❹株式会社ディスカバーリンクせとうち

〝自分たちの住みたい街〞をつくる会社

「ONOMICHI U2」をご存じだろうか。尾道水道沿いの海運倉庫を再生した施設で、サイクリストフレンドリーなホテルやレストラン、カフェ、ショップなどを備えている。尾道駅西側エリアの拠点施設として、観光客やサイクリストのほか、地元客の利用も多い。この施設を手掛けたのが、株式会社ディスカバーリンクせとうち(以下DLせとうち)である。2012年に設立され、「ONOMICHIU2」のほか、「せとうち 湊のやど」や、「尾道デニムプロジェクト」、「ONOMICHI SHARE」など様々な事業を手掛けてきた。2019年3月に事業再編を行い、現在は宿泊・飲食事業の運営を別会社が担っている。観光庁のDMO候補法人となっており、今後本登録を進める予定だ。

 

1 建築と観光とサイクリングの街に
尾道は、年間約350万人の観光客が訪れる古くからの観光地で、数々の日本映画の舞台ともなっている。特に山手地区が美しく、千光寺などの寺社や別荘、狭い路地と階段、そこから眺める尾道の街や瀬戸内海の島々が独特の景観をつくり出している。
かつては水運や造船を中心に栄えた商都でもあり、1キロ以上続く大きな商店街を有している。
DLせとうち代表の出原昌直氏は隣の福山市出身で、商社に勤務した後、地元で繊維業を営む会社を起こした。
Uターン後、地域を支えてきた重厚長大型産業の雇用が海外へシフトしていく現状に危機感を抱き、地域の雇用を守るための新たな事業を起こす決意をする。そして2012年6月に、地元の有志と「5年間で1000人の雇用を創出する」という大きな目標を掲げてDLせとうちを設立した。尾道の特徴である、別荘や古民家のある景観、しまなみ海道サイクリングの出発地という地域のポテンシャルに着目し、
「建築と観光とサイクリング」を柱に事業を進めている。

 

2 ONOMICHI U2の誕生
まず手掛けたのが山手地区の古民家を改修した滞在施設「せとうち 湊のやど」であった。擬洋風建築の「島居邸 洋館」と日本家屋「出雲屋敷」の2軒から成る。山手地区の狭い路地や階段は、尾道らしい景観を生み出している一方、建物の補修や建て替えを困難なものにしている。加えて、生活をする上での不便さと高齢化の進行により空き家が増加し、景観をいかに維持するかが課題となっていた。こうした古い建物を買い取り、リノベーションを施すことで「せとうち 湊のやど」として蘇らせた。当初はこうした古民家の改修事業を5〜10軒ほど行いながら、少しずつ新しい事業に取り掛かることを想定していた。
しかし古民家2軒を改修した段階で転機が訪れた。港湾エリア再開発構想のひとつとして、「県営上屋2号」活用案の公募が始まった。「県営上屋2号」は築70年に達する広島県所有の海運倉庫で、改修案として「建築と観光とサイクリング」を併せたONOMICHI U2を提案することで採用に至った。事業費は、民間企業や民都機構からの出資と、地元金融機関からの借り入れにより確保した。
2014年のオープン以降活況が続いている。サイクリストフレンドリーな宿泊施設「HOTEL CYCLE」はサイクルハンガーを設置するなど、全室で愛車を室内に持ち込むことができるほか、自転車のメンテナンスができるスペースも備える。サイクリスト向けにはほかにも、自転車メーカー「GIANT」のショップや、自転車に乗ったままコーヒーが買えるサイクルスルーのカフェがある。しまなみ海道サイクリングの拠点施設として、訪日外国人による利用も目立つ。一方で、カフェやベーカリー、レストランには地元客も多い。ショップでは、観光客向けにセレクトした瀬戸内の良品に加えて、地元客向けに、東京や大阪でしか手に入らない商品も揃えている。

 

3 次々と事業を立ち上げ
これらのプロジェクトと並行しながら、次々と新しい事業を立ち上げてきた。2013年には「尾道デニムプロジェクト」をスタート。備後地方で作られたデニムを、尾道で働く人々が1年間穿きこむことでユーズドデニムに仕上げるもので、農家や漁師、職人、保育士、住職など様々な職業の方が穿き手として参加している。備後は古くから藍染め産業の盛んな地域で、国内デニムの8割以上を占める一大産地だ。
このデニムに、1本1本の個性と、尾道で育てたプレミアム感という新たな付加価値をつけた。2014年には尾道本通り商店街にコンセプトショップを開業している。県外や海外からも買いに訪れる人がみられ、高単価であるにもかかわらず1日に1〜2本が売れているという。同じく2013年には、鞆の浦の古い商家を鯛味噌屋の店舗として蘇らせた「鞆肥後屋」も立ち上げている。
2015年には、コワーキングスペー「ONOMICHI SHARE」をオープン。ONOMICHI U2と同様、尾道水道沿いの倉庫をリノベーションしたもので、海を挟んだ向島を眺めることができる広々としたワークスペースが特徴だ。倉庫は、市所有の資料保管庫だった建物で、公募の結果DLせとうちによる提案に決まった。リノベーションの事業費には県と市の補助が入っている。
2017年には、尾道市内の工房で組み立てと塗装を行っている〝ちょっといい自転車〞「BETTER BICYCLES」のプロジェクトがスタート。商店街に店舗を構え、自転車の販売やレンタサイクルのサービスを提供している。
そして2018年には、山手地区のアパートをリノベーションした複合宿泊施設「LOG」がオープンした。インドの建築集団「スタジオ・ムンバイ・アーキテクツ」がプロデュースしており、柔らかな印象を与える内装と庭が特徴だ。宿泊機能のほか、散策客が立ち寄ることのできるカフェやショップを備える。

