特集④-2 バルセロナにおける観光ジェントリフィケーションへの対応

観光研究部 主任研究員
池知貴大
観光研究部 研究員
山本奏音

1.はじめに

 観光の拡大は、地域社会にとって多くのプラスの影響をもたらしてきた。
観光は地域経済を活性化させ、新たな雇用を生み出し、文化や伝統の再評価を促す。例えば、観光を契機として、空き家や遊休施設が再生され、地域の食文化や祭りなどが新たな形で継承される事例も多い。
 もっとも、観光の拡大が特定の地域や季節に過度に集中すると、そうした状況が「オーバーツーリズム」と呼ばれることがある。混雑といった目に見えやすいトラブルは、地域の生活環境を悪化させる要素であり、住民と観光客の間に摩擦を生じさせる。
 さらに、より本質的に難しいのは、こうした変化の背後にある構造的な影響である。観光の拡大は地域社会に新たな価値や機会をもたらす一方で、その同じ力が土地利用や生活環境の変化を促し、地域の社会的な基盤を揺るがすことにも繫がり得る。すなわち、観光のもたらす「地域の活性化」と観光による「地域の変容」はしばしば表裏一体であるということであり、そのバランスや速度をいかに制御するかが、今日の観光政策における重要な課題の一つとなっている。
 例えば、住宅が民泊をはじめとした宿泊施設へ転用され、地価や家賃が上昇することで地元住民が住み続けにくくなる場合や、商店街から長年地域の日常を支えてきた店舗が姿を消し、観光客向けの店が並ぶようになる場合がある。これらの変化は一見すると経済の活性化と評価されるが、行き過ぎれば地域社会の均衡を崩してしまう危うさをはらむ。
 このように、地域の経済と社会のバランスが変化し、元々の住民や商業が入れ替わる現象は「ジェントリフィケーション(gentrification)」と呼ばれる。1970年代のロンドンやニューヨークで都市再開発の進行とともに議論されはじめた概念であり、地理学者ニール・スミス(Neil Smith)は、その背景にあるメカニズムを「レント・ギャップ(Rent Gap)」理論によって説明した。すなわち、土地や建物が「現在の利用」で生み出す地代(現行地代)と、「より収益性の高い利用」で得られる可能性のある地代(潜在地代)の差が拡大すると、その差を埋めようとする投資が誘発され、結果として都市空間の再編が進むというものである。
 観光は、この「潜在地代」を急速に引き上げる要因となる。通常、観光客は住民に比べて所得が高い傾向にあるため、人気観光地では、宿泊施設や観光客向け商業施設の需要が急増すると、それらの用途が高い収益を生み、投資資本が集中する。これにより家賃や地価が上昇し、長年住んできた人々が地域を離れざるを得なくなる構図が生じる。
 こうした「観光に紐づくジェントリフィケーション」の課題に対し、バルセロナは早い段階から制度的対応を試みてきた。2010年代以降、観光の急拡大も背景に住宅価格の高騰などが社会的対立を引き起こしたバルセロナでは、都市政策と観光政策を統合的に再構築し、都市空間の利用バランスを回復する新たな仕組みを模索している。
 本稿では、バルセロナが実施してきた政策的取り組みを住宅分野と商業分野に分けて検討し、日本の観光地が直面しつつある課題への示唆を探る。

2.住宅ジェントリフィケーションに対する政策的対応

 まず住宅分野を見てみると、バルセロナでは住宅価格の高騰による住民の流出が大きな課題となっている。この問題は、2014年頃から大きく取り上げられ始めた。背景には様々な要因があるが、特に当時影響を及ぼしていた要因がいくつか挙げられる。
●2008年のリーマンショックを契機に、スペインではそれまで起こっていた住宅バブルが崩壊。崩壊からの回復の動きの中、他国の市場と比較して安価であったスペインの住宅資産が、世界の富裕層にとって投資対象となった。
●観光が進展した結果、住宅がホテルや民泊等の宿泊施設に転用されるようになる。2010年前後から、特に民泊に関してその流れは加速。
●どこでも働くことができるデジタルノマド等の高所得外国人が、バルセロナのライフスタイルに魅力を感じて移住。バルセロナにおける人口増加の一端となっている。
 これらの結果、バルセロナでは住宅価格の高騰が生じ、従来からバルセロナに居住していた住民は家賃を支払えず転出を余儀なくされる状況となった。危機感を覚えた住民らにより、2015年11月には「持続可能な観光のための近隣住民組(Asamblea de Barrios por un Turismo Sostenible※現在はAsamblea de Barrios por el Decrecimiento Turisticoと名称変更)」が設立され、観光客数の削減、住居の権利等を主張し始めた。
 このような状況を踏まえて、2015年5月に新たに市長となったアダ・コラウ氏のもと、住民用の適切な数の住居の確保、そして快適な住環境確保のための政策が行われることとなった。その中でも中心に位置づけられているのは、宿泊施設の立地・数のコントロールに関する施策ということができる。さらに具体的には、①エリア全体の宿泊施設の分布管理(後述のPEUATを通して推進)、②特定の宿泊施設形態(民泊)に特化した規制管理、と分けることができる。それぞれについて順に説明したい。

