観光研究最前線
新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向5
JTBF旅行実態調査結果より

 公益財団法人日本交通公社では、新型コロナウイルス感染症の流行が旅行市場に及ぼした影響把握を目的に、定期的に実施している「JTBF旅行実態調査」の調査内容を拡充し、分析を進めている。今回は、2020年から2021年の2年間の観光・レクリエーション旅行(以下、観光旅行)の実施状況及び旅行実態、今後の旅行予定・意向をとりまとめて紹介する。

1.2020年から2021年の旅行実施状況

 まず、2年間の観光旅行を感染拡大の時期とともに振り返る(図表1)。20年2月上旬のクルーズ船での集団感染以降、全国一斉休校要請、専門家会議による3密回避提言などが続き、第1波下(20年3〜5月)にはコロナ禍によって8割程度が国内旅行をとりやめた。第2波下(20年7〜8月)ではとりやめは徐々に減少したものの、第3波下(20年11月〜21年2月)では3割から7割まで再び急増した。その後の第4波下(21年3〜6月)・第5波下(21年7〜9月)では、第3波下より感染者数が多かったにも関わらず、その割合は5割程度にとどまった。そして、第5波が落ち着きをみせた21年11月には「予定通り実施した旅行があった」と回答した割合が7割程度まで回復し、20年1月に迫る実施率となった。一方で、海外旅行のとりやめは、第1波下の20年4月をピークに徐々に減少し、21年1月以降は8割前後で推移した。その後、比較的発生状況が落ち着いていた21年11〜12月にはさらに減少し、7割程度となった。

 旅行をとりやめた理由については、国内旅行・海外旅行ともに、2年間を通して「自分自身の感染リスク回避」がトップとなった(図表2)。国内旅行の「自粛要請」を理由としたとりやめは、主に緊急事態宣言の発出やまん延防止等重点措置が適用された時期(20年4〜5月、21年1〜9月)に高まった。海外旅行は、国内旅行に比べて「旅行先の受入制限」や「現地までの交通制限」が多く挙げられたが、20年と比較して徐々に減少している。

2.2020年から2021年の国内旅行の実態

 ここではコロナ禍中に実施した国内宿泊観光旅行についてみていく。
 コロナ禍によって国内旅行予定に変更が生じた割合は、20〜21年を通して感染拡大期に増加した(図表3)。しかしながら、その割合は第3波下では2割程度、第4波下では2割弱、第5波下では1.5割〜2割弱と徐々に減少している。さらに、比較的感染状況が落ち着いていた21年11月以降には1割未満となり、感染拡大前の20年1月と同水準にまで戻っている。

 では、どのような変更が行われたのか。コロナ禍の影響で変更した国内旅行の内容は、ほぼすべての月で「活動内容・訪問先」の変更が最多となった(図表4)。一方、20年8月・21年9月は「旅行先(国内→国内)」の変更が最も多く、夏休みを利用した比較的遠方への旅行から近隣の旅行への変更が多かったと推測される。

 また、コロナ禍は、旅行にあたっての心理や行動にも影響を及ぼしている。コロナ禍での国内旅行実施にあたっての気持ちは、20年4月から21年8月まで(21年6月除く)は「心配しても仕方がない」が最多であったが、21年10月以降、「新型コロナに対する不安は感じない」が最多となった(図表5)。また、21年度調査より追加した「全国的なワクチン接種が始まっているので問題ない」は、ワクチン接種率の高まりにあわせて増加し、21年12月には1.5割となった。一方で、「旅行して良いのか迷った」は、21年8月以降、徐々に減少し、21年11月以降は1割未満で推移している。

 国内旅行に行った感想は、21年上半期には「混雑がなく快適」が最も高かったが、21年7月以降その割合は減少した(図表6)。一方で、21年1〜9月は3割前後で推移していた「コロナ禍前と特段変わらない」は、21年10月以降、徐々に増加し、12月には4割に迫る割合で最多となった。また、「想定より混雑」は、20年10月〜21年10月は、1割程度だったものの、徐々に増加し、21年12月には2.5割程度まで増加した。旅行者も観光地に賑わいが戻りつつあることを実感している。

 国内旅行中のコロナ対策は、20〜21年を通じて「マスクの着用」が最も高く、20年7月以降は9.5割前後で推移した(図表7)。「設置されているアルコール除菌の励行・徹底」も21年を通して7割以上で推移している。しかしながら、20年12月と21年12月を比較すると、「その他」以外のすべての項目で実施率が低下しており、特に「ソーシャルディスタンスの確保」の実施率は、20ポイント減と大幅に減少した。

3.今後の旅行予定・意向

 最後に、今後の旅行の予定についてみていく。まず、この先3ヶ月間に「旅行意向あり」と回答した割合は、感染者数が減少傾向にあった21年10月には5割を超えたものの、再び感染者数が増加傾向にあった22年1月には4.5割弱に減少した(図表8)。「国内宿泊旅行をいまのところ実施予定」は、20年10月にかけて増加したが、緊急事態宣言下の21年1月・5月では0.5割を下回った。しかしながら、その後の沖縄県の緊急事態宣言下・東京都含む10都道府県のまん延防止等重点措置下にあった21年7月、3回目の全国的な緊急事態宣言が解除された直後に実施した21年10月には1割を超えた。第6波の兆候が見え始めた22年1月は微減したものの、前年同月を上回ったことから、直近の旅行意向に緊急事態宣言の影響が小さくなってきたと考えられる。

 では、コロナ禍収束後の旅行意向はどうだろうか(図表9)。「これまで以上に旅行に行きたい」は、21年1月以降は2割以上で推移し、突如コロナ禍と対峙することになった20年より高まった。さらにその割合は、22年1月には2.5割を超え、調査開始以降、最も高い割合となった。一方、同時期の〝旅行に行きたくない層〞は6.9%となり、これまでで最も低い割合となった。長引くコロナ禍において、旅行意向は高まりをみせている。

 2年間分の調査結果を通じて、コロナ禍の旅行で変わること・変わらないことが徐々に見えてきた。今後、旅行消費需要の増加やアウトバウンド市場の回復によって、今までとは異なる旅行への影響や、旅行中の心理・行動、そして旅行意向に変化が起こることも考えられる。引き続き、今後の動向に注目していきたい。

公益財団法人日本交通公社 観光文化振興部 研究員
仲 七重
観光文化振興部 企画室長 上席主任研究員
五木田玲子