日韓国際観光カンファレンス2019 in ソウルを開催
 


 2019年11月18日(月)、ソウルにて「日韓国際観光カンファレンス2019」を開催しました。同カンファレンスは、研究協定を結んでいる韓国文化観光研究院(Korea Culture & Tourism Institute、以下、KCTI)と、開催地を交互に変えながら毎年共催しているものです。
 KCTIとは一昨年度に4期目となるMOU(Memorandum of Understanding on Research Cooperation)を締結し、両機関が積極的な情報交換や研究交流を行っていくことを確認しています。
 当日は両機関の研究員4名による研究発表とディスカッションを行いました。
 当財団からは、塩谷英生理事・観光経済研究部長が日本における海外旅行市場・訪日旅行市場の動向について、守屋邦彦上席主任研究員が多様化するビジネストラベルの現状と可能性について報告しました。
 KCTIからは、Lee・Won-Hee研究委員が韓国における観光のトレンドについて様々な視点から総体的に分析報告した他、Choi・Kyung-Eun研究委員は文化遺産観光が果たす意義や韓国における具体的な事業と今後求められる取り組みについて報告しました。
 本稿では、各研究発表の要旨とディスカッションの様子をご紹介します。

 


各研究発表要旨

【発表1】
日本における海外旅行市場・訪日旅行市場の動向

塩谷英生
理事・観光経済研究部長・主席研究員(JTBF)

 

 

 

 
 2018年の日本人の海外旅行者数は前年比6・0%増の1895万人となり、過去最高を記録した。東南アジアを中心に日本人旅行者数が増加しているが、韓国への旅行者数も回復している。特に20・50代の女性の旅行者数が伸びている。
 韓国への日本人海外旅行の特徴としては、友人・知人との旅行が多い、九州・沖縄エリアといった韓国に近い地域からの旅行が多い、平均泊数が短い(2・9泊)、1年以内の再訪意向が高い、といった点が挙げられる。競合国と比較すると、ショッピングやグルメの実施率が高く韓国市場の強みとなっている一方、まち並み散策や歴史・文化的な名所の訪問などの実施率は低くなっている(「2018年JTBF旅行実態調査」)。
 2018年7−9月期以降、訪日外国人客数の伸び率は停滞しており、2桁の伸びが見られた頃に比べ、だいぶ落ち着いてきた。
 韓国訪日市場の特徴としては、飛行機と宿泊を個別に手配する人が多い、友人との旅行が多い、平均泊数が短い、消費単価が低いという点が挙げられる。
 2019年7−9月期以降、日韓関係の悪化を受けて韓国人客数が大きく減少し、客層別では特に訪日経験が浅い層で訪日外客数が大きく減少している。また、日韓関係が悪化する以前から、これまで韓国市場を牽引してきた「女性20代以下」の減少がみられ始めており、その要因としてベトナム人気が影響している可能性が指摘できる。

【発表2】
観光トレンド分析及び展望

Lee・Won-Hee
研究委員(KCTI)

 

 

 

 
 KCTIでは、観光を取り巻く環境の過去5年間の変化を検証し将来の変化を予測することで、中長期的な観光政策立案の基礎資料とするため、体系的な観光トレンド分析を行った。今回は2010年、2014年に続く3回目で、消費行動に加え、観光産業や地域観光といった観点からも分析している。
 韓国の観光を取り巻くマクロ環境として、社会、技術、経済、環境、政治の各側面から分析した結果、少子高齢化の進行、ワークライフバランスの重視、モバイル活用の発展、自動運転など新技術の活用、グローバル保護貿易主義下での低成長、20代の高い失業率、PM2・5による大気汚染、都市空間再生事業、週52時間勤務制導入に伴う余暇時間増大などが、観光に大きな影響を及ぼすことが分かった。
 分析の結果、今後5年間の展望として予測される事象を10項目にまとめた(図1)。これら10項目は、互いに影響し合いながら複合的に現れると予想される。


【発表3】
多様化するビジネストラベルの現状と可能性

守屋邦彦
観光政策研究部 上席主任研究員(JTBF)

 

 

 

 

 業務目的の旅行の前後に余暇目的の旅行を組み合わせるブリージャー(Bleisure)や、休暇中の滞在先で業務も行うワーケーション(Workation)の実施率が高まることで、旅行日数や旅行者数の増加につながり、旅行市場が拡大すると考えられる。
 JTBFの調査(2019年5月実施)によると、日本における直近1年間のブリージャー実施率は約40%。直近の出張でブリージャーをしたかという質問には、約27%が「実施した」と回答し、特に20〜30代の実施率が高い。延長させた宿泊日数は「1日」という回答が最も多く、日本の場合、出張の前後にプラス1日して、出張先の地域で少し観光を楽しむという傾向があることが分かった。往復の旅費は「会社負担」という回答が約75%を占めた一方で、飲食費の会社負担は約20%にとどまっている。ブリージャーの実施可否については、所属する会社の規程等で明確に認められているのは約21%だが、規程等には明記がないものの実施することが可能な人を含めると約63%が実施可能であった。
 ブリージャーを行う人の傾向として、若い世代、旅行好き、テレワーク実践者といった特徴が挙げられる。
 ワーケーションのメリットとして、地域側には都市住民との交流や関係人口の創出、企業側には働き方改革の推進やチームワーク醸成が挙げられる。
 ブリージャーやワーケーションの実施率を上げるためには、企業・団体や国による制度などの整備(ブリージャー実施規定の整備、休暇取得の促進など)、都市や地方における取り組みの充実(魅力アップ、ターゲットの設定など)、情報発信による社会的な機運醸成が必要と考えられる。