2-1 エリア全体における宿泊施設の分布管理

 まず2017年に導入されたPEUAT(観光宿泊施設特別都市計画)は、バルセロナ全体をゾーン分けし、ゾーンごとに全てのタイプの宿泊施設の新規設立に制限を定め、結果的に宿泊施設数をコントロールする計画である。
ゾーンは、観光宿泊施設の提供の強度、住民人口に対する宿泊施設の比率、公共空間の飽和度、既存の都市形態などの要因に基づいて、新しい観光施設を受け容れる能力を十分に有するかという観点で決定されている。また状況の変化を踏まえて数年ごとにゾーンの境界は更新されている。
 ゾーンごとの制限の内容については観光文化265号特集3にて説明されているため、そちらを参照いただきたい。またこの政策の意図についても、同じく観光文化265号の中で説明されている。(以下引用)
 「宿泊施設の立地規制を通して、用途の混在を図り、界隈の公共空間での生活を維持するとともにそこへの観光の影響を最小限に留め、持続可能な経済活動の展開を図るところに狙いがある。何よりも、市民の住む権利を保障することが最大の眼目である。」(阿部大輔「『観光都市』から『観光とともに生きる都市』へ丨バルセロナにおけるオーバーツーリズム対策の最前線」)
 すなわち本政策は、利益を生む宿泊施設が一定の地区内に集中することを防ぎ、公共空間を守るため、そしてその結果住民の快適な居住環境を確保するためのものである。またそれと同時に、ホテル開発をコントロール下に置き無秩序な開発を防ぐことにより、質の高い観光地としてのアイデンティティをキープするためのものでもある。

2-2 民泊の規制管理

 次に民泊のマネジメントについてだが、こちらに関してはPEUAT以上に厳格な対応がとられている。2015年、PEUATの策定に先立ち民泊の新規ライセンス発行が停止された。
2009年には632件だった民泊の数が2014年には9606件と、短期間で大幅に増加していた民泊だが、2015年以降その増加は停止した。
その後も、「バルセロナ観光戦略計画2020」には、Airbnb 等の民間プラットフォームとの協定を強化し、違法物件の取り締まりや自主規制体制の強化を行う旨が記載されたり、2017年制定のPEUATにも民泊のゼロ成長が明記された。
 さらに大きな規制は、緊急政令3/2023である。観光目的の住宅賃貸に対し自治体からの事前都市計画許可を義務付け、許可数や貸出日数に上限を設ける権限を自治体に与える内容(カタルーニャ州政府により作成)。民泊規制はバルセロナ市が以前から行っていたが、これに対して法的な裏付けを後から与えたものである。
 そしてそれを踏まえて2024年に作成された「観光管理政府措置」。観光活動とバルセロナ住民の日常生活との間のより良い均衡を達成することを目的とした計画だが、その中に、緊急政令3/2023を適用して市内の民泊はすべて廃止され、2028年までに、現在存在する10101軒の民泊(※Habitatge d’Ús Turístic (HUT)として登録されている)全てがライセンスを失うことが決定された。
 これらの一連の民泊規制は「市内のフラットを観光用途ではなく居住用途に再転換し、住宅ストックを増加させること」(観光文化265号)を目的としている。全宿泊施設を対象としたPEUATよりも、対象を民泊に限定して厳しいアプローチをとることで目標の達成を目指している。
 当然のことであるが、民泊の全廃は民泊関係者からの大きな反発を生んでいる。民泊経営者のほとんどは中小事業者であるため、業界を代表する組織としてバルセロナ観光アパートメント協会(APARTUR)が機能している。
APARTURは民泊を合法的に運営しているオーナーや管理会社によって構成。民泊の利益を擁護することを目的とし、行政によるライセンス廃止計画に対しては、反対の意を示し、代替案の提案や補償請求などを行っている。また自分たちの意見の裏付けのために、民泊が住宅価格高騰の大きな要因ではないことを示すレポートを作成したり、合法的に経営をしている事業者を増やし守るために、会員向け情報共有プラットフォームの作成や認証取得を支援したり、自ら違法民泊を取り締まるシステムを運営する等といった取り組みも行っている。
 また、現在既にバルセロナの宿泊施設のベッド数に民泊が占める割合は約4割となっている。人数の多い家族連れや学生グループなど通常のホテルでは受け入れにくい需要もあり、民泊の全廃は非現実的だという意見も多い。
市としては、全廃を実現した上で、失業者に対しては職業訓練等の実施を計画しているとのことだが、今後の経過に着目したい。

