特集5 インタビュー
新たなマーケットへの対応と展望
施設と地域、それぞれの取り組み例

聞き手:観光政策研究部 研究員 小坂典子

働き方に対する世の中の認識が柔軟になるなかで、ブリージャーやワーケーション等を取り入れる企業、さらにはデュアラーと呼ばれる2拠点居住を行う人たちが増加している。
こうした〝働き方の多様化〞により生み出される新たなマーケットが拡大していくためには、それを受け入れる環境の充実も求められる。
本稿では、受け入れる役割を担う施設及び地域における、現状の取り組みや今後の展望について取り上げる。
施設の取り組み例として、ホステルライフという、これまでの通勤・通学の概念に縛られず柔軟で多様な働き方、ライフスタイルを提案している東京(台東区)のゲストハウスLittle Japanの代表取締役・柚木理雄氏に、次に地域の取り組み例として、全国でも先駆的にワーケーションの受け入れを地域単位で推進している和歌山県の情報政策課・課長の天野宏氏に、それぞれお話を伺った。

 

施設における取り組み例
Little Japan代表取締役 柚木理雄氏に聞く
通勤・通学圏を広げる、定期券の代わりに「ホステルパス」
――Little Japanは、いわゆるゲストハウスとして運営されていらっしゃいますが、月1・5万円〜で泊まり放題の「ホステルパス」という取り組みも展開されていらっしゃいます。まずはこのホステルパスの概要についてお聞かせ下さい。

柚木 理雄 氏(以下、柚木氏)…ホステルパスは「ホステルライフ」というコンセプトのもとにあるサービスです。
ホステルパスを月額定額で購入すると、Little Japanも含めて全国13ヶ所が泊まり放題になります。このパスで、2拠点居住が、大きなコストをかけることなく実現できます。
満員電車での通勤・通学をなくしたい、地方と都会と両方の暮らしを楽みたい、第2の家のようにゲストハウスを使いたい、といった新しい利用者の獲得を目指しています。
13ヶ所のホステルについては都市部を中心に連携しています。例えば東京から地元にUターンし、そこに暮らしながら東京の滞在先としてホステルを利用すると、地元の家賃と交通費を含めても東京で家を借りるより安く両方の生活を手に入れることができます。
実際、宮城から東京へ通っている方がいます。通勤は週に1度なので1回の移動時間は長くても、トータルでは通勤時間の短縮になり、都会(コミュニケーションを楽しむ場所)と田舎(プライベート空間)の両方の暮らしを楽しんでいらっしゃるようです。Little
Japanでは月1000円の荷物預かりサービスもあり、移動の負担も軽減されるようにしています。
ホステルのほか、千葉や大阪のシェアハウスとも連携しており、シェアハウスプランを利用すると、追加でホステルパスを購入しなくても、シェアハウスで自分専用の部屋に住みながらホステルパス提携ホステルにも泊まり放題になります。
――実際のホステルパスの利用者はどのような方が多いのでしょうか。


柚木氏…一番多いのは東京近郊在住の通勤通学目的の方です。通勤に2時間かかる方もいる。そこで平日にホステルを利用し、ホステルから通勤すれば時間を節約できます。最も安価なホステルパスは、日曜から木曜まで利用でき、月額1万5000円からなので、定期代の代わりにホステルパスを購入する、といった使い方も可能です。
次に多いのは、地方から東京への出張時の利用です。具体的には地方のPR活動のために頻繁に東京に通っている方などの利用があります。
そしてフリーランスやアドレスホッパーのような場所を選ばずに仕事ができる方々も多いです。
ホステルパスにも種類があり、最も利用者が多いのは、一度に予約できる泊数が2泊までのパスで、セカンドハウスやオフィス、アトリエのように利用いただいています。
住所登録もでき、予約泊数に制限がない、自宅のように利用ができるパスもあります。これらホステルパスの利用者の割合は、時期によって変化がありますが、全利用者の1〜2割になると思います。
地方への出張で利用する方もいます。その場合のホステルパスの利用者がビジネス目的か観光目的かというと、区切ることが難しいところがあります。
私も地方に行くときは、仕事と観光の境がはっきりしないことが多いのですが、そういった仕事と観光が近い人たちが利用しているのではないかと思います。例えばフリーランスの人が各地を泊まり歩いているとき、宿泊自体は観光となりますが、それを紹介する記事を書くときは仕事になります。仕事と観光の両面があるのではないかと思います。

