歴史・文化観光に関する国内旅行市場調査(その3)

2015.09.04

レポート3.歴史文化観光の実態と希望する訪問地・サービス・土産品

 前回に引き続き、「歴史文化観光に関する国内旅行市場調査」の2次調査結果を紹介する。今回のレポートでは、歴史文化観光の実態と今後希望する訪問地・サービス・土産品等についてとりまとめる。

①直近訪問観光地と訪問希望観光地

 一番最近泊まりがけで訪れた歴史文化観光地と、泊まりがけで訪れてみたい歴史文化観光地の地名または資源名を回答してもらい、所在都道府県単位で集計を行った(図表18)。既に1次調査結果でみたように、京都・奈良は訪問経験率が極めて高い歴史文化観光地である。本研究では京都・奈良以外の地域における歴史文化観光の梃子入れを重視する立場から、京都・奈良を除く観光地への来訪状況を聞いている。
  集計方法について補足すると、複数の回答があった場合は一つ目に回答されている地名を採用している。「四国遍路」といった複数県にまたがる地域名については、「四国」といったカテゴリーを追加して集計している。また、個々の歴史文化観光地の集計において、例えば「飛騨高山」と「高山」といった回答が混在する場合はいずれも「高山」として扱うなど適宜地名の統合を行った。
  集計の結果、直近訪問観光地として最も多い県は神奈川県で全体の7.3%(無回答割戻し)を占めており、内訳では「鎌倉」「箱根」「横浜」の順で回答が多い。次いで、石川県6.0%、兵庫県5.9%、三重県5.5%、北海道4.6%、沖縄県4.6%、岐阜県4.0%、長崎県4.0%と続いている。
 訪れてみたい観光地として回答が最も多かった都道府県は岩手県で9.2%に上り、内訳としては「平泉」が8.1%とほとんどを占めている。以下、石川県8.3%、北海道7.3%、沖縄県7.1%、山口県7.0%、長崎県5.4%、神奈川県5.0%と続いている。
  全体的な傾向として、訪問した観光地としては、神奈川県、兵庫県、三重県など大都市圏からアクセスしやすい地域がより上位になりやすく、希望する観光地としては、岩手県などやや遠方の観光地が選ばれる傾向がある。

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  • 関心度層別の傾向

 直近訪問観光地について、上位10県への訪問率の合計は高関心度層で47.7%、中関心度層で51.1%となっており、高関心度層の方がやや分散している。この傾向は訪問希望観光地についても同様で、高関心度層で60.8%、中関心度層で65.4%となっている。
  高関心度層と中関心度層間の回答率の比が大きい(高関心度層の回答率が相対的に高い)都道府県は、直近訪問観光地では兵庫県、島根県、岩手県、岡山県、静岡県等であり、訪問希望観光地では長崎県、島根県、和歌山県、福島県、新潟県、秋田県等となっている。

②歴史文化観光の実態(直近観光について)

 ①で答えてもらった宿泊を伴う直近の歴史文化観光について、実施時期や交通手段などの観光実態について聞いた。

  • 実施時期

 先ず、歴史文化観光の実施時期の傾向について聞いている(選択肢は、混雑状況、行祭事等の季節の資源の有無、出発曜日等で構成している。) 
  回答結果は、混雑状況に関しては「あまり人がいない時期に」が33.2%と、「賑わいのある時期」7.5%、「ある程度賑わいのある時期」18.3%等よりも高い。季節資源に関しては、「桜や紅葉が楽しめる時期に」が22.6%に上っている。出発日は、「平日に」が36.2%と「週末や連休に」の28.1%を上回っている。
  年代別にみると、60代以上で「桜や紅葉が楽しめる時期に」「平日に」の高さが目立ち、40代以下では「週末や連休に」が高い傾向にある。なお、現状の泊まりがけの歴史文化観光は高齢層が市場の中心を占めており、歴史文化観光の裾野を広げるためには休暇制度の改善が重要と考えられる。
  関心度別にみて、高関心度層の回答率が相対的に高い上位選択肢は、「特別公開・特別拝観などの時期に」である。

