「位置ゲー」にハマってわかったこと [コラムvol.136]

2011.02.18

観光文化事業部 久保田美穂子
col-136

概要

 今や160万人へと会員数が急増している大人気の携帯ゲーム「コロニーな生活☆プラス(略称コロプラ)」。そのコロプラにユーザーとしてハマってみながら考えました。コロプラに惹きつけられる理由とは。また旅行・観光業界に足りないものとは。

本文

 「ユーザーの1日のアクセス回数は平均で40回を超えています」。(株)コロプラ副社長の千葉功太郎さんの話に「私には絶対縁のないゲームマニアの世界だ」と思いました。
 あれから5ヶ月。当財団のシンポジウムのためにと体験してわかったのは、一見単なるゲームに見えた小さな入り口の奥に、思わぬ深さのエンターテイメント世界が広がっていたということ。もはや1日40回のアクセスも他人事と思えないところまでやってみて感心したのは、コロプラの人間の欲求理解と時代感覚です。
 中心的なユーザーは決してヒマではない30~40代。コロプラをきっかけに各地へ旅行に出かけるユーザーまで現れました。なぜ仮想世界のゲームにそこまでハマるのか?なぜバーチャルがリアル旅行を誘発するのか?コロプラ研究は、ただのニッチ層の研究ではなかったのです。

●バーチャルとリアルがつながる新鮮
図1
各地域には、そこへ行かないと取得でき
ないバーチャルお土産もたくさん
(コロ旅マップより)
 コロプラでは、外出などで移動したらその場所で「位置登録」を行い、移動距離に応じて1km=1プラというゲーム内仮想通貨が得られます。
 長距離の通勤や出張も、逆にたくさんプラがもらえるチャンスとなり、なんだか得した気分です。となると、これまで最短時間を検索してきた乗り換えルートまで色褪せて感じられてくる。時間があるなら遠回りをして家に帰ろうか? 暇つぶしと思っていたゲームにこれほど影響を受けるとは驚きです。
 位置を登録する行為から実感するのは「今、私はここにいる」というリアル感。この身体性を伴う位置登録が、現実生活とバーチャル世界をつなぎ、それぞれを面白くしていく。「コロプラ社はゲームの提供ではなく、日常生活をエンターテイメントにする」と千葉さんが言うように、位置ゲー*1は、日常に溶け込み日常のリアルを一層際だてようとしているのです。

●その気にさせる言葉の力
図2
各県全地域を訪れる(制覇する)と
県のスタンプが金色になる。写真は
全国全県を制覇して尊敬の的になっ
ているコロニーさんのスタンプ帳
 また、位置登録しながら行った先々を塗りつぶすスタンプラリー的機能もハマる理由の一つ。コロプラは日本国内を640の地域に区分していて、最終ゴールのハードルはとてつもなく高い。しかし各県制覇、地方制覇など段階的にミニゴールが設けられ、この名誉ある“称号”めざし、スタンプ集めに精を出す人も少なくありません。
 このようなコンプリート欲の刺激はゲームの鉄則ですが、コロプラでは欲望を煽られるというよりも、いつのまにか引き込まれ、その気にさせられるから不思議です。 その一つが季節を意識した期間限定のゲームイベントで、例えば「サンタクロース型の雪だるまを拾ってその数を競う(12月)」「干支の置物に全国を旅させ、訪問地の数を競う(1月)」など、実際の季節行事と連動して進行していきます。
 またイベント毎に登場する様々なキャラクターがなんとも魅力的。コロプラでは、ログインしたり何かアクションを起こすと、犬やクマなどの動物キャラクターが“話しかけて”きます。といっても多くは単なるつぶやきや意味のなさそうなセリフ。ところが「位置登録してくれてありがとう」と喜ばれたり、「よし!また、きてもいいよ」などと強気に甘えられ驚くうちにだんだん愛着が湧いてきます。
 千葉さんによればコロプラには、テレビ番組のシナリオ制作にかかわった放送作家などが8人もいるとか。温かくて人間味があり、時々「あ!」「えっ?」と小さな驚きをくれるキャラクターたちの発する言葉は一つ一つ計算されているのです。言葉が大切に扱われる世界では、言葉は人の気持ちを動かし、行動を起こさせるのです。

●不確実性とセレンディピティ
 そして、楽しいばかりではないところも重要です。大事なコロニーを破壊する「隕石」が不規則に降ってくるのです。移動すればこれを避けられるのですが、その確認のため思わずアクセスしてしまって習慣化させられるという面もあります。 コロプラの代表取締役GM(ゲームマスター)馬場功淳さんは「人生はゲームのようなもの。ストレスからの回避、苦しみからの脱却というギャップの中に楽しさや幸せを感じられるのでは?だからこの隕石が大事なのです」と教えてくれました。
 確かにうまく避けられた時は楽しいし、せっかくだからと散歩に出かけて近所で面白いお店を発見する幸運もある。また、降ってくるのは嫌な隕石ばかりではなく、アイテムを伴った嬉しい隕石も時々あって、一喜一憂させられます。
 脳科学者の茂木健一郎さんは「不確実な状況自体が脳にとって喜ばしい」「エンターテイメントの極意はいかに“面白い不確実性”を提供できるかだ」と言っています。不確実性と偶然の幸運、まさにコロプラでは、それがあちこちに埋め込まれているのです。

●日本を元気にしたい
 「旅行はエンターテイメントとしてゲームの魅力に負けている?」。若年層の海外旅行離れについて研究していて何度も浮かんだこの疑問が、コロプラ研究のきっかけです。確かに、エンターテイメントに対する深い考え方や徹底的な取り組みで負けていると言わざるを得ない…というのがここまでの実感。
 しかしさらに馬場さんから「私たちはお出かけのきっかけをつくり、地域を元気にしたい」と聞かされ、心底驚きました。たかがゲームと思っていたコロプラが、日本を元気にすることまで考えているとは。次元の違うその社会性、目線の高さに“完敗”です。

 効率の良い移動、苦労やトラブルなどのストレス排除をお客様のために一生懸命考えてきたのが旅行商品ですが、本来の楽しみを奪っていたのかもしれません。また観光業界は、ここまで徹底的にエンターテイメントに取り組んできたと胸を張れるでしょうか。人生や社会を良くしたいと本気で考えているでしょうか。
 今一度、社会の中で果たしたい使命を真剣に考えること。そして、旅行エンターテイメントのプロとして人々の深い欲求を捉え、ここまでやるかの心意気で応えていく必要がありそうです。

 *1 位置ゲー・・・位置情報を使って遊ぶ全般の略称、(株)コロプラの登録商標。

参考
◆『セレンディピティの時代-偶然の幸運に出会う方法』(茂木健一郎、講談社、2009)
「第20回旅行動向シンポジウム~『位置ゲー』が仕掛ける“お出かけ”モチベーション」(平成22年12月22日開催)

 

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