――Little Japanに滞在される方々、特にビジネスが主目的の方はどのように過ごされているのでしょうか。

柚木氏…フリーランスや起業準備中の人などは、ゲストハウス自体をオフィスとして朝から仕事をしています。アート関係の人がアトリエとして作品を作ることもあります。一方、ゲストハウスを滞在拠点にし、ワーキングスペースや食事は別にお気に入りの場所が決まっている人もいます。
ビジネスが主目的の海外からのお客様も、多くはありませんが一定数います。施設がある浅草橋が問屋街なので、皮製品の問屋をまわるためにビジネスで来ている人がいます。韓国の方が韓国料理店をオープンするために半年ほどの長期滞在をしたこともありました。
なお、ビジネスか観光かという区切りではありませんが、利用者は安さだけを求めている層ではないと考えています。ただ安いだけの宿泊施設は他にあるので、金銭的余裕があってもあえてゲストハウスに泊まりに来ているような方も多いです。職種は様々で、企業人、外交官、経営者など多様です。
部屋を長期で借りたまましばらく戻らない人もいて、こうした方々は経済的に余裕がある人たちなのではないかと思います。

まずコミュニティを大事にしたい
――ビジネスが主目的の利用者から何か要望はありますでしょうか。

柚木氏…お客様から、今後、提携ホステルを増やす予定はあるか、聞かれることが多いです。無理に数を増やすことは考えていませんが、居心地の良い宿のコミュニティとして、少しずつ育てていくことができればと思っているので、ご自身が泊まったゲストハウスでオススメのところがあったら、オーナーさんに声をかけてみてください、と言っています。
――そのようにサービスを広げていくための課題はなんでしょうか。

柚木氏…ホステルライフは新しいライフスタイルの提案なので、利用者が受け入れてくれるのに時間が必要だと思います。またすべての利用者がこのようなライフスタイルを望むわけでもありません。
受け入れるのに時間が必要なのは宿泊施設側も同じです。新しい層を受け入れることが、宿としての幅が広がり、メリットがあるということをしっかり伝えていく必要があると考えています。
また、受け入れ拠点を増やせば単純に利用者が増えるかというと、そうではないでしょう。新しいライフスタイルの提案を共有できる宿、このサービスの利用者の存在を喜べる宿を、コミュニケーションをとりながら一つ一つ増やすことが、今の時期は大切だと思っています。

 

人と地域をつなぐ入り口になる
――最近は多くの自治体で観光振興に力を入れていると思いますが、LittleJapanでも地域と連携した取り組み、またはゲストを地域の観光活動につなげる取り組みをなさっているのでしょうか。

柚木氏…ここでは、自治体、地域おこし協力隊やNPO等が主催する地域PRイベントを頻繁に開催しています。
この点は他のゲストハウスにはない特徴だと思っています。主催者側から話をいただくことが多く、宿泊した方から相談を受けることも多いです。地域と世界をつなぎたいという思いは強く持っているので、イベントを一度開催して地域の紹介して終わり、ではなく、継続的なファンコミュニティを作っていきたいと考えています。
さらに、台東区とNPO法人芸術家の村の協働事業で、台東区で暮らしている外国人と長年住んでいる日本人の間をつなぐ「Global Community Cafe」という取り組みもLittle Japanで行っています。利用者同士の交流はゲストハウスの魅力のひとつですが、地域ともつながりのあるゲストハウスだからこそ、新しく住み始めた方が地域と関わる入り口になれると思っています。
今年はLittle Japanで実験的に試み、その後、他のゲストハウスに広がれば、台東区の様々な所で地域への入り口の拠点を作ることができると思っています。
また、Little Japanでは朝食の提供を中止しました。向かいのカフェをはじめ、ゲストハウスの周りに食事が出来る場所があるので、そこに出かけて行ってもらえばいいじゃないか、という考えに至ったのです。現在は利用者の皆さんには朝食が食べられる場所のマップを渡しています。

 

