視座 新しい時代の始まり
公益財団法人日本交通公社 観光政策研究部長 山田雄一

収束状態となるコロナ禍

「台風一過の明るさ」なのか「再び来襲する嵐の前の静けさ」なのか。
 それが、各地の状況を見てきて、現在、筆者が感じていることである。
 前回の観光文化246号「現場で語る、持続可能な観光の本質〜コロナ禍での現状と課題〜」を発刊した夏を経て、秋となり、観光は明るさを取り戻しつつある。これは、各特集でも指摘されており、対前年プラスで推移している地域や施設も出てきている。
 こうした動きは、GWを失い、夏前半の需要も失っていた観光地、事業者にとって、やっと訪れた光明となっている。この光明をもたらしたのは、国内においてニューノーマルな行動様式が社会全体に広がり、新型コロナCOVID-19の新規陽性確認者数が抑え込まれていったことに加え、政府が7月22日より始めたGoToトラベル・キャンペーンが大きな意味をもっていたことは論を俟たないだろう。
 GoToトラベル・キャンペーンは、従来、被災地を対象に展開されてきた「ふっこう割」のスキームを、全国規模に展開したものであり、コロナ禍からの回復においても、その有用性が期待されていた。しかしながら、開始日とされた7月下旬は、東京都を中心に新規の陽性確認者数が増大傾向にあるタイミングであったために、経済なのか命なのかという、一種の「トロッコ問題」が現出することとなった。
 背景には、当時、経済活動と感染抑制はトレードオフの関係にあると考えられていたことにある。我が国では、2020年4月7日に緊急事態宣言を発出し、経済活動全体を止め、陽性者を抑制してきた。5月25日の緊急事態宣言の解除後、経済活動は徐々に復旧されていったが、それに合わせて新規の陽性者も増加するようになっていたため、経済活動を行えば感染は拡大すると思われていた。
 さらに、国内有数の観光地である沖縄県において7月上旬から、新規陽性者が増大したことのインパクトは大きかった。沖縄県は、GW時期において、強めに来県自粛メッセージを出しており、その中で観光に行った芸能人がバッシングを受けるなど、コロナ禍と観光の衝突の象徴的事例となっていた。その沖縄県において、再度、感染拡大が生じたことは、マスメディアにも連日、大きく取り上げられ「経済活動の中でも、特に観光活動を再開すると、感染が拡大する」という考え方を広める結果となった。
 この「考え方」は、夏休みの観光活動に大きな影を落とすことになった。2020年の夏は、緊急事態宣言発出の関係で、学校の夏休みも大きく短縮されており、もともと、短期決戦の様相が強かったが、その残された夏休みにも自粛が続いたことで、多くの観光地、事業者は更に厳しい状況に置かれた。
 しかしながら、GoToトラベル・キャンペーンの開始後、懸念された新規陽性者の増大は生じず、逆に、7月下旬から8月上旬をピークとして、新規陽性者数は減少へと転ずることとなった。そのため、8月も下旬となると「必ずしも、観光活動と、陽性者数は相関しない」という認識が広がっていくことになる。並行して、ニューノーマルとなる生活様式も普及し、しっかりとした感染症対策を行えば、感染リスクを下げられるという認識も広がっていった。
 こうした意識の変化は、大都市周辺の高級ホテル・旅館や、自然地域、キャンプ施設への来訪という行動の顕在化につながっていく。つまり、自家用車で移動し、しっかりとした感染症対策が実施され、かつ、第3者と物理的な距離が得られる地域/施設であれば、日常生活と比しても、感染リスクは高まらないと考えられるようになった。こうした認識の変化に、GoToトラベル・キャンペーンが加わることで、春以降、自粛し我慢していた旅行に対する欲求が噴き出すようになってきている。
 中には、毎年、夏休みには海外旅行を楽しんでいた人々が、国内に旅行先を変えたことで、従来、あまり動きの見られなかった高価格の宿泊プランが活況となるケースも出ている。
 こうした需要の変化については、各特集でも指摘されている通りである。
 さらに、「観光客の来訪によって感染拡大に悩んでいる」という図式で報じられることの多かった沖縄県でも、特集1で示されたように、9月に入ると「感染症対策をしっかりと取ってくれる旅行者は歓迎します」というメッセージを県知事自らが発信するようになった。こうしたメッセージを公式に発信している地域は限定されてはいるものの、需要側の意識だけでなく、供給側(地域側)の意識についても、転換されてきたことを示している。
 こうした需給双方の意識変容が現出したのが、9月のシルバーウィークである。8月下旬からの観光再開の機運の中、9月19-22日の4連休は、格好の旅行好機であり、多くの人々が観光に出かけた。そうした状況を、マスメディアも概ね好意的に報じ、さらに、シルバーウィークを経ても陽性者数に大きな変化が無かったことで、観光活動と陽性者数をリンクさせて論じられることも少なくなっていった。
 沖縄県では、10月に入り、一部ではあるが、本州からの修学旅行も再開されるようになっており、観光と感染症対策との関係性についての認識は、着実に変化しつつある。

