近年、オーバーツーリズムに関する報道が相次いでいる。特に、インバウンド観光客の数はコロナ禍前を上回り、円安の影響も相まって、有名観光地では多様な言語が飛び交い、活気を見せている。三大都市圏や京都、富士山の絶景ポイント、SNSで人気の地域には、多くの観光客が押し寄せている。
 しかし、その一方で、迷惑系ユーチューバーによる常識を逸脱した行動、騒音や混雑による地元住民の生活への影響、さらには寺社仏閣への落書きや器物破損といった問題も深刻化している。また、北海道のニセコ町や長野県の白馬村などでは、外国人による投機目的の不動産購入が進み、不動産価格の高騰により地元住民の住宅取得が困難になるケースも報告されている。
 「オーバーツーリズム」という言葉が持つ否定的な響きが広まる一方で、その実態は一様ではない。オーバーツーリズムにはトレードオフの側面があり、観光業が地元経済に恩恵をもたらしている場合、安易な各種制限の導入は慎重を期すべきである。オーバーツーリズムは宿泊施設や土産物店などを経営する観光業者にとっては経済的な恩恵が大きい一方で、日常生活を送る地元住民にとっては混雑や騒音が不快要因となる。つまり観光業から直接的な利益を得る人々と、観光客の増加による不便を感じる人々では、オーバーツーリズムに対する見方が大きく異なるのが現実である。そのため、オーバーツーリズム対策においては、対象地域の経済的、文化的、生態的かつ社会的持続可能性を見据えた観光マネジメントが必要となる。
 その上でオーバーツーリズム対策においては、いくつか論点を整理する必要がある。まず、「多すぎる観光客」という単純な訪問客数の問題ではなく、どのような観光客が、どの季節や時間帯に、どのような場所を訪れ、どのような行動をとるのかを検証することが重要である。また、オーバーツーリズムが発生している地域の特性にも着目すべきだ。例えば、静寂性が求められる寺社仏閣や自然豊かな地域におけるオーバーツーリズムと、都市部でのそれとは、その影響や意味合いが異なるため、一律の対応ではなく地域ごとの特性を考慮した対策が求められる。
 本特集号では、オーバーツーリズムへの対応事例を紹介しつつ、地域の持続可能性を踏まえた観光推進のあり方を検証する。