先読み!マーケット 第十九話 全文

2011.04.26

第十九話 国内旅行市場への大震災の影響に関する調査(2011年4月中旬実施)

【リンク:PDF】

 東日本大震災から一ヶ月余りが過ぎましたが、旅行市場は極めて厳しい状況が続いています。余震や原発事故処理の長期化に加えて、輸出産業の停滞や復興財源としての増税議論など経済面の問題も顕在化しつつあります。
 こうした不透明な情勢下ではありますが、今後の国内宿泊旅行市場の動向を予測する一助とするため、全国の消費者(東北地方を除く)を対象にアンケート調査を実施しました。今回、その結果の概要をとりまとめましたのでご紹介させていただきます。
 回答結果をみると、消費者全体としては旅行回数が減少するとの見通しが多いものの、市場は一様ではなく、旅行頻度の高い層では底堅い旅行意欲が認められます。原発事故や余震等を理由に旅行をしないという回答は、もともとあまり旅行をしない層で多くみられます。
 なお、同様な調査を夏前にも実施して、旅行市場の回復状況を把握していく予定です。

(塩谷英生・川口明子・相澤美穂子)

◇調査の概要◇
表1

1.震災による日常生活や旅行意向への影響

 震災の影響は、消費の引き締め、旅行の自粛など多岐にわたっています。この調査では、①日常生活への影響と、②旅行意向への影響の2つに分けて消費者の意識を聞きました。また、こういう時期こそ消費を増やしたい等のプラス意見についても、幾つか選択肢を設けて聞いています。

①大震災の日常生活への影響(複数回答)
 「震災の影響で体調を崩している」人は22.5%(関東に限ると36.4%)に上っています(図-1)。経済面の不安要素としては、「収入が減りそう」15.8%(同20.7%)、「増税や年金支給額の減少に備えたい」11.4%(同11.3%)、「不動産や金融資産の価値が減りそう」8.3%(同11.0%)の順で回答があり、このうち増税等への懸念は関東以外の地域も変わらない水準となっています。
 「消費を抑制するようになった」は15.5%(同20.5%)に上っていますが、一方で「気分転換になるような支出を増やしたい」8.9%(11.1%)、「こういう時だからこそ活発に消費をしている」8.6%(同8.8%)といった回答も少なくなく、特に関東では2つの考え方に分かれる傾向がみられます。
 消費の傾向としては、「省エネを心掛けるようになった」が全国的に高い他、原発事故の影響を受けて「食材の生産地情報に注意するようになった」が20.9%(同24.2%)に上りました。また、「不要不急の外出を控えるようになった」17.6%(同29.4%)との回答も関東で高くなっています。
 旅行予定回数別にみると(図-2)、旅行頻度の高い人ほど「こういう時だからこそ活発に消費をしている」「気分転換になるような支出を増やしたい」という傾向が強く顕れています。

図-1.大震災の日常生活への影響 (全国 N=7,673、関東N=3,122)
図1
図-2.予定旅行回数別にみた大震災の日常生活への影響
図2

②大震災の旅行意向への影響(複数回答)
 震災の旅行意向へのマイナスの影響としては、「被災地への旅行は自粛した方が良いと思う」28.6%(関東26.4%)、「放射性物質の影響がありそうな地域には旅行したくない」26.8%(同26.4%)、「余震が続いている間は旅行はしたくない」24.9%(同31.7%)、「ガソリン代が高くなっているので自動車旅行は控えたい」19.0%(同17.2%)の順で回答が多くなっています。(図-3)
 被災地への旅行を自粛すべきとの意見は被災地から遠い地域の方がむしろ多くなっています。「親や友人から被災地域への旅行は止められると思う」も同様です。
 自粛すべきとの意見の一方で、被災地への旅行をプラスに捉える向きも少なくありません。「被災地への旅行は被災地にとって良いことだと思う」は10.5%(同11.6%)、「被災地応援ツアーなどがあれば参加を検討したい」9.7%(同10.6%)に上ります。前者は関西以西で低くなっていますが、後者は関西でも9.8%の回答がありました。
 また、「震災での精神的な疲れを癒すための旅行がしたい」は10.6%(同18.3%)で、関東で多くの回答を集めています。直近旅行予定の活動内容では、「自然や名所を見てまわる観光旅行」「温泉を楽しむ旅行」が比較的高い傾向があります。

図-3.大震災の旅行意向への影響 (全国 N=7,673、関東N=3,122)
図3

 今後1年間の予定旅行回数別にみると(図-4)、「被災地への旅行は自粛した方が良いと思う」は4回以上の層で33.9%と高いのですが、一方で「被災地への旅行は被災地にとって良いことだと思う」「被災地応援ツアーなどがあれば参加を検討したい」との声もそれぞれ17%弱を集めています。
 政府の旅行安全宣言や旅行会社による被災地への応援ツアー催行によって、自粛ムードから観光産業の振興が地域の復興にとってプラスに働くという点をアピールしていくことが期待されます。また、旅行会社が東北や北関東方面の旅行商品を通常通りに販売していくこと自体が、観光地正常化への一歩となるでしょう。

図-4.震災の旅行意向への影響 (年間予定宿泊旅行回数別)
図4

2.大震災による旅行回数への影響

 大震災による今後1年間の宿泊旅行回数(出張業務を除く。家事帰省、海外旅行を含む)の増減意向について聞きました(図-5)。
 旅行回数が減少すると思うと回答している人は「少し減る」20.1%と「かなり減る」12.0%を合わせた32.2%です。
 性別では女性、年代別では60代以上で若干減少との回答が多く、地域ブロックでは関東で減少との回答が目立ちます。今後1年間の旅行予定回数別にみると、回数が多い人ほど減少するとの回答率が低い傾向があり、「4回以上」では22.8%に留まっています。

図-5.今後1年間の旅行回数の増減傾向(属性別、年間予定旅行回数別)
図5

3.直近旅行計画における旅行先

 GWから8月までの期間に旅行計画があると回答した人を選んで、直近の旅行計画の内容について聞きました。
 直近の旅行予定全体の国内旅行先に絞って構成比をみると(図-6)、「近畿」19.0%(関東発17.9%)、「関東」17.5%(同16.7%)、「九州」12.4%(同13.4%)などとなっています。
 参考までに、この構成比を2009年の「旅行者動向調査」と比較すると、「近畿」「中四国」「九州」の構成比が高く、「東北」「関東」「東海(静岡・愛知・岐阜・三重)」「甲信越」の構成比が低いことがわかります(「旅行者動向調査」は年間であること、家事帰省のみを目的とした旅行を除いていることなどの点で条件は異なります)。
 旅行予定時期別の旅行内容については、参考表にとりまとめています。但し、旅行時期別の標本数は200~500票に留まることから各種セグメントの構成比には相応の誤差を生じます。また、海外旅行については一般に旅行予定率が高く出る傾向があります。こうした点にご留意の上、一つの目安としてご覧ください。

図-6.直近旅行における国内旅行先の構成比[全国N=1,854 関東N=754]
    (最下部のグラフは2009年の旅行者動向調査における構成比)
図6
資料:「旅行者動向2010」JTBF(2009年の宿泊観光旅行の実績データ)


参考表.直近の旅行計画の時期と旅行内容
参考表

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