活動報告2

「日韓国際観光カンファレンス2025」を開催

1.概要

 2025年11月17日(月)、日韓国際観光カンファレンスを開催しました。このカンファレンスは、研究協力に関する覚書(Memorandum of Understanding on Research Cooperation、MOU)を結んでいる韓国文化観光研究院(以下、KCTI)と毎年共催しているものです。2023年に締結(更新)されたMOUにおいて、地域ワークショップの開催が追加されたため、昨年の日本・沖縄での開催に続き、今回は韓国・済州での開催となりました。
 当日は、両機関の代表挨拶後、両機関の研究員4名による研究発表と質疑応答を行いました。本稿では各研究発表の要旨を中心に、その後行われた質疑応答・ディスカッションをご紹介します。

2.各研究発表要旨

発表…❶

「地域インバウンド旅行業の現状と課題」
KCTI
アン・ヒジャ ●観光政策研究室 室長

地方観光の活性化が重要課題として浮上

 2025年の訪韓外国人観光客は1900万人以上と予想され、韓国政府は2030年までに外国人訪問客3000万人という目標を掲げている。その一方で、観光需要が首都圏(ソウル、仁川など)に偏在していることから、地方への訪問活性化が政策の重点課題である。
 また、需要側の視点では、ローカル体験に対する需要が高いリピーターのFIT(海外個人旅行者)が増加しているものの、供給側の視点では、OTA(オンライン旅行代理店)プラットフォームの影響力が拡大していることに加え、韓国の旅行業が首都圏に集中している。このことから、地域を基盤とした旅行業の育成も喫緊の課題となっている。
 このような課題に対応するため、政府は「ローカルクリエイター育成事業」を推進し、地域の旅行産業における新しい供給主体を発掘している。ローカルクリエイターは、地域の自然・文化とアイデアを結びつけ事業的価値を創出する創業者と定義されており、この事業は地域の旅行産業にとって新たな機会となっている。

事例紹介

①フライトゥゲザー(大邱市)…地方自治体と協業して、特に台湾のFITを集中して誘致している企業。アウトバウンド中心からインバウンドへと事業領域を拡大した。農村クリエイターツアー事業のような体験コンテンツを開発している。
②ジャムトリー(陰城郡)…11の産業団地、約2300以上の企業工場が位置するという陰城郡の強みを活かし、ファクトリーツアー商品を開発・運営している。また、地域内在住の外国人を観光ガイドとして養成する、外国人労働者を対象とした旅行商品を開発するなど、訪韓外国人誘致にも貢献している。
③サーフホリック(釜山市)…サーフィン用品のレンタルショップとしてスタートし、2021年に旅行業として登録。「サーフィン+宿泊」、「サーフィン+ワーケーション」などの滞在型旅行商品をパッケージ化し販売している。国内の江陵、襄陽、済州などのほか、ベトナム・ダナンにも進出し、営業の四季通年化を実現した。

地域インバウンド観光活性化の鍵

 地域が中心のインバウンド観光エコシステムを構築することが望ましく、そのためには次の4つが重要である。
①地域特化型観光コンテンツの発掘および商品企画…地域の祭りやイベント、K‒コンテンツ連携だけでなく、モビリティ領域や地域の産業と連携した観光コンテンツの開発を拡大する必要がある。
②地域インバウンド専門旅行業の育成…ローカルクリエイターだけでなく、多様な体験商品を運営する主体を法的な制度基盤に組み込み、体系的に育成する必要がある。旅行業の最も重要な要素はコンテンツ競争力であるため、地域を代表する旅行企業を発掘・支援することが重要。
③地域のインバウンド観光サービス人材の養成…地域旅行会社へのアンケートでは、人材不足が最大の課題であった。ローカル現場のサービス品質を担う人材を、地域大学と連携して専門的に養成する必要がある。
④地域インバウンド旅行産業の協力エコシステム構築…OTAの影響力が拡大している今日において、政府観光局(NTO)や地域観光組織(RTO)が旅行商品の供給者とOTAの仲介役を果たすことで、地域旅行業者が安定的に流通構造へ参入できる仕組みを構築する必要がある。また、ソウルを拠点として、例えばアンテナショップやポップアップなど、再訪問客を対象に地方都市へ誘導するネットワークを拡大する事業も重要である。