人々の不安は消えていない

 ただ、完全にニューノーマルな世界として、復元されたのかと言えば、そうとは言えない。
 飛行機や新幹線など、高速交通機関の需要の戻りが遅いことが、その好例である。比較的近距離についても、自家用車での移動が選好されている状況にあり、バスツアーなどは厳しい状況に置かれている。
「第3者と混在される」ことに対する恐怖心、不安感が、公共交通機関を忌避する行動につながっているものと考えられる。
 結果的に、各地域・施設の集客圏は、大きく制限、すなわち、近距離からしか集客できなくなっている。そのため、近傍に大都市を持つ地域は比較的回復度合いが高いが、高速交通機関への依存度が高い地域については、回復が遅く、地元需要の掘り起こしが急務となっている。
 また、不特定多数の人々を集めることは避けるべき状況であることに変わりはなく、いわゆるお祭りやイベント、フェスといった活動を大規模に展開することは難しい状態が続いている。
 規模が小さいものでも、例えば、そば打ち体験のように食が絡むものや、参加者やホストと密なコミュニケーションが発生する体験プログラムも厳しい判断が求められる状況にある。こうしたイベントや体験プログラムは、これまで、地域魅力の増進、有効な集客策、王道的な観光振興策として各地で展開されてきたものでもあり、その影響は大きい。
 さらに、地方都市を中心に形成されていた業務需要による旅行市場も、依然として大きな影響を受けている。緊急事態宣言を経て、多くの企業が「オンライン会議」を経験したことで、業務におけるオンライン活用は大きな広がりを見せている。企業としては、オンラインを活用することで出張旅費の削減ができるだけでなく、社員の感染リスクを高めないという効果もある。コンベンションやカンファレンス、シンポジウムといったものも多くは、休止となるか、オンラインへと展開している状況にあり、当面、インセンティブ旅行の実施も見込めない。地方都市では、平日の需要を業務系で担保しつつ、週末は観光系需要で立ち上げてきたところも多く、業務系需要が減退することは、ボディーブローとなり得る。
 このように、現在でも、距離の壁、コミュニケーションの壁、業務需要の壁の3つが大きく残されている状況となっている。留意すべきは、こうした3つの壁が、今後、時間経過と共に回復していく保証は無いということである。ニューノーマルな行動様式として、当面の間、こうした傾向が続くことも想定しておくことが必要だろう。

