活動報告
第16回 「たびとしょCafe」
「進化するまちあるき」を開催
〜「まいまい京都」の舞台裏から学ぶ〜
Guest speaker 以倉敬之氏(「まいまい京都」主宰)
1985年生まれ。京都の住民がガイドする京都のミニツアー「まいまい京都」主宰。
高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社勤務、
イベント企画会社経営を経て、2011年より「まいまい京都」を開始。
NHK の人気番組「ブラタモリ」に企画協力し、2017年4月の京都・清水寺清水編に出演。
2018年3月より「まいまい東京」も本格始動。
共著に『あたらしい『路上』のつくり方
実践者に聞く屋外公共空間の活用ノウハウ』(DU BOOKS・2018年)がある。

2019年3月15日(金)、「まいまい京都」主宰の以倉敬之氏をゲストスピーカーにお迎えし、第16回たびとしょCafe「進化するまちあるき 〜
「まいまい京都」の舞台裏から学ぶ〜」を開催しました。
年間約700コースを開催し、96・3%の定員稼働率を誇る「まいまい京都」はリピーターも多く、地域愛あふれる個性豊かなガイドの存在が魅力の一つですが、さらに特徴的なのはその運営形態です。行政が主導したり、補助金の助成を受けて運営されているまちあるきも多い中で、民間が運営をおこなう珍しい事例として注目されてきました。まちあるきを通して、地域の魅力や楽しみ方を最大限に感じていただくための工夫や仕組みはとても興味深く、ガイドさんの探し方からツアーの作り方、運営体制、収支、課題や留意点などに至るまで、「まいまい京都」の裏側を惜しみなくお話しいただきました。
当日は、観光ガイド、研究者、観光関連団体、シンクタンクなど20名の方にご参加いただきました。第1部の話題提供から実務的な質問が飛び交い、活気のある意見交換となりました。

【第1部】話題提供
●〝まいまい〞とはうろうろするという京都の言葉で、大人になってもう1度道草でもくおうという想いで名前を付けた。その名のとおり1・5〜3㎞ぐらいの範囲を2〜3時間かけてじっくり歩く半日のツアーが基本である。定員は15〜20名くらいで3000円前後の参加費が多くなっている。2018年からはまいまい東京も開催している。
●まいまい京都は2011年の春に開始したが、主に春と秋に多くツアーを実施している。年間700ほどのツアーを開催(春と秋300、夏と冬に50)しており、定員稼働率は96・3%である。
●参加者としては40代、50代、30代、60代の順に多い。参加費の関係で20代が減ってきた感覚はある。多様な世代が一つのツアーを楽しめることが良さでもあるので、幅広い世代にバランス良く参加していただければと思っている。80%近くが京都府内や近畿圏の方である。5回目以上のリピーターが62%と最多で、70・8%が1人での参加となっていることも特徴である。1人で旅行をしたいが、行った先では地元の方や他の旅行者と楽しく過ごしたいというニーズに応えていける仕組みもこれからの観光においては重要なのではないか。
●まいまい京都を知ったきっかけとしては、知人の紹介や検索エンジン、TwitterやFacebookが多い。ツアー自体が良くて紹介していただけることはもちろん重要であるが、その上で自力でできること、マスメディアに出続けることなど、色々なことをやって積み重ねることが広報においては大事だと思っている。なお、広告費はほとんどかけていない。
●まちの最大の魅力はモノやコトではなく人にあると思っており、まいまい京都の一番の特徴は多様なガイドさんがいることである。僧侶の方、林業に関わっている方、京都高低差崖会の方、自称・妖怪の子孫まで累計で360人ほどの方に関わっていただいた。大切なことは知識ではなくて愛情であり、ガイドさんがまちやコトに対して持っている愛情が参加者さんに伝わり、参加者さんもいつの間にかそれが好きになっているということを大事にしている。公募や育成という形ではなく、この人と一緒にやったら面白いという方をいかに探すかが重要である。一方で皆さんも本業の仕事があるため、同じツアーを頻繁に開催することが難しく、どうしても種類が多くなる。
●ツアーの例としては、仕事への愛情をガイドする「【無鄰菴】御用庭師のお仕事拝見!名庭の美を紡ぐ、技と心に迫る 〜庭師七つ道具、見方・表情・愛し方、南禅寺方丈から野花咲く春の無鄰菴へ〜」や、地元への愛情をガイドする「【本願寺門前町】表具屋主人と、門前町の老舗をたずねて 〜御用菓子、御茶司、京仏具、香老舗…本願寺の御用達めぐり〜」(写真1)などが多いが、最近は行政や企業との共同企画も増えている。例えば「【塩小路幹線】地下30m、雨水をためる巨大トンネルを探検しよう 〜京都の地下に〝宇宙船〞!?普段は立ち入り禁止の工事現場へ〜」は、水道局の方に案内していただかなければ見ることのできない場所である一方で、水道局としても取り組みをアピールしたいというねらいがある。「【月桂冠】醸造研究員といく、月桂冠の工場探検 〜酒造りの不思議!バイオサイエンスの現場へ〜」も人気があるが、まちの魅力は歴史や国宝ばかりにあるわけではなく、むしろまちの会社やお店が担っている部分が非常に大きい。