発表…❷

「観光財源の導入と活用」
JTBF
蛯澤俊典 ●主任研究員

安定的かつ多様な財源確保のための宿泊税

 訪日外国人旅行市場の成長は、日本経済に多大な恩恵をもたらす一方で、首都圏をはじめとする特定の観光地や都市部に観光客が集中し、地方部における課題を顕在化させた。これに伴い、地域の生活環境の維持や受入環境の改善に向けた財源確保が必要になっている。
 現在、主に検討されている観光財源のタイプは、宿泊税や観光税などの課税、入域料や環境保全協力金などの負担金、そして国際観光旅客税のような賦課金の三つに大別される。そのうち日本で先行しているのが、地方自治体による宿泊税である。宿泊税が導入されている理由には、日本ではこれまでに入湯税があり、宿泊施設で徴収するスキームができあがっていたこと、また、海外の事例から安定した税収につながると明らかだったことがある。
 宿泊税の導入に際しては、次の4つのポイントがある。
①制度設計の明確化…課税対象・税率のわかりやすさや、公平性の確保、徴収ルートの簡便化に注力する必要がある。
②使途の透明性と説明責任…税収を「何に使うか」を明確にして説明するべきである。また、将来を見据えて一般財源に組み込まない戦略性が求められる。
③住民・事業者との合意形成…宿泊事業者の理解・協力が不可欠であり、宿泊事業者から使途などについて意見が出てくるボトムアップの体制が重要。
④国際的競争力への配慮…周辺地域や海外都市と税制や使途について比較・検討する。また税額や税率は地域の観光ブランド価値と連動させる。

事例紹介

①倶知安町…日本で唯一、宿泊料金に応じて課税する「定率制」の宿泊税(現在は2%、来年からは3%に増税予定)を採用している。集められた税金は、道路のロードヒーティングや、宿泊者向けのシャトルバス運行など、住民にもメリットがあるインフラ整備に充てられている。
②福岡市…宿泊税の税収は受入環境整備や魅力向上のために使用しており、市民に報告する媒体を保持しており、使途の見える化が徹底されている。

当財団の新たな観光地経営に向けた研究活動

 当財団では、客観的な課題分析のためのデータ基盤の構築、確保した財源を元にした人材確保・育成、合意形成のための協議の場の開催の3点から、観光地域をマネジメントできる仕組みの導入を進めている。また、観光におけるデータ基盤として、当財団のこれまでの調査・研究結果をダッシュボード化し、一般公開を行っている。

発表…❸

近年の訪日外国人旅行市場の動向
JTBF
柿島あかね ●上席主任研究員

市場概況と需要構造

 日本のインバウンド市場は、コロナ禍による落ち込みを経て、2024年には2019年を上回る過去最高の3687万人を記録した。需要層の構成を見ると、2024年は東アジアが約66・5%を占めており、コロナ禍前の2019年と近い構成比になっている。特に韓国市場は、コロナ禍後のインバウンド市場の回復を初期から牽引し、2023〜2024年には国・地域別で1位となった。

 旅行消費額も2024年に過去最高の8・1兆円を記録し、自動車産業に次ぐ第2位の輸出産業に成長した。また、1人あたり旅行支出もコロナ禍以降20万円台と高く推移している。旅行消費額の約55%が東アジアで構成され、特に中国は人数も多く、1人1回あたり旅行消費単価も高いため、インバウンド旅行消費額への寄与が非常に大きい市場と捉えられる。

好調の要因とリスク

 インバウンド市場の好調を支えている要因は、①円安、②免税・決済環境の強化、③国際線の供給回復、④クルーズ受入再開と寄港地拡大である。
 特に①主要通貨に対して概ね20%から40%程度の円安が進行しており、外国人旅行者にとって日本でのショッピングや滞在費が割安に感じられていることが、旅行支出の増加につながっている。
 加えて、Visit Japan Web の導入をはじめ入国・ビザ取得の利便性が向上しているほか、都市部を中心に高付加価値宿泊施設が相次いで開業し、高付加価値旅行者の受入環境が整備されてきており、政策も量から質重視に移行していることも、訪日インバウンド好調の要因に挙げられる。
 市場が好調な一方で、①オーバーツーリズム、②交通・受入容量の制約、③人手不足、④為替への依存、がリスク・課題である。
 ①オーバーツーリズムや②交通・受入容量の制約に対しては、例えば京都市での混雑状況をリアルタイムで可視化し誘導するマップの導入や、国土交通省によるバス事業者への運行効率化支援などが進められている。また、混雑回避や訪問したことがない地域への関心の高まりから、韓国人旅行者の間では〝小都市〞需要が高まっている。

