旅の図書館では毎回テーマに沿った館内展示を行なっています。
B1 ウォールにて「観光研究部からのオススメ図書」を展示中です
公益財団法人日本交通公社 観光研究部からのオススメ図書
「旅の図書館」は観光文化をテーマとする専門図書館として多くのお客様にご来館いただいていますが、特に大学生の皆さんには積極的にご利用いただいております。
図書館は観光研究部とも連携してより利便性の高い機能・サービスの提供に努めていく予定ですが、その一環として、このたび観光研究部の研究員が、観光について学ぼうとする大学生の皆さんを対象にオススメの一冊を選定いたしました。
<選定されたおススメ図書>
基本編:これから観光について学ぼうとする大学生の皆さんへの入門編として20冊
応用編:各研究員の研究領域を含めて、少し専門性の高い応用編として17冊
*旅の図書館では、基本編、応用編の全37冊を館内にて展示しています。是非、ご来館ください。
期間 |
2024年6月~ |
場所 |
B1ウォール |
展示図書一覧 |
<基本編>
『エコミュージアムへの旅』大原一興、鹿島出版会、1999
エコミュージアムは、「地域環境全体を博物館と見立てた」概念であり、「従来型のように博物館の建物内に場を限定せず、ある地域の一定の[領域]において、そこに点在する[遺産]や無形の[記憶]を対象として、従来型博物館では[専門家]と[公衆]によって担われている役目を、エコミュージアムでは地域[住民]が担う」という特徴を有する(かっこ内は本書からの引用)。
大学で建築学(テーマ:博物館建築の計画手法)を学んでいた推薦者は、当時この考え方に触れたことで、計画すべき対象の関心が「建築」から「地域」に移った(ちなみに、本書の著者は推薦者の大学時代の恩師)。博物館学という観光以外の分野からのアプローチであるが、地域資源と住民の関係性などは観光(観光まちづくり)を学ぶ学生にとっても、参考にし得る部分は多いのではないだろうか。
『ようこそ日本へ1920-30年代のツーリズムとデザイン』東京国立近代美術館、2016
コロナ禍が明けてインバウンドに再び注目が集まっているが、戦前に展開していたインバウンドへの取組とは。当時のキャンペーンポスターなどを通じて、その歩みを知ることができる。
『沖縄観光進化論』下地芳郎、琉球書房、2012
沖縄の観光振興に行政職員としても深く関わってきた著者が、沖縄観光の過去からインバウンドブーム前夜の2010年代前半までを振り返り、解説している。沖縄で観光を学ぶ人間はもちろん、沖縄観光をケースとして捉える上でも、沖縄観光の歴史を大局的に理解することのできる良著。
『河童が覗いたヨーロッパ (新潮文庫)』妹尾河童、新潮社、1983
「読みもの」ということなので少しくだけた一冊にしました。私が旅行に関心を持つきっかけとなったうちのひとつが本書です。筆者がヨーロッパ22か国を周遊する中で見つけた、国民性や物価の違い、気候による建物の造りの違いなどが独特なイラストで魅力豊かに描かれています。単に読みものとして気楽に読めるだけでなく、旅行の魅力や楽しみ方を知ることができる一冊です。
『玉造温泉の奇跡 観光ブランディング入門』角幸治、GOEN出版、2021
温泉街の再生過程が一つの読み物(物語)としてまとめられており、読みやすい。また、まだ、地方部での観光振興に携わることへの具体的イメージを持つのに役立つのではないかと思います。
『観光地経営でめざす地方創生 インバウンド獲得の司令塔となる世界水準DMOとは』
原忠之、柴田書店、2024
国内のDMOはまだまだ発展途上にある中、世界の最先端をいくアメリカを中心とした観光地経営の理念やビジョン、取り組みの詳細がわかります。
『まちづくりの発想(岩波新書)』田村明、岩波書店、1987
『まちづくりの実践(岩波新書)』田村明、岩波書店、1999
『まちづくりと景観(岩波新書)』田村明、岩波書店、2005
なぜ「まちづくり」は平仮名で書くのでしょうか?
