活動報告

「日韓国際観光カンファレンス2024」を開催

1.概要

 2024年11月28日(木)、日韓国際観光カンファレンスを開催しました。このカンファレンスは、研究協力に関する覚書(MOU)を結んでいる韓国文化観光研究院(以下、KCTI)と毎年共催しているものです。昨年締結(更新)されたMOUにおいて、新たに、地域ワークショップの開催が追加されたため、今回は初めて日本・沖縄での開催となりました。
 当日は、両機関の代表挨拶後、「地域観光」をテーマに、両機関の研究員4名による研究発表と質疑応答を行いました。
 本稿では各研究発表の要旨を中心にその後行われた質疑応答・ディスカッションをご紹介します。

2.各研究発表要旨

【トピックス:地域観光】
発表…❶
「日本の地方自治体における宿泊税導入の現状とJTBF『観光財源研究会』の活動」
JTBF
菅野正洋 ●上席主任研究員

日本で導入が進む観光振興のための財源=宿泊税

 現在、宿泊税を導入している自治体は、ニセコ町、京都市、金沢市、長崎市など日本各地に広がっている。また、沖縄県でも導入が検討されている。日本の地方自治体では、観光振興に充てる予算不足が課題となっており、独自財源の必要性が高まっている。
 宿泊税は、宿泊行為に対して課税されるもので、主に二つの課税方法がある。一つは宿泊料金に関わらず一定額を課税する「定額制」、もう一つは料金の一定割合を課税する「定率性」である。

事例紹介

①倶知安町(定率制)…宿泊料金に対して2%の税を課税。収益は主に地域のインフラ整備や交通整備に使われ、その中でも特に地域DMO(観光地マネジメント組織)への資金支援が多くの割合を占めており、観光振興に大きく寄与している。
②京都市(定額制)…宿泊料金に応じて200〜1000円の一定額を課税。収益は観光客のモラル向上や伝統建物の修復、観光客の安全管理などに使用されている。
③長崎市(定額制)…宿泊料金に応じて100〜500円の額を課税。収益は観光産業の人材育成や観光インフラの整備に使われている。観光業の持続的発展に向けた人材育成にも使われている点が特徴である。

当財団の観光財源をめぐる研究活動

 当財団では、宿泊税に関する研究活動や支援を行っており、2017年には「観光財源研究会」を設置した。研究会には地方自治体やDMOの職員が参加し、宿泊税の導入や活用に関する議論を行っている。これらの活動を通じて得た知識は学術研究やガイドブックとして広く情報発信している。

発表…❷
「ラグジュアリーツーリズムのトレンドの変化と動向」
KCTI
キム・ヒョンジュ ●上級研究委員

ラグジュアリーツーリズムのトレンドの変化

 ラグジュアリー観光は国際的にも注目を集めている。注目すべきトレンドとしては、技術の進歩、サステナブルツーリズムへの関心の高まり、独占性、個人情報保護、真の文化体験、カスタマイズ、健康とウェルネスが挙げられる。富裕層観光客が好む目的地として、アメリカ、フランス、スペイン、日本の人気が高い。また、経済的に自立した中国の女性観光客がラグジュアリー観光市場を牽引しており、一人旅のニーズが増加している。中国人女性の富裕層観光客が選んだ目的地は、オーストラリア・ニュージーランド、ヨーロッパ、韓国・日本である。

訪韓ラグジュアリー観光市場の動向

 韓国を訪れた富裕層観光客は、支出規模から、「ハイエンド・ラグジュアリー」(観光支出額が25000ドル以上)、「ラグジュアリー」(同12000ドル以上)、「プレミアム」(同5000ドル以上)の3タイプに分けられる。コンテンツとして好まれるのは、医療・ウェルネス、グルメ、韓流、スポーツレジャー、韓国文化・芸術で、観光活動で人気があるのは、グルメ観光、K-Beauty、K-Popである。

富裕層観光客の誘致拡大のための政策

 ラグジュアリー観光地としてグローバル競争力を強化するため、認知度の向上、観光商品の高付加価値化、地域競争力の強化、利便性向上を柱とした政策が進められている。例えば「利便性向上」では、ヘリコプター移動などラグジュアリー観光客向けのサービス拡充が進められている。また、地域観光資源の発掘や観光地の広報活動が強化されている。韓国では地方観光のモデル育成やユニークな観光商品の発掘にも注力しており、観光誘致に向けた多様な取り組みが進められている。

