日本のインバウンド回復状況はアジア各国と比較して順調? [コラムvol.493]

はじめに

2022年10月、日本政府が個人旅行の受け入れや査証免除措置等を再開したことをきっかけに、日本を訪れる外国人旅行者数はその後大きな回復傾向を見せています。2023年1-3月期のデータを見ると、人数では2019年同期の約6割(※1)、消費額では約9割(※2)まで回復しており、その回復のスピードに驚いている方も多いのではないでしょうか。2023年3月には中国が水際対策を撤廃したことや、4月28日以降日本政府も入国制限を完全に撤廃したことで、日本への入国者数はさらに増加していくことが期待されます。

実際に私も、都内で通勤電車に乗りながら、明らかに外国人旅行者の数が増えていることを肌で感じています。また、4月末に出張で京都に行く機会がありましたが、金閣寺や嵐山などの主要スポットは、外国人と修学旅行生で溢れ、日本人の一般の旅行者を探す方が難しい状況でした。国籍の内訳については、コロナ禍前には全体の約3割を占めていた中国市場がまだ完全に回復していないこともあり、欧米人や東南アジア人が多いように見受けられます。中国以外については、想定よりも早いスピードで訪日外国人市場が回復していることに安堵する一方で、世界全体に視野を広げると、中国へ旅行に行けない分、日本だけでなく周辺のアジア諸国が代替の旅行先として選ばれた結果、早いペースで回復しているのではないかという疑問も生じます。そこで、本コラムでは、日本周辺のアジアの国のうち、2023年1-3月期のデータを入手できた4ヶ国(韓国、台湾、タイ、シンガポール)のインバウンド回復状況を見ていきたいと思います。

2023年1-3月期における日本への外国人旅行者数

まず、日本への外国人旅行者数について、2019年1-3月期と比較した2023年1-3月期の回復状況を整理しました(図表1)。(なお、本記事に掲載の各国のグラフは、2019年1-3月期の入国者数が多い国籍順に、それぞれ左から配置している。各国データの出典はページ下部に記載する。)

元々ボリュームの大きかった東アジアの国については、韓国では2019年同期の約8割、台湾は約7割弱まで回復しています。また、ボリュームは小さいものの、ベトナムとシンガポールに関しては2019年同期よりも大きく増加していることがわかります。また、アメリカも2%のプラスとなっています。一方で、ヨーロッパは2019年の3割程度までしか回復していません。

2023年1-3月期におけるアジア4ヶ国の外国人旅行者数

続いて、アジアの4ヶ国について、2019年1-3月期と比較して2023年1-3月期の国籍別の回復状況を見てみます。

まず、韓国では、アメリカからの旅行者が2019年同期の約9割まで回復している点は、日本と同様の傾向と言えますが、ヨーロッパからの旅行者も約7割まで回復しており、日本よりも回復の度合いが大きいことがわかります。また、シンガポールからの旅行者は2019年同期よりプラス43%となっているほか、タイ、ベトナム、インドネシアといった東南アジア諸国からの旅行者数も7割から8割程度まで回復しています(図表2)。

次に、台湾への外国人旅行者数について見ると、近隣の日本や韓国からの旅行者数は2019年同期の半分以下にとどまっているものの、ベトナム、タイ、シンガポール、インドネシアの旅行者数が2019年同期の8割から9割程度まで回復しており、東南アジア市場の回復が早い点が台湾の特徴と言えそうです(図表3)。

続いて、タイへの外国人旅行者数について見ると、元々中国の次にボリュームの大きかったヨーロッパからの旅行者数の回復が順調で、2019年の8割程度に達しています(図表4)。

最後に、シンガポールへの旅行者数について見ると、タイと同様に元々ボリュームの大きかったヨーロッパやインドネシアの回復が順調です(図表5)。

まとめ

以上のデータから、アジア4か国の外国人旅行者数の回復状況は国によって特徴が異なることがわかりました。特に日本の場合は、中国以外の東アジアやアメリカからの旅行者の回復は比較的順調と言える一方で、ヨーロッパからの旅行者数の回復度合いは、他国に比べてやや鈍い傾向にあります(図表6)。

今回は中国が水際対策を行っていた1月2月が含まれるデータを用いましたが、3月以降は中国の水際対策が撤廃されているため、日本へ来る中国人が増加するだけでなく、中国へ入国する外国人が飛躍的に増加することが予想されます。そのため、訪日外国人だけでなく、アジア各国の状況について、引き続き注視していきたいと思います。

出典