 

2019年には尾道駅の新駅舎が開業し、テナントとしてドミトリータイプの宿「m3 HOSTEL」や「カフェ&グリル NEO」、ショップ「おのまる商店」、「食堂ミチ」が入った。
こうして、特に宿泊・飲食事業を中心に事業規模が拡大していった。

 

4 事業の再編と新しいスタート
そこで2019年4月に、組織と事業の再編を行うことになった。「せとうち 湊のやど」「ONOMICHI U2」「LOG」「尾道駅舎事業」を別会社に引継ぎ、宿泊・飲食事業の運営管理体制を一本化した。
そのため現在、DLせとうちが直接担っている事業は、「ONOMICHI SHARE」「BETTER BI CYCLES」「尾道デニムプロジェクト」「鞆 肥後屋」などである。こうして新たなスタートを切ることになったが、出原氏はすでに次の戦略を立てている。
2019年10月に、株式会社NOTEと共同で「株式会社hitohi」を立ち上げた。鞆の浦を中心に古民家を再生し、宿泊事業を手掛けるほか、飲食や物販などの事業者を誘致する。第1弾として、2020年に宿泊施設が開業予定だ。目的は古民家の再生と活用により街並みを守ることと、住民にとって必要な機能を街に組み込むことである。そのため、古民家再生と事業誘致に注力し、宿泊施設の運営は別会社に任せる方針だ。

 

 

5 柔軟に、機敏に動ける体制
設立時から、組織の目標は地域のために雇用を生むことであった。利益の追求だけを目的としていないことから、当初は組織形態をNPOとする案も考えていたという。しかし地域が良くなるきっかけをつくるためには、自分たちだけでできる範囲のことではなく、金融機関から借入をしてでも実現するインパクトのある事業でなければならない。こうしたリスクをとれるよう、組織形態として株式会社を選択した。
会社の設立から約7年の間に様々な事業を展開しているが、始めから事業計画や採算性の見通しがあったわけではない。地域のために必要な事業を、適切なタイミングでその都度展開してきた。当初の計画であった、古民家リノベーションを中心とした事業の方針から、たまたま海運倉庫活用の公募が始まったため、U2事業へと方針転換を図った。会社のリソースを集中させることで、公募開始からたった1年という短い期間でオープンに漕ぎつけた。
当時は公共の施設をリノベーションしたことや、自転車と組み合わせたアイディアが新しく、大きな話題を呼ぶことになった。更にONOMICHI U2がきっかけとなって、その後のONOMICHI SHAREや尾道駅舎事業へとつながっていく。地域づくりといえど、ビジョンや計画に囚われ過ぎることなく、チャンスがあれば柔軟に方針転換を図ることや、機敏に動ける体制を保つことが重要であることを示している。

6 地域の人に〝いい〞と思ってもらえる事業
まちづくりには、地域に住んでいる人の理解や協力が欠かせない。そのためには、尾道に住んでいる人にとっても「いいものができた」と思ってもらえる事業を行うことがポイントとなる。
当初は、DLせとうちの理念や目的についてなかなか理解を得ることができなかった。出原氏をはじめ、組織を立ち上げたメンバーは隣の福山市出身者が多かったため、尾道の住民からは、儲けるためにやってきた〝よそ者〞と思われることもあったという。しかし
「ONOMICHI U2」が完成してからは、徐々に地域の人からも理解されるようになった。何より、地域の人からも〝いい〞と思ってもらえる場をつくったことが大きい。地域で信頼を得るためには、こうした実績の積み重ねが必要だ。
出原氏によると、観光客目当てで作ったものよりも、地域向けに作ったもののほうが地元客で賑わい、結果的に観光客を呼ぶことができていると言う。
例えば「ONOMICHI U2」のレストランは、特にランチを中心に地元客で賑わう。ショップも、地元客向けの商品を併せて取り揃えている。少し値段が高くても美味しい食事を楽しめるカフェやレストランは地方に少ない。むしろ大都市にしかないような場を地域の人は求めており、こうした地域のニーズと観光客のニーズを上手く組み合わせている。

7 自分たちの住みたい街に
DLせとうちは、「建築と観光とサイクリング」を軸に事業を展開し、地域の雇用をつくりながら〝自分たちの住みたい街〞にすべく奮闘している。収益を確保しながら、地域のためになる事業を展開し続けていくことは、並大抵の難しさではない。それでも出原氏は「まだまだこれから。スタートしたばかりですよ」と語っていた。DLせとうちの挑戦はこれからも続く。

取材・文:川村竜之介

 

●広島県尾道市プロフィール
人口………………………136265人(2018年10月現在)
面積………………………285・11k㎡
年間延入込客数(尾道地区)…358万人(2018年)
年間延外国人観光客数…33万人(2017年)
※出典:平成30年尾道市観光客統計報道発表資料

●株式会社ディスカバーリンクせとうちの概要(2019年10月現在)
会社名……………………株式会社ディスカバーリンクせとうち
代表者……………………代表取締役 出原昌直
資本金……………………300万円
設立………………………2012年6月
所在地……………………〒722-0035 広島県尾道市土堂2丁目10番24号
事業内容…………………施設運営、食料品・日用雑貨等の製造・販売等