2-3 新たな課題との対峙

 これらの宿泊施設のマネジメント施策の結果、特に規制の厳しい中心部において、無秩序な宿泊施設の増加はある程度コントロールできている状況にあると言えよう。しかしその一方で弊害も発生している。例えば、既存ホテルの価格の大幅な高騰、ホテルの新規参入の阻害等が挙げられる。ホテル価格の高騰の結果、安価な郊外のホテルに宿泊し、バルセロナには日帰りで訪れる客が増加しており、結果的に日中のバルセロナでの消費額が減少している可能性が指摘されている。また、新規参入の阻害の結果、近年ブランドホテル等がマドリードに集中している。
このような状況に対してバルセロナホテル協会は、歴史的・個性的なホテルの新規開業であれば認めるように2022年に訴訟を起こした。
 また、賃貸価格は上昇を続けており、2025年には過去最高価格を更新した。本件に関しては別の政策も影響を及ぼしている。行政は、2019年には賃貸期間の事実上の延長(都市賃貸借法/LAUの改正)、2024年には「混雑地域」における大規模所有者の新規契約の家賃に上限を設けた。これらは住民の長期賃貸をサポートするためのものであったが、結果、貸主は住民向けの長期賃貸市場から撤退し、高所得の外国人デジタルノマド等を対象とした季節賃貸(6ー11か月程度の賃貸)に移行している。 
 本件に関しては、まさにレント・ギャップ理論を当てはめて考えることができる。「現在の利用」、すなわち長期賃貸で生み出される地代よりも、「より収益性の高い利用」、すなわち季節賃貸で得られる可能性のある地代の方が高くなった。結果的に住民向けの長期賃貸の母数は増加しておらず、賃貸価格の上昇は続くこととなってしまっている。

 上記のように、バルセロナでは住宅ジェントリフィケーションに対して多様な政策が実行されてきた。それらは評価されている部分も多い一方、政策介入により別の課題が生じて新たな対応が求められている部分もある。インパクトのある政策であるがゆえに弊害も大きく、試行錯誤しながらマネジメントが進められていると言えよう。

3.商業ジェントリフィケーションに対する政策的対応

 観光の拡大は、住宅市場のみならず、地域の商業構造にも影響を及ぼしている。バルセロナでは、とりわけ旧市街(Ciutat Vella)において観光客の急増とともに、地域住民の生活を支えてきた店舗が減少し、代わって土産物店や観光客向けの飲食店等が集積する傾向が顕著となった。
 バルセロナは、この変化を単なる経済現象としてではなく、地域のアイデンティティに関わる課題として位置づけている。2025年7月3日付の市プレスリリースでは、旧市街用途計画2025(Pla d’Usos de Ciutat Vella2025)の目的として、「文化的提供や地域に資する質の高い経済活動を促進する一方で、地区の一部に定着している商業モノカルチャー化を回避する」ことが明記されている。当該計画では、観光を一律に抑制するのではなく、地域社会の多様性を維持しながら持続的な都市経済を実現するという理念を掲げている。
 この理念は、都市計画、商業政策、さらには公共空間管理に至る複数の分野に共通する政策軸として展開されている。以下では、そのような商業空間に対するバルセロナの取り組みについて、いくつか紹介する。

