ウェビナー【2】…開催日:2020年9月29日
⑤ withコロナ、postコロナにおけるDMOの取り組み第2弾
前号(246号)で好評をいただいた「DMOの取り組み」ウェビナーの第2弾。今回は八ヶ岳、豊岡、西阿波の3つのDMOから、コロナ禍の中で奮闘中の皆様をお招きして、これからについて考えました。

山田 今回は、DMO中から「重点支援DMO」に選ばれた3法人に参加いただきました。コロナ禍が始まって約半年が過ぎ、観光がどのように変化したのか、この夏あるいは秋の四連休から動き始めた多くの観光客にどのような特徴が見られるのか、これからの秋冬に向けた取り組みなどについてお聞きできればと思います。
 まずはそれぞれから取り組みについてお話しいただいた後、全員でパネルディスカッションを行います。最初は民間事業者として観光圏事業から取り組まれ、現在も尽力されている八ヶ岳の小林さんにお話を伺います。民間事業者として今回はかなり厳しい面もあったと思いますが、その辺も含めてお話しいただければと思います。

〈八ヶ岳ツーリズムマネジメント〉
ゴルフ場やアウトドア系の日帰りが順調に回復、団体旅行が今後の課題

小林 我々の地域は首都圏に近いのですが、5月以降は感染拡大が首都圏で収まらず、誘客をするプログラムを作っていいのか、宣伝をしていいのか非常に迷いました。結果的には国のGo Toトラベルキャンペーンや多角化事業の受け皿となれるようしっかり準備すべきという考えから、いろいろ行動しました。私自身もゴルフ場、レストラン、温泉、プールを経営しており、いかに感染拡大を防止するか、従業員にいかに感染させないようにするかに注力しました。
 5月半ばに重点支援DMOの公募があり、当法人は私をいれて4人しかスタッフがいないのですが、今後のために採択を受けるべきと考え、申請書類を作成しました。
 また、観光庁が予算100億円で、withコロナとその先のインバウンドを見据えた一事業最大2000万円の補助事業の事業者を地域内で公募しているので、地域内で手を挙げた4つの事業をとりまとめて申請する仕事にも着手しました。
 こちらの応募もかなり時間をかけて自分たちの手で作り上げ提出したところ、無事採択され、コロナ禍の今、やるべきことをやっていこうという活動がなんとか一つずつ実になっている、という状況です。
 ほかにも市、県の感染防止の取り組みを地域の事業者に啓蒙、共有することも、我々の主な活動です。また北杜市では市内の飲食店、宿泊施設を支えるために、「心がつながる応援券(商品券)」を市の予算で発行しました。業種によってA・B・Cの3種類の券に分かれていますが、観光業種についてはすべての券が使える形にしていただき、外からお客様を誘致するよりまずはしっかりと市内の需要を底支えしてきたというのが主な動きです。
 繁忙期の正確な数字はまだ出ていませんが、小海線沿線に集中している我々の観光圏の主な観光施設に聞き取り調査を行ったところ、7月は宿泊が前年同期比54%、日帰りは63%でした。
 7月の宿泊は団体客の減少、マインドの自粛、夏休み期間の短縮などで伸び悩みました。個人客は順調に回復しており、日帰り客はそれなりの数値が出ましたが、県外客があまり増えないこともあって、観光売店の売上は対前年の半分にとどまりました。
 ゴルフ場とかアウトドア系は比較的好調で、そんなに落ち込みはなかったのですが、温泉やインドア系は、やはり「密」ということがあって、なかなか伸びませんでした。また宿泊に関しては7月22日以降、Go Toトラベルキャンペーンが始まりましたが、八ヶ岳は首都圏に隣接しているので、首都圏のコロナ感染拡大によってなかなか伸びず、バスの団体旅行も催行ゼロ、レストランなども動かなかった状況です。
 8月は気候が良かったというのと、観光圏内のスキー場でゴンドラ無料という独自の企画をしまして、これが大きな成果をあげ、日帰りが前年比84%と非常によい数字が出ました。宿泊に関してもGo Toトラベルキャンペーンが浸透してきて、前年比65%という数値になりました。順調に回復はしていると思います。八ヶ岳では、8月はもともとバスツアーが少なく個人客が多かったので、ある程度の数値が出たのかな、という気がしております。
 観光レストランや大型ホテルは、団体客の減少で対前年50%以下という厳しい売上高を示しています。FITを中心とした小さな施設は順調に回復していますが、大きなホテルについてはなかなか思うように回復していないのが現状です。
 私もレストランを経営していますが、予約状況は、9月がバスツアーが3本、10月はどうなるかという感じで、現在のところ大型店は非常に厳しい状況になっています。今後は、Go Toトラベルの受け皿となれるよう環境整備にしっかりと取り組むことが大事だと思っております。