  • 滞在中の交通手段

 観光地滞在中の交通手段の利用率は、「自家用車」が40.2%と最も高く、以下「駅やバスターミナルから徒歩」29.4%、「路線バス」15.7%、「観光バス」15.3%、「レンタカー」14.5%、「タクシー」14.5%、「まちなかの鉄道(市電、地下鉄、モノレール等)」13.3%となっている。
 性別にみると、男性では「自家用車」「レンタカー」、女性では「観光バス」「路線バス」が比較的多い。年代別にみると、若年層ほど「駅やバスターミナルから徒歩」との回答が多い。「レンタカー」は50代以下で高く、60代以上では「観光バス」が目立つ。
  高関心度層では、「路線バス」18.6%、「船」4.6%、「駅やバスターミナルからレンタサイクル」4.2%などで、中関心度層との差が比較的大きい。

  • 滞在時間

 直近訪問観光地への滞在時間は、「1~2時間」15.1%、「3~4時間」20.7%、「半日から1日」19.5%、「1泊」32.7%、「2泊以上」11.9%と分布している。
  年代別にみると、「1~2時間」「3~4時間」の短期の滞留は若年層で比較的多い。
  関心度別では、高関心度層で1泊以上との回答が合わせて49.4%に上る(中関心度層では40.7%)。

  • 同行者別

 同行者については、「夫婦で」が40.8%を占めている。以下、「友人と」18.5%、「ひとりで」13.3%、「子連れ家族で」10.8%、「カップルで」5.8%と続く。
 性別にみると、男性で「ひとりで」が17.7%と高く、女性で「友人と」が23.1%と高い。年代別にみると、「夫婦で」は50代以上で高く、特に60代では53.2%と過半数を占める。「友人と」は20代と70代で高く、「ひとりで」は30から40代で高い傾向がある。

  • 関心度層別の傾向

 関心度別にみると、高関心度層では「ひとりで」と「カップルで」が中関心度層に比べて高い。なお、別の質問で同行者の歴史文化観光への関心度について聞いているが、高関心度層の方が、同行者の歴史文化資源への関心度も高い傾向がみられる。

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③京都と比べた地方の歴史文化観光地の魅力

 ①で答えてもらった訪問希望観光地について、京都と比べた魅力と課題について選択肢から選んでもらった(図表20)。
 先ず、魅力についてだが、「魅力的な歴史文化資源がある」が46.7%と最も高く、以下「自然が豊か」38.9%、「歴史情緒を感じさせる」37.9%、「散策に適している」34.5%、「その地域ならではの食の魅力」33.9%、「歴史上の人物ゆかりの地」31.9%、「温泉や宿泊地が近い」27.3%の順で回答が多い。

  • 性・年代別の傾向

 性別にみた傾向としては、男性で「交通のアクセスが良い」が23.3%、女性で「その土地ならではの土産品」が22.1%と高めである。
 年代別では、若年層で「その地域ならではの食の魅力」「その土地ならではの土産品」など歴史文化資源以外の魅力を評価する人が多い。60代では「住民が歴史や文化を大切にしている」への評価が20.8%と高めである。

  • 関心度層別の傾向

 全般に高関心度層で回答率が高めとなっている。上位項目で中関心度層に比べた回答率の比が大きいものは、「魅力的な歴史文化資源がある」「歴史情緒を感じさせる」「歴史上の人物ゆかりの地」である。中関心度層との差が小さいものは、「自然が豊か」「温泉や宿泊地が近い」「あまり混雑しない」「花見や紅葉を楽しめる」などである。

④京都と比べた地方の歴史文化観光地の課題

 京都と比べた課題として挙げられたものとしては、「観光地までの交通が不便」28.0%が最も多い(図表21)。以下、「良い飲食店が少ない」14.9%、「観光地の中での交通が不便」14.0%、「情報発信が不足している」13.6%、「歴史文化資源がまばら」13.3%、「良い宿泊施設が少ない」13.0%、「夜に楽しめる場所が少ない」12.9%、「町に活気がない」11.3%が1割以上の回答率となっている。