「まちづくり」という言葉の頭にはあらゆる名詞が付けられ、今日では「観光」に限らず多くの「○○まちづくり」で溢れています。
著者は横浜市職員として都市づくりを推進してきた都市プランナーで、「まちづくり」の理念を提唱された方です。
本書では、市民によるまちづくりについて、各地の事例を交えながら紹介されています。約20~40年前に発刊された古い本ですが、まちづくりの理念は決して色褪せるものではないと思います。
観光分野に限らず、まちづくりに携わりたいと思っている皆さんに是非読んで(そして実践して)頂きたい「まちづくり3部作」です。
『「ツーリストシップ」で、旅先から好かれる人になってみませんか』田中千恵子、ごま書房新社、2023
スポーツマンにスポーツシップがあるように、ツーリストにもツーリストシップがあってもいいのでは。オーバーツーリズムに苦悩する京都で、みなさんと同じ大学生(当時)が考え、実践する中で導き出したのが、住む人・訪れる人・働く人、観光地に集う 全ての人が意識したい心構え「ツーリストシップ」である。旅先へ配慮したり、貢献しながら、交流を楽しむ。その次はホストとして、訪れる人に声をかけたり、おもてなしをし、地元で喜ばれるツーリストシップを伝える。地域の観光の現場で起きている問題現象を地域=ホスト、旅行者=ゲストという固定的な見方や、観光による加害者-被害者という構図で捉えるのではなく、旅行者側の意識、行動を起点にしていること、その上で受け入れ側としての心構えまでを含めて“一人の人間”の視点から組み立て望ましい観光社会のあり方を提起していること。ここが旅行者のマナーやモラル等を問う「責任ある観光(旅行者)」に関する他の議論と一線を画す。学生の早い時期にこう視点を養うことが、未来の豊かな観光文化を育む第一歩となる。
『文化立国論 日本のソフトパワーの底力 (ちくま新書)』青柳正規、筑摩書房、2015
文化のチカラが果たす未来志向の役割やその可能性についてわかり易く書かれた1冊です。海外や日本の文化政策からそれぞれの国では文化をどのように捉えているか違いも見えてきます。また、日本は身近に文化が存在することで、ついつい「当たり前」のものとしてその価値に気づかないまま見過ごしていることにも気づきます。日本人が身近な文化を見直し、海外からくる外国人の方々にその素晴らしさを伝えていけるようになると良いのではないかと思いました。観光業に携わる方や観光政策に携わる方に読んでもらいたい本です。
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』
森岡毅、KADOKAWA、2016
低迷していたテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の業績をV字回復させた
のは徹底した「マーケティング思考」だった。敏腕マーケターとして知られる森岡毅さんの
一冊。マーケティング初心者にも読みやすく、観光を学ぶ学生にオススメです。
『まちの見方・調べ方 地域づくりのための調査法入門』西村幸夫 野澤康 編、朝倉書店、2010
観光地域づくりを行うためには、まずは地域の現状を多面的に把握することが重要となります。どのように地域を把握するかについての様々な調査の手法と実施例が整理されており、地域分析を行うための必須事項を知る、有用な一冊と思います。
『地元経済を創りなおす (岩波新書)』枝廣淳子、岩波書店、2018
どうすれば地域経済を活性化できるか?という課題意識をもつひとにとっての、地域経済の入門書です。筆者自身がかかわっている地域の事例を中心にわかりやすく解説されています。
『まちづくり構造改革 地域経済構造をデザインする』中村良平、日本加除出版、2014
特に観光地域づくりという観点から。地域の社会・経済的な構造を俯瞰的体系的に学べる書籍だと思います。
『寺田寅彦随筆集 第1巻~第5巻 改版 (岩波文庫)』寺田寅彦 著、小宮豊隆 編、岩波書店、1963-64
寺田寅彦は東京帝国大学に籍を置いた物理学者である。地震や津波に関する著者の言説はメディアで定期的に取り上げられるため、防災・地震学者のイメージを抱く人もあるかもしれない。
一方で、著者は俳諧、絵画、音楽などに深く親しむ芸術の人でもあった。こと文学については旧制高校時代より夏目漱石の薫陶を受け、生涯にわたって多数の随筆を残しているが、その中には旅行に関する小品がいくつも含まれている。