質疑応答

山田 6月頃が一番厳しく、7、8月とだいぶ明るい状況になってきたということですが、まず日帰りから需要が戻ってきて、あとから宿泊が追いかけてきたという印象でしょうか。
小林 首都圏から200〜300km、2時間で来られること、富士山が入山禁止になったことで八ヶ岳にいらっしゃる日帰りの方は非常に多かったようです。
 ただし、公共交通を使う人は極端に少なかったです。旧盆の8月も特急あずさの乗車率が30〜40%でした。Go Toトラベルについては、8月中旬以降からしっかりと根付いてきたのかなという気がします。
山田 事業者としての小林さんの立場でいうと、8月にはようやくトンネルを抜けたという雰囲気はあったのでしょうか。
小林 ゴルフ場が対前年比100%、レストランの飲食部門は対前年95%です。しかし県内の方が多くて県外の方が少ないのでお土産は対前年50%でした。温泉は対前年65%、プールに至っては40%で、感染リスクがあると考えられるところはやはりかなり厳しいな、と。
 このほか、バーベキューとグランピングの施設もあるのですが、バーベキューは対前年25%、グランピングは対前年105%でした。やはり来られる方も感染リスクにはナーバスになっていて、外を選ぶというか、「密」になるところは避けるという傾向が、8月は顕著に出たと思います。9月以降については後ほどお話ししたいと思います。

〈豊岡観光イノベーション〉
城崎温泉で感染症対策の認証制度導入、訪日客重視から迅速に戦略転換

山田 では次に豊岡観光イノベーション(TTI)の川角さんにお話をうかがいます。TTIはDMOの取り組みの中でもかなり挑戦的な組織ですが、そこで中核として動いている方です。
 豊岡は城崎温泉という大きな温泉地があり、広域合併した関係でいろいろな観光資源を抱えているところです。関西圏とはいえ大阪からは少し距離があり、感染拡大を抑制しながら観光とどのように付き合っていくのかという点で、かなりご苦労されたのではと思っております。その辺も含めてお話しいただければと思います。
川角 豊岡市は兵庫県北部にあり、面積が700平方キロで兵庫県では一番大きいのですが、人口は8万人ほどのまちです。一度絶滅したコウノトリを野生に返したことで知られ、1市5町で2005年に合併しました。海のエリア(竹野海岸)があり、出石という城下町があり、木造三階建ての建物が軒を連ね、1300年の歴史がある城崎温泉があり、神鍋高原というスキー場エリアもあります。
 観光客入込数は年間400万人弱、宿泊者数は年間110万人ほどです。外国人観光客はコロナ禍前までは年々増えて、2019年は年間で6万3000人泊でした。
 TTIのコロナ対応について説明します。市内の状況や施設の営業情報をまとめたページを3月6日に立ち上げ、Visit Kinosakiという英語サイト、日本語のTTIオフィシャルサイトの両方で発信を始めました。
 これまではインバウンドに非常に力をいれてきましたが、コロナの影響で海外戦略の見直しが必要だろうと3月27日から議論を始め、現在も見直しの最中です。外国人観光客は止まってしまいましたが、豊岡を忘れないでほしいという思いで、3月27日からSNSでエア旅行コンテンツの配信を始めました。海外の旅行会社に対するオンライン商談会・ウェビナーも4月からこれまでに4回実施しています。
 4月2日からは、国や県から出された新型コロナウイルスに関する支援策をまとめたページを作り、市内の事業者に情報を届ける活動を始めました。また今後はインバウンド事業だけでは我々の役目を果たせないだろうということで、国内市場に転換を図り、体験プログラムの造成やウェブサイトの新設、ウェブマーケティングなどを開始しています。
 5月14日からは会員施設に需要予測レポート、別名コロナレポートの配信を始めました。日本国内外の需要がどれくらいから戻ってくるのか、ターゲットとしている国にヒアリングをして今その国がどんな状況なのか、いつくらいになったら日本への旅行が戻ってくるかという予測をまとめたものを毎週木曜日に配信しています。
 城崎温泉は緊急事態宣言を受け、旅館組合が一斉休業するという決断をし、4月27日から5月31日まで全旅館が休業するという対応をとりました。その間、6月1日からの再開にあたり観光客、地域住民の双方に安心してもらう仕組みが必要だろうという議論になりました。
 議論の中から、「新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」を作ることになり、市内全域ではなくまず城崎温泉で、休業明けを目指してガイドラインの作成を始めました。
 城崎温泉は「温泉街が一つの旅館」というコンセプトでまちづくり、お客さんのおもてなしをしています。温泉旅館だけでなく、飲食店、物産店など温泉街にあるすべての業種を網羅し、5月29日にガイドラインを策定しました。続いて、この城崎温泉のガイドラインを発展させて、豊岡市全体のガイドラインを策定しました。
 ガイドラインがあるだけでは、市内全域に取り組みを広げていくことは難しく、また感染症対策が進んでいることがお客さんや住民には見えにくいのではということで、TTIと行政、豊岡ツーリズム協議会が共同で8月12日に立ち上げたのが「新型コロナウイルス感染症対策認証制度」です。「CLEAN and SAFE TOYOOKA」という名称で認証のロゴマークもつくっています。
 当制度の質・精度を担保するため、感染症対策の専門家として大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学 兼 感染症科学研究センター特任講師の加瀬先生に、観光政策の専門家として日本交通公社の山田部長に監修をいただきました。特徴は、豊岡市内のあらゆる観光関連業種を網羅していることで、具体的には宿泊施設、物産店、飲食店、温泉施設、商業・アミューズメント・観光文化施設、海の家、キャンプ場、スキー場が行う対策のチェック項目を作っています。


