機関誌「観光文化」

滞在を楽しむ (観光文化 179号)

滞在を楽しむ (観光文化 179号)

※転載はご遠慮ください

特集  滞在を楽しむ・・・自己充足の新たなライフスタイル

発行年月
2006年09月発行
判型・ページ数
B5判・32ページ
価格
定価1,540円(本体1,400円 + 税)

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巻頭言  滞在型旅行の原点 淑徳大学国際コミュニケーション学部 廻 洋子

 バカンス先進国のフランス人のバカンスの過ごし方は、せわしなくアチコチ動き回る周 遊旅行ではなく、海辺や田舎に滞在するのが一般的である。フランスの新聞記事によれば、 バカンスの妙味は日常生活からの脱出、休養、地元の人々との交流、家族との再会、だそ うである。嫌な上司も仕事もわすれて、ノンビリ休養し、プライベートな時間と空間に浸る。宿泊先は親や友人宅がほとんどと聞く。
 日本でも都会に出てきて就職した人たちの多くは、お盆になると家族を連れて3、4日故郷に帰る。交通機関は帰郷ラッシュになる。しかし、映画「ALWAYS三丁目の夕日」のころまでは、高速道路網も、新幹線もなく、飛行機は庶民の手に届かなかったから、故郷帰りには1日、2日がかりという人が多かった。苦労して帰郷したのだから一週間くらい滞在し、家族や近所の人々、幼馴染みとの再会や交流を楽しんだ。子供の頃過ごした地域コミュニティでは本来の自分に戻るため、よそいきの標準語ではなく、方言が飛び出した。
 故郷にはまだ豊かな田園風景が残っていて、都会育ちの子供たちは親がしたように、山でウサギを追いかけたり、川で小鮒を釣ったりして、自然と親しんだ。何代も前から都会暮らしで、さらに裕福な人々は夏になると軽井沢などの別荘地に滞在した。自然の中でゆっくり過ごすためだけではない。そこには、東京の日常と違ったコミュニティがあるからだ。財界や政界の重鎮も、ポロシャツ姿で分野を超えた気軽な交流ができる。昔、某首相が軽井沢で近所の別荘に住む女優をお茶に招き、マスコミに騒がれたことがあるが、それが軽井沢のスタイルである。皇后陛下が皇太子妃時代に軽井沢がお好きで、夏を頻繁に過ごされたのも、そこに「日常生活」と異なるコミュニティがあったからだろう。
 庶民であれ、上流階級であれ、日本の滞在型旅行の原点はここにある。自然に親しみ、家族や地域コミュニティと交流し、本来の自分に戻る。日常と異なる空間と時間を享受する「生活」、フランスではそれをバカンスと呼ぶが、日本人にとっても特段新しいコンセプトではない。
 しかし21世紀の今日では、都会に住み始めて2代目、3代目の人が多く、故郷に帰りたくとも、帰る故郷のない人が多い。親子ともにマンション生活というケースも稀ではなく、田園風景豊かな田舎に実家のある人は限られている。といって皆が別荘を所有することも難しい。そういった人々に、一時的な故郷や日常と異なるコミュニティでの滞在を提供する、それがこれからの観光の重要な役割ではないか。少子高齢化が進み観光市場が縮小に向かい、個人の価値観も量から質へ移行しつつある時代にあって、ビジネスチャンスもそこにある、と思うのだが。

(めぐり ようこ)

掲載内容

巻頭言

滞在型旅行の原点 淑徳大学国際コミュニケーション学部 廻 洋子

特集

特集1 今なぜ、滞在型家族旅行なのか P2 丁野 朗
特集2 長期滞在型観光プロジェクト「ふぉーゆー白馬」 P6 長谷川恒信
特集3 滞在型宿のアートスタイル経営 P10 室井俊二
特集4 ロングステイマーケットの創造と挑戦 P14 坂下栄一
特集5 旅館が滞在需要の受け皿となるために ・・・観光地全体での泊食分離販売の必要性 P18 大野正人

連載

連載Ⅰ あの町この町 第17回 鮭もどる・・・新潟県・村上市 P22 池内 紀
連載Ⅱ 岩倉使節団に嵌まって30年 第2回 「旅の報告会」から「マラソン上映会」へ P28 泉 三郎
連載Ⅲ ホスピタリティの手触り38 花鳥風月を旅する日本人 P30 山口由美
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