2019年10月28日(月)・29日(火)の2日間にわたり、第29回旅行動向シンポジウムを開催しました。
今年も1日目「旅行市場編」と2日目「観光地・観光政策編」の二部構成とし、最新刊『旅行年報2019』をベースに当財団の独自調査結果も複数まじえて、最新の観光動向について報告しました。加えて、今年は「インバウンドと観光コンテンツ」と「観光と環境、SDGs」に焦点をあて、それぞれゲストスピーカーをお招きして深掘りする内容としました。
今年も多くのお申し込みをいただき、2日間で延べ175名の方にご参加いただきました。参加者の皆様の業種は、旅行業( 16・6%)、公的機関・観光関連団体( 11・4%)、行政(9・7%)、シンクタンク(9・1%)、金融・保険(8・0%)、大学・教育機関(8・0%)の順に多く、本シンポジウムに対しては、特に「先進事例に関する情報」や「今後の戦略や施策へのヒント」、「観光の全体動向の把握」に期待を寄せられていたことが分かります(図1)。

 

 

1日目(旅行市場編)
「日本人の旅行市場」では、国内・海外それぞれの旅行者数の推移について解説した後、当財団の独自調査である「JTBF旅行意識調査」について、10年前と比較分析した結果を報告しました。リーマンショック後の景気低迷期にあたる10年前と比べて、旅行動機は「日常生活からの解放」「保養・休養」が減少した一方で「おいしいもの」「思い出づくり」「家族の親睦」といった前向きな旅行動機が増大したこと、旅行をしなかった理由の第1位が「家計の制約」から「休暇がとれない」に変化したことを受け、経済環境が低調な時期は「日常から逃れ休息のために旅行したいが、家計の状況や先行きへの不安から旅行を控えなければならない」が主要な意識となり、好調・安定期は「家族などとの思い出づくりのために旅行したいが、忙しくて休暇がとれない」という状況が増大すると考えられるとの報告がありました。
「インバウンド市場」では、直近2019年9月までのデータも参照しつつ、国・地域別の動向を詳しく報告しました。韓国市場については、昨年と比較すると特に訪日経験が浅い層で訪日客数が大きく減少していること、また、日韓関係が悪化する以前から、これまで韓国市場を牽引してきた「女性20代以下」の減少がみられ始めており、その要因としてベトナム人気が影響している可能性を指摘しました。また、台湾・香港については、初来訪者が減少傾向にあり、今後はコアリピーターのみ増加が見込まれるとの報告がありました。

「トピックス❶…訪日市場から見た日本/地方部の観光コンテンツ」では、まず「アジア・欧米豪の訪日旅行者の意識とニーズ」と題して(株)日本政策投資銀行(DBJ)と共同で実施している「DBJ・JTBFアジア欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」を基に報告しました。東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会については、アジア・欧米豪ともに5割以上が訪日観戦を希望し、観戦希望者の9割以上が観戦にあわせた地方訪問を希望している一方で、「混雑」「滞在費用高騰」を理由に訪日観戦を希望しない方も一定程度いると指摘がありました。また、イギリスとフランス市場について、現地調査結果を踏まえた今後の取り組みのポイントを報告しました。

 

「現地販売訪日旅行商品」では、「JTBF訪日旅行商品調査」の結果を中心に、海外の旅行会社に対するヒアリング調査で得られた情報も踏まえて、国・地域別の旅行商品の傾向を報告しました。訪日リピーターが多い台湾では、シーンに応じた手配方法の使い分けがみられ、そのなかで団体パッケージツアーは親子旅行や地方をじっくり楽しむために利用されていること、中国ではゴールデンルート周遊型に加えて、リピーター向けにゆとりのある旅程の商品も増加していることが報告されました。また、イギリスやオーストラリアでは、好みにあわせて旅程をカスタマイズするテイラーメイドツアーの利用が多いことの報告がありました。