 山田部長にアドバイスをいただき、「フィジカルディスタンス」という表現を使いました。ソーシャルディスタンスは心理的な距離をとる意味もあるので、豊岡では物理的な距離は取るけれども心の距離は広げない、イコール観光客を歓迎するという意味も含めて、この表現にしたのが特徴です。
 また、せっかくお休みの日に観光に来ていただいているのに、いろいろな制限に縛られるとリフレッシュしてもらえないのではということから、観光客の経験価値を損ねないよう、マスクをしていてもお客様に笑顔が伝わる接客をしている、コロナ疲れをリフレッシュしてもらえるような心配りをしているというチェック項目も作りました。
 すべての項目にチェックが入れば認証ポスターを付与しています。9月24日現在の認証件数は267件で内訳は図2の通りです。届け出は次々ときており、認証施設をさらに増やしているところです。


 インバウンドから国内への転換については「ふらっと、リトリートTOYOOKA」という新しいウェブページを7月22日にリリースしました。ターゲットを関西圏の30〜40代の女性とし、豊岡エリアのアクティビティの紹介をしております。
 リトリートは逃避や避難するという意味で使われる言葉ですが、普段いる場所から物理的に距離を取ることで心身をリセットし、ポジティブな日常を再スタートするという意味であり、なおかつ、気軽に遊びに来てもらうという思いを込めてこの名前にしました。アクティビティ、宿泊プラン、イベントなど現在49のプログラムを作って紹介しています。
 同時にウェブマーケティングも始め、グーグルやフェイスブックの広告、フェイスブックやインスタグラムの投稿などで、実際に予約に結び付ける活動を地道にしています。「ふらっと、リトリートTOYOOKA」とリンクしたバナー広告やフェイスブックのタイムライン広告も出しており、フェイスブック、インスタグラムは週に2回投稿をしています。
 来訪者アンケートで、「今後情報を送ってもいいか」という問いに「いい」と回答していただいた方に、メールを送信するメールマーケティングも始めました。近隣の大阪、京都、兵庫の方を対象にメールを送り「ふらっと、リトリートTOYOOKA」の予約に結び付ける取り組みです。開封率は40%程度と結構高く、今後も続けていきたいと思っています。
 インバウンド向けには「Visit Kinosaki」というサイト運営を行っており、流入数は、2016年から2019年までどんどん伸びていたのですが、コロナの影響を受け2020年は1月以降大きく落ち込んでいます。
 我々としては今できることをやっていこうと、「エア旅行」と題した豊岡の動画を届ける取り組みを3月27日からスタートしています。結構反応がよく、「城崎温泉に行ったことがある、また行きたい」「今年は行けなくなったけど、また行きます」など、普段よりも多くの反応を得ています。インスタグラムのフォロワー数はコロナ前の2月よりも増え、フェイスブックの英語版、繁体字版もそれぞれコロナ前よりフォロワー数が増えております。
 今後の取り組みとして、まずは「CLEAN and SAFE TOYOOKA」の認証施設の拡大が大事だと考えています。感染症対策を実施している安全な地域というイメージ形成をするための動画などのクリエイティブの制作も考えております。
 海外については現段階では来訪や予約が見込めませんので、フェイスブックやインスタグラムの「いいね」やフォロワー獲得、Visit Kinosakiを使って、国内在住の外国人からの予約獲得に向けても取り組んでいます。
 コロナ禍において課題と感じたのは、地域全体の現状あるいは将来の宿泊予約状況がわからないということでした。3月、4月は豊岡全体でどんどん予約がキャンセルされる状態でしたが、それを我々が把握できなかったことに課題を感じました。ですので、今の時点で10月の予約はどうなっているのか、11月はどうかということをタイムリーに把握できる仕組みを構築したいと思っています。
 宿泊予約状況の傾向を把握することで、地域の価値に見合った適正な価格設定を行い、地域全体の収益アップを図りたいという思いがあります。「もう少し単価をあげられるのでは」と思ってもなかなか踏み切れないので、客観的なデータを把握することによって、地域全体の単価アップにつなげることができないかと思っています。
 また豊岡ファンを増やし、リピーター獲得により単価アップにつなげていきたいという思いもあります。リピーター対策を取っている個別の宿もありますが、まち全体としての対策ができないかと思っています。それを実現するためのDX・デジマの基盤や仕組みの導入について検討中です。

質疑応答

山田 TTIは元々システマティックにいろいろな展開をされてきましたが、今まで狙っていたインバウンドの需要がコロナによって一気に失われ、国内に転換しようという判断は迅速に行われたのでしょうか。
川角 いつも2〜3月頃に来期以降の事業計画を作っているのですが、今回、事業計画を議論したり、行政と話をする中で、これは違うだろうと。すべて作り替えなくてはならないことに気づき、そこから一気に見直しました。結構早かったですね。

