機関誌「観光文化」

歩く (観光文化 177号)

歩く (観光文化 177号)

※転載はご遠慮ください

 歩く ・・・五感で楽しむ観光と出会い

発行年月
2006年05月発行
判型・ページ数
B5判・32ページ
価格
定価1,540円(本体1,400円 + 税)

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巻頭言 足が文化をつくる 海野 弘

 私は歩くことが好きだ。はじめは健康のために歩いていたが、そのうちに、歩くといろいろな発見があることに気づいた。
 たとえば、先日、私は松江に旅した。ここにあるルイス・コンフォート・ティファニーの美術館を見に行ったのである。19世紀末のアール・ヌーヴォー・ガラスの作家で、その名からわかるように、ニューヨークの有名な宝飾店の息子であった。
 美術館を見てから、松江の町を歩いた。松江といえば小泉八雲が住んだ地である。彼の 旧居を訪ねたりしているうちに、私は面白いことに気づいた。ティファニーと八雲は同じころにニューヨークにいたのだ。19世紀末にアメリカで、日本文化へのあこがれ〈ジャポニズム〉があり、二人は共に、日本に魅せられた。ティファニーは日本美術に影響を受けてアール・ヌーヴォー・ガラスをつくり、八雲は自ら日本に赴き、松江に住んだのである。
 そして今、八雲の町、松江にティファニー美術館ができた。面白い縁である。私はこれまで、二人を別々に知っていたのだが、松江にやってきて、この町を歩いたことで、二人の結びつきを見つけたのであった。

 私たちは、視覚的なものが非常に発達した時代にいる。座っていても、世界中の映像が入ってくる。視覚性、ヴィジュアルがなにより重視される。〈観光〉といったことばも、観が入っている。だが、観という字に、見るという字が入っていることに注目してほしい。目の下になにかついている。これは足なのである。つまり〈見る〉は、目に足が伴っていなければならない、という意味ではないだろうか。
 私たちは、あまりに目だけで見るようになっているのではないだろうか。しかし本来見るとは、現地に足を運んで、自分の目によって見ることなのではないだろうか。私はそう思って『足が未来をつくる・・〈視覚の帝国〉から〈足の文化〉へ』(洋泉社新書、2004年)という本を書いた。見ることは、目と足の共同作業なのだ。なにかを本当に見ること、知ること、そしてそれを記録することは、そこまではるばる自分の足を運んで、訪ねなければならないのだ。その映像だけを座っていて呼び寄せているだけでは、だれかの見たものを見ているだけなのである。
 私たちは歩いていかなければならない。自分で歩いていって、はじめて人間は親しい友を得るのであり、そこに文化が生まれるのだ

(うんの ひろし)

掲載内容

巻頭言

足が文化をつくる 海野 弘

特集

特集1 歩きたくなるみち・まちづくり
   ・・・日本列島丸ごと会場「くに歩き」博による「感幸地」おこし
村山友宏
特集2 「長崎さるく博」への誘い 茶谷幸治
特集3 原風景を訪ねる旅が育んだこと 川上嘉彦
特集4 「ぶらり街さんぽ」の魅力
   ・・・東京近郊の「生活」を観光する
井上理恵
特集5 食・温泉とウォークで健康づくり
   ・・福島県・岳温泉
鈴木安一

連載

連載I あの町この町 第15回 瓦の夢・・島根県・江津市 池内 紀
連載II 英国物語17(最終回) 英国の春を彩る行事の数々 長谷川 洋子
連載IIIホスピタリティの手触り36 「執事喫茶」とホテル 山口由美
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