観光地づくりオーラルヒストリー<第6回>小久保 恵三氏  5.これからの「観光」・「観光地づくり」・「観光計画」への提言

2015.03.11

(1) 良い観光地とは、どうすれば「よい観光地」が出来るか

 単純に「できあがった観光地の印象」という視点にとどめれば、私は金比羅宮や伊勢神宮、宮島、国東半島の宇佐などを挙げたいと思います。

 いずれも宗教的な観光地ですが、決定的なのは「デザイン」と「権威」の力だと思います。目的地へ行くまでの気持ちの盛り上がりなど、心理学も意識されています。砂利の音を聞きながら、静かな杉木立の間を抜けて適度な距離を歩くことで神の前に出る心の準備をさせ、アプローチにカーブを作って最終目的地が見えないようにするとか…。宗教的な権威で荘厳な環境づくりがきちんとなされていることが素晴らしいと思います。

 これは現代の観光計画にとっても重要な課題で、心理学とそれに連なるデザインをもっと重視していいのではないでしょうか。普通の観光地はまずお土産屋さんが立ち並び、人々がどういうアプローチで行けば気持ちが盛り上がるかということはあまり考えていないように思います。

 これは消費者教育にも関連すると思います。先ほど挙げたタイプの観光地では宗教的権威が観光客の質を維持しているようにも思えます。 高級ホテルに行ったら歩き方も変わってきたり、いい観光地に行けば自然と自分の居住まいをただすような感じになりますね。

 よい観光地を作り出すのに最初の段階ではプランナーの役割は大きいですが、観光地を育てていくのは観光者です。低レベルの観光地にはやはりその程度の観光者しかいません。数が多い時はそれで良かったかも知れませんが、今後はスクラップアンドビルドでどんどん良質の観光地が摩耗していってしまいます。

 観光計画の中には消費者教育あるいは観光客教育みたいな側面はほとんどないですね。いくらいいものを作っても、どういう人に来てもらいたいか、ここに来る人はどういう観光客であるべきかということに関する手だてがないと、だんだん観光客の質に合わせて観光地もレベルダウンしていくと思います。やはり、「何を売り物にするか」は観光地の質を決める重要な要素だと思います。 

 また、 よい観光地を先進事例として積極的に宣伝、紹介していくといった取り組みも大事ではないでしょうか。いいものを見れば、他の人も「これはいい」と思い、自然とそれに倣うようになります。

 今までは遅れてきたところを底上げする政策が中心でしたが、今後は「これぞ日本の観光地」という優良観光地を選定して支援制度を作るなど、成功例をトップランナーとして評価し、後に続く仕組みを作っていく必要があるのではないかと。ちなみに私が個人的にいいなと思う観光地は箱根の芦ノ湖周辺、十和田八幡平、上高地などですね。

(2) これから「観光計画」が果たすべき役割は何か

 これからの観光計画は、エネルギーや予算の一部を、地域社会の維持のための観光計画づくりに振り向けるべきではないでしょうか。一般の都市観光やエコツーリズム、グリーンツーリズムなどの観光振興は目的の一部にとどめ、むしろ定住促進のためのプランを作っていくべきではないかと思います。

 頓挫したと言われるかつてのリゾート計画はセカンドライフの実現や内需振興策が目的でしたが、そうではなく、その概念を原点に戻して「地域定住」を目的とした、21世紀日本のリゾート計画が必要なのではないかと思います。

 計画策定の方法論として地域の大学を活用することを提案します。計画者は対象とする地域近くに密着した方がいいからです。大学の教員研究室をサテライトオフィスにして、プランナーは節目節目で来校して計画の進行管理を行い、単純作業は教員が学生に指示、指導すると。

 コストは学生が地域に赴いて住民と共に作業する程度で済みます。学生はその作業をゼミの成果として単位取得するようにすれば、中には地域に住んで就業する若者も出てくるかもしれません。観光や地域社会をテーマに学習する大学は津々浦々に広がっており、これをネットワーク化すればいいのではないかと思います。

●プロジェクト・ファインディング&フォーメーション

 私が国際調査の仕事から学んだことの一つに「プロジェクト・ファインディング」「プロジェクト・フォーメーション」といった概念があります。プロジェクト・ファインディングとは誰も気づいていないようなプロジェクトを探し出すこと、プロジェクト・フォーメーションはそうしたプロジェクトを作り出すことで、こういう取り組みは、私も含めて日本ではあまりやって来なかったと思います。

 一般的に観光計画はクライアントの依頼に基づいて行われ、言い換えれば、ある一定の枠の中で智恵を絞ることになりますが、クライアントの思惑や要望などを超えて、「この地域の本来あるべき姿はこうだ」といった本質的な提案がこれからの観光計画には必要ではないかと思います。