今後のインバウンド観光の方向性

 これらの現状と課題を踏まえ、今後のインバウンド観光の方向性として、質を重視した成長(高付加価値化)、需要分散と容量の最適化の推進、技術導入による人手不足の解消、人材育成強化が考えられる。
 現在の好調は円安に大きく依存しているため、為替変動リスクに対応できる高付加価値な旅行商品(例:ラグジュアリー観光列車など)の開発が求められている。また、需要が増加しても賃金や働き方が変わらないため、良い人材が集まらない状況がある。この対策として、業務の標準化、デジタル化、および「利益につながる料金・商品」への転換を進め、少ない人数でも回せる仕組みへのシフトが必要とされている。

発表…❹

「2030観光トレンドの展望」
KCTI
キム・ヒョンジュ●上級研究委員

トレンド構造の変化とAIの影響

 KCTIが継続して行っている観光トレンド研究の最新の調査から、需要領域のトレンドの変化では、超高齢化社会の深刻化やZ世代・α世代の台頭、体験・価値重視の消費文化の拡散、ワークライフバランスを重視する価値観への変化などが、供給領域では、ウェルネス、食、レジャースポーツなどを融合した観光の登場、AIエージェンティック機能の強化による技術革新の加速、気候変動とネオ・ローカリティ時代における地域観光の転換などが挙げられた。
 伝統的に、観光は需要から供給への一方通行的な構造があるとされていたが、今回のトレンド研究では、観光産業や地域観光といった供給領域で発生する政策が、逆に市場を変化させているという双方向的な作用が大きくなっていることが把握された。

『未知の未来、旅のリアルライン、
「Travel in Flux × Realign」』

 今回の研究から、観光トレンドは変化の予測が難しい時代が訪れると考え、スローガンを『未知の未来、旅のリアルライン、「Travel in Flux × Realign」』とした。2030観光トレンドは、大きく7つのトレンドに分けられる。

●トレンド1…インスピレーション旅行のリアライジング〈Realizing〉:Z世代からGG(Gold Grey)世代まで
 世代別の旅行の楽しみ方に注目したトレンドで、「自分だけのインスピレーションから旅行の動機を得て、現実の条件に合わせて旅行のロマンを積極的に実現しようとする」傾向を指す。
●トレンド2…没入型の経験旅行:コンテンツ、スポーツ、リジェネレーション
 旅行の動機が典型的なランドマーク訪問ではなく、日常的な趣向のコンテンツへと拡大する。例えば、アニメのファンがジブリパークを訪問したり、有名スポーツ選手のファンが試合のある地域を訪問したり、旅行地でラン・トリップ(Run trip)を楽しんだりする。
●トレンド3…旅行市場、Fog(霧)時代(混迷の時代)のレジリエンス
 超高齢社会や週4・5日労働制といった変化が観光市場の需要変化にどのような影響を及ぼすか注目が必要である。
●トレンド4…エージェンティックAIが切り拓く観光の新時代
 AIはインタラクション・サービス機能を中心とした消費市場の高度化、グローバルOTAを中心としたAI技術の革新、そして労働市場では技術代替と新規職種の出現という、3つの側面から影響がある。
●トレンド5…気候変動時代の旅、認識と実践のギャップ
 カーボンニュートラルの旅行は発現程度と持続性が最も低いと分析されているが、観光税や環境負担金が課される中で、気候変動に脆弱な観光地への選好変化がどのように表れるかを注視する必要がある。
●トレンド6…国際観光、開放の時代と見えない壁と解放の共存
 国際観光市場の変化が自国の消費市場に影響を及ぼす主要な領域になっている。中国でのビザ緩和のような障壁撤廃と同時に、ETA(電子渡航認証)のような新たな障壁が発生している状況があり、外交的な紛争によってインバウンド市場が一時的に落ち込むこともあり得る。
●トレンド7…地域が主導するネオローカリズム観光
 地域固有の価値と文化を重視するネオローカリズムの拡散。特に、韓国アウトバウンドなど海外旅行を牽引する主要な要因には、日本の小都市の固有の文化を楽しもうとする需要があることが確認されている。

 特にAIを基盤とした旅行プラットフォームの高度化や、Z世代が主導する旅行需要の再編、週4・5日労働制による短期旅行の日常化などが、影響力が大きく変化の速いトレンドとして挙げられる。