ゲスト・ホストの双方が多様化している
――働き方が多様化するなかで、市場はどのように変化しているでしょうか。

柚木氏…アドレスホッパー、デュアラーなどの言葉を最近メディアでも目にするようになりました。これも働き方に対する意識の変化が起きているからではないかと思います。場所を選ばずに仕事をすることが、フリーランスだけではなく企業に勤めている人でも出来るようになってきたことが影響しているのではないでしょうか。
ゲストハウスの利用者についても、元々はバックパッカーが長期滞在で利用することが多かったのですが、今はバックパッカーだけでなく、普通の旅行者も利用しています。ビジネス利用の方、家族旅行での利用もみられるようになっています。ゲストハウスの増加や世の中への浸透も影響しているかもしれませんが、利用者も多様化しているように感じます。昔のバックパッカーのように予定を決めない旅というより、予定をしっかり決めた旅をする利用者が増えています。
――このような変化のなかで、ゲストハウス業界の変化はありますか。

柚木氏…経営者も多様化してきています。以前のゲストハウスの経営者は、元々バックパッカーで宿が好きという方が多かったように思います。部屋のタイプもバックパッカー向けでした。現在は、ゲストハウスの数が増加し、特に地方ではコミュニケーションをとることが好きで、自分たちの地域を知ってもらいたいという思いの経営者が増えていると感じます。設備面でも、家族向けなどでホテルと遜色がないものも増えています。こういったところを一緒にゲストハウスと呼んでいるので、従来よりもこの言葉が意味する宿の範囲が広がっているように思います。
Little Japanに関していえば、日本への入り口であり、浅草橋という地域への入り口になることを考えています。ホテルに宿泊すると現地の人と話す機会は少ないですが、ゲストハウスに宿泊することで現地の人ともコミュニケーションがとれます。旅行者としてこのようなコミュニケーションを楽しむのはもちろん、このような出会いを利用してビジネスにつなげている利用者もいます。
今後は、ビジネス利用の方など、今までは利用したことがない人たちをどう取り込んで行くかが重要になると考えています。ゲストハウスの利用者は日本人では0・9%、訪日外国人旅行者のうちユースホステル・ゲストハウスを利用した方は7・0%程度となっています。これを50%にするのは難しいですが、数%上げるのは可能ではないかと思っています。これからは、既存の利用者だけでなく、新規の層をゲストハウスに取り込み、ファンになってもらうことが非常に重要になります。

都市と地方、移住とは異なる新たなライフスタイルの模索
――最後に今後の展望についてお聞かせ下さい。

柚木氏…ホステルパスは、私が全国を旅しながら働いていた時に考えたことが基になっています。一見、旅するように生活できるようなライフスタイルを目指しているように見えますが、そうではありません。当時、私は落ち着いて帰れるところが欲しかった。ほんの数ヶ月ならいいですが、その生活を続けていくということは考えられませんでした。その思いをこれからもホテルパスに反映させていきたいと考えています。
目指しているのは、東京圏の拡大です。現在、東京では1時間半を越える通勤者は5%ほどしかいませんが、これが、平日はホステルパスを利用して都内の会社近くのホステルから通えば、週に1日だけ遠距離通勤すればよい、ということなります。そうなると所要2時間・3時間の場所も居住地の選択肢に入ってきます。例えば地元にUターンしたいとなったとき、東京での仕事を維持しながら地元に戻れる人が増える、あるいはサーフィンが趣味で海のそばに住みたいという人は湘南以外も選べる、都心に職場があって東京近郊では狭い土地しか手に入らなくても、通勤圏が広がることで大きな敷地が得られる。
私も今、2拠点居住を実践しています。中央大学の特任准教授として週の半分は多摩キャンパスでの仕事があるため、大学の近くとLittle Japanの近くの2カ所に家があり、たまにLittle Japanにも泊まる、という暮らしをしています。通勤時間はドアtoドアで15分〜20分ぐらい。快適です。日本橋ではシェアハウスに住んでいるので、以前ワンルームに暮らしていた時よりはトータルコストも低くなっています。
地方では移住者を求める声があり、都市部には地方に興味を持っている方が4割ほどいる、しかし一番のネックは仕事、と言われています。都会で仕事を持ちながら通うことができれば、移住とは違う、都会と地方の両方に拠点を持つことができます。都会の持つ魅力と、田舎の自然や人付き合いなどの楽しさと、両方の良さを手に入れるライフスタイルを実現できないかを模索しているところです。
今後は、この実現のため、まずは東京から2時間圏内ぐらいで、空き家を活用したり、既存のマンションやシェアハウスと提携したりして、通勤・通学にホステルパスの利用を前提とした家づくりをしていきたいと思っています。
―――ありがとうございました。
※1…柚木氏が代表を務めるNPO法人。様々なバックグランドをもつ人が所属、交流のなかからソーシャルビジネスラボや地域振興事業などに取り組む。
※2…「じゃらん宿泊旅行調査2018」(2018年4月調査実施)(リクルートじゃらんリサーチセンター調べ)
※3… 「訪日外国人消費動向調査2017」(観光庁)