発表…❸
「韓国における島嶼観光の推進状況と『K‐観光島』の育成事業の課題」
KCTI
ジン・ボラ ●副研究委員

韓国における島観光のトレンド

 韓国の島観光は、ユニークな体験や地域固有の資源への関心が高まっている近年の観光トレンドに沿って商品開発が進められている。例えば済州島では、360度映し出されるメディアアートを鑑賞しながら、海女さんたちが捕った海の幸をコース料理で堪能できる「海女の台所」など、テーマ性のある観光商品が注目されている。また、島はワーケーションの場としても適している。若い世代を中心に、ハイブリッド勤務のニーズが高まり、ワーケーション市場が急成長している。しかし、アクセスの不便さや交通費の高さ、季節によっては船の欠航などが、島観光の障壁となっている。

韓国の島観光における政策の推進状況

 文化体育観光部※を中心に、地域開発やアクセス性向上に関する政策が推進され、青山島など未開発地域の観光地化も計画されている。
 関係省庁では、地域住民の生活環境の改善や所得増を目的とした政策を推進している。KCTIにおいても、島の観光活性化のため、2021年に発足した島の専門研究機関「韓国島振興院」と2024年3月にMOUを締結し、①島文化・島観光に関する研究協力、②セミナー等学術イベントの共同開催、③レポート・統計データの共同活用、④人的交流等を推進することとなっている。
※文化体育観光部:日本の文化庁、観光庁、スポーツ庁にあたる機関

K‐観光島の育成事業

 「K‐観光島」育成事業では、国際的に競争力のある観光地を目指し、巨文島、末島、鬱陵島など5つの島でインフラ整備や独自コンテンツの開発が進められている。例えば、巨文島では英国軍の歴史を生かした観光開発、末島ではトレッキングコースの開発、鬱陵島では自の生態系を生かした観光資源の活用等が挙げられる。

島観光の活性化の課題

 島の規模と特性に応じた観光戦略が必要であるため、自ら産業を運営できる「自立型」と、周辺島との連携が必要な「連携型」に島を分類している。島ごとの訪問者向け資料、観光現況や基礎資料等が不足しているため、それらの調査や政策機関のプラットフォームを通じた情報共有も必要である。さらに、島の現状を分析し、実際の観光活性化および収益モデルの構築も重要な課題である。島嶼経済を発展させるため、6次産業化や新技術の導入、ストーリーを備えた新規ブランドやキャラクター開発への投資が求められている。鬱陵島のゴリラのキャラクターは若年層を中心に反応がよく、この成功例からも島のキャラクター開発への投資が重要視されている。

発表…❹
「沖縄におけるサステナブルツーリズム」
JTBF
中島 泰 ●上席主任研究員

沖縄観光の概況

 沖縄は青く美しいビーチ、亜熱帯の自然、独自の歴史的遺産、地元料理、リゾート滞在、イベントなど、多様な魅力を持つ観光地である。
 訪沖観光客は1972年以降、国内客・外国客ともに右肩上がりに成長してきた。特にこの10年は、インバウンド客が急増していた。コロナパンデミックによって観光客数は一時激減し、インバウンド客はほぼゼロになったが、国内客が半分程度残ったことにより、沖縄観光は生き延びることができた。なお、昨年度時点でパンデミック前並みに回復している。沖縄県では、観光客消費単価や平均宿泊数の伸び悩みが課題となっている。また、住民の観光産業への意識は、給与や待遇面で否定的な意見も見られる。

パンデミックを契機とした意識の変化

 パンデミックにより、観光事業者は非常に苦しい時期を経験したが、その一方で、空いた街、透明度が増した海を見て、沖縄に観光が本当に必要なのだろうかと、沖縄県民が考える機会になった。パンデミックによって、世界的に他の観光地でも、過剰な混雑を繰り返さないよう、今までとは違う観光のあり方、理想像を模索する契機となった。

サステナブルツーリズムフレームワーク

 サステナブルツーリズムの定義を基に、地域の「環境」、「社会」、「経済」という3つの分野と、「問題解決型」と「ビジョン追求型」の2つの取り組みの時間軸とでフレームワークを考えてみたい。
 「問題解決型」は、既に起きている問題をすぐに解決する取り組みである。一方で、中長期的に観光によって地域をよくするための「ビジョン追求型」の支援も重要である。マイナスをゼロにする「問題解決型」だけ取り組んでいても、地域としての発展はない。観光によって地域をプラスの状態に持っていく「ビジョン追求型」の取り組みを戦略的に行っていくことが求められる。