住民の不安も消えていない

 COVID-19に対する不安は、住民においても消え去ったわけではない。徐々に観光活動を感染拡大とつなげて考えなくなっているとはいえ、春以降、緊急事態宣言を通じて埋め込まれた恐怖心、不安感は大きい。実際、今でも地方紙などは、観光活動の再開をポジティブに取り上げつつ、感染拡大のリスクについても、同時に言及していることが多い。また、観光活動に関係なく、感染クラスターは、各地で散発的に発生しており、決して「安心できる」生活が戻ってきている訳ではない。
 しかも、観光対象地となるような地方部ほど、感染症のような急性疾患に対する医療サービス容量が小さく、また、重症化リスクの高い高齢者が多いという問題がある。これは、少子高齢化の進展に伴い、高齢化が進んでいる一方で、医療サービスが慢性疾患に対応したものに組み換えられてきたことが理由であるが、実態として、感染症に弱い立場にある。そのため、地域住民、特に高齢者の立場からすれば、域外からの人々の来訪に不安感を拭うことは難しく、多くの地域において、COVID-19には慎重な姿勢を崩すことは出来ない。
 一方で、国全体において一連のGoToキャンペーンによって、人の動き、経済活動の再開が進み実態面としては、観光活動は再開しつつある。特集2でも示したように、この相反する問題に、どのように対応するのかということが地域における大きな課題となっている。
 コロナ禍以前、観光は、基本的に「推進すべき政策」として広く認知されていた。もちろん、観光客が急激に増えたことによる各種のトラブル、インバウンド増大に伴う文化衝突は存在したが、人口縮小が続く社会において、交流人口に期待するところは大きかった。しかしながら、コロナ禍という脅威がもたらしたショックは大きく、これまで観光に関心を持たなかった人々も含めた、幅広い人々に、我が地域における観光とは何か、という問いを投げかけることになった。
 さらに、その「人々」の立場も、観光客を受け入れる立場に留まらず、自身も観光客になるという立場にも拡大している。なぜなら、各地で市民や県民向けの割引クーポン(県民割)、プレミアム商品券などによる地元需要喚起策が展開されたためである。これによって、これまで「地元に住みながら利用したことがない」宿泊施設や観光施設の利用が進むこととなった。施策の直接的な目的は、外部地域からの感染リスクを抑えながら、観光業に対する需要を確保しようとする取り組みであったが、これらの施策は6〜7月に進められたことが多かったため、観光に好適な季節(ハイシーズン)に地元の人達が、自地域の良質な観光体験が出来たという副産物も生み出した。
 域外からの観光客が途絶えた中、感染への一抹の不安を感じながらも、地元の観光産業の支援として、ハイシーズンに自地域の観光的魅力を経験したことは、観光と地域との関係性を大きく変えていく可能性がある。特集4で指摘されているように、ポスト・コロナに向け、地域における観光振興のあり方について改めての議論が必要だろう。

割引策による混乱

 以上、見てきたように、観光活動の再開において、政府のGoToトラベル・キャンペーンや、各地での県民割などの施策が功を奏したと考えられる。一般論として「割引策」は、幅広いセグメントに効く施策であるが、今回もその効果が発揮されたと考えられる。


 前述したように、県民割は、地元需要の喚起といった効果も生み出し、某リゾート・マネジメント会社社長が提唱した「マイクロ・ツーリズム」の現出にもつながった。
 これらの施策が、緊急事態宣言発出以降の凝り固まった観光需要を溶かしていくことに、大きな効果を上げたと指摘できる。
 一方で、「値段の安さ」による集客については、懸念も出されているのも、また、事実である。筆者は、2つの問題を内在していると考えている。
 1つは、競争環境の混乱である。競争戦略の基本は差別化、集中化、そして価格設定の3つであるが、GoToトラベル・キャンペーンや、県民割などで、社会全体で割引策が展開されると、価格設定が競争要素から除外されることになってしまう。結果、これまで「相対的に低い価格設定」で競争力を得ていた地域・施設は競争力を喪失することとなる。また、高価格帯の地域・施設も、提供価格が低下することで、価格に惹かれてくる人々が増えてしまえば、従来、競争力を構成していた差別化要因を失ったり、特定市場へフォーカスする力が薄れたりすることにも繋がりかねない。
 もう1つは、価格基準の崩壊である。もともと、今日のサービス価格は、原価の積み上げではなく、提供する「経験価値」によって設定されるものとなっている。利用客が自身のこれまでの経験や価値観、必要性によって適切な価格感を持ち、対応しているということだ。そうした心理構造を踏まえ、広く用いられているのが季節や曜日、予約タイミングによって価格を変える「ダイナミック・プライシング」である。すなわち、「適切な価格」は、事業者と利用客、双方の経験によって設定されるようになっている。そのため、今回のように大規模な割引施策が長期に渡り展開されてしまうと、事業者と利用客で培ってきた「相場」が大きく崩れてしまうことになる。
 これらは割引策の展開に伴う「副作用」と考えることができる。この副作用は、割引策の期間が長ければ長いほど、深刻となっていく。
 そう考えれば、割引策からの出口戦略が重要となってくる。執筆時点で、GoToトラベル・キャンペーンは、2021年春頃まで延長されると言及されるようになっているが、それ以降の展開について展望していくことが必要となろう。

