タブレット端末の威力~小さな子どもたちも動画サイトを見る時代に [コラムvol.180]

 今回のコラムでは「タブレット端末」と「子ども」を取り上げます。使ったことのある方はご存じかと思いますが、タッチパネルを搭載したタブレット端末はパソコンに比べて操作がとても簡単。現代の子どもたちは、この革新的なツールにどのように接しているのでしょうか。我が息子の観察を通して感じたことをまとめてみました。

■家族の旅行先は子どもの意向で決まる

 私は3年前に『赤ちゃん連れでも旅を楽しみたい!』というタイトルではじめて研究員コラムを書きました。そのころ“赤ちゃん”だった息子はもう4歳。毎日元気に保育園へ登園する傍ら、週1回のプール通いもはじめました。「しりとり」や「じゃんけん」もできるようになるなど、すっかり“子ども”らしくなってきました。


『いすみ鉄道』
先日は『いすみ鉄道』に乗りに行きました

 この年頃になると、乗り物や恐竜、戦隊ヒーローなど、男の子は何かひとつの分野に深い興味を示すことが多いようです。我が息子も例外ではなく、ただいま「電車」にはまっています。おもちゃも絵本もDVDも、我が家にあるのは電車モノばかり。週末の休みには、たいてい電車に乗ってお出かけします。彼にとって、お出かけの目的は「どこかへ行く」ことではなく、「電車に乗る」ことそのもの。少し遠出の旅行へ出かける際も、我が家の場合は「電車に乗る」ことが必須条件となります。小さな子ども連れの家族旅行では、旅行中の子どもの機嫌をいかに保つかが、楽しく旅行をするための最優先事項。旅行の行程に「電車」を入れることは、旅行を楽しみたい親によるささやかなリスクヘッジなのです。

 こんな息子を持ったおかげで、近場ですと『スカイライナー』や『スペーシア』、少し足を伸ばして『いすみ鉄道』『フジサン特急』『ミュースカイ』、果ては四国の『アンパンマン列車』『坊っちゃん列車』まで、この数年の間に様々な電車に乗りました。息子初の海外旅行先にも『キュランダ鉄道』で知られるケアンズを選ぶという徹底ぶりには、我ながら呆れてしまいます。

 

■タブレット端末の登場で、小さな子どもも動画サイトを見ることが可能に


『iPad』の出会い
息子と『iPad』の出会い(当時1歳)

 そんな電車好きの息子が、家の中で楽しんで見ているものは『iPad』、いわゆる「タブレット端末」です。『iPad』で何を見ているのかといえば、インターネット上の動画共有サイト『YouTube』に投稿されている電車の動画を見ているのです。

 タッチパネルを搭載した『iPad』の操作性は実に秀逸。指1本で自由自在に操ることができます。息子がパソコンのマウスを使えるようになったのは4歳を過ぎてからでしたが、『iPad』は何と1歳の頃から、写真をスライドさせて見るなどの簡単な操作で遊んでいました。

 『YouTube』にしても、過去に見た動画の履歴が残るほか、今見た動画に関連した動画を自動的に表示してくれるなどの機能が充実しています。そのため、最初の動画選択さえ大人が手助けしてあげるだけで、後は子どもが見たい動画を自分で選んで見ることができるのです。

■子どものお気に入り動画が、家族のお出かけ動機に

 お気に入りの動画を見つけると、息子は飽きることなく何度も同じ動画を見て楽しんでいます。横で見ている親の脳内にも、否応なしにその動画情報が確実にインプットされていきます。そうすると、子どもを喜ばせたいと思う私としてはつい、「今度の休みはこの電車に乗りに行こうか!」と声をかけてしまうのです。もちろん、息子本人が「この電車に乗りたい!」といって出かけることもあります。

 具体例をあげましょう。息子の一番のお気に入りは『フジサン特急』(富士急行)のプロモーションビデオの動画です。フォーク調のテーマソングとともに、かわいらしくもシュールな富士山の絵が施された『フジサン特急』が走る姿を記録したもの。車両デザインも印象的ですが、それ以上にテーマソングが息子の心に響いたらしく、何度も歌を聞かされました。そして実際に、家族で『フジサン特急』に乗りにいきました。もちろん息子は大喜びで、この動画を見るたびに「また乗りに行こうね」とよく話をしています。

【リンク】フジサン特急 -運行開始5周年記念- オリジナルプロモーションビデオ – YouTube
  http://www.youtube.com/watch?v=PQEaeu1NpqM