これからの沖縄観光

 沖縄におけるビジョン追求型の取組を紹介したい。
①100年先に三線の素材をつないでいく―くるちの杜100年プロジェクト:沖縄には独自の楽器三線がある。三線の材料となる木材は、かつては沖縄で採れていたが、現在は輸入に頼ることが多くなっている。そこで、100年後は沖縄で採取した木材で三線を作ることを目指しているプロジェクトで、観光客が植樹に参加するツアーとなっている。
②歴史、自然、文化を守るために価値を伝えていく―ガンガラーの谷:観光客を対象としたガイドツアーで得た収益を、開発で荒れた森の保全に活用し、森が復活した。観光によって、資源を復活させて、さらに未来につなげるための取り組みである。
③そこにホテルがあることでより良い地域が創り出せる―百名伽藍:沖縄南部にあるホテル「百名伽藍」では、「そこにホテルがあることでより良い地域が創り出せる」ようにすることをモットーとしている。沖縄の木材や岩などを使って建築されている。また、沖縄の文化を観光客に伝え、沖縄の文化を未来につなげようとしている。そのために沖縄県内の芸術を学ぶ学生をホテルに雇用し、文化を伝えるとともに、雇用の創出にもつなげている。
 こうした沖縄県内のさまざまな取り組みをさらに拡大させていくために、現在JTBFでは、沖縄県とサステナブルツーリズム宣言の策定に取り組んでいる。半年後には沖縄県が公式発表としてサステナブルツーリズム宣言を行う予定となっている。

3.質疑応答・ディスカッション

 主に行われたディスカッションには、以下のものが挙げられる。

●日本における宿泊税導入時の内部的なトラブルや葛藤について

・宿泊税は宿泊施設が宿泊客から代理徴収する仕組みで、宿泊料金が高く見えることや徴収業務の負担が課題とされてきた。日帰り客への課税は難しいため、宿泊客に限定した徴収がされている。導入に伴う懸念として、宿泊客数の減少が挙げられたが、実際には変化がほとんどないというデータを示し、理解を得た。多くの自治体は、宿泊施設の業務負担を補償金として返金している。

●ユネスコ世界遺産に登録されている沖縄県内のスポットと持続可能な観光への取り組み

・沖縄には世界文化遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(2000年登録)と世界自然遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表
島」(2021年登録)がある。
・世界文化遺産には、首里城跡や住民の祈りの場が含まれており、特に斎場御嶽は県民にとって特別な聖地である。一時期パワースポットとして観光客が押し寄せ、住民との摩擦が生じたが、サステナブルツーリズムの観点で対策が講じられた。具体的には、事前ガイダンスの義務化や入場料の徴収で入場者を管理し、文化への理解を促進した。
・世界自然遺産登録によって、一度に観光客が多く訪れると自然資源がダメージを受ける懸念があった。西表島では、来年から特定自然観光資源への立ち入り制限が行われることになっている。
またガイド事業者についても、認定ガイド制度を導入して認定者のみがガイドをできるようになる。

●韓国における高付加価値旅行者を対象とした調査の方法

・富裕層を対象とした調査は難しく、今回の研究では2つの方法を試みた。
一つは、一般観光客を対象に実態調査を行い、消費額の高い旅行者を抽出して分析したが、直接的な富裕層調査ではないため不十分と考えている。もう一つは、専門旅行社やホテルのコンシェルジュへのヒアリングを行った。一般旅行者向け調査が富裕層研究の概念に適合するかを検討中である。

●韓国の島嶼地域におけるオーバーツーリズム対策

・鬱陵島では大型クルーズの導入に伴う交通問題が発生し、オーバーツーリズムが懸念されている。KCTIはこの問題への対策を提言しているが、島内の大手観光業者の影響で行政が積極的に対策を行うのは難しい状況となっている。

4.おわりに

 韓国・ソウルでは、11月の観測史上で1位となる異例の大雪が降り、日本への到着が4時間遅れるなど、一部、予定に変更が生じましたが、11月28日の午前にカンファレンスを開催し、午後にはエクスカーションとして、沖縄市のエイサー会館にてエイサーを体験しました。
 2日間の行程の中で、カンファレンスの場以外にも日韓の研究者同士、それぞれの研究テーマについて意見交換がされ、大変有意義な場となりました。
 これからも日本と韓国の観光における共通点や相違点を相互に理解し、信頼関係を築きながら、両国の観光文化の発展に尽力してまいります。
(文:JTBF・岩野温子)