山梨県立富士山世界遺産センター オープン[コラムvol.305]

 前回(vol.285)は「2015年、印象に残った地域、人、そして“言葉”」、前々回(vol.262)は「世界遺産 富士山の魅力、その普遍的価値を伝えたい!」と、いずれも「富士山」を話題にコラムを書かせていただきました。

 そして、今回も! “富士山シリーズ”は、まだまだ続きます!!

信仰の対象、芸術の源泉、その普遍的価値を伝えるために

 

 当財団は、2016年度も、山梨県富士山世界文化遺産保存活用推進協議会(事務局:山梨県世界遺産富士山課)より、「リバース!富士講プロジェクト(*1)」を受託しています。先月5月27日には、今年度第1回目の作業部会が開催されたところですが、この日、私は、オープン間近の「山梨県立富士山世界遺産センター」(表1)を、ご案内いただく機会に恵まれました。

 そもそも世界遺産センターとは、「世界遺産条約」の第5条(e)「文化遺産及び自然遺産の保護、保存及び整備の分野における全国的、または地域的な研修センターの設置、または発展を促進し、並びにこれらの分野における学術的調査の奨励」に基づき整備されるもの。そして、特に富士山(信仰の対象と芸術の源泉)の場合には、世界遺産委員会において、「来訪者施設の整備及び個々の資産における説明の指針として、情報提供を行うために、構成資産のひとつひとつが資産全体の一部として、山の上方及び下方(山麓)における巡礼路全体の一部として、認知・理解され得るかについて知らせるための情報提供戦略を策定すること」が、登録条件の一つとなっていました。

 そのため、山梨県では、「富士山のもつ多様な自然美を感じながら、世界遺産の価値をわかりやすく紹介する中核的施設」として、「山梨県立富士山世界遺産センター」の整備を進めてきたのです。

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富士山の魅力を、わかりやすく、楽しく、“体感”

 

 富士山世界遺産センターは、既存の「県立富士ビジターセンター」の南側に隣接する形で、富士山や周辺の自然景観に配慮して整備されました。世界遺産登録3年の今月6月22日に、いよいよオープンとなります。

 総合デザインは、グラフィックデザイナーの佐藤卓氏が監修し、館内音楽は、山梨を拠点に全国でも活動している和製音楽ユニット「風カヲル時」が担当。壁面には、見上げるほど大きな『冨士北麓参詣曼荼羅』が、画家の山口晃氏によって描かれています。

 フロア中央には、和紙で作られた富士山の真っ白なジオラマ「富嶽(ふがく)三六○」(直径約15m、高さ約3m、実物の1000分の1)が吊され、山肌が赤く染まった夏の「赤富士」、雪の斜面が鮮やかな紅色に染まった冬の「紅富士」など、富士山の様々な情景が光の演出によって表現されていきます。近くの大型スクリーン(横約3m、縦約1.6m)にも映像が投影され、富士山の噴火の様子、また、四季の変化や一日の移ろいが映し出されていました。

 白を基調とし凛とした雰囲気に包まれた館内が、様々な映像や光と音の演出により、荒々しくもあり優しくもある富士山の姿を、幾重にも浮かび上がらせ、見飽きることがありません。

 1階は11のエリアで構成されていて、富士山の自然と融合して生まれた文化的価値を、来館者にわかりやすく伝える工夫が随所に凝らされています。床には世界遺産の構成資産と巡礼路を記した地図が描かれ、見上げると、「冨嶽三六○」の内側はスクリーンにもなっていて、富士山の信仰、伝説、芸術の映像が投影されていました。また、館内の展示は、同センター公式ガイドアプリ『ふじめぐり』を使うと、よりわかりやすく、楽しく鑑賞できそうです。

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富士山とともにある暮らし、“富士山愛”にあふれた人々

 世界遺産センターからの帰り道、河口湖駅で電車を待っていると、「今日は、富士山が見えなかったね…」と少し残念そうに話す、高校生の会話が耳に入ってきました。

 もうこの地域には何回となく通っていますが、毎回驚かされるのは、地元の皆さんの“富士山愛”。

 この地域に初めて関わったとき、会議の配席図に富士山のイラストが描いてあって驚いたことがありました。担当者がおっしゃるには、「○○さんの席は、富士山に向かって、あっち」と説明する方が、出席者の理解が早いのだそうです。また、この地域(富士北麓地域)では富士山は南に位置していますが、観光客になどに道を尋ねられると、地図の上下を逆さにして説明を始める方も多いと伺いました。南(富士山)が上に来る独特の方位観も、この地域ならではのもの。そういえば、「おにぎりは俵型、三角(富士山)のおにぎりを食べるのは申し訳ない」とおっしゃる、お婆ちゃんもいらっしゃったっけ。“富士山愛”に関する逸話は尽きません。

 多くの方が、富士山に畏敬と親しみをもって、富士山とともに暮らしています。皆さん、富士山が、この地域が本当に大好きなようです。

まちへの想いを次世代へとつなぐ、その場として

 以前、当財団主催の「2013年度観光実践講座(*2)」に、能登旨美オンパクうまみんの森山 奈美氏((株)御祓川 代表取締役)をお招きしたことがありました。  「能登には大学がなく、優秀な子はみんな大学に行くために七尾を出て行く。七尾の良さ、まちへの想いを次世代へとつなぐには、18歳までが勝負なんです。」と、熱く語られていたことが、とても強く印象に残っています。

 幸いにも、この富士北麓地域は、男性も女性も、大人も子供も、多くの皆さんが“富士山愛”に溢れています。だからこそ、私は、富士山世界遺産センターは、来訪者ばかりではなく、地域の方々もたくさん集い、地域の良さを楽しみながらより深く理解し、まちへの熱い想いを次世代へとつないでいく、そういう意味をも兼ね備えた場になっていくのだろうと、期待を持ってみています。

 全国の皆様、“富士山愛”に溢れた人の集う、「山梨県立富士山世界遺産センター」に、是非、お立ち寄りください。

*1:「リバース!富士講プロジェクト」は、多くの方々に、富士講文化の一端に触れていただき、「富士山は神聖な御山、信仰の御山である」という認識を高めていくこと、ひいては世界文化遺産としての理解の深化を図ることを目的としている。「富士講」とは、富士山への登拝を目的として結成された山岳信仰の民間組織。近世には関東・中部をはじめ全国の一般庶民にまで広がりを見せ、今も全国各地に残る「富士塚」は富士講と深い関わりを持っている。 https://www.jtb.or.jp/researchers/column/column-worldheritage-fuji-yoshizawa *2:開催テーマは、「オンパクに学ぶ、観光まちづくりの理論と実践~“地域活性化”の秘訣、“課題解決”のヒント!」 https://www.jtb.or.jp/researchers/column/column-onpaku-yoshizawa