 電車以外では、今流行りの『ご当地キャラ』イベントを撮影した動画がお気に入り。先日は、この動画を見て好きになった『ご当地キャラ』に会いに行きました。お気に入りのキャラに会えてよほどうれしかったのか、帰り際に名残惜しくて不機嫌になってしまったのは誤算でしたが…。

 このように、我が家ではタブレット端末が、親が息子の興味をキャッチするための一種のコミュニケーションツールになっています。そして、次ぎにお出かけの機会があれば、子どもが興味を持っているものを見せに連れて行く、という行動につながっていくのです。

■子どものいる世帯でのタブレット端末所有率は1割

 さて、ここまで我が家の事例を紹介してきましたが、現代の子どもたちにはどの程度「タブレット端末」が普及しているのでしょうか。データで見てみましょう。

 まず、日本よりもタブレット端末の普及が進んでいる米国のデータを紹介します。12歳未満の子供のいる世帯のうち、タブレットを所有している世帯のおよそ7割で、子どももタブレット端末を使っているというデータがあります[1]。つまり、親がタブレット端末を持っていれば、その子どもも使っているケースが多いということです。また、このデータを取り上げた記事では、「忙しい両親の代わりに「子守」を担う存在といえばテレビだが、最近ではタブレット型情報端末が取って代わりつつあるようだ」[2]と指摘しています。

 次に、日本のデータを見てみましょう。日本でのタブレット端末の世帯所有率は8.5%[3]。特に、子どもを持つ世帯での所有率が10%を超えて高い傾向がみられます。タブレット端末の所有率は急速に拡大しており、ある調査結果[4]によれば、タブレット端末の個人所有率は2011年4月から10月までの半年間で2倍以上に拡大しています。日本の子どもたちのタブレット端末利用に関するデータは見つけられませんでしたが、米国の例を踏まえると、親がタブレット端末を所有している世帯では多くの子どもたちが使っているのではないかと推測されます。世帯所有率の拡大に伴って、今後さらにタブレット端末を使う子どもたちは増えていくでしょう。

  【グラフ】タブレット端末の保有状況
【図1】 【図2】
データ出所:総務省「通信利用動向調査」(平成23年調査)

■子連れ家族旅行の来訪促進にも、動画共有サイトの積極活用を

 動画共有サイトへの投稿は誰でもできますし、市販のデジタルビデオカメラも高性能になってきています。多額のコストや手間をかけずに、動画による情報発信が手軽にできる時代です。実際、『YouTube』で「観光」を検索すると、すでに様々な観光情報が発信されています。

 ただ、動画共有サイトに掲載されている観光関連のコンテンツを見ると、現状では動画による観光情報発信のターゲットは大人が中心のようです。しかし、タブレット端末の普及により、動画共有サイトは小さな子どもたちも簡単に見られるようになってきています。

 電車やキャラクターなど、小さなこどもたちに人気の観光資源をお持ちの地域であれば、ぜひ動画共有サイトでのプロモーションを検討されてみてはいかがでしょうか。幼児連れの家族旅行の来訪促進に、一定の効果が期待できると思います。

 最後に、息子の様子を日々観察している立場から、「子どもの心に響く」動画の作り方について独断と偏見で提案をしましょう。ひとつは、観光プロモーションでは地域名を前面に押し出すことが多いですが、子ども向けの場合には地域色をできるだけ抑え、電車やキャラクターなど子どもが好きな対象物そのものを主題にすることが大事です。もうひとつは、子どもの覚えやすいシンプルなテーマソングを付けること。なぜなら、タブレット端末を見ている子どもの横で親がキャッチしやすい情報は「画像」ではなく「音」だからです。親に知ってもらわなければ、「子どもを連れて行こう」という流れになりませんよね。親子で一緒に歌ってもらえれば、「○○を見にいこうね!」という展開になること請け合いです。

 さて、次の休日は息子とどの電車に乗りに行こうかしら――。

<引用元>

[1] The Nielsen Company「American Families See Tablets as Playmate, Teacher and Babysitter」(2012年2月16日)
  http://blog.nielsen.com/nielsenwire/online_mobile/american-families-see-tablets-as-playmate-teacher-and-babysitter/

[2] AFP BB News(株式会社クリエイティヴ・リンク)「次世代ベビーシッターはiPad?テレビのお株奪う、米調査結果」(2012年2月17日)
  http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/it/2858929/8490864

[3] 株式会社インプレスR&D「タブレット端末利用動向調査報告書2012」(2011年12月13日)
  http://www.impressrd.jp/news/111213/tablet2012

[4] 総務省「通信利用動向調査」(2011年)
  http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html