●専従スタッフは私を含め4人で、事務局の業務は(一財)京都ユースホステル協会が担当している。また、有償ボランティアスタッフと無償ボランティアスタッフがおり、ツアー開催の際にはガイドさんとスタッフの最低2人がつくようにしている。ガイドさんがプロではないこともあり、スタッフが参加者の受付から安全管理、ツアーテクニックのフォロー、ツアーの品質管理のためのアンケート実施や回収などをおこなっている。特にアンケートについては数値の集計だけでなく、スタッフの所感も含めた意見を報告してもらうようにしており、それをふまえてツアーの改善をおこなっている。
●まいまい京都の売り上げとしては、こうした通常のツアーに加え、旅行会社や団体から発注されるオーダーツアーや、座学も含めた連続ツアーで構成されるまいまい大学、全国での講演やアドバイスなどで構成されている。儲けを出すという意味では、こうした小規模なツアーの開催は効率が良いものではないので、いかに固定費を下げるかが重要である。
●ツアーの企画はガイドさんが決まった後にタイトルを決めて、それに合わせて内容やコースを組んでいく。一般的に、内容が面白くても、一見、面白そうに見えないツアーがたくさんある。集客する上ではタイトルが最も重要な
要素となるため、「内容が面白いツアーをタイトルでいかに表現するか」「唯一無二であることをどう表現するか」を意識し、時間をかけて作っている。

【第2部】意見交換
参加者…なぜまいまい京都を立ち上げようと思ったのか。
以倉氏…京都に引っ越してきたので、京都を楽しみたいと思ったのが一番大きな理由である。まちを楽しむには、まちのことを知っている人と一緒に歩くのが一番良い。加えて、私は前職でイベント企画会社を大阪で経営しており、その仕事の関係で「大阪あそ歩」というまちあるきツアーとの関わりがあった。「大阪あそ歩」は『まち歩きが観光を変える 長崎さるく博プロデューサー・ノート』(学芸出版社・2008年)、『「まち歩き」をしかける コミュニティ・ツーリズムの手ほどき』(学芸出版社・2012年)の著者である茶谷幸治さんがプロデュースされていて、その方に影響を受けたことも大きかった。一方で、税金で運営されていると継続性の面で課題があると感じたため、民間で運営した方が良いのではないかと思ったことが現在につながっている。
参加者…初めて来た人にまた参加したいと思っていただくために、どのような工夫をしているのか。
以倉氏…ツアー自体が面白いということがリピートにつながると思う。しかし、リピーターだけでなく、初めての方にももっと参加していただきたいと考えている。一方で、リピーターのような楽しみ慣れた方の存在は、ガイドさんが話す時にしっかりと聞く雰囲気を作ってくださったりするため、ツアーのクオリティや満足度の向上につながっている。
参加者…ツアーのコースとして、京都の混雑を避けることは意識しているか。
以倉氏…満足度にも関わってくるので、混んでいる時期に混んでいる場所に行くことはない。有名な観光地に行く場合には季節をずらすか、少なくとも時間をずらすようにしており、桜や紅葉のツアーであれば穴場に行くことが多い。
参加者…広告費をかけていないということであるが、チラシなども作っていないのか。
以倉氏…4、5年前までは作成していたが、ツアーの更新が頻繁で、チラシの更新が追いつかないのでやめてしまった。申し込みは電話でも受け付けているが、ウェブサイト経由が99%なのでチラシは必要ないと思っている。
参加者…まいまい東京がまいまい京都と違う点はあるか。
以倉氏…今のところ東京では年間60くらいのツアーを開催している。コンセプトの違いはないが、京都は地元のガイドさんが多く、東京は専門家のガイドさんが多い。また、東京の方が地形の起伏が激しく、まちの雰囲気がダイナミックに変わるため、歩く距離が長いかもしれない。東京で展開する際も京都と同様に、面白いと思った方にガイドをお願いしに行って、さらにその方の紹介でガイドさんを増やしている。
参加者…まいまい京都として、最終的にどういったことを実現したいと考えているか。
以倉氏…まちあるきツアーに参加することが旅の選択肢としてきちんと認知される、もしくは定着するところまで極めたいと思っている。実際、まいまい京都の予約が取れてから、交通や宿泊の手配をする方が結構いらっしゃるため、そういった意味では旅の目的になりうると思っている。また、まいまい京都に参加してご自身の地域でもまちあるきツアーを始めた方がいるので、そういった地域とも連携していき、全国に広めていければとも考えている。
また、ツアーの質を保つためには参加費をもう少し上げていく必要がある。
参加費を上げることで、参加者も楽しもうという意識で参加するし、主催者側も楽しんでもらわなくてはという意識が強くなるので、その相乗効果が質の高い体験を生むことになるのではないか。2500円の参加費に対して高いという人もいるが、逆に安いという人もいる。感覚というのは人それぞれなので、そういう声とは別に、自分たちはどういう価値を付けていくのか、どのように価値を表していくのかという方が大事ではないかと思う。

おわりに
終了後、参加者の皆さまからは、「参加者の質問が実践的かつ多様であったため、学びが深くなった。」「事業として継続しているまいまい京都の舞台裏が覗けて面白かった。考え方自体が自分たちとは違っていて新鮮だった。」「マーケティングの視点は参考になった。テーマも目新しいアプローチで是非全国に広まって欲しい。」といった感想をいただきました。
まちあるきに代表されるように、地域のディープな魅力を来訪者に体験していただく試みが全国各地でおこなわれていますが、魅力的な地元の方の探し方や地域の何気ない要素をどう見せていくかという面でも多くの気付きを得られました。近年、まちあるきは地域をこえた連携やネットワーク化により多様な展開を遂げています。まいまい京都をはじめ、進化するまちあるきに引き続き注目していきたいと思います。(観光政策研究部主任研究員福永香織)