〈そらの郷〉
民泊農家に戸別訪問で徹底感染対策、今だからこそ人材育成に注力

山田 3人目はにし阿波エリアの「そらの郷」の出尾さんです。いわゆる観光地ではない場所ですが特徴をうまくいかし、ニッチな、特に欧州系の日本文化や自然に造詣のある方を対象に、地域の魅力を知ってもらおうとさまざまな活動をされています。
 今回、コロナでインバウンドの動きが止まり、厳しい状況になったのではと思いますが、その中でも持ち前のバイタリティでめげずに前に進んでおられる。今日はその辺のお話をお聞きしたいと思います。
出尾 にし阿波というエリアは四国中央部、徳島県西部に位置します。私は地域連携DMOの観光地域づくりマネージャーとして活動しており、「住んでよし、訪れてよし」の2つを目標とした観光圏としてやってきました。
 コロナの影響は当初2つありました。ひとつは観光客が動かず、観光事業者が大変になったこと。もうひとつは少子高齢化という地域特性からお年寄りばかりのコミュニティが多く、普通の観光地以上にコロナに対する恐怖心から訪問者を受け入れ難いということです。
 そこで、「こうすれば安全ですよ」ということを科学的根拠に基づいて示すことで地域の人々の恐怖心を取り除きつつ、観光客の方に安全に旅行していただくという課題に向き合ってきました。
 オンラインのバスツアーも積極的に活用しています。香川県の琴平バス(コトバス)というバス会社が、日本で初めてオンラインのバスツアーを行っているのですが、訪問地のひとつを我々の地域であるにし阿波の祖谷にしていただきました。
 もう一つがマイクロツーリズムです。観光圏で行っている来訪者満足度調査によると、四国で一番大きなマーケットは関西圏ですが、日帰りはお隣の香川県や瀬戸内海を挟んだ岡山県、広島県からのお客様が中心です。そこで、まずはオンラインのバスツアーで話題を作り、送り手側のバス会社の画面に我々が現地ガイドとして中継で出演し、今まで20本くらい催行しました。
 離れていても一緒に旅行をした気分を味わえるということで、企業がオンラインのバスツアーを貸切で買い取り、社員旅行として利用するケースが増えています。地域にあまりお金が落ちず、お土産を送るくらいの経済効果しかないのですが、地域を知らしめる効果は高いので、一生懸命やっています。また、現地に中継が入る時に観光地を紹介する動画をいっぱい撮りためることができています。今は海外へプロモーションに行けないので、ウェビナーで撮りためた映像を使っています。
 マイクロツーリズムについては、新型コロナウイルス感染症が拡大したときにいち早く県や市に対策を講じていただき、交通のフリー切符をセットした「徳島おとまりプラン」ができました。私がJR四国からの出向という立場も活用して、JRには徳島でトロッコ列車を動かしていただき、まずは身近な地域の人にもう一度地域を知ってもらう取り組みを進めてきました。
 7月以降は、近隣の方が比較的たくさん訪れてくれたので、大きく落ち込んだ状態からは少し脱した感じです。宿泊の状況は、7月は前年同期比マイナス30%くらいのところが多かったです。8月もトータルではまだ7割までしか戻っていない感じですが、Go Toトラベルキャンペーンや県民対象の施策の効果が出てきて近場の方がかなり宿泊され、施設によっては前年を超えたところもありました。私たちは自然環境のなかでの上質な交流を売ろうと目指してきたので、低価格にシフトするのは、将来的にあまりよくないだろうと感じつつも、まずは数を回復しなくてはということで今はやっています。
 オンラインのバスツアーとマイクロツーリズムのほかにもDMOとして行ったことが3つあります。1つは研修です。ホテルの事業者などは休業期間があったので、とにかく研修に参加してもらい、地域の魅力をちゃんと語れる人になってもらおうとしています。
 2つめが感染対策です。私たちの地域経済の柱は、教育旅行の農家民泊とインバウンドを中心とした観光客という2つのボリュームゾーンですが、農家民泊については、農家の方々への徹底した感染対策をとりました。来訪の2週間前からお互いに健康チェック表を交換するのはもちろん、保健所や感染症対策の専門家と一緒に、各家庭をスタッフが一軒一軒まわり、ガイドラインを示すとともに「ここは気を付けたほうがいい」「こうすればより安全な受け入れが可能です」というアドバイスを徹底的にやりました。
 3つめはコンテンツ開発です。オンラインのバスツアーやリモート会議は、利便性がある一方で、一緒に感動する空気感、共感力は弱い。情報はオンラインで入手しつつも、実際に来てもらった時に、どうすれば距離をとりながらもちゃんと心が通っていると感じてもらえるのか、どんな言葉や態度がいいのか、どうコンテンツに活かしていくかという工夫を、今一生懸命やっています。すぐに欧米の方が戻るわけではありませんが、地域がそういうスキルとコンテンツを身につければ、必ずコロナ禍後の回復の伸び方が大きくなると信じて、一生懸命やっています。


 私達の地域は自然の中にあるので、若いお客さんを中心に、ラフティング、登山、トレッキングなど自然の中のアクティビティを目ざして来られる方が多いのですが、コテージ、ヴィラ、キャンプ場などのプライベート空間を求める方が増え、移動手段はマイカーとレンタカーの比率が高くなりました。あまり他人と接触をせず、家族だけで移動する方が非常に増えたと言えます。セルフチェックインや食事もバーベキューで済ますなどの「自己完結型」あるいは「グループ完結型」旅行が多くなりました。山ばかりでおおきな集客装置がないことが逆にコロナ禍ではプラスになる、とポジティブに考え、それに対応するコンテンツをきちんと作っていこうと思います。