冬への対応

 もう一つ、不確定な要素は、冬季において感染状況が、どのように推移するのかという点である。複数の疫学専門家が、気温が下がり、乾燥しやすくなる冬季には感染が再拡大する可能性を指摘している。また、欧州のように、感染を抑え込んだとしても、ちょっとした状況変化によって、爆発的な感染拡大にみまわれるリスクも存在している。
 端的に言えば、この9-10月のように感染者数が横ばい傾向となっている現状が恒常的に今後とも継続していくのか、それとも、季節変化や人々の意識変化によってバランスを崩していくことになるのか、感染者数の推移を確実に予測することはできない。
 また、ワクチンや治療薬についても、不確定要素が多い。現在、世界中で開発が進められているが、(副作用を含めた)安全性と、COVID-19に対する有効性のバランスが得られるのかは見えない。また、有効なワクチンが出来ても、その有効期限がどの程度のものになるのかによっても、実用度は異なってくる。特に、重症化リスクの高い高齢者における有効性、有効期間は大きなポイントとなろう。
 このように、今後、感染がどのように推移していくのか、また、感染の予防や治療といった対抗手段がどのようになっていくのかについては、楽観的なシナリオもあれば、悲観的なシナリオも存在している。どういったシナリオを辿るかは「神のみぞ知る」ということである。
 現在のような収束状態が続いていくことになれば、新幹線や飛行機といった高速交通機関に対する需要も戻っていくことになるだろうし、仮に欧州のような再拡大が生じれば、7-8月のような「自粛」状態に舞い戻ってしまう可能性もあるだろう。
 また、今回のコロナ禍は、日本経済に大きなダメージを与えており、企業経営は持続化給付金や雇用調整助成金によって底支えされている状況にある。今後、企業におけるボーナスカットや、廃業などが現出してくれば、人々の所得が減退していくことも想定される。平均給与水準と、国内の宿泊観光旅行市場の規模が相関しており、所得の減退は、国内市場を中長期的に減退させていく可能性がある。
 本稿の冒頭で、私が「台風一過の明るさなのか、再び来襲する嵐の前の静けさ」なのか、と述べた理由は、ここにある。

ロイヤルティ、ブランドの重要性

 今回の各特集で指摘されているように、現状、明るさが見えている状況であることは間違いない。しかしながら、今後、どういったシナリオを辿るのかは、誰も展望することはできない。仮に、良好なシナリオで推移した場合、GoToトラベル・キャンペーンや、雇用調整助成金など政府からの支援策は終了することになる。この出口に関連する混乱も想定する必要がある。
 つまり、シナリオには、さらなる分岐点があり、状況によって展開は大きく異なっていくことになる。
 こうした不透明な状況の中、重要なキーワードとなるのは「信頼感」ではないだろうか。
 コロナ禍は、様々な不安や恐怖を社会に撒き散らしてきた。それらの不安が、人々の旅行意欲を減退させ、地域住民の観光に対する拒否感を醸成した。観光活動が再開してきたとはいえ、人々の心理には不安感が残っており、棘のように刺さった状態にある。
 この棘を抜いていくのに有効な概念が「信頼感」となるだろう。
 観光活動が戻る前、県民割などの施策も無かったとき、一部の地域や施設が、クラウド・ファンディングやオンラインツアー、前売りチケットなどの展開を行ったが、それを支えていたのは、以前からその地域や施設をよく知り、支えたいと意気に感じたファン達であった。その後、観光活動が再開される中で、真っ先に訪れたのは「リピーター」「お得意様」であったと指摘する地域・施設も多い。これは、従前からの地域・施設と顧客との間で築かれた信頼関係があってこそだろう。
 さらに、観光活動が本格的に再開されていくと、比較的小型の高級旅館やホテルに人々が集まるようになるが、これは、感染症対策をしっかりとやっている「だろう」と外形的に推測できる施設であったからと考えることができる。これは、期待する安全性に対する下振れリスクが許されない状況において、期待に応えてくれるという信頼感が重要であることを示している。
 これは地域内においても同様である。住民が首長/行政/観光事業者に対して信頼感を持てる関係性にある(あった)か否かが、コロナ禍における観光活動において重要な変数となる。例えば、特集5で登壇いただいた兵庫県豊岡市では、市長自らがSNSを使って正確な情報を発信すると共に、城崎温泉を始めとする観光地区における感染症対策を面的に見える化に取り組んだ。また、特集1で取り上げた沖縄県では、行政と観光団体、事業者、そして疫学専門家とが協議を重ね、TACO(Traveler’s Access Center Okinawa)を始めとする沖縄県独自のコロナ禍対応観光振興体制を作り上げてきている。住民の意識に刺さった「棘」を抜くには、こうした取り組みが必要となるだろう。

