アジア市場における歴史文化観光への関心度(第二回)

2014.12.29

 訪日市場における歴史文化観光の現状把握と今後の可能性を探るため、訪日外客数の約6割を占める中核的な市場であるアジア4ヶ国でのインターネット調査を実施した。
 対象は、訪日経験があり、観光目的での再訪を希望しており、その際、個別手配またはフリープラン型ツアーの利用を考えている層である(調査方法の詳細については第一回を参照)。 前回紹介した調査結果の概要に引き続き、今回は歴史文化観光への関心度の高い層の特徴と市場における位置づけについて述べてみたい。(塩谷英生)

3) 高関心度層の特性とニーズ

① 高関心度層の属性とロイヤルティ

●属性

 日本の歴史文化財(神社、寺、城、古い町並みなど)に「非常に関心がある」と回答した人(722票。全体1,799票の40.1%を占める。)を“高関心度層”と位置づけ、全体、中関心度層(「ある程度関心がある」人。926人)、低関心度層(「あまり関心がない」「関心がない」人。151人)と比べた特徴について整理する。
 高関心度層の性別は、女性の比率が52.2%と、回答者全体の49.7%よりも僅かに高くなっている。年代については、20代と30代の比率が71.1%と全体の67.3%に比べて高めである。
 世帯年収については、各国毎に1から10のカテゴリー設けて、選択肢方式で聞いている(最も高い所得層が10。カテゴリーの範囲は各国で異なる)。カテゴリーの平均値は、高関心度層で6.0、全体で5.5となっており、相対的に高所得層が多くなっている。

図1. 高関心度層の性・年代の特性
 図1

●訪日経験回数とロイヤルティ

 訪日経験回数については、1回が32.5%(全体40.4%)と低く、2回以上来訪している人が多い。

図2. 高関心度層の訪日経験回数
図2










 3年以内の観光目的での訪日旅行の計画についても、「具体的に計画している」という人が71.2%(全体55.5%)を占め、「具体的な計画はないが希望している」という人は28.8%(全体44.5%)と少ない。

図3. 高関心度層の訪日旅行計画(3年以内・観光目的)
図3

 さらに、訪日旅行へのロイヤルティの高さとの関係性については、日本が「一番お気に入りの旅行先」である人の比率は、高関心度層で69.1%に上り、全体の52.4%よりも高い。 このように、歴史・文化観光の高関心度層は、訪日頻度、意欲、所得、ロイヤルティがいずれも高いことから、訪日市場における重要な客層として位置づけることができる。

図4. 高関心度層の訪日旅行へのロイヤルティ
図4


② 高関心度層の希望する観光活動と地方旅行への志向

●希望観光活動

 次回の訪日旅行の際に希望する観光活動を20の選択肢から選んでもらった。

「歴史・文化観光」または「日本の歴史・伝統文化体験」を希望する人の比率(重複を除く)は、全体で25.6%、高関心度層では33.1%であった(中関心度層22.7%、低関心度層7.9%)。
 なお、高関心度層でも「日本食を楽しむ」「温泉」「自然観光」「ショッピング」が「歴史・文化観光」よりも上位に挙げられており、歴史・文化観光を主な活動として捉えている人はあまり多くないと考えられる。全体と比べた高関心度層の傾向として、「自然観光」「四季の体感」「歴史・文化観光」「旅館への宿泊」などが高くなっている。
 また、高関心度層のうち具体的な訪日計画がある人に限った歴史・文化観光活動の希望率は、29.2%であり、(具体的計画の無い層を含めた)高関心度層の33.1%よりも低い数値を示している。

図5. 高関心度層の希望観光活動(複数回答)

図5
 
●高関心度層の訪問したい歴史観光地

 訪問したい歴史観光地について、高関心度層の回答率を全体のそれと比較すると、東京、奈良、岐阜が高く、京都、富士山、大阪、北海道が低くなっている(図6)。
 なお、高関心度層で次回の来訪時に歴史文化観光の活動(「歴史・文化観光」または「日本の歴史・伝統文化体験」を希望する人)の回答状況をみると、京都については一転して高くなっている。高関心度層は京都以外の歴史観光地にも関心があるものの、最終的には京都や奈良といった定番の観光地が選択される形となっている。
 具体的な計画に進んだ段階で歴史・文化観光の活動が組み込まれにくいのは、地方の歴史・文化資源の訪問が交通等の課題から難しいことも一因と考えられる。これについては、後述する。

