特集2

ブリージャーマーケットの現状と可能性
観光政策研究部 研究員 池知貴大

日本のどのような人が実施しているのか

調査概要
調査名 ブリージャーに関する意識・動向調査
調査目的 ブリージャーの現状や今後のマーケット拡大に関する知見を得るために実施
調査対象 全国の20歳以上で、2018年度に宿泊を伴う出張を行った人1500サンプル※パート・アルバイトを除く
調査方法 インターネットパネルを使用したネット調査アンケート
調査期間 2019年5月14日(火)〜16日(木)

はじめに
本稿では、ブリージャー(Bleisure)の現状や今後のマーケット拡大に関する知見を得るために実施した、2018年度に1回以上出張を行った社会人を対象としたブリージャーに関する調査結果を紹介する。
まず、2018年度に実施されたブリージャーの規模や会社における関連した規則の有無を確認する。その上で、どのような条件(個人の属性/出張先の特性)であればブリージャーを実施するのか、今後マーケットを拡大していくためには、どのような施策が必要になるのか等について考察していく
なお、本調査ではブリージャーを「出張の際に仕事以外の目的のために宿泊日数を増やすこと」と定義した。ここには、一日宿泊を延長してその地域を観光することや、一日早く現地入りし友人と夕食をとることなども含まれる。
ただし、ブリージャーはまだ新しい概念であり、一般的にこの言葉が指す対象の合意がなされているとは言いがたいため、過去には違った定義の下で調査が行われていた可能性があることに留意が必要である。

ブリージャーの現状約40%がブリージャーを実施
調査対象となった回答者全員に対して、2018年度にブリージャーを実施したかについて尋ねたところ、0回との回答が最も多く約60%となり、ブリージャーを2018年度に少なくとも一回実施した人は約40%となった。
ブリージャーの定義が異なるので単純な比較はできないが、Booking.comが2016年に行った調査では、日本人ビジネス旅行者の22%が「出張期間を延長し、異なる都市や国を旅行した」経験を持つということが判明している。
さらに、2018年度のブリージャーについて、どのような人が実施しているか調べたところ、女性や若い世代(1989年から1995年の間に生まれた世代)のほうが実施した割合がやや高いことが分かる。ただし、年代や性別によって出張頻度自体に差があることも考えられるので、この結果のみでは、若い世代あるいは女性のほうがブリージャーを実施しやすいとはいえないだろう。

 

約63%がブリージャーを実施可能
ブリージャーは、出張に付随した観光・旅行となるため、企業側でどのような出張・経費規程が策定されているかが、その実施に大きく影響すると考えられる。そこで、本調査の回答者に対して、「所属している会社・団体等では、出張の際に、仕事以外の目的のために宿泊日数を増やす(日帰りを宿泊にすることも含む)ことができるか」と尋ねたところ、最も多い回答は「規程等で明確に認められている訳ではないが、出来る」で約42%が選択し、「規程等で明確に認められており、出来る」も約21%が選択した。結果として回答者の所属している組織のうち、規程の有無は別として、約63%の回答者がブリージャーを実施できると回答したことになる。
会社規程の有無がブリージャー実施の有無に影響しているかどうかについては、次のセクションで分析する。

 

直近の出張におけるブリージャー実施の要因・影響
では、具体的にどのような属性・どのような出張先であれば、ブリージャーを実施するのか。今回の調査では、直近の出張に限定して、その際のブリージャーの実施の有無を尋ね、その回答結果に基づいて分析を行った。これは、直近の出張に限定して分析することによって、ブリージャーを実施する場合、どのような特性が見られるのか、またブリージャーを実施することによってどのような効果があるのかについて、より明確に考察するためである。

ブリージャーの様子―1日延長し、出張での主な訪問地と同じ所で
まず、直近の出張についてブリージャーを実施したかを尋ねたところ、回答者の約27%が実施したと回答した。
実施した人の内、延長させた宿泊日数については1日との回答が最多で約60%であった。また、仕事以外の目的で訪問したのは、出張の主な訪問地と同じであるとの回答が約82%であった。
仕事以外の目的での行動に関して、同行者を尋ねたところ、ひとりとの回答が多く、全体の約46%を占めた。費用負担については、往復の旅費に関しては会社負担の割合が高く、飲食費に関しては個人負担の割合が高くなった。
これらの結果から、ブリージャーは出張にプライベートの旅行を合わせるというよりは、出張の前後で出張先の地域を観光するといった形態で実施されている割合が高いことが分かる。

ブリージャーを行う人の属性―若い世代、旅行好き、テレワーク実践者
さらに、どのような属性を持つ人がブリージャーを行う傾向が強いのかを調査するために、様々な属性と直近の出張でブリージャーを行ったかどうかに関して、クロス集計を実施した。その結果、若い世代や普段から旅行をする人は、出張の際にブリージャーを実施する傾向が強いことが判明した。また、仕事に関することで考えれば、役職や労働時間制度はブリージャー実施と関係がなかった一方で、普段テレワークを実践している人は、していない人に比べて、ブリージャーを実施する傾向が強いことが分かった。

