観光研究最前線…②
新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向4
JTBF旅行意識調査結果より
公益財団法人日本交通公社
観光地域研究部 地域戦略室 研究員
安原有紗
観光文化振興部 企画室長 上席主任研究員
五木田玲子
公益財団法人日本交通公社では、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行が旅行市場におよぼした影響把握を目的に、定期的に実施している「JTBF旅行意識調査」の調査内容を拡充し、分析を進めている。今回は、2020年12月、2021年5月および12月の3回にわたって、全国の日本人に観光・レクリエーション旅行(以下、旅行)に対する意識を尋ねた調査の結果を紹介する。
1.コロナ流行下における旅行意向
コロナ流行下における国内旅行への意向は、2020年12月および2021年5月には「行きたい」が3割前後であったが、2021年12月には7割弱に大きく増加した。海外旅行への意向は、いずれの時期においても1割前後にとどまったが、国内旅行と同様に、「行きたい」は2021年12月が最も高く、1割を超えた(図1)。
さらに、直近2回の調査では、「行きたい」を「行きたいと思っており、具体的に予定・検討している」と「行きたいと思っているが、実施するか迷っている」に分けて尋ね、「行きたい」の回答者数を分母としてそれぞれの割合を求めた。その結果、国内旅行に関しては、2021年5月は「具体的に予定・検討している」が1割強にとどまったが、同年12月は3割弱に増加した。一方で、海外旅行に関しては、2021年5月、12月いずれも、「具体的に予定・検討」は1割程度にとどまり、「実施するか迷っている」が約9割を占めた(図2)。以上より、コロナの流行が長期化する中で、旅行に行きたいという欲求が高まっていると考えられ、特に国内旅行に対しては旅行意欲が高まっているだけでなく、具体的に旅行の実施が予定・検討されつつあることが示された。
コロナ流行下における旅行意向を性年代別に見ると、いずれの性年代も2021年12月に「行きたい」が大きく増加し、20代女性では8割を超えた。2020年12月、2021年5月に旅行意向が最も低かった70代女性も、2021年12月は「行きたい」が半数を超え、旅行意向の回復傾向が確認された(図3)。
また、「行きたい」の割合を普段の旅行頻度別に見たところ、国内旅行は普段の旅行頻度が高い層ほど高く、年に3回以上旅行に行く層は、「行きたい」が常に4割を超え、コロナ流行下でも旅行に意欲的であることが示された。国内旅行では、旅行頻度が少ない層から多い層まで、「行きたい」が次第に高まった(図4)。
2.コロナ流行下における旅行実施の判断
(1)旅行実施の条件
現在のコロナ流行下で、国内旅行を実施するかどうかを判断するときに影響をおよぼす項目を尋ねた結果、いずれの時期も、緊急事態宣言や移動・外出自粛要請等の発出、旅行先の新規感染者数が上位を占めた。国内でワクチン接種が本格化する時期にあった2021年5月は、「自分のワクチン接種の有無」、「国内のワクチン接種の進行状況」が4割前後となったが、ワクチン接種が進んだ同年12月には減少した。
海外旅行については、どのような条件が満たされれば実施したいと思うかを尋ねた。その結果、2020年12月、2021年5月は、「治療薬・ワクチンの確立」、「自分のワクチン接種の完了」といった治療薬やワクチンに関する項目が1位となったが、国内でワクチン接種が進んだ2021年12月にそれらは減少し、「旅行先の感染者がゼロ」が1位となった。この他、「WHOの終息宣言」、「入国後の行動制限の解除」は、すべての時期で比較的多く挙げられた(図5)。
(2)政府や自治体の要請に対する意識
旅行を実施するかを判断するときに政府や自治体の要請を意識するかどうかを尋ねた結果、「要請に従って判断する」は、2020年12月から2021年12月にかけて4割強から6割弱へと増加した。この間、Go Toトラベルキャンペーンなどの旅行促進策や、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの感染拡大防止策といった各種の措置がとられてきたが、その有無に関わらず一定層が公的な要請を意識して自らの旅行実施を判断すると考えられる(図6)。
性別に見ると、いずれの時期でも男性より女性の方が「要請に従って判断する」が高く、男性は4割〜5割強、女性は5割弱〜6割強となった。さらに、年代別で見ると、男女ともに若年層に比べ年代が高い層の方が要請に従う傾向が確認された(図7)。
普段の旅行頻度別に見ると、よく旅行に行く人ほど「要請に従う」が低く、逆に「要請を気にしつつも、自分で状況を分析する」や「要請は気にせず、自分でリスクの大小を想定する」が高かった。このことから、旅慣れた人ほど自身の旅行経験から、旅行中の感染リスクを想定して行動することが示唆された(図8)
3.今後の旅行の目的地や行動の変化
(1)行きたい地域・あまり行きたくない地域
コロナ流行下や今後の旅行で行きたい地域の上位2位の推移を見ると、2020年12月は「あまり人が密集しない地域」と「感染症対策が徹底されている地域」、2021年5月は「これまでに旅行したことのない地域」と「元々予定していた地域」、同年12月は「これまでに旅行したことのない地域」と「あまり人が密集しない地域」となった。
一方で、あまり行きたくない地域は、「感染者が多い地域」が常に1位となり、2位は「人が密集しやすい地域」、「感染症対策が徹底されていない地域」、「人が密集しやすい地域」の順に推移した。また、「感染者が多い地域」、「感染症対策が徹底されていない地域」は、回を重ねるごとに高まった(図9)。
以上より、コロナの流行が長期化する中で、密の回避や感染症対策が徹底されていることは旅行先選択における必要条件として定着しつつ、旅行したことのない地域やコロナで行けなくなった地域も旅行先として重視されると考えられる。今後、観光地では、感染リスクの低い環境を提供するとともに、初来訪者やリピーターが旅行に再び行きたいと思うきっかけとなるような地域固有の魅力を発信することが、誘客の鍵となる可能性がある。
(2)旅行先や旅行行動の変化
今後の旅行先や行動に関する変化の有無を尋ねたところ、若干の変動はあるものの、「変化する」が常に8割前後を占め、多くの人がコロナの流行を経て旅行のあり方が変化すると考えていることが示された。(図10)。
旅行の計画を立てるときや旅行先での行動で意識することは、「混雑する場所を避ける」や「休日や混雑する時期・季節を避ける」など混雑緩和に関する項目が多く挙げられた。その他、「不特定多数が参加する団体行動ツアーへの参加を控える」と「一人または身近な人と少人数で旅行する」もそれぞれ5割弱〜6割を占め、知らない人との接触を回避し、小規模グループまたは個人での旅行が志向されていることが確認された(図11)。
4.収束後の旅行意向
コロナ収束後に旅行に行きたいかを尋ねたところ、いずれの時期も、国内旅行では「行きたい」が7割を超えた一方で、海外旅行では高くても3割強にとどまり、代わりに「収束後も、当面(2年間程度)は行きたくない/様子をうかがう」が3割前後を占めた。コロナが収束した際、国内旅行は動きが活発になる一方で、海外旅行はすぐに再開されるわけではなく、しばらくは様子が見られた上で徐々に回復する可能性が示唆された(図12)。
性年代では、いずれの時期も、男性に比べ女性の方が「行きたい」が高く、特に20〜30代女性では常に8割前後となり、収束後の旅行への意欲が高いことが示された(図13)。
普段の旅行頻度別に「行きたい」の割合を見ると、国内旅行、海外旅行いずれも旅行頻度が高いほど旅行意向も高く、年に3回以上旅行に行く層では、国内旅行は9割、海外旅行は7割を占めた(図14)。