観光地づくりオーラルヒストリー<第10回>鈴木 忠義氏  ◎観光は人間の本質的な喜び

2016.09.07

 観光を考えることは、最終的に人間の本質的な喜びとは何かを考えることにつながると思いますね。例えば子どもが歩き出して、よちよち歩きでも目を離すと、すぐどこかへ行ってしまうでしょう。原始時代の人間も、今いる場所から移動するきっかけは、別の場所にもっとうまいものがあるんじゃないか?といった好奇心とか欲求だったのではないですかね。

 子どもは、電車などの乗り物に乗ると飽きることなく窓の外を見ますよね。それだけ場面が変わることについての魅力があるんじゃないかな。さらにいうと、男の子が小さい頃に喜ぶおもちゃは、大抵乗り物ですよね。自動車とか列車でしょ。児童心理学などに関わるのかもしれないけど、こういうことも、やはり観光の原点じゃないかと僕は思うんです。

 そう考えると、人間の本性として、「動く」「移動する」というのがあるんじゃないか、そしてその延長に、いろいろなものを見て歩きたいという基本的な欲求があるんじゃないかなと。人類学や心理学にも関連しますが、そういう原点を考える観光研究が行われるといいと思いますね。

 産業が発達して人間が衣食住に追われないようになり、その余裕はどこに行くかというと、やはり美しいものとか楽しいものを見たい、体験したいという欲求に向かうわけです。そうなった時、生きる目的はなにかと考えていくと、観光というものが大きく浮かび上がってくるのではないでしょうか。美しいものの中には自然もあり、人間が作り出したものもあります。観光を考える場合、人間の欲望論のようなものが心理学で問われるのではと思います。

 いかにバス・トイレが進歩しても、大きなお風呂の温泉に浸かった開放感は、小さい風呂では味わえない感覚で、そういう非日常性をどう演出していくかは、観光開発では大事なんじゃないですか。

写真6取材風景写真6 鈴木忠義氏への取材風景2
(2016年(平成28)3月15日、東京都世田谷区)

第10回・・・ 東京工業大学名誉教授 鈴木忠義氏

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