- 古書ギャラリー
「紀行(文)」とは、旅行中の体験・見聞・感想などを書きつづった 文章のことで(『デジタル大辞泉』より)、旅行記、道中記などともいわれます。日本にも名高い紀行文は古くからあり、平安時代の『更科日記』、江戸時代では浅井了意の『東海道名所記』、貝原益軒の『西北紀行』、太田南畝の『改元紀行』などが有名です。さらに明治・大正の時代には、幸田露伴、大町桂月、田山花袋といった数多くの作家、歌人、詩人、評論家、随筆家などが多くの紀行文を残し名作も少なくありません。
中でも『蒲団』『田舎教師』などの作品で知られ、自然主義派を代表する作家の一人である田山花袋は、博文館の『新撰名勝地誌』全12巻の監修や多数の温泉本の執筆などを行い、『山行水行』など優れた紀行文も数多く残しています。全国を自ら巡り、それをもとにした花袋の作品は、名所の紹介にとどまらず、多くの庶民の旅心を誘う魅力を持っており、旅の案内書としても優れたものでした。
また花袋は、明治期の多くの作家の紀行文にも精通していました。『明治紀行文學集:明治文學全集,94』(筑摩書房,1974)に収録されている「現代の紀行文」(明治44年12月博文館刊『花袋文話』所収)で花袋は、紀行文を「叙事抒情の旅に関したもの」、「作者の一人称で旅行を書いたもの」、「旅行中見聞したものを記する文章」であるとし、4つの種類-(1)旅行を其のまま書いたもの、(2)やや案内記の臭味を帯びたもの、(3)自己の抒情を以て主としたもの、(4)地理的探検に旅行の趣味を加えたようなもの-に区別し、代表的な作家とその作品を解説しています。中でも花袋は、(2)のような抒情すぎず、天然(見聞したもの)を記し一般の旅行者の伴侶となるような紀行文を特に高く評価しています。
本企画展では、旅の案内記の先駆者であり紀行文の名手であった田山花袋の作品と、彼の眼を通した明治期の作家たちの紀行文を紹介します。
概要
期間 | 2021年1~3月 |
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場所 | 1F古書ギャラリー |
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