 

柚木理雄(ゆのき・みちお)株式会社Little Japan代表取締役、NPO法人芸術家の村理事長、中央大学特任准教授、Localist Tokyo共同代表ほか。
京都大学卒業後、農林水産省に入省。2012年NPO法人芸術家の村を立上げ空き家を活用した場づくり・コミュニティづくりを開始。2017年「地域の資源を活かした事業をつくる」をミッションに株式会社Little Japanを創業。シェアハウス、カフェ/バー、ゲストハウス、セレクトショップ等や月1・5万円〜のホステルパスで全国の提携ホステルに泊まり放題になる「Hostel Life」を運営。2019年4月に中央大学に地域の資源を活かしたビジネスを学生と村が連携してつくる講座が新設されることを受け特任准教授として着任し同講座を担当。

 

 

地域における取り組み例
和歌山県 企画部 企画政策局 情報政策課長 天野 宏氏に聞く

全国に先駆けてワーケーションを推進してきた和歌山県
――和歌山県では、2015年からサテライトオフィスの誘致等に取組み、その後2017年度から全国でも先駆的にワーケーションの推進を行ってきたと思いますが、その取組みの概要や現在までの変化などをお聞かせ下さい。

天野 宏氏(以下、天野氏) 2017年4月から和歌山でワーケーションの取り組みを始めて、利用者もメディアでの露出も右肩上がりになっています。
2年間で少なくとも49社567名が和歌山県でワーケーションを体験しています。報道でも、大手新聞社やTVを中心にマスメディアにおいて、和歌山でのワーケーションに言及した記事等が、通算で100件を超えています。
ソーシャルメディアについては、2017年に取組みを始めてから毎日「ワーケーション」をキーワードに検索していますが、取組みを始めた当初は月に数回のつぶやきしかなかったところ、最近では毎日5〜10回、メディアで取り上げられた日には数百のつぶやきがあります。ソーシャルメディアでのつぶやき数から、個人単位でもワーケーションへの関心が高まりつつあるのが分かります。
――和歌山県では、ワーケーションのプロジェクトチームを設けて、企業等のワーケーション実施のサポートをしているとのことですが、具体的にはどのように取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

天野氏…大きくは3つあります。1つ目はワーケーション・コンシェルジュを設けて、希望者の要望や日程などを伺い、方法や場所、アクティビティを案内しています。ただ、旅行代理店ではないので、ホテルやアクティビティの事業者などの手配は自身でしていただくようにしています。
2つ目は、ワーケーションを和歌山で体験された方に対するモニター料金の支払いです。昨年度の条件は、1社1名限りで、3泊4日のレポートを作成していただくことで5万円をお支払いするというものでした。
3つ目が、ワーケーション体験会です。2017年は企業の社員向けに3泊4日で開催し、12社が集まりました。
その時に寄せられたフィードバックの中で、育児中の人たちからワーケーション中の育児の負担がパートナーにかかってしまうという意見があったのですが、それを踏まえて、2018年は「親子ワーケーション」にして子供向けのアクティビティも提供しました。

 

 

まずは、地域の中で横のつながりを作る
――ワーケーションを受け入れていく際には地域内の施設や組織等の協力や連携も必要になるかと思いますが、現在どのような状況でしょうか。

天野氏…ワーケーションは和歌山県の施策なので県の担当課(企画部企画政策局情報政策課)がリーダーシップをとっています。地域の方々が納得し、また一緒に取り組んでもらう必要があるので、ワーケーション勉強会を2ヶ月に1回開催しています。関係するホテルやアクティビティ事業者、あるいはサテライトオフィスに進出している企業にも参加を依頼し、ワーケーションそのものの説明や全国的なトレンド、他地域の状況などを勉強しながら、横のつながりを作っています。しかしながら、各宿泊施設でワーケーションに
対する温度差があるのも事実ですので、その中でワーケーションに一緒に取り組んでくれるところと、まずは積極的に連携をしている状況です。
――地域内の事業者の皆さんの理解を得るためには時間もかかるかと思いますが、いかがですか。

