「熊本地震の観光復興状況に関する調査研究」 2016年春季(4~6月)の調査結果(速報)

2016.10.11

1.被害・復興状況をもとにしたエリア区分

主要観光地における地震の影響度合い(被害状況及び観光復興状況)をもとに、九州(沖縄を除く)をエリア区分すると、概ね次の3エリアに分けることができます。

①被災中心エリア(熊本県熊本市、熊本県阿蘇市など)
 地震により、大きな直接的被害が発生したエリア。
 建物や道路・鉄道等の損壊や崩落が激しく、なかには復旧までに1年以上を要するものも存在する。人の移動だけでなく、物流の停滞や通信の障害も発生した。
 観光面については、交通の遮断に加え、2016年6月末時点においても営業再開ができない小売店や宿泊施設が一定割合存在するなど、影響は甚大である。

②被災影響発生エリア(熊本県・大分県・宮崎県の一部)
 地震により、一部において直接的な被害が発生したエリア。
 「①被災中心エリア」に近いほど、建物やライフライン、道路・鉄道等の被害が大きく、甚大な被害を受けた建物等も存在する。ただ、それらは限定的であり、普段どおりの活動が行われている地域が多い。
 各観光地においては、観光客の受入が概ね可能であり、来訪者は通常の観光活動を行うことができる。但し、「①被災中心エリア」に近いこと、そして報道がもたらすイメージ等により観光客が来訪を避ける傾向もみられるため、観光面に与える影響は非常に大きい(いわゆる「間接的被害」が発生している)。
 なお、「①被災中心エリア」に近い宿泊地では、被災者、復旧・復興工事関係者、報道関係者、ボランティアなどを受け入れたところもあり、そこでは観光客(宿泊客)減少による宿泊施設や物販施設等の売上高減少分を補うことができた。他方、それ以外の地域では、観光客(宿泊客)の減少がそのまま影響することとなり、大幅な損害が発生した。

③被災影響限定エリア(①及び②を除く地域)
 地震による直接的な被害が基本的に発生しなかったエリア。
 「①被災中心エリア」の被災を受け、一部の交通の便に影響が及んだところがあったものの、概ね日常活動への障害は発生していない。
 観光面においても、地震の影響を感じることなく楽しむことができる。但し、九州内ということもあり、周遊を中心とするツアーの中止や自発的な旅行の取りやめ等の影響が発生した地域もあり、そのようなところでは観光客数が減少した。

図 エリア区分

fukkou-kumamoto2016-1-zu1

※名称が記載されている観光地・温泉地は、本調査におけるヒアリング対象地です。

2.2016年4~6月におけるエリアごとの状況

                    

 2016年4~6月における「被害及び復興状況」「観光客の動向」「被災者及び旅行者への対応」「観光復興に向けた取り組み」「観光復興における課題」について、エリアごとにとりまとめた結果が以下のとおりです。

①被災中心エリア

●被害及び復旧状況
・建物:徐々に復旧が進む一方で、一部に復旧の目途が立たないものも
 宿泊施設、物販施設、神社・城郭などは軒並み被害を受け、一部は激しく損壊した。宿泊施設や物販施設の復旧は徐々に進んでいったが、未だに営業をできない施設もいくつか存在する。また、熊本城や阿蘇神社等は特に損壊が激しく、復旧までに複数年を要するとみられている。

・ライフライン:6月中にはほぼ全面的に復旧
 電気は概ね早い段階で復旧、上下水道については一部地域で復旧に時間がかかったものの、6月までにはほぼ全面的に復旧した。

・鉄道:一部、再開の目途が立たず
  豊肥本線の肥後大津-豊後荻間、南阿蘇鉄道の全線において不通となり、6月末時点で再開に至っていない(7月に入り、一部の区間で運行が再開)。このほか、新幹線や在来線の一部において不通となったが、比較的早い段階で再開となった。

・道路:一部において、再開の目途が立たず
 国道57号線の一部区間が不通となり、迂回路への誘導が行われている(6月末時点、復旧の見通しは立っていない)。このほかにも、外輪山の「天空の道」など一部の道路が通行止めとなっている。

・物流:一時的に混乱するも、早期に正常化
 地震発生後2週間程度混乱した。特に、阿蘇市ではガソリン購入が制限されたため、市民等は隣県での購入を余儀なくされた。

・情報:一時的に遮断された地域があるものの、早期に復旧
 停電発生箇所において情報が遮断されたり、一部の携帯電話がつながらない状態となったりしたが、早い段階で復旧した。