 さらに、喫緊でやるべきことと、1年先2年先を見据えてやるべき2つのことをやりたいと思っています。
 ひとつはアドベンチャーツーリズムです。東京五輪の後に北海道でアドベンチャートラベル・ワールドサミットがあり、アドベンチャーツーリズムの面でも日本に注目が集まると考えています。ここには北海道ほどスポーツ系アクティビティはありませんが、山の暮らしの文化体験というアクティビティが豊富なので、地域文化や地域の人が暮らす世界観にふれるコンテンツを作ろうと思っています。
 もうひとつが研修とワーケーションです。ワーケーションについては半分アクティビティを楽しむワーク+バケーションの誘致をしたいと思っています。修学旅行の場合、地域に来る前に私はこういう人間であるとか、こういうテーマで旅行に来るなど、お互いにプロフィールを交換することでお互いのことがある程度分かるというのは、来る側受け入れる側双方の安心感にもつながります。なので、企業の研修や大学のゼミなども同じようなかたちで受け入れたいと思っています。
 従来、私どもの地域は、香港からの来日客を中心に外国人旅行者が3万人来ており、インバウンド比率が非常に高かったところですが、この数はすぐには元に戻らないだろうとみています。一人当たりの観光消費額、あるいはアクティビティや体験の収益性を向上させ、数は少ないけど収益がアップする形に戦略をシフトさせたいと思っています。
 前述のように東京五輪以降、アドベンチャーツーリズムという旅行目的を持った長期滞在の欧米系の人が増えて、彼らの観光消費力は一般のツアーの4倍お金を使うと言われています。そういう顧客層によりシフトした戦略を作ろうと、今準備をしています。
 今はマイクロツーリズムを増やすと同時に、1、2年後にコロナがただの風邪になったときに回復する地域力を作っておくという2つの意識で取り組んでいるのが現状です。少し先をみて、今何をするか考えることもDMOの重要なミッションだと思いますので、回復期を見据えてPostコロナのにし阿波の魅力は何かを意識してチャレンジしています。

質疑応答

山田 民泊を受けている農家の感染対策に、専門家の方にもご協力いただいたというお話がありましたが、そうした取り組みで、受け入れ側の農家の皆さんの不安は和らいだのでしょうか。
出尾 正直、大変苦労しています。農家民泊の受け入れ側は平均年齢70歳以上の方々です。数字で「死亡率だけだと交通事故より少ないよ」と示すよりも、心理的に怖がっているところがあるので、現場にいって、こういう手洗いをする、生徒さんが来た時にこの場所で食事をしてもらう、などの具体的な方策の方が理解が深まるので、ここは二人三脚だと思って、手間と時間はかかりますが、実践的な方法でやっています。
山田 農家民泊を受けている方々は以前から観光に携わっていた方だと思いますが、それ以外の、観光に直接携わっていない住民の方の意識はどうでしたか?
出尾 町の商店の方などもコロナ禍の初期の頃は、非常に閉鎖的、排他的でした。ところが、このままでは立ち行かないということや感染症対策が少しわかってきたので、許容の幅は広がってきたと思います。
 とは言えある程度時間がかかると思いますし、今無理強いをするとまたひきこもってしまう可能性もあるので、そこは時間をかけてと思っています。まずは受け入れに前向きな人たちと一緒に組んで、時間をかけて水平展開していきたいと思っています。