『軽井沢』『沓掛より』『高原』『あひると猿』には、定宿であったらしい信州の星野温泉への避暑旅行が綴られている。『東上記』は、帝大への進学にあたって上京する青年の、瑞々しい旅行記である。『旅日記から』『異郷』『チューインガム』では、欧州への留学とその途上における、種々の情景をうかがうことができる。『どんぐり』で描写されるのはごく小さな旅行であるが、そこには既に著者の追憶となった、乾いた喪失の悲しみがある。『札幌まで』のやや淡々とした筆致からは、現代にも通ずる出張旅行の雰囲気が感じられる。『箱根熱海バス紀行』における家族旅行の様子は、対照的にいかにも楽しげである。都会の喧騒を離れて足を伸ばした『伊香保』での道中の所在なさや、同じ旅館に投宿した団体旅行客の賑わいを苦々しく、それでいて完全に無視するでもなく、時に面白そうに描写するまなざしには、共感を覚えなくもない。
以上は一部を挙げたのみであるが、寺田寅彦の随筆は、それが旅行について記した作品に限らず、自然や気象を扱ったものであってなお、不思議な旅情を惹起する。そのエッセンスについて、(著者自身が自覚的であったかは不明だが)『案内者』がヒントを提示しているように思われる。同作の本題は科学における知識の案内者であるが、旅行案内(者)の役割や被案内者のふるまいにも紙幅が割かれており、本題に至る前段と片付けるには惜しい、示唆に富む指摘もみられる。
単なる旅行者としてではなく、観光(の専門家)という文脈において地域との関係を取り結ぶとき、我々は被案内者としてふるまうこともあれば、一端の案内者として計画や目標に携わることもある。あるいは同作にいう「案内者などのやっかいにならない風来の田舎者」として「未知の扉にぶつかってこれを開く」ことを期待されることもある。求めに応じて遷移する仕事上の役割において、無感覚な案内者となっていないか、盲従する被案内者となっていないか、そういった自戒を抽出することは、少なくとも無益ではないはずだ。
「選書」の体裁上、書籍として出版されている図書名を挙げたが、寺田寅彦の著作はその殆どがパブリックドメインとして、web上に公開されている。入手はたやすく、また小題等での検索も可能であるので、紙の本に特段のこだわりがないのであれば、それらを活用するのがよい。
『観光の社会心理学 ひと、こと、もの 3つの視点から』前田勇 佐々木土師二 監修 小口孝司 編、北大路書房、2006
社会心理学の視点から観光をとらえた本。章ごとにテーマが違うので、興味のある部分から読み始めてもよい。章ごとにまとめられた引用文献も参考になる。
『まちをひらく技術 建物・暮らし・なりわい 地域資源の一斉公開』オープンシティ研究会 岡村祐 ほか著、学芸出版社、2017
地域の建築、庭、工場、スタジオ、文化遺産などの資源を一斉公開する試みである「オープンシティ・プログラム」について、国内外22事例の紹介を交えながらその意義や効果を論じています。それぞれの事例はどれも特徴的で興味深く、地域の人々にとってあたりまえとなっている資源も磨き上げれば観光対象となり得るのだということにはっとします。これを読めば、自分自身が暮らすまちを見る目線も変わるかもしれません。
『現代観光学 ツーリズムから「いま」がみえる』遠藤英樹 ほか編著、新曜社、2019
この図書は主に社会学の視点から観光についての主要なトピックを紹介している。図書の前半部分では、数ページほどの短い章でポストモダンや真正性、パフォーマンス、モビリティ、植民地主義の問題など、ともすればとっつきにくい人文社会学の議論を観光の視点から簡潔に解説する。また後半では、こうした理論を踏まえたうえで、国内外の観光地の事例が紹介される。これから観光研究に取り組む学生には社会学や人類学の知見を取り入れる手引きとして、すでに社会学などの関連分野を学んでいる学生にとっては観光いう視点から新たな刺激をもたらす図書として、大変有益な一冊である。
『ゆふいん大航海時代の幕開け』由布院の百年・編集サロン 編、日本旅館協会由布院連絡会、2021
由布院は、観光まちづくりの成功例として語られることが多い。本書は、観光地としての由布院の基礎を作り上げた溝口薫平氏・中谷健太郎氏らを中心とした関係者の座談会を記録したものである。彼らが由布院のまちづくりに取り組んだ背景や思いが伝わる一冊となっている。
<応用編>
『Contemporary destination governance : a case study approach』Harald Pechlaner, PietroBeritelli ほか編、Emerald Publishing、2015
推薦者が、ここ数年関心を持っているキーワードが「ガバナンス」である。ガバナンスとは様々な定義がなされているが、総合すると「多様な関係者の存在と不確実性を背景とした、関係者間の意思決定や合意形成に関わる概念」であると言える。この「関係者間の意思決定や合意形成」は、観光地で物事を進めるためにあらゆる場面で常に行われており、だからこそ今日的な状況を踏まえた概念整理と実践への応用が必要になると考えるのである。実際の意思決定や合意形成の背景となる状況は千差万別で理論化しうるものではないのかもしれないが、その中でも何かしらの共通項は見いだせるとよい。本書はそのような関心に応えるべく、欧州(チロル地方中心)の観光地における様々なガバナンスの様相を記述したケーススタディ集である。
