自然観光地における利用者負担 [コラムvol.369]

2018.05.07

観光地域研究部 研究員 伊豆菜津美

 初めて研究員コラムを投稿させて頂きます観光地域研究部の伊豆菜津美と申します。

 学生時代は、環境経済学の分野における環境評価という手法を用いて、定量的に自然地域の観光需要を把握する研究に取り組んできました。当財団でも、国立公園に関するプロジェクトや富士登山に関する調査など、自然地域での観光に関する業務に多く携わってきました。

 今回は、これまでの業務の中でも多く議論される”自然観光地における入域料”について、環境経済学における先行研究をご紹介したいと思います。

利用の促進と公園管理に係る財源の確保

 近年、国立公園や世界遺産に対する社会の関心が高まっています。国内の国立公園には海外から多数の観光客が訪れていますが、環境省は日本の国立公園を世界水準の「ナショナルパーク」としてブランド化することを目指した「国立公園満喫プロジェクト」を2016年5月に開始しています。現在の国立公園利用者のうち外国人観光客は年間600万人と推定されていますが、2020年までに1000万人まで増やすことを目指して、2016年7月には、全国の国立公園に先駆けて外国人観光客誘致の取り組み強化を開始する8の国立公園が選定されました。

 また、国内の世界自然遺産には、屋久島、白神山地、知床、小笠原諸島がありますが、屋久島と白神山地は世界遺産登録前後から観光客数が急増しました。

富士山富士宮口五合目における富士山保全協力金小屋

 国立公園や世界遺産の自然を求めて多数の観光客が訪れていますが、中には観光客の増加に伴い、環境対策や観光客の安全対策が必要とされる地域が増えることが想定されます。自然環境を守るためには、遊歩道や登山道の整備費用、山岳トイレの維持管理費用など多額の費用が必要です。

 例えば、富士山に関しては、2014年から登山者数の抑制や安全確保を目的に入山料(富士山保全協力金)の制度が本格的に導入され注目を集めました。導入に至るまでの検討経緯や導入直後の入山料の徴収状況等については、観光文化226号「入山料を問う」を参照して頂ければと思います。

利用者負担に関する環境経済学における先行研究

 このような財源を確保するために、一部の国立公園や世界遺産地域では、入域料などによる利用者から負担の検討が進められています。利用者が負担する具体的な方法は、国内ではまだ正確に定められたものはありませんが、大まかには「募金」、「協力金」、「利用料金」で整理されることがあります(庄子, 2007)。

表:公園利用者による費用負担事例の分類(庄子, 2007)

 研究の分野では、これらの利用者負担の方法について、適切な金額の設定、効果的な集金手法及び導入による訪問行動に及ぼす影響等について経済学的な観点から様々な研究が進められています。

 適切な金額の設定について検討する際には、仮想評価法(CVM)が多く用いられます。CVMとは、環境改善の状況をアンケートの中で仮想的に創出し、この改善に対する支払い意思額を直接聞き出し、これを基に環境を評価する方法です。この手法は、回答した金額を実際に支払うのではないので過大評価になると指摘されることがあります。しかしながら、環境省(2015)では、大雪山国立公園で、登山道の補修やそれによる自然保護の取組の強化に対する募金について調査を行った結果、アンケート調査で表明された支払い意志額と実際に支払われた金額を比較し、両者の差は誤差の範囲内であるという結果が示されており、適切に調査を行えばアンケート調査による仮想評価法でも施策評価に用いることができることを示唆しています。

 また、効果的な集金手法については、米国では、利用料金の増額に向けた実験的な試み(Recreation Fee Demonstration Program:以下、RFDP)を1996年から行っており、米国の内務省及び農務省がRFDPの報告書を2003年にまとめています。この報告書では、利用者が料金の支払いを受け入れるかどうかは2つの要素に依存すると報告しています。1つ目は支払った料金を使用して行われる改善が可視であるかどうか、2つ目は訪問先で徴収された料金が訪れた場所で使用されているかどうかであるとしています。このように米国の研究では、利用料金の使用目的を利用者に示すことで利用料金に対する利用者の態度が改善されることが示されています。

 また、募金や協力金の実施が訪問者の行動に及ぼす影響については、栗山・庄子(2008)が、屋久島において協力金が実施されている白谷雲水峡とヤクスギランドを事例地として、協力金の導入によって訪問者数が減少することで地元の観光産業への影響が無視できないこと、協力金は訪問者の年齢構成や地域構成にも影響を及ぼすことを示唆しています。

現場に活かすことのできる先行研究の整理

 今後、国立公園や世界遺産地域での利用者が増加の対応に向けて、よりいっそう各地での財源の確保の方法について議論が進められると考えられます。財源確保の一つの方法である利用者負担に関しては国内外で膨大な先行研究が蓄積されています。もちろん、すべての自然観光地に先行研究の結果があてはまるわけではなく、地域の特性によって重視すべき点が異なります。しかし、どのような調査を実施する場合でも、先行研究や事例を丁寧に整理した上で議論を進めることが重要であると考えます。今後も、現場に活かすことの出来る研究に常にアンテナを張りながら、自ら現地に足を運び、地域の状況をきちんと把握した上で、自然環境の保全と地域の活性化の両方に貢献できるような調査・研究を進めていきたいと考えています。(次回に続く)

参考文献

  • 庄子康(2007). 自然公園管理と費用負担― 協力金の問題点―, 国立公園,657, 12-15.
  • Laarman and Gregersin(1996). Pricing policy in nature-based tourism. Tourism Management, 17 (4), pp. 247–254
  • 環境省(2015). 平成27年度 環境経済の政策研究我が国における自然環境施策の社会経済への影響評価分析に関する研究 研究報告書
  • 栗山浩一・庄子康(2008). 協力金が訪問行動に及ぼす影響の経済分析―屋久島におけるCVMによる実証研究,環境科学会誌21(4), pp.307-316.
  • 観光文化226号「入山料を問う」

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