が十分確立されているとはいえず、そのまま適用できる分類がありません。

当財団における独自分類の構築

 

 機関誌『観光文化228号』にもご紹介しました通り、当財団では、旅の図書館の収蔵図書・資料を「財団コレクション資料(F分類)」、「観光研究資料(T分類)」、及び「基礎資料(NDC資料)」に分類することにしました。中でも観光研究資料に関する当財団の独自分類(T分類)は、上記のような背景から、旅の図書館と研究員が約1年をかけて検討し構築したものです(表1)。

 第一次区分(大分類)のT0~T9の10分類は、既存の主要な観光学に関する図書の目次構成の他、海外の研究書も参考に、当財団の収蔵資料の実情等をふまえ体系化しました。このうち、T1・T2は、観光の第一主体である「観光者」の視点から、T3・T4は観光の第二主体である「観光地」の視点から、またT5は観光の第三主体である「観光の供給者」の視点からそれぞれ区分したほか計画・開発、政策、経営・経済、社会・文化等の主要テーマから構成することにしました。

独自分類から見えてきた観光研究の趨勢

 

 独自分類を構築したことで観光研究資料は格段に管理が容易になり、体系的に書架に配架することにより利用者にも資料が探しやすくなりました。

 また、図書館システムによるキーワード検索に加え、多様なカテゴリーの資料の蔵書数やリストが簡単に把握できるようになったことも大きな収穫です。

 旅の図書館では、観光研究図書を毎年300冊前後、2011年~2015年までの最近5年間では1,500冊ほどの図書(主に新刊)を受け入れています。これを第一次分類別に見てみると、受入冊数の多いのは「T5.観光産業」約400冊、「T3.観光地・観光資源(Ⅰ)」約230冊、「T9.観光と社会・文化・環境」約170冊等となっており、出版年次別の推移もわかります(表2)。さらに第二次区分別にみると、たとえば「T9.観光と社会・文化・環境」では、2011年の東日本大震災を機にして災害と観光復興に関する図書が最も多くなっています(図1)。こうした傾向は、より長いスパンで詳細に分析することで、わが国の観光及び観光研究の動向を概観する上でも参考になるのではないかと期待しています。

 観光研究の独自分類の詳細や旅の図書館の蔵書については、あらためて『観光文化231号』で紹介させていただきます。

 表1 観光研究図書の分類(T分類)

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 表2 観光研究図書の分類別・出版年別図書受入数(2011-2015年)

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 図1 「T9 観光と社会・文化・環境」図書受入数(2011-2015年)

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