観光地づくりオーラルヒストリー<第8回>三村 浩史氏  3.「観光」に対する失敗と反省

2016.06.14

わが国の観光政策は有効に機能してきたか

●「ホスト」と「ゲスト」の関係に着目

 1975(昭和48)年頃、地中海のキプロス出身で、英国で地理学を学んだロシディス・ニコスという研究者が、三村研究室に所属する博士コースの留学生となりました。彼は、私のところで学位論文を書いたのですが、「観光活動=ツーリズム」は世界各地にわたる大きな活動であり、地域づくりでも大きな影響力を持つようになっていることに注目していました。

 しかし、観光という現象は地域政策や産業政策ではまだ十分な地位を与えられず、政策立案や研究開発も観光客を誘致するための振興策にとどまっています。どんな研究の立ち上げが必要かと議論していたら、彼が持参した文献の中からアメリカの文化人類学会の人達が書いた「ホストとゲスト」という本が面白いと言って、紹介してくれました。観光活動ということを受け入れる側(=ホスト)、訪れる側(=ゲスト)の両面から見て、それぞれがどんな風に対応して、人類学でいう文化的変容を来しているか、世界の各地で事例研究したものです。

 この時代、金持ちになったアメリカ中産階級は大型ジェット旅客機とホテルチェーンを利用して世界に出かけました。これがグローバルなマス・ツーリズムのはじまりで、やがて他の先進国も参入しました。その行き先の多くは発展途上地域や昔ながらの農山村地域でしたから、さまざまな軋轢が生じます。たとえば、外部からの資本によるゴルフ場、別荘地、マリーナ開発にともなう自然環境や聖地への影響などです。

 この本では、需要発生と受け入れ、観光事業者、旅行商品の設計、観光圧力の効果とマイナスの影響など世界数十地区でケーススタディを行い、受け入れる側と訪れる側、両者の関係をチャート化したんですね。年に一度の神聖な年中行事・芸能までを毎夕ホテルのショー仕立てにするとか、伝統のお祭りが混雑するので観光客用と住民用の祭りに分けたら片方がつぶれたとか、伝統工芸があるのに安物まがいスーベニールの流入とか、先住民族観光と銘打った集落見物などいろいろな事例を調べています。ホストとゲストが対等に敬意をもって交流できない実情を調べて、あるレポ-ターは、このやり方を植民地主義的観光と決めつけていたくらいです。

 私は文化人類学者ではないのですが、内発的開発を考える点から興味を持って通読し、さらに一歩踏み込んでその本の日本語訳書を出版しました。日本の文化人類学者の人達はご不満でしたよ。専門用語で間違ったところがあるとか、畑違いの連中がこの分野で注目されている本を訳したのは気に入らないとかね。でも新しい問題提起はできましたね。観光客を送り込む人、あるいは受け入れる人はどういう相対的関係を取り結ぶべきか、などのテーマが明らかになってきたわけです。

 受け入れる側はホストだから「よく来てくれたね、ゆっくり見ていってくれ」としなければいけないけど、消費者は王様だと言ってゲストサイドがいばりちらすことが多い。そういう差別的、いわば植民地的な観光開発の問題に対して文化の対応はどうすべきかと提起したわけです。

 ニコス君はこの本に提起されているテーマを基調に、島でやった方が、モデルがはっきりしやすいだろうということで、ハワイ、沖縄、キプロスの島嶼地域を対象にした地域開発効果を評価するモデルを作成し、学位論文として提出しました。データをきっちり集めて、項目としてはかなり精密に書いてありました。

 一方で住民が観光の在り方に積極的に関わるようになったり、応援団なども出て来ました。

 私はその後も講演会や審議会で、この本に書かれたことを引用して話をしてきましたが、この時の経験を通じて、我が国では観光政策や、観光地づくりの評価についての本格的研究はこれからだと痛感した次第です。

          図 「ホスト&ゲスト 観光・リゾート開発の人類学」1989年
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三村 浩史氏 4.これからの「観光」・「観光地づくり」・「観光計画」への提言

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