訪日ビギナー観光客が市場拡大を牽引 ~訪日市場5年間の客層変化を振り返る [コラムvol.311]

2016.08.01

観光経済研究部 主任研究員 川口明子

 観光庁が実施している『訪日外国人消費動向調査』が2016年で7年目を迎えました。調査の名が示す通り、訪日外国人の消費動向を把握することが主目的ですが、客層等の実態調査も同時に行われています。今回のコラムではこのデータを活用して、2011年から2015年までの5年間にわたる訪日市場の客層変化を振り返ります。

観光目的の訪日客が大きく増加、牽引役は中国

 この5年間で大きく伸びた客層は「観光・レジャー」目的の旅行者です。5年前を振り返れば、2011年は東日本大震災が発生、訪日外客数が前年比3割減と大幅に落ち込んだ年でした。当時の人気(ひとけ)がなくなった空港の様子を今でも覚えています。この年は不要不急の観光・レジャー目的の割合が全体の5割まで減少。翌2012年も人数こそ震災前の水準に戻しましたが、観光・レジャー割合は5割のままでした。

 観光客が大きく増加し始めたのは2013年から。ビジネスや親族・知人訪問など観光・レジャー以外の目的客は対前年伸び率10%代で推移しましたが、観光・レジャーは2014年45.1%増、2015年67.0%増と圧倒的な勢いで増え続けました。【図表1】

図表1 訪日目的別にみる訪日外国人数の推移

JNTO「訪日外客数」および観光庁「訪日外国人消費動向調査」からJTBF推計

 観光・レジャー客(以下、観光客)増加の牽引役は中国です。特に2014年から2015年にかけての伸びが顕著で、韓国と台湾をあっさりと抜き去り訪日観光客数1位となりました。しかし、観光客数が増えたのは中国だけではありません。訪日外客数上位の国籍・地域では軒並み観光客数が増加しており、特に韓国や台湾の伸びには目を見張るものがあります。【図表2】

図表2 国籍別にみる訪日観光客人数の推移

JNTO「訪日外客数」および観光庁「訪日外国人消費動向調査」からJTBF推計

訪日リピーター以上に、訪日ビギナーが劇的に増えている

 次に、「訪日ビギナー比率」と「パッケージ利用率」の推移をみていきましょう。【図表3】

 「訪日ビギナー比率」(延べ旅行者数に占める初訪日客の割合)は2013年から増加傾向となり、2015年で4割となりました。言い換えれば、「訪日リピーター比率」が6割ということです。この間、訪日外客数は大きく伸びていますので、人数でみれば訪日リピーターも増えてはいますが、それ以上の勢いで訪日ビギナーが増えているということです。ビギナー、リピーターの双方がバランス良く増える現状は、持続的な成長を目指す上で望ましい状況といえます。

 「パッケージ利用率」(フリープラン含む)は2012年から増加し、2015年は4割近くとなりました。一般にビジネスや知人訪問などが目的の場合にはパッケージを利用しない傾向があることから、観光客割合の増加がパッケージ利用率増加の主因と考えられます。

図表3 訪日外国人のパッケージ利用率と訪日ビギナー比率の推移

データ出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」

パッケージ利用率は中国・台湾で増加、韓国・香港で減少

 では、訪日ビギナー比率とパッケージ利用率の変動を国籍・地域毎にみていきましょう。横軸に訪日ビギナー比率、縦軸にパッケージ利用率を取った散布図を【図表4】に示します。

 5年間で訪日ビギナー比率が増えた国籍は韓国、中国、米国、オーストラリアです。中国は尖閣諸島問題の影響でこの間訪日外客数が大きく変動したため、それに伴って訪日ビギナー比率が大きく変動しましたが、2015年は5年前のビギナー比率を上回りました。台湾や香港では大きな変動はなく、タイでは訪日リピーター比率が増加しました。

 パッケージ利用率が増加した国籍・地域は中国、台湾です。台湾では訪日ビギナー比率は増えていないことから、訪日リピーターでのパッケージ利用率も増えているのではないかと考えられます。一方、パッケージ利用率が減少(個別手配が率が増加)した国籍・地域は韓国と香港。韓国ではビギナー比率が増加する一方でパッケージ利用率が逆に減少していることから、訪日ビギナーでも個別手配が進んだ可能性が高いです。タイや米国、オーストラリアでは大きな変化はみられず、中でも米国とオーストラリアでは10%前後と低い状況はこの5年間変わりありません。

 中国や台湾では引き続き発地国の旅行会社へのアプローチが効果的といえるでしょう。しかし、同じ中華圏でも減少の兆しがみえる香港においては、別のアプローチも併せて検討していく必要があるかもしれません。

図表4 国籍別にみる訪日外国人の訪日ビギナー比率とパッケージ利用率の推移

データ出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」

5年間の変動よりも、国籍間の差異が依然大きい

 それにしても、各国における5年間の変動よりも、国籍間の差異の方が依然大きいのが面白いところ。旅行・観光産業の流通や生活者の旅行スタイルが国によって大きく異なることを示唆する結果といえます。引き続き、インバウンド誘致においては国籍毎の特性に応じた戦略立案が不可欠といえるでしょう。

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