 コンサルタントからシンクタンクへと成長していく過程においてはもっとプランナーは主導性を持たなくてはなりません。与えられた課題解決ももちろん大事ですが、それを超えたビジョンがなくては観光地のレベルの向上は進まないでしょう。相手や地域や国の都合にはお構いなく、貴方の所はこうなるべきだ、という提案をしてもいいのではと思います。そういうことができるのは公益財団しかないのではないでしょうか。

(2) これからのわが国の観光、観光地づくりに必要なことは何か

●交流人口への期待からの決別

  かつての国土計画で謳われた「多自然居住地域構想」は破綻したと思います。国土形成計画でもこの用語は死語と化しています。この分野に対するIT化の寄与にかすかな期待もありましたが、ITはかえって都市へのストロー現象を促進させたようにも思います。

  「住んでよし、訪れてよし」というキャッチフレーズがあるけれど、それはきれいごとかなと思いますね。「訪れてよし」という地域は必ずしも住んでよしにはならないのではないか、「定住人口の減少を交流人口で」という合い言葉はあまり信用できないと思います。両者の間に決して埋まらない溝があるとするなら、あるいはもともと両者は別物でよし、とするなら、定住を促進させるための観光計画や来訪客量にはこだわらない観光地、非ビジネスセクターとしての観光計画を企てるシンクタンクが必要なのではないでしょうか。

 ●観光地の「選別と集中」

 この人口減少の時代に、もう観光地の再生一般論は通用しません。空間的集落再編と同様、観光地についても人口規模に合わせて再編あるいは、選別と集中に舵を切る必要があるのでは、と思います。ちょっと極端な論かもしれませんが…。

 観光地は今、人が住んでいない自然観光地、東京や大阪の大都市などを除けば、大体は過疎化する地方都市、中山間地に限られるわけです。高齢者が3分の1くらいを占め、商店が閉まり畑は荒れ放題の状態だと、人に来てもらうために町をきれいにしようとか、見るものを作るというレベルの話ではないなと先にお話しした津和野の調査の時に感じました。

 観光の需要と供給のアンバランスを研究しているところはまだありませんが、「何千万人観光客を呼ぼう」とかけ声をかけても、訪れる先の人口は増えていかないままだったら、観光地としての受け入れが難しくなるのではないかと危惧しています。

  では、どうするか。乱暴かもしれませんが、今後は居住適地について見直す必要も出てくるかもしれません。たとえば日本の人口が8000万人になった時、いくつかの条件を挙げ、どことどこが居住に適したところか、といったことを大胆に提言していく国土計画があってもいいのかなと。今までの国土計画は、日本全国みんなハッピーになるようにやっていたけど、もうそれができる状況ではなく、国土の均衡発展は無理ではないかと思います。

 岐路に立たされた観光地があれば、交流人口を活性化させるより定住に重きを置き、その近辺に定住のベースとなる都市を作り、そこに住む人たちがその観光地を支える働き手になると。そういう場所がいくつかできてくるといいのではないでしょうか。

 地方都市を拠点に周辺の観光地を運営する形で、地方の中小都市の活性化にもつながります。まだ定住するだけの基盤が残っているところに何とか人を集め、そういう人たちの仕事を周辺の観光地で供給する仕組みを作るということですね。そのように構造について抜本的な議論していかないと、これまでのようにすべての観光地をてこ入れするという考え方では、もはや難しい気がしています。

 こういうのは国土政策になるんでしょうね。産業計画や経済計画みたいな観点で地方を活性化させるのはもう限界があるので、国土の再編といった取り組みでやらざるを得ないのではないでしょうか。

  また、地域の住民自身も主体的に選択する必要があると思います。以前、ニュージーランドでヒアリングを行った時、住民参加の公聴会が行われていました。そこで話されていたのは、「この町を10年間でこういう姿にするにはこれくらいの金がかかる。それを人口で割ると、あなたたちの住民税はこれくらいになる」と。住民が自分の町に必要なものを考える機会を与えているんですね。

 日本だと、まず税金を集めて事業をやる、足りなければ起債で集める、という形になると思いますが、その町では市長が当選したら、自分で建築家をスカウトしてきて、10年後にこの町をどういう形にするか計画を作らせるんです。予算案も出して、その金額が妥当かどうか住民に判断してもらうと。判断は自分たちの住民税にはね返るからよくチェックしなさいということですね。かつて草津町で私がやった買い物ゲームにも少し似ていますが、こういうやり方は面白いし、今後の日本にも必要になってくるのではないかと思います。

 

2014(平成26)年8月19日
公益財団法人日本交通公社会議室にて

 取材者:公益財団法人日本交通公社観光政策研究部
梅川智也、堀木美告、後藤健太郎 

2015(平成27)年 1月 19 日文章校正・追加終了

第6回・・・(元)財団法人日本交通公社 観光計画部長 小久保 恵三氏

【PDF版(1.72 MB)】

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