●観光客の動向
・宿泊客(国内客)については、地震発生後に個人客・団体客とも大幅に減少したが、6月に入ると個人客にやや戻りがみられた。
・宿泊客(海外客)についても、地震発生後に個人客・団体客とも大幅に減少したが、6月に入ると個人客が若干程度みられるようになった。
・国内客に比べると、海外客の戻りが遅い。
・国内客については、交通事情等も勘案し、まずは福岡を中心とする九州内からの誘致に力を注いだ。

●被災者及び旅行者への対応
  ・被災者に対しては、避難所を設置し、またHP等を通して情報を定期的に発信した。
・旅行者(宿泊者)に対する情報提供は、主に宿泊施設(民間)が行った。

●観光復興に向けた取り組み(政策、独自の取り組み等)
・「九州ふっこう割」(7月以降)、「中小企業等グループ補助金」などが活用されている。
・阿蘇地域においては、今回の地震を受け、「観光圏事業」の内容変更を行った。
・独自の取り組みとしては、豊肥本線の復旧に向けた対応(九州横断特急の運行依頼など)、イベントの予定通りの実施(自粛せず)などに取り組んだ。

●観光復興における課題
・地震等の災害に備えたリスク管理(基金の活用等)の検討が必要である。
・報道等の影響により、イメージが悪化した地区がある。報道のあり方も考える必要がある。

②被災影響発生エリア

●被害及び復興状況
・建物:甚大な被害を受けた施設を除き、早期に復旧・営業再開
    一部の宿泊施設や観光施設で甚大な損壊が発生したものの、概ね軽微な被害にとどまり、早い段階での復旧・営業再開となったところが多い。

・ライフライン:早期に復旧
    一部地域において被害を受けたものの、早期に復旧となった。

・鉄道:豊肥本線の不通区間を除き、早期に再開
    豊肥本線以外の路線では、一時的に不通となった箇所があるものの、早期に復旧した。

・道路:一部において、通行止めあるいは通行規制が発生
    国道212号、やまなみハイウェイなど一部の道路において通行止めもしくは片側通行などの措置が取られている。

・物流:早期に復旧
    一時的に不足となった箇所があるものの、早い段階で復旧した。

・情報:早期に復旧
    一部で伝わりにくくなったものの、早い段階で復旧した。

●観光客の動向
・宿泊客について、国内客は大幅な減少が続き、海外客はほとんど見られなかった。
・日帰り客について、国内客は6月に一部地域にて戻りがみられ、海外客は地域によって戻りの傾向が異なった。
・国内客は、福岡などの九州内が多い一方で、馴染み客(リピーター)は遠方からも訪れている。海外客は、出身国・地域による差もみられる(台湾は戻りが早く、中国・韓国は遅い)。

●被災者及び旅行者への対応
・被災者に対しては、避難所設置のほか、宿泊施設や温泉施設にて被災者を受け入れたところもある。
・一時的に、復旧工事関係者やマスコミ等を受け入れた地域もある。
・各所からの情報収集及び被災者・旅行者への情報提供については、HP、FAX、通信ソフト等の様々な手段が活用されている。

●観光復興に向けた取り組み(政策、独自の取り組み等)
・「九州ふっこう割」(7月以降)、「中小企業等グループ補助金」などが活用されている。
・「雇用調整交付金」については、活用されているところがある一方で、「使いにくい」との声もあった。
・このほかにも、「小規模事業者持続化補助金」、県や市町村が発行する券面、金融機関の利子補填なども活用されている。
・独自の取り組みとしては、イベントの予定通りの実施や新たなイベントへの取り組み、新聞広告や海外でのプロモーション、クラウドファウンディングの活用などもされた。

●観光復興における課題
・耐震補助の強化も必要である。
・情報の上手な収集・発信方法を検討する必要がある。特に、道路情報の一元化(国道、県道、市町村道など)は重要で、観光の視点に立った情報(大型バスの通行の可否など)が求められる。発信については、政府機関(観光庁、政府観光局など)から正確な情報を発信してほしい。
・災害に備えたリスク管理は重要だが、個々の施設では限界があるため、地域として取り組む必要がある。また、他地域との連携も強化していく必要があり、今回、由布院温泉と黒川温泉は初めて連携事業に取り組んだ。
・避難所収容力(住民及び宿泊客)が足りないところもある。

③被災影響限定エリア

●被害及び復興状況
・建物:特になし
・ライフライン:特になし
・鉄道:特になし
・道路:他地域の道路事情による影響が一時的に見られた
・物流:特になし
・情報:特になし

