観光地づくりオーラルヒストリー<第4回>溝尾 良隆氏  5.これからの「観光」・「観光地づくり」・「観光計画」への提言

2015.07.14

 (1)入り込み統計の廃止を

 国が宿泊統計を出すようになったのは評価できると思います。でも、県の年間の入り込み統計は、もうやめた方がいい。各県の観光基本統計に「入り込み数の目標は5年後に何人にする」といったことがよく書かれている。しかし、ベースになるデータがいい加減なのに、何を基準に判断するのか。海水浴やスキーなど、イベントや施設ごとに個々で発表するのはまあいいと思うけど、年間の入り込みというのはどこまで正確な数字なのか、非常に疑問があります。

 きちんと測れないものはやめた方がいい。宿泊統計をしっかりとっていれば、それで十分だと思います。宿泊統計は外国人がどれくらい訪れているのかがわかるし、そのデータをもとに滞在日数を延ばそうといった目標も立てられます。

 しかし、宿泊統計でも気になることがあります。ある地域に民宿が30軒あっても全部が宿泊者数のデータを出しているわけではありません。たとえば、そのうち13軒が宿泊者数を報告したとすると、13軒のデータをどういう計算式で30軒分に引き伸ばしているのか。そういう根拠がもっとクリアにされるといいのではないかと思います。

 

(2)良い観光地とは ~どうすればよい観光地ができるか

●生まれ変わったおごと温泉

 2015(平成27)年に出した『改訂新版 観光学 ―基本と実践』(図13)という本で、私は温泉地をどういう尺度でみるかということについて書きました。Aという温泉地で成功したことがBという温泉地にあてはまるとは限りません。基本的にはそれぞれ状況が異なり、個別で取り組まなければいけないけれど、その中でもいくつか地域の特色からグルーピングしてみました。たとえば、賑やかな楽しい温泉地を作ろうとしたら、どういう要素が必要なのか。旅館があり、温泉があり、街中の賑わいの中、そぞろ歩きを楽しめる空間が必要であるなど。

 賑やかではないが自然が豊かなところは、自然をどう生かしたらいいか、自然の中を歩く楽しみを取り入れるとか。そういう風に温泉地をいくつかのタイプに分け、自分の温泉地はどれにあてはまるのかを考え、そこで共通する要素を生かすのが大事ではないかというのが、この本で私が言いたかったことです。


図13 『改訂新版 観光学 ―基本と実践』図13 『改訂新版 観光学 ―基本と実践』(2015)

 

 しかし、どのタイプにもあてはまらない温泉もあります。その一つが、滋賀県の琵琶湖湖畔にあるおごと温泉です。古くからすぐそばに「雄琴」という歓楽街があり、男性が遊ぶための滞在拠点として有名だった温泉地です。現在も歓楽街は存在しますが、おごと温泉はそういったイメージを一新し、まずは「雄琴」という名前をひらがなに変え、駅名もひらがなに変えました。

 評価できるのは、この温泉の旅館2代目、3代目の若手達が2年間、勉強会を続け、その結果、ほかの温泉地の旅館の真似をしてもいいけど、おごとの中でお互いの真似はやめよう、それぞれが特色ある旅館を作ろうと決めました。みんなが集まることで変化のある温泉地にしようということです。また、おごと温泉自体には見どころは何もないので、ここをベースに京都や滋賀に足を延ばしてもらおうというアプローチをとりました。

 そのように考え方を切り替え、アプローチを変えたら、今はすごく人気が出ています。家族連れも滞在するようになりました。おごと温泉の「湯本舘」3代目主人の針谷了さんは、今、日本旅館協会の会長を務めています。それだけリーダー性を持っていたということです。

 私は台東区とのつき合いも長いのですが、観光計画(図14)を作った後にそれを実現させるための会議を設置することを提案しました。台東区はそれを実行に移し、委員会のメンバーも半分くらい残して、来年度は計画の中からどの項目を反映するかという会議をやっている。つねに計画をどう実現していくか考えている。よいことと思います。

 良い観光地を作るにはまず、地域で方向性(グランドデザイン)を決めていくことです。すぐには実現できなくても、みんなで決めて同じ方向を目指すことが大事でしょう。


図14 『台東区新観光ビジョン』

図14 『台東区新観光ビジョン』(2010)



2014年10月7日

公益財団法人日本交通公社会ライブラリーにて

取材者:公益財団法人日本交通公社観光政策研究部

堀木美告、後藤健太郎

 

2015年6月10日文章校正・追加終了

第4回・・・ (前)帝京大学経済学部 教授 (元)立教大学観光学部 教授 溝尾 良隆氏

【PDF版(1.24MB)】