〈ディスカッション〉
観光客受け入れに対する事業者や住民意識の変化

山田 この流れでディスカッションに入りたいと思います。豊岡はエリアの範囲が広いので、城崎と他のエリアでは住民意識も違ったのではないかと思いますが、地域を売り出す側の川角さんから見て、受け入れ側の地域のコミュニティはどういう状況だったのでしょうか。
川角 やはり当初は、お客さんがどんどん来ることを心配する空気がすごくありました。TTIとしても、お客さんに来てくださいとは言えない状況でした。なので観光事業者が感染対策をちゃんとやっていることを見せつつ、少しずつプロモーションをやっていかないとまずいという気がしていました。
山田 城崎温泉はゴールデンウイーク前に休業を決めましたが、それは地域の不安を煽らないという意味合いもあり、そういった判断に対して一般市民の方もそれなりに安心されたということでしょうか。
川角 はい、そうですね。
山田 城崎温泉の休業は組合で決めたと思うのですが、組合に入られていない施設もそれに倣ったのでしょうか。
川角 はい、どこも営業していなかったと思います。市の外湯も止まっていました。
山田 豊岡は市長も積極的にメッセージを出しておられましたが、7、8月を越えて、一般の市民の方も観光客の受け入れについては一定の理解を示しておられるでしょうか?
川角 はい、空気は変わってきています。「ステイ豊岡」という市民対象の宿泊支援を早くから始めており、普段は市内に泊まらない市民が城崎温泉を中心に泊まり始めました。6月1日からスタートして9月末で終わりますが、現段階で8000人以上、市民の約1割が利用しており、観光に対する理解が深まったと見ております。
 また認証制度を作ったことで、以前の空気感とは全く違うものになったと思っています。他の地域の事業者の意識も変わりましたね。我々もお手伝いをしましたが、地域のリーダーである城崎温泉が真っ先にガイドライン作りなどに動き出したので、他の観光エリアも続く形で神鍋や竹野から相談を受けました。
 竹野の場合は「海開きをしないといけないが、何を根拠に海開きをしたらいいか」という相談でした。城崎が先に動いたことで、市内全域の意識が高まり、豊岡全体の結束力も強くなったと思います。
山田 小林さんのところのDMOは、民間事業者のつながりで動いていると思います。ゴールデンウイークがなくなったのは、かなり厳しい状況だったと思うのですが、そこから夏に向けて、事業者の意識はどんな感じだったのでしょうか?
小林 事業者に関しては、ゴールデンウイークに休業ということで、コロナに対する危機感が高まりました。どの事業者も感染対策をしなくてはならないと感じたのが一番大きいと思います。来訪者が一番のポイントと考えるのはやはり安心安全ということで、まずは感染対策の見える化だと思います。
 山梨県では「やまなしグリーン・ゾーン認証」という認証制度がいち早くできました。認証を受けることで様々な支援を受けることができます。現在、北杜市内では宿泊が78施設、飲食が25施設で合計103施設が認証登録されています。山梨県内全体では852施設が認証を受けているのですが、北杜市は400施設あるうちの100施設のみと、なかなか踏み切れていないのが課題です。北杜市でも独自に「コロナ対策見える化ポップ」という取り組みをしていますが、これも申請しているのが400施設のうち150施設にとどまっています(9月24日現在)。このような制度に事業者自身がもう少し積極的に取り組まないといけないという課題があり、私たちとしてはアンケートなどを行って問題点を見える化し、400施設のうち最低でも7、8割がこのポップを掲げることで、来られる方も安心されるのではないかと思います。
 地域の方の中には、あまり外から来てほしくないという気持ちもあると思います。しかし、それでは地域経済が回らず倒産者がたくさん出てしまいます。出尾さんが言われたように、我々も「住んでよし、訪れてよし」という地域なので、しっかりと交流人口を増やす取り組みをしていかなくてはならないと思っています。そのためには、グリーンゾーン認証取得と見える化ポップ掲示状況について地域の対象事業者にアンケート調査を実施し、アセスメントも行いながら、各事業者や行政に対して「こういう問題があるから、改善してもっと増やしていきましょう」と我々が示していくことが今後の地域住民・事業者・来訪者の安心安全を担保し、このWithコロナ期でも経済をしっかり回す取り組みにつながっていくのではと思っています。
 基本的に一番思うのは、事業者も住民も変わっていかざるを得ないということです。Withコロナ期の観光地域づくり法人の役目としては多様な方の合意形成が最も大事と考えていますので、この長年かけ築き上げた合意形成の仕組みを活用して地域の方々に、このような取り組みをしっかり啓蒙していくことが我々の役目かなと思っています。
 住民の方たちには「こういう取り組みをしないと地域が活性化しないよ」、事業者の方には「こういうことをしないと選ばれないよ」と認識いただいて経済を活性化していくことが、我々が今本当にやらないといけない取り組みだと思います。
山田 感染対策ガイドラインの認証などについて、取り組む事業者がなかなか増えて行かないということは、どの辺が原因だと思われますか。
小林 我々からすれば申請は簡単だろうと思うのですが、高齢の個人事業主にとってはなかなか面倒だと思います。実際、私の会社にも仲間から「これを教えてくれないか」という依頼があったりするので、登録申請の仕方を簡易にしないといけないのではとも思います。この辺は行政もしっかりしたアセスメントがないと見直してくれないと思うので、そこを我々がアンケートなどを行い「こういう問題がありますよ」と行政とお話しして、出尾さんのところで行われているように、わからないというところには説明に行ったりしないといけないのかなと思います。

9月以降の観光客の動向

山田 ここで話題を変えたいと思います。お三方の地域では8月頃から需要が戻ってきて、特に9月のシルバーウイークの4連休は各地にかなり多く人が出たというお話でした。今動いているお客様がどんな人たちなのか、改めて各地域のお話を聞きたいと思います。小林さん、八ヶ岳の9月はいかがでしたか。
小林 うちは観光案内所を指定管理で運営していて、そこで案内した方のデータですが、9月全体を見ると、前年と似通った状況になっています。
 9月4連休の2日目は天気が悪かったのですが、3日目はインドアもアウトドアも今年一番の賑わいだったと各事業者から聞いています。例年ゴールデンウイークは5月4日が一番賑わうのですが、そこに匹敵するほどであったそうです。
 「めざましテレビ」でも報道されましたが、富士見パノラマと清里の2スキー場は、いずれも行列が生まれていました。出尾さんも言われたように、アウトドアは密ではないということで多くの人が来られていると思います。
 もともと八ヶ岳は基本的に移動はマイカーが多く、70%が家族連れですが、9月の状況が10、11月と続いていくのかなという感じです。Go Toトラベルキャンペーンの影響もあると思いますが、我々の地域も事業者に感染が出ていないということもあり、事業者と旅行者の双方で今以上の感染対策をすれば、旅行での感染はないことが実証されると思います。
 もう一つ見られる傾向は団体客の減少です。まぎれもなく個人客の方が増えているのが、9月の動向から推測されたことです。
山田 豊岡では、9月にどんな方が訪れましたか。
川角 城崎温泉の外湯の入浴者数を、去年の3連休と今年の4連休で比較したところ、日帰りのお客様が相当増えていて日帰りが約20%、宿泊が約7%、昨年より増えています。車で来られる日帰りのお客さんが増えている傾向が見られます。4連休を含む9月全体について、あるOTA(オンライン・トラベル・エージェント)にヒアリングしたところ、Go Toトラベルキャンペーンが効いていて、宿泊予約が昨年より約20%増えているということでした。1月までの予約も、いずれの月も対前年2桁の伸びになるんじゃないかということでしたが、キャンペーンが終わる2月以降はまったく予約が入っていないということでした。
 豊岡は地域によってさまざまな特徴があり、城下町の出石は皿そばで有名で昼ご飯を食べに来る日帰りのお客さんが多いですが、神鍋高原は合宿、林間学校などが多いです。出石の入込数は、8月くらいから去年を上回っている状況ですが、神鍋は夏の林間学校、合宿などの団体予約がキャンセルになっていますので、非常に苦しい状況です。
 城崎は順調ですが、海水浴で知られる竹野は去年の45%くらいに留まっています。その代わり駐車料金を上げて対応し、収益的にはそこまで落ちていないというので、ちょっと安心しています。今まで来ていただいたお客さんの層により、各エリアで状況が違うようです。
山田 全体的には個人のお客様を元々つかんでいたところは強く、団体客が多かったところはきついという感じでしょうか。認証制度を立ち上げ、申請する事業者が増えているということでしたが、それに対するお客様からの声というのはありますか?
川角 1ヵ月半の間で一件だけ「対応ができていないじゃないか」という苦情がありました。苦情はその一件だけですね。皆さん真面目に取り組んでおられると思います。
 また、お客さんも「マスク着用をお願いします」と呼びかけている場所では全員マスクをされており、皆さんがルールを守って行動されています。