  • 性・年代別の傾向

 性別にみた傾向としては、男性で「情報発信が不足している」が16.0%、「歴史文化資源がまばら」が14.9%、女性で「良い飲食店が少ない」が16.6%と高めである。
  年代別では、若年層で「良い飲食店が少ない」「歴史文化資源がまばら」「夜に楽しめる場所が少ない」を課題と捉える向きが多い。

  • 関心度層別の傾向

 高関心度層の回答率が中関心度層に比べて目立つ回答は、上位の選択肢では「観光地の中での交通が不便」、下位の選択肢の中では「資源性の割に入場料が高い」「歩道が安全でない」「歴史文化資源の魅力が相対的に低い」などである。高関心度層では比較的多くの資源を回遊する傾向があるだけに、交通や料金についての課題が多くなっているとも考えられる。

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⑤歴史文化観光地を訪れる際に利用したいサービスや施設

 ①で回答してもらった訪問希望観光地について、「その歴史文化観光地を訪れる際に、次のようなサービスや施設があれば利用したいですか」という質問を行った(図表22)。選択肢数は「その他」を除いて18個である。
  回答が多い順に、「遊歩道・散策路」45.4%、「古い町並みの中にある宿泊施設」42.2%、「おすすめのモデルコース・順路」41.2%、「郷土資料館・博物館」35.1%、「古民家を活用した休憩所」34.2%、「カフェ・甘味処」32.2%、「観光ポイントを結ぶバス(百円バス等)」32.0%、「土産品が買える場所」30.0%、「歴史文化資源の共通割引券」29.0%、「まちなかの共用トイレ」28.7%、「庭園等での抹茶・茶菓サービス」26.6%、「歴史ガイドによる案内」24.1%、「旧街道のトレッキング」15.7%という結果となった。
 レンタサイクルについては、「電動アシスト付」が13.9%、「電動アシスト無し」が8.9%と電動アシスト付へのニーズが高いことがわかった。なお、いずれかを回答した人の比率は20.0%であり、5人に1人がレンタサイクルへの利用意向を持っている。「定期観光バス」は12.0%、「観光タクシー」は8.4%、「人力車」は2.8%であった。

  • 性・年代別の傾向

 性別にみると、女性の回答率が高い選択肢が目立っている。男性で多い回答は、「レンタサイクル(電動アシスト付)」16.9%、「郷土資料館・博物館」37.3%である。女性で特に回答率が高いものは「古民家を活用した休憩所」41.6%、「カフェ・甘味処」38.6%、「観光ポイントを結ぶバス(百円バス等)」35.6%、「土産品が買える場所」34.1%、「庭園等での抹茶・茶菓サービス」34.1%である。
  年代別にみると、若年層で「カフェ・甘味処」「土産品が買える場所」「レンタサイクル(電動アシスト無し)」「人力車」が高い。60代以上では「歴史ガイドによる案内」「郷土資料館・博物館」「庭園等での抹茶・茶菓サービス」等が高めである。この他、「旧街道のトレッキング」は30代から40代、「レンタサイクル(電動アシスト付)」「観光ポイントを結ぶバス(百円バス等)」は40代、「定期観光バス」「観光タクシー」は70代で高くなっている。

  • 関心度層別の傾向

 全般的に、高関心度層の方が各種サービス・施設へのニーズが高い傾向がある。高関心度層の回答率が中関心度層に比べて目立つ回答は、「古い町並みの中にある宿泊施設」48.1%、「郷土資料館・博物館」41.6%、「歴史ガイドによる案内」30.3%である。なお、中関心度層の方が回答率が高かった選択肢は「定期観光バス」のみである。