3.質疑応答・ディスカッション

 主に行われたディスカッションには、以下のものが挙げられる。

●観光トレンド研究の調査・分析手法

 韓国の観光トレンド展望研究は、多角的なアプローチで実施されている。
 まず、メディアを用いたテキストマイニングによって最近の市場の変化を分析し、その内容を基に40名程度の専門家の意見からキーワードを抽出する。専門家による調査だけでは把握しきれない部分については、約1000人の国民を対象としたアンケート調査を実施し、実際の旅行意識の変化を展望するための根拠資料を確保している。
 また、旅行経験があるグループとないグループに分けた調査も実施しているほか、トレンドを展望するにあたっては、主要機関が展望したデータも根拠資料として分析に活用されている。

●宿泊税導入における事業者連携の障壁と対応策、または導入の法的根拠

 宿泊税の導入における価格競争力の低下という論点は、韓国の地方都市における観光客誘致の課題とも共通している。日本でも、特に民泊業やビジネスホテルなど価格競争力が重要な分野の事業者は、宿泊税の導入で料金が上がり、観光客が来なくなることを懸念している。
 この懸念に対して、日本では、例えば、一泊1万円以下の宿泊者に対しては課税しないといった、免税点を設けることで、低価格帯の宿泊施設の懸念を一部解消し、主に高価格帯の宿泊施設が集まる都市部で税収を確保しやすくしている。しかし、中には物価上昇に伴い宿泊費も上げるべきだが、免税点によって価格を上げられない状況が生まれ、地域経済発展の足かせになるというリスクに関する指摘も存在する。
 また、韓国と日本の税制には、法定外税(法律に定めがない地方税)の扱いに関して重要な相違点がある。
 韓国では、租税法律主義に基づき、法律に定められていない税金は条例で徴収できないと明確に定められている。
 一方、日本では、原則として韓国と同様に法律に基づくことが求められるが、歴史的経緯から、例外的に法定外税を地方自治体が条例で独自に徴収できる制度が存在する。現在、宿泊税は、この法定外税の一つとして、地方自治体が総務大臣に導入目的を申請し、それが妥当であると承認された場合にのみ導入できる仕組みになっている。

●地方観光を支えるモビリティ政策の課題

 韓国の地方観光活性化における主要な障害の一つが、地方空港やターミナル駅から主要観光地への連結交通が劣悪であることである。日本も同様に地方交通の問題に苦慮し、様々な試行錯誤を経ている状況にある。
 日本の地域交通における課題解決策の一つとして、GTFS(General Transit Feed Specification)と呼ばれる公共交通のオープンデータ規格の活用が進んでいる。
 バス事業者や地方自治体が、時刻表、経路、停留所といった詳細な運行情報をGTFS形式で作成・公開すると、Google マップなどの各種ナビゲーションサービスに取り込まれ、利用者に提供される仕組みである。
 岐阜県中津川市の事例では、GTFSデータがGoogle マップに反映されることで、外国人が自国語で容易に目的地までの経路を検索し、公共交通を利用して自発的に訪問できるようになった。また、バス事業者は利用客の増加により、路線の収益が改善し、経済的恩恵が生まれている。併せて、地域住民にとっては、利用者が増えたことで、不可欠な公共交通網が維持され、三方よしの取り組みとなっている。

4.おわりに

 カンファレンスの前後には、エクスカーションとして、「城山日出峰ソンサンイルチュルボン」、「光のバンカー」を訪問しました。
 ユネスコ世界自然遺産に登録されている城山日出峰は、マグマが水中で噴出して形成された火山体で、波や海流に浸食されてできた景観が特徴的でした。頂上へ登る有料の登山道と、周辺を散策する無料の区間が整備されていました。また、海辺では海女さんが朝獲ったばかりのアワビを提供してくれる施設もありました。
 「光のバンカー」は、かつて国の基幹通信施設だった建物を、民間事業者が没入型メディアアートプロジェクトとして再活用している施設です。近年のトレンドであるイマーシブ体験の施設であり、西洋美術以外にも韓国の作品も体験・鑑賞することができました。
 3日間の行程を通し、カンファレンスやエクスカーション以外でも日韓の研究者間で積極的な意見交換や交流が行われ、大変有意義な時間となりました。
 今後も日本と韓国の観光に係わる類似点、相違点をお互いに理解し、信頼関係を構築することで、両国の観光文化の発展に努めてまいります。
(文:JTBF・川口雪衣)