観光の国際化は世界的な現象であり、それに対応して、我が国の観光研究の国際化も必要と考える。我が国の観光研究で、強化しなければならない点は研究成果の英文による公表にあると考える。この点で、我が国の観光研究は、他のアジア諸国と比べても残念ながら遅れをとっているといわざるを得ない。研究成果を国際的にシェアすることが、今我が国の研究者に何より求められている。
 これは、我が国の研究成果のレベルが決して低いわけではなく、研究者のモチベーションの問題と考える。長年のこうした慣行を変えることは容易ではないが、筆者のささやかな経験を披露して、特に若い世代の参考になれば幸いと考える。
 まずは、英文で書いてみることである。苦労してまとめた成果を海外へ公表することで、より広く、はるかに多くの研究者に知ってもらい引用してもらうことができる。最初は時間がかかるものの、書いているうちに上達するので、とにかく書き続けることが大事で、継続は力なりといえる。次に、書いたら、国際学会で発表することである。最初から大きな学会でなく、アジア地域などの小さな学会の発表から始めても良い。
 国際学会で発表することで、海外研究者からコメントを得ることができるため、有益な機会となる。さらに、海外の研究者との知己を得ることで、共同研究につながる機会を得ることもできる。筆者の場合、最初に参加した欧州の学会でイタリアの研究者と知己を得て、イタリア・アグリツーリズムの共同研究を開始し、現在まで30年間も継続する契機となった。海外誌に掲載の共著論文も、しばしば引用されている。
 海外誌への投稿では、いきなり採択率数%のトップジャーナルへ投稿して挫折感を味わうよりも、受理されやすいジャーナルを選んで自信をつけることから始める方が、現実的な選択肢となる。筆者自身もインパクトジャーナルでもプレダトリーでもない、マイナーな英語圏のジャーナルに初めての英文論文を投稿し、掲載された時に感じた喜びは予想外に大きかった。その論文は、現在でも引用数を伸ばし続けている。海外誌では、リジェクトされる可能性も大きいので、よくあることと気持ちを切り替えて、次の投稿先をあらかじめ考えておくと、その後の対応の時間を節約できる。
 以上、筆者の経験を踏まえて、海外への研究発信と交流について述べてきた。若い研究者のみなさんに海外での成果発表の参考になれば幸いである。