天野氏…宿泊施設に対しては繰り返し説明をし、またメディアには、ワーケーションの取り組みを報道してもらうよう働きかけも行ってきました。メディアにワーケーションが取り上げられたことは、世の中の動きやトレンドに敏感な宿泊施設に対して大きなインパクトになりました。
地元の方々に説明をしながら、そして実績をつくりながら、東京のメディアに取り上げてもらい、地元でも報道してもらうという一連の流れが、地域内の関係者の理解を得るために有効になると思います。

テレワーク推進企業100社以上にアプローチ、そして体験会の開催
――ワーケーションが世の中に浸透す
る前からワーケーション・フォーラム
の開催等をしていたかと思いますが、
それらの効果も感じられていますか。

天野氏…ワーケーション・フォーラムは手ごたえを感じることができました。
まずは、東京の企業100社以上への営業から始めました。2017年2月に総務省と厚生労働省により「テレワーク推進企業ネットワーク」が発足し、テレワーク関連企業の連絡先一覧をウェブで公開していたので、そのリストの上から下まで電話をかけてアポを取り、100社以上にアプローチをしました。この営業の感想としては、外資系やIT系等の働き方に比較的柔軟な企業は理解があり、既に裁量労働制を取り入れている企業もありました。その当時は、ワーケーションについてはなかなか伝わらず、実際の事例を求められたこともありました。東京でフォーラムを開催するにあたっては、東京の企業で実際にワーケーションを取り入れているところに参加と発表をお願いしました。そうすると、フォーラムに参加した他の企業も、最初はワーケーションに対して前向きではなかったとしても、理解を示してくれるようになりました。企業的には、自治体やワーケーションをビジネスにしている側の意見よりも、ユーザー目線の話が一番聞きたいところだったのではないかと思います。
2017年8月にこのワーケーション・フォーラムを開催しましたが、そこで終わりではなく、次のステップとして体験会の開催をしました。このフォーラムをきっかけとしてワーケーションに関心を持った、心が動かされたという方々に対して、体験会を開き、実際に体感してもらうという流れです。このような取り組みのなかでワーケーションの広がりができつつあるという感触です。

 

 

企業・チーム・個人、サテライト・地域交流、様々な利用のかたち
――具体的にどのような方々の利用があるのかお教えいただけますか。

天野氏…企業全体での利用、グループやチーム単位での利用、個人での利用等、利用される方の形態は様々です。
なお、デュアラーやアドレスホッパーの方々のような個人については把握しきれていません。個人の方々は、独自のネットワークで滞在場所の情報を得たり、ゲストハウス等の利用も多いのではないかと思います。
企業の方でいえば、最近は企業全体でのワーケーションというよりも、企業内のチーム単位でのオフサイトミーティングや、IT企業の開発合宿などでの利用が多くなってきています。問い合わせも会社の人事を通さずに、チームから直接来るケースが増えています。
また、サテライトオフィスとしてワーケーションを行う企業は、自社の物件を持ち、そこに自社あるいはグループ企業の社員を派遣しています。最近では今年の5月に三菱地所がワーケーションオフィスを白浜町で始めていて、三菱地所でオフィスを借りているテナント向けにサービスを提供しています。
イメージとしては共同の保養所内のワークプレイスのような運用といえるかと思います。
企業のCSRセクションから問い合わせがくることもあります。ワーケーションを広く捉え、地域交流や地域貢献の機会としてテレワークを行うという考えのようです。
――ワーケーションを実施する、または実施しようとしている企業から何か要望はありますか。

天野氏…ワーケーションはまだまだ普及前の段階なので、企業からも個人からも他社の日程やアクティビティの内容、仕事の時間配分などモデルプランが欲しいという要望があります。そうした要望に対して県では、モデルプランをできる限りウェブサイトに掲載しています。やチーム単位での利用、個人での利用等、利用される方の形態は様々です。
なお、デュアラーやアドレスホッパーの方々のような個人については把握しきれていません。個人の方々は、独自のネットワークで滞在場所の情報を得たり、ゲストハウス等の利用も多いのではないかと思います
企業の方でいえば、最近は企業全体でのワーケーションというよりも、企業内のチーム単位でのオフサイトミーティングや、IT企業の開発合宿などでの利用が多くなってきています。問い合わせも会社の人事を通さずに、チームから直接来るケースが増えています。
また、サテライトオフィスとしてワーケーションを行う企業は、自社の物件を持ち、そこに自社あるいはグループ企業の社員を派遣しています。最近では今年の5月に三菱地所がワーケーションオフィスを白浜町で始めていて、三菱地所でオフィスを借りているテナント向けにサービスを提供しています。
イメージとしては共同の保養所内のワークプレイスのような運用といえるかと思います。
企業のCSRセクションから問い合わせがくることもあります。ワーケーションを広く捉え、地域交流や地域貢献の機会としてテレワークを行うという考えのようです。
――ワーケーションを実施する、または実施しようとしている企業から何か要望はありますか。