【発表4】
文化遺産を活用した地域観光活性化

Choi・Kyung-Eun
研究委員(KCTI)

 

 

 

 
 文化遺産観光の意義を大きく6点に整理した(図2)。文化遺産観光の推進を通して、国や地域の経済発展および地域活性化が期待される。また、観光客に対しては、文化遺産の価値を理解し体験する機会を提供することになる。

 


 韓国における文化遺産観光の事例のひとつとして、文化財庁が主導する宮殿の観光活用が挙げられる。「宮中文化祝典(Royal Culture Festival)の期間中、夜間に宮殿をガイド付きで巡るプログラムや、宮殿で宮中料理とショーを楽しむプログラムなど、宮殿を活用した様々なプログラムが提供される。この他、文化体育観光部では「テンプルステイ支援事業」に取り組んでおり、地方行政レベルでも文化財の夜間開放などを行っている。
 文化遺産観光においては、文化遺産の活用が地域観光の活性化につながり、地域観光の活性化が文化遺産の保全管理につながるといった好循環が必要。本研究で日本の文化庁と観光庁へのヒアリング調査を行ったところ、活用と保全の好循環については共感を得られた。
 こうした好循環を実現するために必要な戦略を4つの観点から整理した。(図3)。

 

ディスカッション

発表2について

塩谷(JTBF)…日本でもグローバルOTAの力が非常に強くなっている。旅行プラットフォームは、広告、販売、決済、物流機能を有し、消費者と観光商品を直接的に線で結びつけるため、グローバルOTAの拡大に伴い、自国に対する経済効果の低下が懸念される。さらに、SNSの膨大なデータを参照することで、高付加価値のコンテンツ造成にも影響力を持ち始めている。こうした動きにどう対応していくべきだと考えるか。
Kim(KCTI)…2017年の研究で、グローバルOTAが韓国観光市場の流通構造をかなり掌握していることが確認された。拡大のスピードが速く、事業領域も広いことが特徴。この過程の中で、不公正な取引が頻繁に行われており、韓国国内の旅行会社の競争力を下げてしまうという問題があった。今年9月から、韓国の文化体育観光部では公正取引委員会と協力し、グローバルOTAを対象とした政策協議会を構成している。韓国で自由に活動しているグローバルOTAに、その活動に見合った責任を取らせるという狙いがある。

発表3について

Cho(KCTI)…40以上の自治体がワーケーション受け入れの準備を行っているということだが、自治体がワーケーションを誘致するメリットは何か。
守屋(JTBF)…地域側にとってのメリットは、一般的な国内旅行に比べて長期滞在が期待できること。また、都市住民と地域住民との交流による地域の活性化や、使われなくなったホテルや保養所などの施設の再利用にもつながるだろう。
 企業にとっては、環境を変えて様々な議論をすることで、チームの結束力を高めることや、新たなアイディアが生まれることが期待される。また、地域の中で様々な活動を行うことで、普段業務として関わっている地域との直接的な接点を持ったり、社会貢献をしたりといった効果も期待できるだろう。
An(KCTI)…日本では、ブリージャーについて国レベルでの規定やガイドラインが定められているのか。また、ビジネストラベルを通じ、政策的にどのような効果が期待できるのか。
守屋(JTBF)…現状では、日本政府としてのガイドラインはなく、これからブリージャー促進の方策検討を始める段階。自身も検討に向けた会議メンバーへ参画予定である。少しずつ企業側での取り組みが広がりつつあり、我々JTBFでも2019年の夏頃にブリージャーを認める制度をつくった。
 効果については、企業側にとっては、従業員のリフレッシュやモチベーションのアップ、休暇取得促進につながるだろう。地域側にとっては、滞在時間の延長により、消費拡大などにつながることが期待される。

発表4について

吉澤(JTBF)…日本の場合、特に地方部では文化行政と観光行政がうまく連携できていないケースが散見されるが、韓国ではどうか。また、文化行政と観光行政の連携を図るために、どのような手法が効果的だと考えられるか。
Choi(KCTI)…地方レベルの取り組みは、日本の方が韓国より活発だと思われる。地方行政の予算は厳しいため、国の支援が必要になるだろう。文化行政と観光行政の協働がうまく進んでいる事例を対象に、国の支援を強化する。これにより成功事例が生まれてくると、地方レベルでの取り組みが活性化するのではないか。
Choi(KCTI)…日本人観光客の韓国旅行の目的として、ショッピングとグルメのウェイトが高いのに対し、歴史・文化的な名所訪問のウェイトは非常に低いとのこと。韓国における文化遺産訪問を促進させるために、どのような取り組みが必要か。
塩谷(JTBF)…約5年前に、歴史文化観光を目的とする国内旅行市場について消費者アンケートを行った。歴史文化が〝大好き〞という人は全人口の2割弱おり、その人たちが歴史文化観光旅行の延べ回数の4割を占めていることが分かった。つまり、歴史文化はある程度好きだが、それを主目的に旅行するほどではない人の方が多いという結果が得られた。この層はわざわざ韓国の歴史資源を見に行くことは少ないと考えられ、ターゲットとすべきは歴史が大好きな層だと思われる。歴史が大好きな人々はオーセンティシティを重視する傾向があるため、歴史文化が地域と共存しているかどうかが非常に重要になる。ソウルの宮殿の場合、宮殿とソウル市民との関係が分かりにくいという点が、課題となっているのではないか。

おわりに

 短い時間ではありましたが、カンファレンス終了後の懇親会も含めて非常に有意義に交流を深めることができ、直接対話することの重要性を改めて感じる機会となりました。
 今後も引き続き、研究交流を深めていきます。
文:観光情報センター企画室 門脇茉海