3-1 都市計画による多様性の設計

 バルセロナは、旧市街における観光関連業種の過度な集積と、それに伴う地域の商業モノカルチャー化を防ぐため、都市計画上の手段である特別用途計画を活用している。用途計画による商業活動の規制は1990年代初頭に始まり、2010年・2013年の改訂を経て、2018年に現行制度(「旧市街用途計画2018年版」)へと改正された。
 当初の計画は、深夜営業施設などによる公共空間の治安維持等を目的としていたが、観光の拡大とともに、観光が地域住民の生活環境に影響を与えはじめたため、地域社会の課題は「治安の管理」から「居住と観光の共存」へと変化した。
 2018年改訂版では、単に特定業種の営業を制限するのではなく、都市空間における用途の調整を主眼とする仕組みが整えられており、その目的は、都市空間の利用を調整し、住宅・商業・観光・文化といった多様な都市機能の共存を確保することとされている。
 そうした仕組みとして、2018年改訂版で新たに導入されたのが、「商業密度制限」である。これは、「飲食関連業」「娯楽・夜間営業施設(ディスコ、音楽バー、ショーを伴う飲食業等)」「観光サービス関連業(レンタサイクル、観光案内所、旅行代理業、土産物販売等)」といった特定業種が一定の度合いを超えて集中する区域では、新規営業を認めない仕組みである。具体的には、店舗の種類ごとに立地距離(半径50〜100m)を設定し、その範囲内で同業種の営業面積が一定値を超える場合、新規の営業許可を出さないと定めている。この計算は、街区単位ではなく「各店舗の正面からの距離半径」に基づき、空間的に重複するエリア単位で制度化されている点に特徴がある。また、これらの制限は住宅用途や教育・医療施設に隣接するエリアではさらに厳格化されている。
 2025年7月に初期承認された新旧市街用途計画2025では、この方向性をさらに拡張し、ネイルサロン、CBD製品販売店、携帯電話ケース・アクセサリー販売店など、低付加価値型・短期収益型の店舗について新規の営業許可の発行を停止することとしている。市はその理由として、これらの業種が旧市街の一部に過度に集中し、地域の商業多様性を損なう要因となっていることを挙げている。
 こうした用途計画は、市場経済がもたらす商業モノカルチャー化の傾向に対し、行政が政策的に介入して商業空間の多様性を維持しようとする試みである。言い換えれば、レント・ギャップ理論が示す「潜在的収益の上昇によって土地利用が一方向的に転換する動き」に対して、行政が一定の規制的枠組みによって、商業空間の多様性を守ろうとする取り組みと位置づけられる。

3-2 ボケリア市場の新たなガバナンス

 バルセロナ市では、観光によって公共空間の公共性が損なわれることを防ぐため、市場や広場といった空間の管理に新たな仕組みを導入することを検討している。その代表例が旧市街に位置するボケリア市場(Mercat de la Boqueria)である。ボケリア市場は長年「住民の台所」として住民の生活を支えてきたが、2000年代以降、観光客向けの食べ歩き商品などを提供する屋台が増え、伝統的な生鮮食品を扱う店舗が減少したことで、地元住民から「日常の買い物がしづらくなった」という声が多く寄せられるようになった。
 この問題に対応するため、商品の構成比率を定める「50:50ルール」を含む新ルールを市と市場組合が協働で企画し、2025年9月に組合員の9割以上の賛成を得て承認を得た。この新ルールは、市場全体の店舗のうち少なくとも50%は伝統的な生鮮食品(精肉・鮮魚・青果など)の販売に充てる一方、加工・調理済み食品やその場で消費される商品(食べ歩き商品など)の販売は最大でも50%に制限することとしている。これにより、観光客向け業種に偏り過ぎることを防止し、市場本来の食料品市場としての性格を維持することを目指している。
 また、市当局はこうした規制と引き換えに総額1200万ユーロ以上を市場に投じ、大規模な改修計画を進めることが決定された。この計画には老朽化した屋根の全面改修、施設設備の更新、トイレや空調の改善、外部からのアクセス動線の整備などが含まれている。これらハード面での支援策と組み合わせることで、市場組合員たちにも観光客向け販売規制の受け入れに十分なメリットを提示しているといえる。
 このような「規制と支援の組み合わせ」による市場運営モデルは、観光による経済効果を維持しつつ地域社会の共有資源としての機能を守ることを目的としている。こちらの取り組みも、言い換えれば、行政が一定の規制的枠組みによって、商業空間の多様性を守ろうとする取り組みと位置づけられる。

3-3 商業モノカルチャーと都市の個性をめぐる課題

 バルセロナのこれらの政策は、観光客向けの商業を排除するものではない。過度な商業モノカルチャーの進行は、地域の日常的な営みや固有の文化を浸食し、結果として観光の魅力そのものを損なう可能性があるため、むしろ、観光を経済の重要な要素と認めた上で、地域の商業多様性を維持する方向を目指すものである。
 このような発想は、アムステルダムやベネチアなど、観光の急激な拡大を体験している他のヨーロッパにおける観光都市にも共通して見られる。アムステルダムでは、旧市街中心部において観光関連店舗への用途転換を制限し、地域住民の生活を支える商店の維持を支援する政策が展開されている。
アムステルダムの取り組みもバルセロナと同様に、観光を否定するのではなく、過度な「観光地化」が都市の個性を奪うことを防ぐための制度的介入であり、観光を持続可能な形で地域社会に組み込む試みと捉えられる。
 こうした政策の背景には、「観光によって都市が経済的利益を得る一方で、地域に根ざした商業の多くが失われれば、その都市の魅力の根拠そのものが失われる」という共通の理解がある。この点は日本においても同様であり、多様な店舗や業態が共存することこそが、都市の文化的アイデンティティを形づくり、観光の持続可能性を支えるのではないかと思われる。