『自然保護と利用のアンケート調査 公園管理・野生動物・観光のための社会調査ハンドブック』愛甲哲也 庄子康 栗山浩一 編、築地書館、2016
主に国立公園などの自然地域をフィールドとした社会調査の必要性や手法等について解説。調査設計から集計・分析まで具体的な考え方が示されており、事例も豊富。
『地球の未来のため僕が決断したこと』ビル・ゲイツ 著 山田文 訳、早川書房、2021
マイクロソフト社を創業したビル・ゲイツによる20年ぶりの著書。気候変動の解決に向けて、取り組まなくてはならない理由と現在利用可能なテクノロジー、そして国・企業・個人が取り組めることについて、エネルギッシュに論じた本。サステナブルな社会の実現に向けた勇気をもらえる。
『観光旅行の心理学』佐々木土師二、北大路書房、2007
旅行動機については長年研究がされてきている分野のひとつです。研究を行うにあたっては、最新の理論だけではなく既往研究を踏まえた上で行うことが求められますが、本書は1980年代から2000年代の旅行動機についての国内外の既往研究を整理してまとめされている日本語の書籍として大変有用であり、旅行者側の研究を行いたい学生にはぜひ一読していただきたい一冊です。参考文献も多く記載されているので、本書を足掛かりとして他の論文を読み進めていける点でも最初に読む書籍としておすすめします。
『Destination marketing : essentials 3rd edition』Steven Pike、Routledge、2021
デスティネーションマーケティングに関する研究や事例の基礎を抑えるのに適している一冊。目次だてが分かりやすく、研究(や業務)の必要に応じて辞書的に活用することも可能。また、参考文献リストに豊富に論文が掲載されているので、既存研究整理にも活用できます。
『DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門』榊󠄀淳、翔泳社、2024
データに基づいた取り組みとはどういうことなのか、極めて実践的な内容が書かれており、これから観光に進む方にも必見な内容です。
『まちづくり都市 金沢 (岩波新書)』山出保、岩波書店、2018
5期20年間、金沢市長を勤め、国の「観光に関する懇談会」(2008年)等で、まちづくりの立場から観光の“負の側面”にも警鐘を鳴らした山出保氏は、まちづくりを常に「まちのあり方」を求め続ける“自治”の領域とし、金沢を「まちづくり都市」という成語で表現した。そして、観光に関わる全ての関係者に節度「自制の論理」が必要と述べた。
まちづくり分野の図書は、事例や手法論ないし活動論に集中している(図書『金沢らしさ』での他の識者の指摘)。かたや、経営やマーケティング分野に目を向けると、戦略フレーム等に関する図書が数多く発刊されているが、両者のいずれも、その理念、あり方自体を正面から扱うものは数少ない。それは「観光まちづくり」を扱う各種図書においても同様である。
時間と対話を積み重ね、創意を連ねてきた「まちづくり都市 金沢」のリーダーの哲学と事跡を頼りにまちのあり方を考えてみることが、上記を縫合する観光の未来のあり方を考えることにも繋がると思われる。
『生きている文化遺産と観光』藤木庸介 編著、学芸出版社、2010
観光開発と文化遺産保護をめぐる地域振興の現状は難しい局面に立たされているという観点から、日本のみならずタイ、インド、中国など世界の取組みにも目を向け事例が11件紹介されています。ネガティヴな側面も含めた具体事例となり現状や課題感などが良く理解できます。サステナブルツーリズムの視点でも参加になる1冊です。
『スキー場は夏に儲けろ!誰も気づいていない「逆転ヒット」の法則』和田寛、
東洋経済新報社、2022
長野県白馬村を舞台に挑戦を続ける著者と仲間たちのストーリー。「アルプスの少女ハイジ」のような巨大ブランコや山頂の展望デッキなど、次々とアイディアを実現。夏場のスキー場への来訪者を「8倍増」に変えた実績は迫力があります。読めば、観光の現場に飛び込みたくなるはず。
『Hawaii's tourism life cycle』 Dexter J. L. Choy、2022
観光地のライフサイクルの理論をもとに、ハワイの観光振興のこれまでの軌跡について整理しており、観光地の発展が進むとどのような道を辿ることになるかの、理論とケースを理解することができる一冊です。
