旅行はストレス解消につながる? [コラムvol.53]

2008.10.17

研究調査部 牧野博明
研究員コラム

 長寿社会の到来とともに、「健康」に対する関心はますます高まっているように感じられます。これまでは「健康」といえば「体」のことを指していましたが、近年は「心」にも重点が置かれるようになってきました。社会経済の発展に伴う生活環境の変化がストレス社会を生み出したとの説もあり、そうであれば今後ますます「心」のケアの重要性が増してくるものと思われます。
 ストレスを解消する方法は個々人により異なり、飲酒、ショッピング、会話(おしゃべり)、スポーツ、ゲーム、旅行などはその代表格といえます。このうち「旅行」に関しては、ストレス解消という消極的な効果だけでなく、リフレッシュ(気分転換、充電期間)や抑揚感(感動、再発見)という積極的な効果も期待されるため、最善策の一つと考えられます。但し、悪い印象(例えば天気が悪かった、ホテルや旅行会社等の対応が悪かった、食事がひどかった、体の具合を悪くした等)ばかりが残れば、かえってストレスを溜め込むこととなります(後々の思い出話にはなるかもしれませんが)。さらに、帰宅した際に「やっぱり我が家が一番」と感じる方もいらっしゃると思われますが、これはもしかすると旅行によって逆にストレスを抱えているのかもしれません。このように考えますと、果たして旅行が本当にストレス解消につながっているのか、疑わしくなってしまいます。

■科学的見地からの検証の必要性

 感覚的には旅行がストレス解消に効果を発揮すると考えられますが、これを明確に示すためには、科学的な見地に基づいた検証が必要です。過去の実証研究例としては、(社)日本旅行業協会(JATA)が2001年に行った、2泊3日のモニター旅行時の生理反応(血液、採尿、唾液、脳波)及び心理状態(質問紙)をもとにした「癒し」効果の解析があります。この研究では、旅行による「癒し」効果が実証されましたが、モニター募集という被験者の偏りや血液採取などの特殊行動がもたらす影響が無視できないという問題点があげられます。このため、我々は大阪大学大学院医学系研究科環境医学教室と共同で、2002~2003年にかけて、短期ツアー(2泊3日、フルパッケージ)に申し込まれたお客様を対象に、唾液成分から得られるストレス物質を測定することによりストレス低減効果を分析・証明する研究に取り組みました。

■短期ツアーはストレス負荷要因の少ない人に効果的?

 本研究の概要・成果については、「日本観光研究学会機関誌[観光研究]2008.3/Vol.19/No.2」に記載されていますのでそちらをご参照いただければと思いますが、結論としては前述の(社)日本旅行業協会(JATA)の結果と同様に一応のストレス低減効果が表れました。特に、以下の点が本研究の成果の特徴としてあげられます。

  • ・ストレス負荷要因が少ない人(「のんびりした性格」、「ライフスタイルが良好」、「日頃のストレスが少ない」といった人)で低減効果が大きく表れ、多い人にはそれほど効果が表れなかった
  • ・旅行中に得られる気分の高揚や充実感については、ストレス負荷要因が少ない人ほど良い傾向が表れた

 以上より、2泊3日程度の短期ツアーは、ストレス負荷要因の少ない人に向いているようです。もしかすると、ストレス負荷要因の多い人は長期の日程が必要か、あるいはフルパッケージ以外のツアー形態が必要なのかもしれません。究明は今後の課題といえます。

■「健康」をテーマとする旅行・観光の今後

 今回は唾液から得られるストレス物質の測定をもとにした短期ツアーのストレス低減効果分析を行いましたが、この他にも様々な分野で「健康」をテーマとする実証研究や実証ツアーが進められています。例えば、

・スギ花粉疎開ツアー: 北海道上士幌町で取り組まれているツアーで、花粉症に悩む人が花粉症のない同町を訪れることにより、苦しみから解放される。偏った免疫バランスを是正することができるという構想(イムノリゾート構想)の一環として実施。
・森林セラピー: これまでは感覚的だった「森林浴」の効果を科学的に解明し、体はもちろんのこと、心の健康にも活かしていくという試み。
・ヘルスツーリズム: 旅行中に健康や疾病防止の指南を行ったり食事(食材)に気を遣うなど、「健康」を重視した旅行タイプ。

などがあげられます。高齢化社会・ストレス社会の進展により、今後もますます「健康」に注目が集まることが予想されるので、さらなる「旅行」と「健康」の関連性の解明が期待されます。

 

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