地域活性化から見たスポーツ・ツーリズム [コラムvol.116]

2010.05.14

観光調査部 中野文彦
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 最近、「スポーツ」分野から見た観光、すなわち「スポーツ・ツーリズム」に関わる研究者の方々と親しく意見を交わす機会が多くあります。これまで私自身は「スポーツ・ツーリズム」と聞いても多様な観光分野(エコツーリズムやグリーンツーリズム等)の一つ、といった程度の認識しかありませんでした。しかし、スポーツ分野の研究者から見た観光、スポーツと地域づくり・活性化などのお話しを伺うと、これまでの観光研究との共通点、あるいは異なる視点、先行している分野等があること等、多くの気づき、発見がありました。

■スポーツと観光の関係は近くて古い

 そもそも、スポーツと観光、観光地との関係は近くて古いものがあります。わかりやすい例を上げると、オリンピックやワールドカップ等の、いわゆるメガ・スポーツイベントは、交通、宿泊施設等の観光関連インフラが急激に整備され、都市のイメージ・認知度が一気に高まる等、歴史的にもエポックとなる、多大な影響を及ぼすものであることは、わが国でも既に経験済みです。
 より身近な例でいえば、高原や砂浜といった良質な自然環境の中で行われるスポーツ(テニス、ゴルフ、スキー、ビーチスポーツ、マリンスポーツ等)はリゾートの必須アイテムとして真っ先に整備されてきました(これは明治以降の外国人向けリゾート施設の整備・開発までさかのぼります)。また、近年ではありのままの自然環境を活かしたトレイルやラフティング等のアウトドア・アクティビティも盛んですし、地域活性化を目的としたマラソンやトライアスロン、サイクルスポーツ等の大会を開催する地域も数多く存在します。さらに、スポーツミュージアムやスポーツ発祥の地、スポーツ選手の生誕地等は、特色ある地域の歴史・文化の一つとして、重要な観光資源ともなっています(2011年はスキー発祥100周年であり、新潟県をはじめ各地で様々なプロジェクトが企画されています)。

■スポーツ・ツーリズムと地域の活性化

 「スポーツ・ツーリズム」を地域活性化の視点で見ると、地域に適したスポーツ(地域の自然環境、気候、立地、インフラ等の特性を最大限に活用できるスポーツ)を資源として、その資源性が損なわれないよう保全しながら快適な環境を整備し、新たなスポーツ関連のプログラム、イベント・大会等を開発・展開することによって、新たな観光サービスを創出することで、新たな顧客を獲得し、地域の活性化に寄与することを目指すものと言えます。

 また、「スポーツ・ツーリズム」ならではの特徴もあります。最も大きな特徴は「全ての関わる方々が一つのキーワードを共有する」ということです。
 野球でも、サッカーでも、マラソンでも、サイクリングでも、何らかのスポーツ媒介に、競技参加者はもちろん、ボランティア等で関わる地域の方々、応援に来た方々、スタッフ等が、同じ想い、時間、空間を一体的に共有できるのがスポーツ・ツーリズムであり、通常の観光よりも、一層深い一体感、人と人との交流等の経験価値を生みだします。こうした深い経験を提供できる地域は、参加者にとって忘れられない、大切な、愛着のある地域とまることができますし、参加者は大切なリピーター、ファン、さらには、そうした言葉を超えた積極的な地域の応援者を生みだすことにつながっていきます。

■スポーツ・ツーリズムと観光まちづくりの共通点

 スポーツも観光も、「有形の商品」ではなく「無形のサービス」を顧客に提供するという点で共通しています。また、「感動」「リフレッシュ」「充実感」等、顧客の行動動機にも共通点が多くあります。そうした点から考えると基本的なマーケティングの考え方に共通項も多いのではないでしょうか。(スポーツ分野ではスポーツメーカー等の製造業、放映権ビジネス、スポンサービジネス、エージェント(代理人)ビジネス等など、多様で規模の大きなステークホルダーが関わることが多いこともあってか、マーケティング研究が盛んであり、その方法論や研究成果は観光研究全体に参考ことが期待できます。)
 また、最近話題になることも多い「地域密着型のプロ・スポーツ(Jリーグ、bjリーグ等)の運営手法」にも注目できると思います。地域密着型のプロ・スポーツでは、その事業価値を高める(強いチームをつくる)だけではなく、スタジアムに何度も足を運んでもらうための手法、グッズなどを購入してもらう手法とともに、地域にどのように貢献するか、行政や地元商店街とどのように連携するか等の地域と一体となった運営が明確に意識され、そのノウハウもしっかりと蓄積されています。
 民間事業としての自律的な運営を(四苦八苦しながらも)実現している上記の運営ノウハウは、これからの観光地の地域マネジメント組織の運営等にも通じる部分が多くあるのではないかと思います。

 一方、マイナスのインパクトも共通しています。スポーツ・ツーリズム振興のためには施設整備やイベント等のために一定の投資が必要な場合もありますが、過剰な投資や開発、流行に乗っただけの一過性のイベントは地域に一次的な活性化しかもたらさず、負の遺産となってしまう例もあります。
 こうしたマイナス面は、リゾートブーム等を経た観光分野の教訓と共通している部分も多くあるのではないでしょうか。地域の活性化にとって、観光もスポーツも、後に何を残すのか、中長期的にどのような地域を目指すのかといった理念や目的を持って取組むことが重要ということです。

■今後の展望

 観光による地域活性化には、「それまで気付かなかった地域の魅力・資源に気づく、光をあてる」ことが第一歩となる例が多くあります。スポーツと関連した例では、雪国でのスキー場開発があります。かつて、冬季の雇用の場がなく出稼ぎに出ざるを得なかった地域は、「スキー」というスポーツに気づくことによって活性化し、今では「雪」が宝物になりました。鉄道がない沖縄では、「踏切がないことがロードレースに最適な環境になった」といったお話しも聞きました。それまで「何もない地域」とか「マイナスと考えていた地域の特色」でも、「スポーツ」という視点であらためて地域を見ると、これまでとは違った新たな「資源」に気づくことがあるかもしれません。

 また、スポーツ・ツーリズムも観光まちづくりも、「始める」ことから「発展させる」「持続させる」といったマネジメント、特に「地域の活性化に寄与する」ための地域マネジメントの重要性が指摘されています。しかし、我が国では、両者とも地域マネジメントの視点での研究や先行的な事例は限られており、その蓄積はまだまだこれからであるのが現状です。
 しかし、観光からみた地域づくり、スポーツからみた地域づくりは、双方に共通する、あるいは応用可能な研究も少なくありません。両者の研究が相互に進むことによって、より効果的・効率的に地域の活性化を進めることが可能なのではないでしょうか。

 

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