観光地づくりオーラルヒストリー<第10回>鈴木 忠義氏  ◎観光にまつわる雑感~昔からいろんなことに興味があった

2016.09.07

 この表には「中分類表」と書いてあるでしょ。さらにここから小分類になってくると、もっといろいろな話が出てくるわけですよ。

 例えば、日本でも太閤の花見として殿様が花見を楽しんだり、ヨーロッパでも王侯貴族は昔から観光を行っているでしょう。昔は生産性が低かったから、一般庶民は農耕で食うや食わず衣食住を満たすのでやっとだったけど、機械化されて余裕が生まれてきて、一部の富裕な人のみに限られていた楽しみが、だんだん大衆化、庶民化されてくるところに、現代の意味があるわけです。

 観光の歴史もそういうところを解き明かし、現代に対してどういう意味があるかというようなことに焦点をあてて書いたものがあるといいと思いますよ。

 観光というのは人生の目的であり、喜びなんですよね。人間は労働も必要ですが、休息も必要で、単なる生産の場、生活の場だけあればいいということではなく、美しく風光明媚なところに行く楽しみ、そこで一杯飲む楽しみも人間には必要でしょう。

 観光の歴史も、人間の本性について考えないといけないんじゃないかということです。本来の人間の生きる目的が何なのかと。そういうことから、観光の意義・役割を真剣に考えてみることも必要ではないでしょうか。

 娯楽産業の歴史も興味深いですね。僕は東京の下町生まれで、昔は浅草にたびたび行きました。錦糸町には江東楽天地というレジャー施設がありました。関西では宝塚が有名ですが、宝塚歌劇団を作った小林一三が江東楽天地も作ったんですよ。そういう歴史的意義なども改めて考えると面白いですよね。

 そもそも民鉄というのは、大体観光地と結んでいるでしょう。阪急電鉄が宝塚を作ったのも、電車を使ってもらうため、庶民のためのレクリエーションとして作られたわけですよね。

 一方、京成電鉄は成田山と東京を結んでいます。成田山のような宗教観光地に運行している民鉄も多いですよね。人間、願いとか救いとか祈りを求めるということで、宗教観光というのも一つのテーマとしては面白い。

 そもそも観光の大元には宗教的なものがかなりあって、結局、人間の生命というものがあるから、それを失う死の恐怖からどうやって逃れるかということがありますね。身の危険を感じて神仏に願ったり。そこが大元にあって、そこから宗教観光が発達して、人間の手の届かないものを神頼みにするから、成田山があれだけ人を集める。

 根本にあるのは人間の生命財産、安全を守りたいということですよね。そういう根本的な問題は、本来からいけば大学の文学部の分野かもしれないけど、なぜ人間が旅をするのかという原点の研究にも関わり、非常に大事ではないかなと思います。

 スポーツの歴史もひもといてみると、興味深いと思いますよ。例えばマラソンとかね。駅伝は、最初は今でいう郵便がルーツでしょう。それを競技化したわけですよね。もっといえば、飛脚だってマラソンのルーツと言えるかもしれない。

 最初は必要に迫られて走っていたのが、人間の願いである丈夫で長生きという体育的なものと結びついてきて、競技化したり、学校の科目にしたりしたと。そういうものを競技化するところに、人間の心理的なものがあるんじゃないか。平穏に争う手法として、いろんなスポーツ競技が出て来たのではということですね。

 こういう点からも、人間の生存の手段としての労働、人間の行動と、そうではない余暇活動もあるということをきっちり整理することが必要ではないかと思います。

 旅館の歴史も、最初は動機があって、民宿が原点だと僕は思ってるんですね。どういう形で始まったのか、それが現代とどう関わるのかというところから探ると面白いと思います。

 例えば、蒲郡ホテル(現蒲郡クラシックホテル)が、なぜあの場所にできたかということですよね。そこには、経済関係から国際観光を促進しようという背景があって、外国人をどうやって泊めるか。外国人はベッドで寝るのだからベッドのある部屋を作らないといけないと。時代背景なども当然ありますし、人間の風習の話もあれば、ホテルの歴史も関わってきて、一つの各論としては大事です。

 人間はいつから風景というものを観賞するようになったかということも知りたいですよね。本来なら風景計画の人達がやるべき検証ですが、絵画はそこから生まれたものでしょう。

 観光に行くと、あそこも行った、ここも行ったという自慢話をするという人間くさい部分もあり、それが観光の宣伝やモチベーションの喚起につながると言えますよね。

 こういった観光にまつわるさまざまなことを並べ、KJ法(文化人類学者の川喜田二郎氏が考案したデータ整理の手法)がデータをまとめるために考案した手法などを使って、観光に関わる人達みんなで意見を出し合って、うまく分類して系統立てていく必要があるのではないでしょうか。そういう中から、どういう研究をしないといけないか、どういうことを政策に打ち出さないといけないか、根本的な課題が出てくるんじゃないですかね。

 それがあって、初めて僕が作った中分類表の「2.観光理論」にあたる、どういうものが人間の心を導いていくかについて考えられると思います。それをベースに文学部や交通分野など、各分野の専門家に委託して個別の研究を深化させるといいのではないでしょうか。

 とにかく僕はいろんなことに興味があって、よく女房に怒られましたよ。多趣味すぎると。「あなたは何が専門なんですか、土木工学でそんなこと教わるんですか」と(笑)。

 例えば群馬県で発達した織物文化にも非常に興味がありますね。いつ、ああいう機械が入って来て技術が発達したかとか、材料もいろんなものを必要とするわけで、それをどうやって手に入れてきたかということですね。

 料理番組も僕はよく見ます。外国に行った時も、この食べ物はどうやって進歩してこうなっているのかとか、接待用に使われるのはなぜかとか、考えますね。

 それはやはり人間が動物と違って、衣食住を必要とするからで、ここではこんな食べ物があるのかとか、こういう生活をしているのかと、観光の中でも人間の生活に一番興味があります。

第10回・・・ 東京工業大学名誉教授 鈴木忠義氏

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