フィリピンの観光政策と観光研究 [コラムvol.336]

 1月27日(金)に当財団で実施しているアジアの観光研究に関する自主事業の一環として、「フィリピンの観光政策と観光研究に関する勉強会」を開催しました。

 当日はフィリピン大学のDr. Edieser De La Santaをお招きし、講演と活発なディスカッションが行われました。(当日の様子はフォトレポートでもご覧になれます)
今回は講演やディスカッションの内容の一部について、要約してご紹介したいと思います。

フィリピンの観光の現状

 2015年にフィリピンを訪れた外国人観光客数は536万人となっており、前年比で10.9%の増加となっています。ここ数年の推移を見ても、2010年から毎年10%前後の伸びが続いています。外国人観光客による観光消費額の伸びも2015年こそ前年比5.92%と一ケタ台となっていますが2010年から10~20%台の伸びが続いています。

 ASEAN諸国の中で比較すると、外国人観光客の数、観光やビジネスの競争力といった面では劣後しており、まだ伸びしろはあるようですが、このような旺盛なインバウンド需要に対応して、都市部におけるホテルの客室供給の増加や、観光に関連する雇用の増加が起こっており、「第2の黄金期」と言われているそうです。

 もっとも、国内観光客は外国人観光客の約10倍の規模がありますが、国の政策の方向性は外国人観光客の誘致に向いているとのことでした。

フィリピンを訪れる外国人観光客数の推移
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出所)フィリピン政府官報
http://www.gov.ph/2016/03/03/tourism-growth-aquino-admin/s

フィリピンの観光政策の現状

 フィリピンでは2016年6月にドゥテルテ大統領が就任し、その言動が何かと話題になっていますが、こと観光政策に関しては大きな戦略はそのままで、基本的には前政権の方針を引き継ぐことになるそうです。

 インバウンドに関しては前政権によって2022年までに外国人観光客数1,000万人(2015年の約2倍)を目指す目標が掲げられていますが、Dr. Dela Santaによれば、インフラの整備が予定通り進めば達成可能ではないか、との見通しでした。

 このように観光分野が高いパフォーマンスを示す中で、政治の世界でも観光が注目されるようになっており、観光関連の公的企業のポストの多くが、政治家や著名な俳優で占められるようになっているとのことです。

 また、政府機関の数が65と多いのも特徴で、宿泊業、旅行業、土地・交通、カジノ、MICE、アトラクション、人材育成などの分野ごとに様々な政府機関が関わることになるため、時には同じ政府機関でありながら利害を巡って対立し、法廷で争うこともあるそうです。

フィリピンにおける観光研究の現状

 観光に関する研究分野としては、観光開発・計画、観光のインパクト、観光の持続性、観光政策、観光の協働プロセス、観光災害管理など多岐にわたりますが、フィリピン国内には観光に関する研究を行っている大学・機関はわずかとのことです。

 これは大学に在籍している研究者の多くが教育活動を中心としており、学術論文の発表がそれほど活発でないことを反映しているようです。Dr. Dela Santaによれば、実質的に観光に関する研究機関と言えるのはフィリピン大学だけで、観光分野の研究者と言えるのも10人以下ではないか、とのことでした。

 もっとも、観光以外の分野における論文は観光研究として把握されないこと、請われて研究機関や大学から政府に入る研究者がいること、自治体の観光計画の策定などを担当する実務者は民間のコンサルティング会社に在籍していること、といった事情もあるようです。

フィリピンにおける観光政策と計画に関係する研究テーマの例
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出所)Dr. Edieser De La Santa 講演資料より筆者作成

観光研究者の政策との関わり

 研究者が政策に影響を与えうるルートは国家レベルから地方レベルまで様々なものがありますが、フィリピンでは観光に多くのステークホルダーが関与することから、政策研究は多くの場合、政策立案の過程において関係してくる政治や社会環境を意識したものとなることが多いとのことです。
もっとも、フィリピンでは、何人かいる有力者とその親族が主要なポストを独占する政治システムが特徴であり、このことで土地や富、政治力が集中する「寡頭政治」が恒常化していることが挙げられます。このため、個人的な「支援する-される」といういわゆるパトロン関係が、時として行政的な枠組みよりも重要視され、政府にアクセスできるコネクションを持っているかどうかが鍵になるといった側面もあるようです。

フィリピンにおける観光政策に対する研究者の関与例
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出所)Dr. Edieser De La Santa 講演資料より筆者作成

最後に

 フィリピンと日本はともに島国であり、多様な自然や文化を有することに加えて、近年の外国人観光客数の増加が著しく、また国を挙げてその増加に向けた政策が講じられている(数年以内に現状の約2倍の外国人観光客数を達成することが政府目標として掲げられている)ことなど、共通点があることが分かりました。

 また、観光研究の現状として、フィリピンでは観光に関する研究を行っている大学や機関、研究者は現状では少ないことがわかりましたが、研究者の政策に関与する方法や内容としては、政策評価や観光計画の策定支援、ガイドライン策定など、我が国と共通する部分が多いように思いました。
今回のような研究者レベルでの交流が今後も行われれば、今後もお互いに学び会える点も多いのでは、と感じた勉強会でした。