天野氏…ワーケーションはまだまだ普及前の段階なので、企業からも個人からも他社の日程やアクティビティの内容、仕事の時間配分などモデルプランが欲しいという要望があります。そうした要望に対して県では、モデルプランをできる限りウェブサイトに掲載しています。

 

ワーケーションのメリットとは何か
――実際にワーケーションの受け入れを行っていく中で感じられているメリットは何でしょうか。

天野氏…地域にとっては、関係人口の創出というところが絡んでくると思います。都市と地域の人材や企業が交流することによって、都市の人脈、技術も地域に還元されてきます。和歌山県では今年度、総務省の「関係人口創出・拡大事業」モデル事業の対象地域のひとつとなっており、東京などの都市からの来訪者と地域の交流・関係性の構築や、地域の資源と都市の技術や知見を組み合わせてローカルイノベーションを創出できないかと実証事業に取り組んでいるところでもあります。
ワーケーションはこうした取り組みにも上手くリンクしていくと思います。
一方で、企業や個人に対するメリットも、働き方改革の推進、CSR、ローカルイノベーション、健康経営など、多岐にわたります。また、オフサイトの隔離された環境が集中力を高めたり、チームワークの醸成に貢献したという実際の感想もあります。
特に若い世代では、休日まで会社の人と過ごしたくないという思いがありますが、一方でコミュニケーションや絆を大切にする傾向があります。そのため、平日に仕事の一環でワーケーションをするのがミレニアル世代やZ世代にとっては折り合いがつけやすいのかもしれません。

ワーケーションを推進していくために必要なこと
――地域としてワーケーションを推進
していく際のハードルや、それを乗り
越えるためのポイントは何でしょうか。

天野氏…地域でワーケーションを推進していくためには、地域内で受け入れる場所や人が必要になります。例えば、先ほどのCSRの事例でも、実際に企業のCSRを受け入れるには、農家さんなどにボランティアフィールドを提供してもらわなければなりません。そ
のため農家の方などとの情報交換は常に行っています。
今は、まだ一般の方々への広報が足りないと思っています。直接的・間接的に関係のある人はワーケーションを認知していますが、一人ひとりがワーケーションの受け入れ側として理解し、歓迎するという点ではまだまだ改良する余地があると考えています。ワーケーションという単語自体の認知・浸透から取り組んでいくことが必要です。
このため、地元の方々に対し、ワーケーションビジネスの受け入れ側になるメリットを理解してもらうよう、できる限り勉強会を開催しています。また、メディア展開することは誘客と地域の人々への理解につながるのではないかと考えています。

「企業が来てくれた、これで終わり」、ではない
――関わりを持った企業などとの関係性を維持するためのポイントは何でしょうか。

天野氏…自治体によっては、サテライトオフィスが開くと「企業が来てくれた、これで終わり」となってしまうこともあると思います。それでは、せっかく来た企業が早々に撤退してしまうこともありえます。自治体側がサテライトオフィスの企業同士の食事会の開催や、地域企業との交流会を開くことが大切だと思います。和歌山県ではサテライトオフィスの社員の方が地域の人々との交流や横のつながりを得て、地域になじめるように行政が一体となってフォローしています。
――サテライトオフィスで移住をした方々はどのように過ごされているのでしょうか。

天野氏…企業ごとにサテライトオフィスの使い方は異なり、数名が移住される場合もあれば、移住する方に加え若手社員10名程度が3か月交代で勤務される場合もあります。移住された方の中には休日を家族での温泉めぐりで楽しんだりする方もいますし、若い方々は観光や交流イベント、ボランティア活動に参加したりもしています。サテライトオフィス同士の交流会を開いて楽しんでいただいてもいるようです。