4.観光が都市を形づくる時代に

 バルセロナの例は、観光が都市の構造そのものを変える力を持ち得るところまで拡大してきたことを示している。こうした現実を前に、バルセロナ市は「観光を排除する」のではなく、「観光とともに生きる都市」をどうつくるかを政策の中心に据えてきた。PEUATや旧市街用途計画に共通するのは、市場の流れのみに委ねれば、住民の居住性や商業の多様性が失われ、結果として地域の持続可能性を毀損する可能性があるという認識に基づき、行政が市場の外部性へ対処しようとする姿勢である。
 もっとも、こうした介入は、自由な経済活動との均衡を常に問われる。宿泊施設の立地規制や建物用途の制限は、営業の自由や財産権との衝突を避けがたい。実際、バルセロナではこれらの政策をめぐって複数の訴訟が提起され、一部の条項が違法と判断された例もある。
 市はそのたびに制度設計を見直し、規制の正当性を打ち出してきた。観光と地域社会の多様な営みを共存させるためには、市場原理を制御しつつ、住民の関与を制度の内部に位置づけ、政策の正当性を絶えず更新していく政治的技術が求められるところ、バルセロナは、訴訟や対立を経ながらも、そうした技術を行政として定着させつつあると言える。
 この点は、日本における観光まちづくりにとっても重要な示唆を与える。
観光を単に経済成長の手段としてではなく、地域社会の持続性を支える要素として再定義するためには、住宅、商業、文化、公共空間といった領域を横断する政策調整が求められる。市場と公共、経済と文化等のあいだに生じる緊張をいかに制御するか、その問いに向き合うことこそ、これからの観光政策と地域経営にとって重要な視点になると思われる。

<参考文献>
○Ajuntament de Barcelona(2018). Pla d’Usos de Ciutat Vella 2018. Normes urbanístiques.
(旧市街用途計画2018年版)
https://ajuntament.barcelona.cat/ciutatvella/ca/lajuntament/informacio-administrativa/pla-dusos-2018
○Ajuntament de Barcelona(2025, July 3). Pla d’Usos de Ciutat Vella 2025( Aprovació inicial, juliol 2025).
Servei de Premsa.
(旧市街用途計画2025年 初期承認に関するプレスリリース)
https://ajuntament.barcelona.cat/premsa/2025/07/03/aprovat-inicialment-el-nou-pla-dusos-de-ciutat-vella/ 
○Ajuntament de Barcelona(2025, September 25).
El mercat de la Boqueria valida per majoria la reforma per revitalitzar-se com a mercat alimentari singular. Servei de Premsa.
(ラ・ボケリア市場改革に関するプレスリリース)
https://ajuntament.barcelona.cat/premsa/2025/09/25/el-mercat-de-la-boqueria-valida-per-majoria-la-reforma-per-revitalitzar-se-com-a-mercat-alimentari-singular/ 
○Ajuntament de Barcelona(2015). Pla Estratègic de Turisme de Barcelona 2020.
(バルセロナ観光戦略計画2020)
https://ajuntament.barcelona.cat/turisme/sites/default/files/pla_estrategic_turisme_2020_programes_actuacio_1.pdf
○Pla Especial Urbanístic d’Allotjaments Turístics(2017).
(観光宿泊施設特別都市計画, PEUAT)
https://ajuntament.barcelona.cat/pla-allotjaments-turistics/en
○観光文化265号(2024).
https://www.jtb.or.jp/book/wp-content/uploads/sites/4/2025/05/bunka265.pdf
○Associacio d’Apartaments Turistics de Barcelona HP https://apartur.com/
(バルセロナ観光アパートメント協会)
○Generalitat de Catalunya, Informe sobre el sector de l’Habitatge a Catalunya(2024)
(カタルーニャ州政府、カタルーニャにおける住宅セクターに関する報告書)
https://habitatge.gencat.cat/web/.content/home/dades/estadistiques/03_Informe_sobre_el_sector_de_l_habitatge_a_Catalunya/informe_sobre_el_sector_de_lhabitatge_a_catalunya/Informes-trimestrals/Bulleti_trimestral_2024.pdf