●観光客の動向
・宿泊客について、国内客は減少するものの、徐々に回復する傾向がみられた。海外客は一部の地域を除いて回復が遅い。
・日帰り客については、国内客・海外客とも減少した一方で、海外のクルーズ客への影響はあまりみられなかった。
・国内客については、地域(立地環境)により、九州からの観光客が減少したところと、九州外からの観光客が減少したところに分かれる。海外客については、韓国を中心に減少した。

●被災者及び旅行者への対応
・被災者対応(受入)などを行ったところはあるが、利用はされなかった。
・旅行者や宿泊者への情報提供は、宿泊施設が個別に行った。

●観光復興に向けた取り組み(政策、独自の取り組み等)
・「九州ふっこう割」(7月以降)が活用されている。直接的な被害がないため、その他の震災に関する制度の利用はみられない。
・独自の取り組みとしては、イベントの予定通りの実施、国内外でのPRなどが行われた。

●観光復興における課題
・復興PRを行う場合、他市町村との連携も重要である。
・災害に備えたリスク管理は重要だが、財政的に厳しい。
・情報発信の内容も重要である(マイナス面だけでなくプラス面の発信も必要である)。

参考図 2016年4~6月における九州各県の延べ宿泊者数の対前年伸び率

<全宿泊者>

fukkou-kumamoto2016-1-zu2

<外国人宿泊者>

fukkou-kumamoto2016-1-zu3
出典:「宿泊旅行統計調査」観光庁
※2016年の数値は第2次速報値、2015年の数値は確定値を使用

3.「九州ふっこう割」の反響

 今回の調査は2016年4~6月が対象であったため、7月よりスタートした「九州ふっこう割」は正式には調査対象外となります。しかしながら、実施前から注目度が高く、またヒアリング調査を行ったのは8月~9月だったこともあり、「九州ふっこう割」の利用状況や活用における課題・問題点等についてもあわせて話を聞きました。
 特徴的な点は次のとおりです。

●「九州ふっこう割」の利用状況について
・エリア区分を問わず、利用はとても多い。
・「九州ふっこう割」を利用するため、その直前(6月)の宿泊者の戻りが遅れた可能性がある。

●「九州ふっこう割」活用における課題・問題点
・「掛け売り」方式であるため、一部の宿泊施設は財政的に苦しくなる。
・旅行会社との取引を行っていない宿泊施設の場合、効果を享受できない。
・交通が遮断されている地域の宿泊施設の場合、効果を享受できない。
・地域の事情に応じて割引率や期間などを独自に設定できるような、地域版の「九州ふっこう割」があれば理想的である。その場合、旅行会社でなく、地域の組織(観光協会、商工会議所など)が扱えるようにしてほしい。
・割引率が高いため、制度終了後の跳ね返りが心配である。
・宿泊施設だけでなく、観光施設でも利用できると幸いである。

4.本調査において示された主な課題

 本調査において、観光復興を図るうえでの様々な課題が浮き彫りとなりました。その中から、特に重要と考えられる項目について、以下に指摘します。

①観光に関するデータの整備

 観光客数、宿泊者数等のデータについては、国や地方自治体等を中心に整備が進められているが、まだまだ不十分と言える。例えば、宿泊者数については、データの入手・算出方法が地域により異なる場合があり、また宿泊者の属性等を把握していないところもある。このため、データ整備を一層進める必要がある。

②適切な情報の収集及び発信

 地震発生後、自治体、観光関連団体、民間組織が、それぞれの情報網やネットワークをもとに、情報収集及び発信を行った。但し、手探りでの対応となったところもあり、リアルタイム情報の不足、HP上における外部リンク先の添付対応、宿泊施設への対応依存など、情報の収集・発信が不十分な地域もみられた。このため、緊急時に備えた明確な対応策や行政・民間の役割分担などを検討する必要がある。

③地域の状況に応じた政策・制度の実施

 地震による直接的被害の程度(エリア区分)により、宿泊施設等の事業者が特に求める政策・制度が異なる様子がうかがえた。「①被災中心エリア」では建物の修復に関するもの、「③被災影響限定エリア」では観光需要創出(「九州ふっこう割」など)に関するもの、「②被災影響発生エリア」では修復と需要創出の双方がそれぞれ求められている。そのようななか、「九州ふっこう割」については、一律よりも地域事情に応じた柔軟な運用が望まれている。

(2016.10.11 観光政策研究部 牧野 博明)

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