ワーケーションの可能性と課題

山田 出尾さんからアウトドアのお客さんが増えているというお話がありましたが、どんな特徴が見られますか。ワーケーションの取り組みについてのお話もありましたが、具体的にどんな風に取り組んでいきたいとお考えですか。
出尾 山を目指す若い人が増えたことは肌感覚としても明らかにわかります。不思議な現象ですが、剣山という山に登山できるのに、なぜか登山口まで行って引き返す率が高くなっています。山の雰囲気を感じるだけでいいという人が増えているのかな、という気がします。そういう意味では、自然に対する理解や、環境インパクトの少ない旅行に共感してくださる方が増えているのなら、そこを伸ばしていかなくては、と思っています。
 官房長官時代の菅首相がワーケーションと言ってから、あっちもこっちもワーケーションだ!ということになっていますが、送り手の企業と、地域振興に使おうという受け手の理解にギャップがかなりあります。リモートで仕事をしてみて「オフィスが都内になくてもいい」と考え、家賃や従業員の交通費などをカットできるから地方に職場を移そうという企業もあると思いますが、地域側は一緒に地域の価値を守る活動をしてほしいとか、空き家だらけなので、そこをリノベーションして短期でもいいからコワーキングスペースやサテライトオフィスとして使ってほしいなど、目指している目標が違う気がします。
 ただ家賃を安く済ませたいという企業はわざわざ四国の田舎に来て、人材育成の企業研修などにお金をかけないと思うので、そこを双方が理解したうえで、ちゃんとしたマッチングさせるのが今後の課題だと思います。
 地域側もただ通信環境がいい、自然環境があってアクティビティが楽しめるからワーケーションに来てくださいというだけではだめだと思います。田舎の不便さの中で新しい価値観を見つけるなど、人材育成を目指す企業はどうぞいらっしゃい、ただ家賃を安くしたいなら首都圏のちょっとはずれた田舎でいいじゃない、という風に棲み分けるというか、ワーケーションのカテゴライズをする必要があり、なんでもかんでもワーケーションでいらっしゃいというのは乱暴な気がします。
 地方では地方なりのワーケーションのビジネスモデルが育っていくだろうとは思いますが、今はまだかなり混乱しているので、「こういう人材育成には、こういうワーケーションがいいですよ」といった情報発信と、企業と受け入れ側をマッチングさせる機能を持った事業体の二つが多分要るだろうと思い、自身もそういう組織を立ち上げて活動していこうとしています。
山田 にし阿波としては、総務省の言う関係人口について、刹那的なものではなくて、地域の課題にまで寄り添ってもらえるチャンネルとして増やしていきたいということですね。
 八ヶ岳は首都圏から近く、別荘地でもあり、昔からリゾートワークが行われていた地域ですが、ポストコロナに向けてワーケーションの動きについて小林さんはどのようにお考えですか。
小林 ワーケーションはやはり必要だと思うんですよね。今後はコロナ禍においてさらに新しいビジネスが生まれると思いますし、ワーケーションは今後の仕事の効率を考えると外せない事業だと思います。ただ取り入れ方については、地域性を見ながらやっていく必要があるかなと思います。
山田 小林さんの経営されている施設に、ワーケーションのお客様はいらしていますか。
小林 私どものグランピングのキャビンの一部でワーケーションができるよう、今年の秋には機器を取り揃えていこうと考えています。ほか、廃校した学校で「教室でワーケーション」と謳い、展開していこうという動きも出てきています。
 八ヶ岳観光圏の長野県富士見町には「森のオフィス」というワーケーションを先取りしたオフィスがあり、既にいろいろ動いています。そういうニーズもしっかり踏まえながら、事業展開していきたいと思います。私も出張が多いのですが、やはり喫茶店では、メールだけならいいけど電話ができないなど不便なことも多いので、そういう場所は今後必要になると思いますし、ケースバイケースで進めていこうと思います。
山田 豊岡では、テレワークやワーケーションについてはどのようにお考えでしょう。
川角 まずは今年度、企業に働きかけて企業向けツアーをテスト的にやってみて、そこからいろいろな学びを得たいと思っています。
 リモートのワークショップのような研修プログラム、各自での仕事、地元の体験プログラムを仕事の合間に行うなど、2泊3日のプログラムを作っており、まずそのモニターツアーを1回やってみたいと思っています。
山田 豊岡市には来年春に芸術文化観光専門職大学が開学し、かなり多くの職員の方が移住されるということですね。これをワーケーションというのか関係人口、あるいは転出人口というのか境目がない世界だと思いますが、豊岡はトヨタなど企業ともいろいろな形で連携しながら地域づくりをされている中、こういったこともワーケーションに使っていきたいとお思いですか。
川角 そうですね。学長を務める平田オリザさんが移住されていて、先日も演劇祭を開催しましたが、平田さんが地元の学校などで演劇ワークショップを行っています。演劇を通じてコミュニケーション能力を高めるというプログラムですが、そういったものを企業向けに行うのもありではないか、と思っていまして。豊岡に来れば、企業の中でのコミュニケーション能力を高めるための演劇ワークショップに参加できる、というのをモニターツアーで試験的にできないかなと考えているところです。