●世代:若い世代でブリージャー実施割合が高い
クロス集計の結果、世代とブリージャー実施の有無は統計的に有意な関係があった。具体的には若い世代(1989年から1995年の間に生まれた世代)のほうが、その上の世代よりもブリージャーを実施した割合が高い傾向にある。より若い世代のほうが、プライベートと仕事を分けない傾向にあり、そのような価値観が、ブリージャー実施の差につながっている可能性も考えられる。

●国内旅行の回数・海外旅行の回数:普段から旅行をするかどうかで差
クロス集計の結果、国内・海外ともに、旅行の回数とブリージャー実施の有無は統計的に有意な関係があった。
普段から旅行をする人のほうが、ブリージャーを実施する割合が高いことが窺える。ただし、大きな差が見られるのは、2018年度中に一回も旅行に行っていない人とそうでない人の比較においてであり、旅行回数の増加はブリージャーの実施の有無に大きな影響
は与えていない。

●労働時間制度・テレワークの有無:仕事が場所に縛られるかどうかで差
クロス集計の結果、労働時間制度とブリージャー実施の有無は統計的に有意な関係はなかったが、テレワークの実践とブリージャー実施の有無には統計的に有意な関係が存在した。特に「会社・団体等で制度が導入されており、自分は実践していた」と回答した人がブリージャーを実施した割合が高くなっている。これらの結果は、仕事が時間に縛られているかどうかということはブリージャー実施に影響を与えないが、仕事が場所に縛られているかどうかということが、ブリージャー実施に影響を与えているということを示唆している。

●会社の規程:規程変更によりブリージャー拡大の可能性も
クロス集計の結果、会社の規程とブリージャー実施の有無は統計的に有意な関係があった。会社の規程で明確に認められている人は、約44%がブリージャーを実施しているのに対して、会社で明確に認められていない人やわからないと答えた人は、それぞれ約13%、9%しかブリージャーを実施していなかった。このことは、会社の規程を変更した場合に、ブリージャー実施割合が増える可能性が高いことを示唆している。
ブリージャーを実施した際の効果―リフレッシュ、モチベーションの向上にさらに、ブリージャーを実施した場合、どのような効果があるのかを調べるために、回答者全員に直近の出張に対する評価を尋ねた。その結果、ブリージャーを実施した人は、出張を楽しみ、リフレッシュできたと感じ、結果として仕事へのモチベーションも高まった傾向があったことが判明した。

今後ブリージャーを拡大するためには
以上、現状についての調査結果を見てきたが、今後ブリージャーを拡大させていくには、どのようなものが必要であるかについてさらに考察していく。

同行者が安全に過ごせる/楽しめる環境
まず、上記でも紹介したように、現状のブリージャーはひとりで行動する人が大半である。一方で、諸外国では家族やパートナーを出張に連れて行くことも珍しくないということを踏まえて、端的に「何があるとブリージャーに同行者を誘いやすいか」を尋ねた。「特になし」を全体の約71%が選択し、最も多くなった一方で、「子どもを預けられる保育所・体験等教室」「大人も楽しめるセミナーや体験等教室」「エステ・スパ」等の回答も一定数あり、自身の仕事中にも同行者が安全に過ごし、楽しめる環境を整えることが、地域としてブリージャーマーケットを拡大させる手段となりうることが示唆された。

ブリージャーの社会的な広がり
また、2018年度中にブリージャーを実施しなかった人に対してその理由を尋ねたところ、「出張の際に、仕事以外の目的のために宿泊日数を増やすつもりがなかったので」を選択した割合が最も高く、回答者の約46%が選択した。
そもそもブリージャーという概念がまだ浸透していない日本において、仕事の一部である出張に、観光やレジャーを組み合わせるという考え方がなかったのではないかと考えられる。次いで、「時間に余裕が無かったので」「会社の規程等で認められていないので」を選択した割合が高く、それぞれ回答者の約35%、17%が選択した。なお、「会社の規定等で認められていないので」を選択した回答者に、規程が変更されたらブリージャーを実施したいかを尋ねたところ、約18%が「とても行いたい」、約34%が「行いたい」を選択しており、たとえ現在会社の規程でブリージャーを実施できていない回答者でも、半数以上に実施意欲があることが判明した。

おわりに
以上見てきたようにブリージャーを実施する人は、現状では一部に限られている。特に、若い世代や普段からテレワークで働いているような人の間では、比較的高い割合でブリージャーが実施されているが、そもそも仕事の延長として観光やレジャーを行うことを想定していない人も多くいることが判明した。
ブリージャーは、出張の延長線でその地域を楽しむことができるため、出張とは別に観光に行く場合と比べて、旅費や移動の時間などの面で大きな節約につながり、観光産業のマーケットを広げる可能性がある。また、それを取得した人にとっても、仕事へのモチベーションが向上するなどのポジティブな影響があることが今回の調査で判明しており、企業としてもブリージャーを制度として認めることは自社にも良い影響があると思われる。今後、更なる調査とともに、実際に企業においてブリージャー制度導入の検討が行われることが期待される。(いけぢ・たかひろ)