図6. 高関心度層の訪問したい歴史観光地(都道府県集計)

図6

 

③  歴史・文化観光市場の構造

●歴史・文化観光市場の構造

 図7は、歴史・文化観光の市場構造について、歴史・文化財への関心度を縦軸に、訪日計画の有無を横軸として標本数の分布状況を整理したものである。なお、本調査の対象サンプルはアジア主要4ヶ国のFITでの再訪を希望している層であり、団体客やツアー客を含めた訪日外国人客を対象に含めていない点にご留意いただきたい。
 高関心度層は40.1%で、3年以内の具体的な訪日計画を持っている人が約7割を占める(28.6%)。そのうち、歴史・文化観光活動を予定している人は29.2%に留まることから、高関心度層で訪日計画があり、歴史・文化観光を予定している見込み客は全体の8.3%まで絞り込まれる。一方、全体の51.5%を占める中関心度層はもっと減衰率が大きいことから、見込み客は5.1%となっている。低関心度層の見込み客は0.3%に過ぎない。
 見込み客は全体の13.7%であり、このうち高関心度層の割合は61.0%、中関心度層は37.0%、低関心度層は2.0%である。

図7. 関心度別の歴史・文化観光市場の構造

 (全標本1,799票を100%とし、関心度、訪日計画、歴史・文化観光予定有無の別にシェアを試算)

図7

④  地方への訪問意向と障害

 高関心度層の市場におけるウェイトが高いことがわかったが、別の見方をすれば、高関心度層であっても、訪日旅行の際には、7割の人が歴史・文化観光の活動を選択していないという結果となっている。地方に存在する歴史文化観光資源を活用し、潜在市場を顕在化させていくための取り組みが必要とされている。 

●地方の観光地への訪問意向
 個人旅行の経験と今後の地方訪問意向についての質問については、高関心度層では「地方の観光地に個人で旅行したことがあり、これからも是非旅行したいと思う」という人が66.1%を占めており(全体51.1%)、地方訪問に対して積極的な層となっている。

図8. 高関心度層の地方訪問意向
図8

 また、地方観光地へ旅行するパターンについては、高関心度層では「大都市と地方の組合せで周遊」が56.4%(全体47.5%)と過半数を占める。これに、「大都市を拠点に地方を日帰りで訪問」が17.0%(同21.3%)を合わせると、73.4%に上り、大都市との組合せで訪問するというパターンが多くを占めていることがわかる。

図9. 高関心度層の地方訪問パターン
図9

●地方訪問の障害

 地方訪問の際に障害となる点について、高関心度層で全体と比べて多くみられる回答としては(図10)、「地方に行くまでの移動時間が長い」「荷物の持ち運びが面倒」「地方の観光資源がまばらで効率的に回れない」「wiFiなどインターネット環境が整っていない」が挙げられており、実際に地方旅行を経験している人が多い高関心度層の実感を反映している。
 こうした課題に地域が対応するためには、観光客の視点に立った交通路線情報や、荷物預かり場所情報の発信、あるいは地元のニーズとも組み合わせた路線の再編等も重要となるだろう。地方の交通拠点となる駅や空港からのFIT向け着地型商品も、国内旅行需要と組み合わせるなどして採算性確保の可能性を模索する必要がある。

図10. 高関心度層の地方訪問の障害(複数回答)

図10


 以上、アジアの主要国からの訪日市場で歴史・文化観光への関心度と関心度別のマーケットの現状についてとりまとめを行った。今冬は、歴史・文化観光市場のほとんどを占める国内旅行需要の現状と市場構造について、全国を対象としたより詳細なインターネット調査を実施する予定である。
 調査に先立ち、既に幾つかの歴史観光地の視察を行うと共に、教育委員会等へのヒアリングを実施させていただいた。調査結果をとりまとめ次第、全国の歴史観光地の振興へ向けたヒントを発信できれば幸いである。

 

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