秋冬と今後に向けた取り組み

山田 最後に今後についてうかがいます。8、9月の観光地で人が増えても、感染拡大は起きていないということで、「ある程度こうしたバランスの中でやっていけば、コロナ禍の中で観光を動かせる」ということが見えてきたのではないかと思います。
 とは言え、一方で、秋冬はまた感染が広がるのではという指摘もあります。秋冬に向けてどのような取り組みをされていくのか、今後の抱負を踏まえてお話しください。
出尾 明確にこれがいいという回答が見つけられなくて悩んでいますが、今だからこそしっかり人材を育成し、回復期に売れるものをちゃんと作ろうと考えています。私たちのエリアは、地域の人と距離が近い交流を売ってきたのですが、今はどうしても物理的にディスタンスを取らなくてはいけない。「握手してください、ハグしてください」から、いかに違う、ニューノーマルの交流の方法を見つけていくかが、今からの課題だと思います。
 DMOの枠組みを活用しながらいろんなチャレンジをして、明確な答えでなくてもベターなものを複数見つけていきたいし、それを一緒にやってくださる方、考えてくれる仲間を増やすことに力を注いで、地域力、基礎体力を作っていこうと考えています。
川角 まずはCLEAN and SAFE TOYOOKAの認証施設を増やし、感染症対策を進めていきたいと思っています。同時に「ふらっと、リトリートTOYOOKA」のコンセプトに合ったプログラムを充実させ、継続的に人に来てもらえる仕組みにしていきたいと思っています。
 あとは、先ほどお話しした地域の宿泊予約の状況がタイムリーにわかるような仕組みをなんとか作っていけたらと。予算がかかるので、ハードルはありますが、現在、宿泊施設の方とも議論を始めているところです。
小林 おかげ様で、観光庁の誘客多角化事業に採択されました。我々には首都圏2000〜3000万人のマーケットがあるので、当面はマイカーで来られる200〜300km圏内をターゲットに、しっかり訴求するものを作っていくことをやっていきたいです。
 当然、感染対策については見える化、グリーン・ゾーンを、今回やろうとしています。11月に商工会を通じて宿泊、飲食の事業者にアンケートを取って、その結果をしっかり把握し、地域一体となって感染対策を見える化し、来る方も事業者も安心で、住民も快く来訪者を迎えられる循環交流型で地域が豊かになると信じ、誘客多角化事業の具現化との二本柱でやっていきたいと思っています。
山田 「重点支援DMO」という共通点がありながら、三地域それぞれの状況や組織の態勢、マーケティングはかなり異なり、非常に多様性に富んだお話になりました。これが日本の観光地の実態だと思います。
 今回のコロナ禍について共通しているのは、観光客が戻ってきても行動が以前とはだいぶ変化しているということです。インバウンドの戻りが不透明な今、当面は国内市場を獲得していく必要がありますが、Postコロナの時代に対応した形で誘客するには、地域側は当然、感染対策を行った上で、お客様が何を目的にその地域を楽しみに来ているのかを考えたコンテンツづくりが重要になるだろうと思っています。
 それには観光地側の体質改善も伴い、出尾さんが言われたように人材育成やコンテンツ制作など、コロナ禍だからこそ新しいものにチャレンジしたり準備することが必要なのではと感じました。どうもありがとうございました。

   


小林昭治(こばやし・しょうじ)
一般社団法人八ヶ岳ツーリズムマネジメント代表理事。1958年生まれ。「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりに、各関係諸団体と一緒になって取り組む。2018年には(一社)八ヶ岳ツーリズムマネジメントが「第4回日本ツーリズムアード日本版DMO推進特別賞」を受賞。ほか全国観光圏推進協議会会長、(公財)東京観光財団 東京都観光まちづくりアドバイザー等

   


川角洋祐(かわすみ・ようすけ)
一般社団法人豊岡観光イノベーション(TTI)経営企画部長。兵庫県生まれ。近畿大学を卒業後、食品メーカーを経て、豊岡市役所に入庁。但馬地域の観光振興、但馬空港の利用促進に従事。その後、公益社団法人ひょうごツーリズム協会に出向し、県の観光政策に従事。豊岡市に帰任後は、豊岡市の観光政策と情報発信戦略に取り組む。その後、TTI設立を担当。

   


出尾宏二(でお・こうじ)
一般社団法人そらの郷事務局次長。1959年徳島県生まれ。国鉄四国、JR四国の旅客営業セクションで国内旅行の造成・販売・販売促進に関わる。2008年の「にし阿波観光圏」認定の際、JR四国の観光開発として「にし阿波」との関わりを持つ。2013年から現職。にし阿波各地の市町村や観光事業者および地域の人と協働して、体験プログラムや着地型旅行商品の開発に尽力。観光圏事業の観光地域づくりマネージャーとして活動中。

   


コーディネーター
山田雄一(公益財団法人日本交通公社)

編集協力
吉田千春/井上理江