インバウンドの展望

 我が国の観光において重要なピースでありながら、現時点で、ほとんど動きが無い変数が「インバウンド」である。
 特集3では、北海道のインバウンド展望について述べたが、現在、インバウンド需要は蒸発状態にある。インバウンド需要の喪失は、もちろん、観光需要の総量が激減するということであるが、地方部においては、単純な需要減に留まらない問題を生じている。
 観光分野における需要と供給は、合わせ鏡のようなものであり、需要の量や質に合わせて供給が調整されることになる。
 もともと、日本の国内観光需要は、所得が高く人口が多い南関東に集中しており、よって、観光投資も南関東周辺に集中していた。そうした状況を一変させたのが2014年頃からのインバウンドの伸長である。地方空港も国際線を受け入れるようになったことで、観光的な魅力さえあれば、日本全国、どこでも観光客数を増やすことが出来るようになった。これに伴い、南関東からの距離に関わらず、観光施設に対する新規投資が多く見られるようになってきた。新規投資は、インバウンド客の取り込みに繋がり、これまで停滞していた集客数を大きく上積みしていたところが各地で登場していくことになった。そうした動きが、さらなる投資を招き、地域経済を活性化させていった。こうした「好循環」が、インバウンドが止まったことで、逆回転を始めるようになっている。
 ここ数年、インバウンド需要を見込んで新規投資/供給量が急増した地域においては、インバウンド需要の蒸発によって、その急増分が丸々、供給過剰となる。インバウンドが増える前の2010年代に戻れば良いという訳ではない。
 こうした需給ギャップは、南関東から距離のある地域ほど強く出ることになる。そうした地域は、もともと、周辺人口の規模が小さいため、国内/域内需要を喚起することも困難であるからだ。
 著しい供給過剰状態は、過当競争を生じさせることになる。そして、過当競争は、安売り合戦を現出させることが多く、観光の安売りは、かえって地域を疲弊させることにもなる。
 そうした状況を根本的に打破するには、需要を戻すことが必要となる。
 そのため、インバウンドが、いつ、どのように戻ってくるのかというのは、ポスト・コロナの日本観光を考える上で、クリティカルな問題である。しかしながら、現時点では、その問題に対する答えを見出すことは出来ない。現在予定されているオリンピック/パラリンピックが一つの契機になると考えられるものの、国際的な感染状況、国際関係、さらには国民感情など、様々な因子が絡んでくるためである。
 ただ、大手航空会社が、国際線の需要が戻るまでには年単位かかるのではないかという推計も出しているように、短期的な回復は見込みにくい。一方で、コロナ禍の収束に伴い東アジアでは、短期的に旺盛な旅行需要が生まれてくることも十分に想定できる。仮にそうなれば、それらの需要を巡って、諸外国の観光地と「取り合い」ともなる。
 そうした展望の中、インバウンドへの依存度が高く、ここ5年で供給量を増大させた地域においては、当面続く供給過剰状態への対応を行いつつ、将来的なインバウンド再開に向けて、発地側としっかりと準備を進めておくことが重要となってくるだろう。
 インバウンドの動向は国レベルの判断に負うところが大きいが、国内需要とインバウンド需要の構成は、地域によって大きく異なる。どういったポートフォリオとしていくのかについて、各地域がそれぞれに考えていくことが必要だろう。

新しいパラダイムへの対応

 このように見てくると、現在は、COVID-19の感染状況の落ち着きと政府支援のバランスが生み出した踊り場のような状況にあると言える。
 ここ数年、インバウンドの伸長によって大きく日本の観光が変わったように、これからの数年間は、観光のあり方を変えていくことになるだろう。
 すなわち、現在の「踊り場」は、そうした新しい時代・競争環境が始まるタイミングでもある。
 この時間を活かし、それぞれの地域に適した「観光」のあり方や、方向性について検討し、体制を組み換え、進んでいくことが重要なのではないだろうか。