「トピックス❷…訪日市場におけるタビナカ需要の高まりと地方誘客への期待」では、ベルトラ株式会社取締役執行役員の倉上智晴氏からお話をいただきました。
倉上氏からは、
○国際的な観光市場では、ツアーやアクティビティといった「タビナカ」サービスが年率約10%の成長を続けている一方で、訪日市場における消費額は少ないのが現状。こうしたなか、アジア太平洋地域においても、タビナカを専門とするOTA(Online Travel Agent)が成長を期待されている。
○ベルトラ株式会社では、日本国内の施設や鉄道・観光コンテンツを、オンラインプラットフォームを通じてアジアを中心とした200以上の旅行会社に提供することで、日本国内の商品のグローバル展開をサポートしている(Linktivity事業)。
○体験談やNPS(Net Promoter Score)などお客様の声を徹底的に掘り下げることを重視し、掲載商品の選定はもちろん、ネガティブコメントにおいては全て事実関係を確認して商品改善にまでつなげている。
○NPSによるベルトラ推奨理由の第1位は「現地ガイド」。ガイドを紹介し、ツアーの予約までできるサイト(「コロリエ」)も運営している。
など、様々な取り組みについてご紹介いただきました。
最後の質疑応答では、地方がうまくOTAを活用することで、地方へのインバウンド誘客につながるのではとコメントをいただきました。

 

2日目(観光地・観光政策編)
「観光政策の動向」では、まず「観光ビジョン実現プログラム2019」の概要について解説した後、当財団独自調査である「都道府県及び市町村の観光政策に関するアンケート調査」の結果を報告しました。昨年度調査に引き続き、「受入環境のハード整備」については、都道府県と市町村が相互に主導的な役割を期待する結果となり、お互いに頼りあっている様子がうかがえること、市町村において「予算・財源」に対する都道府県への期待が大きく減少しており、その背景として自主財源獲得の動きとの関連が考えられるとの報告がありました。また、意識面について、観光客を含めた受益者負担の必要性について、都道府県よりも市町村で必要性への意識が高いことが報告されました。
「観光地の動向」では、まず、①外国人旅行者への対応強化、②宿泊滞在の魅力づくり、③地域資源の魅力再発見、④財源確保の動き、⑤住民生活と観光との調和という5つのキーワードに沿って、全国的な観光地の動向のうち特徴的なものを報告しました。また、テーマ別観光地の動き(自然、歴史・文化、温泉)では、国立公園満喫プロジェクトの中間評価の実施と今後の方向性の提示、竹富島での入域料徴収開始や妙高山・火打山での入域料導入に向けた社会実験について紹介しました。
また、文化財保護法改正をめぐり慎重な議論を求める声が上がっていることや、「チーム新・湯治」を対象としたセミナーや「新・湯治」の効果測定プロジェクトの実施について報告しました。

 

 「トピックス❸…観光と環境、SDGs」では、まずニセコ町長の片山健也氏より、「サスティナブルタウン ニセコ町の取り組み」と題してお話をいただきました。
片山氏からは、
○ニセコ町では、全ての会議を公開原則とするなど住民と広く情報共有を行い、住民主体のまちづくりに取り組んできた。
○バブル崩壊後、延べ宿泊者数が激減し観光産業が大打撃を受けるなか、ニセコ町では観光や農業の基盤、ひいては経済の基盤である景観と環境を徹底的に守るという方針を打ち出し、このことが町の方針に共感する良質な投資を呼び、ニセコ町のブランド価値を高め、世界から観光客が訪れる現在のニセコを生み出す原動力となった。
○2018年には「SDGs未来都市」に指定されたが、これはSDGsありきで取り組んできた結果ではなく、徹底した民主主義によるまちづくりを大切にして取り組んできたことが、SDGsにも通じるものだった。
など、ニセコ町の取り組みを分かりやすくご説明いただきました。
その後、当財団におけるSDGsにつながる取り組みとして、中島上席主任研究員から、沖縄県座間味村をフィールドとした持続可能性指標研究について報告しました。
質疑応答では、住民自治のまちづくりが実現するまでの経緯、住民レベルまで巻き込んで合意形成を図るためのポイント、実行力を備えたリーダー育成の方法などについて、さらに深くうかがいました。最後は、SDGsはそれを達成することそのものに意味があるのではなく、SDGsのフレームをうまく利用しながら、それぞれの自治体のビジョンを持ってまちづくりを進めることが重要だと確認し合いました。

 

おわりに
参加者の皆様からは、「客観データが専門的に編集、凝縮され、短時間で全貌とポイントを理解することができた」「タビナカの話は、今後の取り組みとして参考となった」「ニセコ町の片山町長のお話は、実例に基づくとても興味深い内容だった」といった感想をいただきました。
今後も旅行・観光分野の実践的な学術研究機関として時代を見据えた自主研究に取り組み、シンポジウム等を通して、皆様により有益な情報を提供していきたいと思います。

〈参考〉『旅行年報2019』(公財)日本交通公社2019年

旅行年報2019 Annual Report on the Tourism Trends Survey


(観光文化情報センター 企画室)