また、後半では、ハワイ州のDMOであるHTA(ハワイ州観光局)に対し、従来のプロモーション活動重視からマネジメント活動重視へ移行すべき、といった、デスティネーションマネジメントに関するDMOへの提言がされており、DMOの活動に関する議論としても参考となります。
『まちづくり構造改革Ⅱ あらたな展開と実践』中村良平、日本加除出版、2019
まちと経済に関する様々なデータを用いた「地域経済構造分析」の手法と、そこから見えてくる地域経済の抱える課題、そして分析結果から示される、地域経済の「構造改革」を行うための施策などについて、網羅的に整理されています。
『持続可能な地域のつくり方 未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン』筧裕介、英治出版、2019
地域には様々な事象があると思いますが、そのなかで何を取り組むべき課題として捉えるのか、その手法のあり方のひとつが示されていると思います。
『風土 人間学的考察 改版 (岩波文庫)』和辻哲郎、岩波書店、2010
和辻哲郎の代表的著作の一つである。「モンスーン型」「沙漠型」「牧場型」からなる風土の類型と、そこに暮らす人間の態度や文化に関する記述はよく知られている。
哲学や倫理学(聞くところによれば、高校倫理の教科書にも取り上げられているらしい)、あるいは地理学や環境学の文脈で取り上げられることが多い著作であるが、本書には「我々はなぜ自ら越境し、異なる風土に足を踏み入れるのか」「美しい自然、美しい風景とはどんなものか」といった、観光の原動力にもかかわる問いも含まれている。
これらの根源的な問いかけに対して、本書は現代に通じる明瞭な解を提示する……ということは決してない。しかしながら、本書は捉えどころのない「風土の現象」に対して問いを立て、手がかり足がかりを探して思考する過程の集積であり、それらは学術にせよ、行政にせよ、あるいは民業にせよ、専門的な立場から観光に関わる者へ有益な示唆を与える。
本書は新字新仮名の文庫版が出版されており、頁数もそれほど多くはない。一方でその内容・文章のいずれも平易ではなく、率直に言えばアクの強さを感じる。現象学における概念や思考の方法は本書を読み進める上での助けになるが、それらに一通り触れるだけでも、それはそれで一仕事である。通読すれば直ちに役立つといった類の本ではないので、気長に付き合うつもりで読み進めるのが良いのではないか。
『観光旅行の心理学』佐々木土師二、北大路書房、2007
心理学の立場から観光をとらえ、旅行に行くことを決める意思決定の段階から旅行後の評価までの観光旅行者の心理と行動に関する種々のテーマを、公表されている研究成果や調査資料にもとづいて解説されている。系統的に説明されているので読みやすく、理解しやすい。
『データ解析のための統計モデリング入門 一般化線形モデル・階層ベイズモデル・MCMC』
久保拓弥、岩波書店、2012
データドリブンな意思決定が求められる昨今、観光分野においても様々なデータをその特性にあわせて的確に扱うスキルの必要性が高まっているといえます。統計モデリングの入門書として非常に有名で「緑本」と呼ばれるこの本は、現象を数理モデルで的確に表現するためのイメージ・思想を必要最低限の数式ですっきりと説明してくれています。入門書ではありますが、この本で述べられている「観測データのばらつきとはなにか」のような部分は案外見落としがちなものです。データにあまり親しみがない方だけでなく、これから卒論・修論を書く方の学びなおしにもおすすめです。
『鉄道旅行の歴史 19世紀における空間と時間の工業化 新装版』ヴォルフガング・シヴェルブシュ 著、加藤二郎 訳、法政大学出版局、2011
鉄道の登場が、人々の「旅」の感覚をいかに変えたかという視点から旅の歴史を紐解く一冊。19世紀にヨーロッパで登場した鉄道が当時の人々に与えた衝撃や鉄道をめぐる当時の賛否両論にはじまり、技術や交通手段の変化が我々の風景体験・身体感覚そのものを変化させていく様がいきいきと描写されている。観光を技術史や文化史から論じる刺激的な専門書でありながら、読み物としても楽しいおすすめの一冊である。
『由布院モデル 地域特性を活かしたイノベーションによる観光戦略』大澤健 米田誠司、
学芸出版社、2019
由布院の観光まちづくりについて、外部の研究者の視点から客観的に書き記されている。単なる事例紹介ではなく、由布院で行われた観光まちづくりをモデル化しているため、他の観光地においても参考となる観光戦略の知見としてまとめられている。
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