  • 丸1日滞在するとした場合に利用したいサービスや施設

 同じ選択肢群を用いて、その歴史文化観光地に丸1日滞在すると想定した場合の利用意向を聞いた。回答者全体で比較すると、「カフェ・甘味処」「レンタサイクル(電動アシスト付)」「レンタサイクル(電動アシスト無し)」の回答率が約3割、「古民家を活用した休憩所」「土産品が買える場所」「まちなかの共用トイレ」「庭園等での抹茶・茶菓サービス」「旧街道のトレッキング」「人力車」への回答率が約2割増加した。滞留時間を延ばすことで、回遊や消費場所へのニーズが高まることがわかる。

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⑥歴史文化観光地を訪れる際に利用したいサービスや施設

 ①で回答のあった訪問希望観光地の歴史文化資源を訪れる際に購入してみたい土産品について聞いた(図表23)。
  全体での回答結果では、「お菓子」が最も多く53.6%に上る。以下、「農産品・水産品」33.9%、「お酒・飲料品」28.9%、「陶磁器・食器」26.9%、「その他食品」24.1%、「絵葉書・しおりなどの文具雑貨・ステーショナリー」21.6%、「置物・インテリア」19.9%、「お守り・おみくじ等」19.1%、「歴史文化関連の書籍」13.9%、「装飾品」11.6%、「衣類・織物等」9.0%、「ミニチュア・模型」4.6%の順となっている。

  • 性・年代別の傾向

 性別の傾向をみると、男性で購入意向が高い品目は「お酒・飲料品」32.5%、「歴史文化関連の書籍」17.6%、「ミニチュア・模型」6.0%などである。女性で目立つ品目は、「お菓子」60.3%、「陶磁器・食器」30.2%、「その他食品」27.0%、「絵葉書・しおりなどの文具雑貨・ステーショナリー」26.4%、「お守り・おみくじ等」22.6%、「衣類・織物」10.5%である。
  年代別にみると、20から40代で高い品目は「お菓子」「お酒・飲料品」「お守り・おみくじ等」「衣類・織物等」「ミニチュア・模型」など、60代で多い品目は「農産品・水産品」37.5%、「陶磁器・食器」30.5%である。

  • 関心度層別の傾向

 全ての品目で高関心度層での購入意向が高くなっている。滞在時間の長さや地域の歴史文化への知識や関心度が影響していると思われる。
  高関心度層で特に購入意向の高い品目は、「歴史文化関連の書籍」「装飾品」「衣類・織物等」「ミニチュア・模型」などである。中関心度層との差が小さい品目は、「お菓子」「農産品・水産品」「その他食品」である。

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結びに

 以上、3回にわたって歴史・文化観光に関する国内旅行市場調査の結果を紹介してきた。設問が多岐にわたっているため、残念ながら調査結果を網羅的に報告することはできなかった。いずれ、集計表等も含め整理した形で報告する機会を作れればと考えている。

 我が国は神武天皇建国の昔から積み上げられた重厚な歴史文化を持つ国である。神道的な考え方を基礎としつつ、異国の文化を尊重し吸収することで、社寺等の歴史文化資源が独特の発展を遂げてきた。言わば「青は藍より出でて藍より青し」のような文化的熟成が行き止まりの極東の島国で進展している。

 本研究で実施したアジアの主要国への調査結果でも、他の国に対して競争力を持つ観光活動の1つに「歴史文化観光」が挙げられている(「アジア市場における歴史文化観光への関心度」https://www.jtb.or.jp/research/cultural-heritage)。関心のある資源も、古い街道、伝統行事、町並み、城下町、古民家といった幅広い種類にわたっている。

 高山や宮島などでは、滞留時間が長いFIT客を中心とする欧米系の外国人客が多く、独自の情報源を元に日本人があまり訪れない社寺にも回遊している。先日訪れた宮島のとあるお寺へ登る参道も、外国人の背中ばかりが目立っていた。こうした現象は喜ばしいことなのだが、何よりも日本人自身が日本の歴史文化の素晴らしさに気づく機会を増やしていくことが大切である。

 今回の国内市場調査では、歴史文化観光への関心度が高い層は18.9%という結果であった。この層をより厚くしていくためにも、歴史文化の素晴らしさを「伝える」ことに、地域や観光産業がより積極的に取り組んでいく必要があるだろう。 (塩谷 英生)

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