❸株式会社NOTE/一般社団法人ノオト

営利、非営利の組み合わせが、古民家継承と地域再生の全国展開に最適なスキーム

1 1回NIPPONIAサミット
2019年11月8日、阪急うめだホールにて「第1回NIPPONIAサミット 〜なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる〜」が開催され
た。一般社団法人ノオトが事務局を務めるNIPPONIA協会が主催し、東北から九州まで、全国から200人を超えるNIPPONIAの関係者が集まった。
「NIPPONIA」とは、歴史的建築物の活用を起点にしたエリアマネジメントと持続可能なビジネスを実践する運動である。
歴史的建造物を再生することによって、建物のみならず、地域の食、生活文化、伝統的な産業まで再生が波及する地域をつくりだすことを目指している。
サミットでは、福島県西会津(一般社団法人BOOT)、山梨県小菅(株式会社EDGE)、岐阜県美濃(みのまちや株式会社)、和歌山県串本(株式会社一樹の蔭)、熊本県甲佐(一般社団法人パレット/株式会社PALETTE)の5つの地域の代表による現在進行形の取り組みの紹介とともに、これまでの想いや悩み、今後の展望を語りあった。
「NIPPONIA」という運動のもと、各地で主体的に活動する者同士がより絆を深めた一日となった。

 

2 「NIPPONIA」の軌跡
古民家の再生・活用というノウハウの蓄積

「NIPPONIA」は、2009年篠山市(現:丹波篠山市)の丸山集落の空き家再生事業に(一社)ノオト(以下、ノオト)が取り組んだことからスタートした。当時、丸山集落は12軒のうち7軒が空き家という状況にあった。2009年に設立されたノオトが丸山集落の再生に係わり、3棟3室の宿泊施設「古民家の宿集落丸山」の開業に至った。当時、まだ珍しい存在であった古民家を再生した宿泊施設はメディアにも大きく取り上げられ、現在でも安定的に3割の稼働率を維持し、順調な運営を続け、集落の再生・活性化に大きな効果を生み出した。
2020年には12軒全ての再生が完了する計画だ。
丸山集落以降も、2013年「竹田城城下町ホテルEN(旧木村酒造場の再生)」、2014年「オーベルジュ豊岡1925」、2015年「大屋大杉(養父市、古民家の宿)」と古民家再生による宿泊施設を次々と手掛けた。
(一社)ノオト理事/(株)NOTE代表の藤原岳史氏は「当時を振り返ると、一つ一つ、丸山や城下町の古民家をできる範囲で少しずつ直していた。ホテルという概念より、古い建物もしくは歴史的資源を観光資源に変えるということに着目していたステージ」と語る。
一方、篠山市においては、古民家を再生した伝統工芸ギャラリー・カフェ「篠山ギャラリーKITA‘S」をはじめ5店舗からスタートし、2015年には「篠山城下町ホテル NIPPONIA」がオープン。
国家戦略特区制度を活用した「分散型エリア開発」として、町の中に点在するホテルに泊まりながら、古民家が再生された店舗や町並みを楽しむスタイルの地域再生、町並み再生のまちづくりが生まれた。分散型ホテルを起点とした町全体に広がった面的な開発は、NIPPONIAのモデルとなっている。

古民家再生・活用の事業スキームづくり
「空き家問題で一番の課題は、再生するスピードよりも、空き家が生まれるスピードの方が早い点にある」と藤原氏は指摘する。ノオト
は空き家再生・活用に取り組むうちに、こうした壁にぶつかった。
現在、日本には150万棟ほどの歴史的な古民家、戦前の建物があると言われている。全てがまちづくりや地域の活性化に再生・活用できるわけではなく、仮に2割ほどが活用できるとすると、30万棟の再生・活用が必要であり、空き家になって取り壊される前に早急に取り組む必要がある。
こうした問題意識から、ノオトは兵庫県内での活動のみならず、全国的な展開を模索しはじめる。
ノオトがこれまで培ってきた古民家の改修ノウハウ、資金調達やコストカットといった経営ノウハウをシェアする。それを基に様々な地域でその地域に合った事業スキームをつくる。
つまり古民家再生の全国的なムーブメントを起こすことによって、30万棟の古民家の再生・活用を進めようという構想である。

基本的なリソースである人、金、モノについてのスキームの構築
人の面ではプロのオペレーターとのパートナーシップによるノウハウの向上と事業体制を構築。資金調達についてはファンドや地元金融機関との連携、あるいは事業パートナーとして協働する等の雛形ができた。古民家を単体で再生するのではなく、2棟、3棟と面的に再生することによって、インパクトを高め、かつマネジメントコストを抑える手法も生み出した。

