観光地づくりオーラルヒストリー<第4回>溝尾 良隆氏  4.「観光」の計画とその実現 

2015.07.14

●いま考えている二つのまちの事例~那珂川町と南牧村

 栃木県に那珂川町という町があります。私が所属していた帝京大学地域経済学科と地域協定を結んだことがきっかけでたまたま知り、行ってみたのですが、いい素材がいっぱいある。いわむらかずお絵本の丘美術館には、たくさんのファンが来ています。このほかに馬頭広重美術館があり、安藤広重の作品が展示されています。建物は隈研吾の初期の作品で、これが地元の竹や葦、杉を使っていて繊細ですごくいい。この美術館に行くと「ご関心があるのは建築ですか、浮世絵ですか」と聞かれるくらい、建物自体にも価値があり、建築と展示それぞれを目的に多くの人が訪れています。ほかにもこの町には、内陸でありながら温泉を使ったトラフグの養殖に成功していたり、間伐材からバイオマスにも取り組んだりしています。

 でもそれぞれの施設の連携がないうえに、旅行者もその目的のところへ行って帰ってしまう。那珂川町へ行きたいわけでなく、ここが那珂川町と知らずに来ているわけです。せっかく優れたものがいろいろあるのに、総合化して発信していない。

ネット社会になるとその傾向がさらに強まってくる。簡単に情報を発信できるのはネット社会のいいところでもありますが、その一点だけを目的に来て帰ってしまうという弊害もあります。総合的な情報発信をして町としての魅力をアピールすることが課題と思います。

 問題がもう一つあって、こんなによいものをもっていていろいろやっているのに、この町は県内で最も女性や若者の人口が少なくなる地域の一つと言われています。提携しているが町の人たちに「住みたくなるまち、これはあなた方の問題だから、自分たちで考えてほしい」。那珂川町が住みたくなる町かどうか、なぜ住みたくない町なのか。働き場所がないからなのか、病院不足か、育児や教育環境の問題なのか。たとえば病院だったら自分の町になくても隣町にあればいいわけです。自分の町だけで解決しようとしても難しいので、もっと広域で考え、隣接する市町村と連携するという考え方もある。

 もう一つは群馬県の南牧村です。人口は2000人ほどで、65歳以上が人口全体に占める比率が日本で最も高く、高齢化率が日本最高の村として有名になってしまいました。ところがここの自然も歴史もよいものをもっている。私が群馬県出身ということもあり、個人的にも何とかしたいと思って、親しい人に声をかけて、南牧村応援団みたいなものを作ろうとしています。

 そういう風に何かやっていかないと、人口減少や地域再生の問題はどうしようもない。まず、いま住んでいる人たちに元気と勇気を与えたい。那珂川町と南牧村、どちらも今の日本の農山村を象徴する場所だと思います。そういう地域にたまたま関わったので、自分なりに動いてみようと思っています。

第4回・・・ (前)帝京大学経済学部 教授 (元)立教大学観光学部 教授 溝尾 良隆氏

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