行政自身が働き方を変えていく
――和歌山県では自らテレワークの取り組みをなさっていると伺いました。

天野氏…和歌山県では5、6年前に「moconavi」というアプリを採用し、各自のスマートフォンを活用して、外出先から庁内のメール、スケジューラやファイルのセキュリティを確保しながらスマホでの閲覧・送受信ができるようにしました。現在、県庁職員3500人のうち、500ライセンスを申請に応じて提供しています。働き方改革と生産性向上のために導入したものです。
実は、きっかけは県庁の中でも出張の多い観光セクションからの相談でした。海外の機関や事業者とやり取りをすることが多いのですが、出張や外出中にはメールの対応ができなくなり、チャンスを逃しかねないとのことでした。他にも、出張の多い部署では出張の移動時間を有効に使って生産性を高めたいという狙いもありました。一般に新たなシステムを導入すると組織内で浸透するには時間がかかるものですが、今回は現場の声からスタートし職員のなかで草の根的に広がっていきました。
また、昨年度からモバイルPCを30台試験導入し、現在は出張の多い課室の方々にご利用いただいております。
こちらは出先でも、県のシステムに接続できて、県庁内と全く同じ仕事ができるということで、利用率もうなぎ上りです。実際、場所にとらわれないフレキシブルな働き方が可能になることで、県外への営業や地域の方々との交流が一層促進されており、単純な事務効率化以上の効果が出ています。

「ワーケーションの人」と「地元の人」が一緒に地域の価値をつくっていく
――和歌山県での今後の取り組みにつ
いてお聞かせ下さい。

天野氏…去年の白浜町での親子ワーケーションが好評だったため、今年は本州最南端の串本町でグランピングテントを4つ備えたキャンプ場を使い、アウトドア環境でのワーケーションを企画しています。親はグランピングしながら仕事をし、子どもは楽しく遊ぶ。
夜は肉眼で星を楽しめるため、家族で天の川を見る、といったことを企画しています。
――今後のワーケーション推進に向けたお考えをお聞かせ下さい。

天野氏…例えば、企業がワーケーション実施地の条件に〝海〞だけを考えていたならば、白浜よりも沖縄を選択する可能性も十分にあります。そのため、和歌山県のヒトとコトでの魅力づくりや、ワーケーションの人と地元の人が一緒に地域の価値をつくっていくなどの差別化に向けた取組みが必要だと考えています。ワーケーションに来る人は、バケーションの中に少し仕事を入れるというイメージを持っている人が多いですが、長く滞在していると少しずつ地域のことが知りたくなってきます。その時、地域を好きになった人に対し、受け皿あるいは協働できるプラットフォームがあるか、または歓迎する空気を作れるかどうか。こうした従来の観光とは違った目線が必要であり、それは地域振興とも係わってくると思います。

全国でワーケーションを受け入れている地域についてみると、各自治体がそれぞれに活動していますが、これらを一体のムーブメントにしていくことが重要だと思っています。ワーケーションあるいはリモートワークを使って地域に来るという流れができつつあるにもかかわらず、都市から見ると各自治体が散発的に別々な取り組みを行っているように見える現状です。そのため受け入れ自治体が集まり、ワーケーション連合を結成していこうとしています。ワーケーション自体がひとつの動きとなり、一般の方々にも根付いてくことが大切だと考えています。
将来的には、行政ではなく民間が担い手となっていくことも重要だと考えています。和歌山県でも現在は、県の担当チームが受け入れ窓口やサポートを行っていますが、これが民間のビジネスチャンスをつぶしているという側面もあります。和歌山県のワーケーション・コンシェルジュは、現在は無料で案内をしていますが、アテンドやプランの作成・調整をビジネスとして行っていける地元事業者がいれば是非やってもらいたいと思っていますし、育ててもいきたいです。
まだビジネスとしての可能性が見えていないため和歌山県が取り組んでいますが、将来データやモデルケースなど実績を地域の事業者と共有しビジネス面で併走し、その後民間に受け渡したいと思っています。現在の我々のプロジェクトチームを拡大するのではなく、最終的にはビジネス化していくことが重要です。こうしたこともワーケーション自体の浸透につながっていくと思います。

―――ありがとうございました。

 

天野 宏(あまの・ひろし)2008年に総務省入省し、中南米地域における地上デジタル放送日本方式の展開事業等に従事。留学制度によりロンドン大学(LSE)でメディア通信学修士号、エディンバラ大学で国際ビジネス・新興国市場学修士号を取得。2016年7月より現職。現在は、和歌山県の素晴らしい自然や食を満喫しつつ、ワーケーションの普及展開や庁内のテレワークの推進、ネットワークセキュリティ強化等に勤しむ毎日。