こうしたスキームを全国に展開することによって、増え続ける空き家のスピードに再生・活用のスピードが追いつく可能性が生まれたのである。

古民家再生の加速・展開
2016年は大きな転換の年となった。政府による「明日の日本を支える観光ビジョン」において、「文化財を「保存優先」から観光客目線での「理解促進」、そして「活用」へ」という文化財行政の大きな方向転換が示されたのである。
「古民家の再生によって人の交流が生まれ、耕作放棄地も減り、IターンUターンも現れた。様々な社会課題が一つのソリューションで解決している」といった、これまでのノオトの取り組みも大きく注目され、ノオトなど民間事業者を含めた「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」が組成され、国の政策として古民家の再生・活用の動きが全国的に大きく広がりはじめた。旅館業法の改正による分散型ホテルがどの地域でも可能となり、文化財保護法の改正による指定文化財の活用も可能となる等、制度面の整備も進められた。

3 社団法人と株式会社の役割分担
ノオトは、古民家が継承されていくために、古民家を活用して収益を出すことができる構造に転換すること、その方法を地域の方々とともに考えることに、非営利法人として取り組んできた。こうした取り組みを「公益」として捉えつつ、ボランティアではなく自身の収益にもつながる事業として担ってきた。
しかし、ノオトは非営利法人であり、公益性の高い事業に制約される。また、収益事業に全面的に注力すること、全国的な事業展開も難しい面があった。
そこでノオトは、「株式会社NOTE」を2016年3月に設立する。古民家・集落再生のマネジメントやブランディング、コンサルティングを株式会社として強力に推進する体制を整えたのである。また、株式会社を設立することにより、資金調達面でファンド等からの出資を受け入れるフレームを構築する狙いもあった。逆に、「一般社団法人ノオト」は、調査研究や普及、人材育成等の非営利的な活動に注力することができる。
こうした、非営利法人と営利法人を組み合わせた体制は、金融機関からも「無理に一つの法人にDMOの公的な面と民的な面を詰め込もうとするのではなく、それぞれの目的に即した最適なスキーム※ⅰを構築しているところに特徴がある 」と評価されている。

2016年以降、NIPPONIAを冠する宿泊施設が全国に展開し、現在予定を含めて15地域がNIPPONIAの運動に加わっている(表1)。

 

 

4 NIPPONIAの理念を全国に
「NIPPONIA」という運動は、「1泊から一生まで」を形にするもの」と(一社)ノオト代表の伊藤清花氏は語る。
古民家の再生という「点」を複数の再生によって「線、面」として開発すること、さらに持続可能な事業スキーム化する。ただし、そこには地域の暮らし、文化をしっかり体験できる場所であり、ホテルに泊まった人が、客室を気に入り、地域を気に入って、住みたいと言っていただけるという形を広げていくことで、地域にとっても観光客にとっても、付加価値の高い事業、サービスとなるという。

現在、古民家再生の事業は拡大し、様々な事業者も現れている。そうした事業者との違い、「NIPPONIA」の価値を、伊藤氏は「郷にいること」と表現する。
空き家のあるまち・集落という現場(郷)に立ち、地域の方とともに現実を受け止め、その現場で思考し、その現場で活動することが、NIPPONIAなのである。こうした姿勢をより明確化し、土地、人、建造物、文化、経済に対する活動の基準として掲げたのが「NIPPONIAが大切にする5つの約束」である(図1)

 

株式会社NOTE/一般社団法人ノオトは、こうした明確なビジョンと、明確な民と公の役割分担という体制によって、全国にNIPPONIAを広め、歴史的な資源にあらたな価値を生み出しているのである。

取材・文:中野文彦

 

※ⅰ 出典:観光DMOの設計・運営のポイント(2017年、政策投資銀行地域企画部)

 

●兵庫県豊岡市、養父市、朝来市、丹波篠山市プロフィール
人口………………………17万5840人(2019年1月現在)
面積………………………1901 k㎡
年間延入込客数…………999万人
年間延宿泊客数…………161万人泊
※出典:平成29年度兵庫県観光客動態調査報告書

●株式会社NOTEの概要
代表者……………………代表取締役社長 藤原岳史
資本金……………………1億3400万(資本準備金含む)
設立………………………2016年5月
所在地……………………〒669-2323 兵庫県丹波篠山市立町190-6

〈取材協力〉
一般社団法人ノオト 代表理事・伊藤清花 氏
株式会社 NOTE 代表取締役・藤原岳史 氏