特集①-❷ 日本人が 愛してやまないハワイ
―現在の日本人旅行者の動向

観光研究部 研究員
岩野温子

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID‐ 19)が、2023年5月に「5類感染症」に位置づけられてから、今日ではノーマスクでの日常生活が戻ってきている。約3年間の不要不急の外出を控えた期間が明け、やっと国内外の旅行需要が回復していくことが期待される中、物価の高騰や円安等により、海外旅行のハードルは高くなっている。こういった現状もあり、どこに行くか、これまでの旅行先の選択肢とは変わってくるのではないだろうか。
 日本人の旅行意向としては、2023年5月の調査において、1年以内に国内旅行に行きたいと思っている人たちは75%を超えており、海外旅行に行きたいという人も30%程度【注1】と、旅行に行けない間に旅行計画を立てていた人も少なくないだろう。
 今回視察先として訪れたハワイは「JTBF旅行意識調査」【注2】において、「今後1〜2年の間に行ってみたい海外旅行先」の1位となっている。
また、旅行会社の予約状況、検索数でもハワイは人気の旅行先として顕在のようである。例えばHISの2023年の年末年始(2023年12月23日〜2024年1月3日出発)の予約状況では、海外旅行の人気旅行先ランキング1位はハワイ【注3】、トラベルコ海外ツアー検索で夏・秋の人気の海外旅行先1位もハワイ【注3】となっていた。

 今回の現地視察では、海外旅行の中でも人気のあるハワイが、コロナ禍を経てどのような状況にあるのか、①コロナ後のハワイの観光動向(特に日本人の動向)、②燃油サーチャージや物価の高騰、円安が観光客の活動・消費に与える影響について、ヒアリングや視察を通して把握することを目的とした。

2.コロナ後のハワイの観光動向

 個人的な話ではあるが、私自身、ハワイリピーターである。コロナ禍の約3年間は行くことができなかったが、2010年頃から1〜1・5年に1回ハワイを訪れている。そんな私が現地で感じたことは、ハワイに日本人がいないということである。8月の夏休み期間の旅行であったので、もう少しファミリーやグループがハワイ旅行に戻ってきていると予想していたが、日本語があまり聞こえてこず、メイン通りであるワイキキビーチ沿いのカラカウア通りでも日本語を話す人とすれ違うことは多くなかった。
 実際に、HTA【注4】のデータで訪問者数の推移を見てみると、【図1】のとおり、日本人においてはコロナ前の2019年同月と比較すると40%程度の回復となっている。補足すると、他の国籍も含めた全訪問者数を同様に見ると、80%程度の回復となっており、アメリカ本土からを筆頭にハワイへの旅行者が戻ってきているといえる。
 日本市場の需要回復に向けてHTAは、2024年の目標として以下の3点を挙げている。また、マーケットシェアが大きかった【注5】日本人の訪問者数の回復はハワイの観光産業にとって欠かせないことがうかがえる【注6】。
①業界パートナーと協力し、責任ある方法で日本市場を再建・回復する。
②ハワイ独自のブランドストーリーを共有し、日本人観光客と地元コミュニティを結びつけ、各島のポノトラベラーをターゲットにする。
③政府機関や大手航空会社と協力し、ハワイへの運休便を復活させる。

3.燃油サーチャージや物価の高騰、円安が観光客の活動・消費に与える影響

 HTAによると、日本人の2023年8月の1人あたりの消費額の合計は1日231ドルで、2022年同月と比べるとマイナス4・1%だったものの、2019年同月からはプラス0・9%となっている【表1】。費目ごとの構成比に注目してみると、日本人も含めたハワイへの訪問者全体で、宿泊費、飲食費、交通費は増加している一方、買物費は減少している。また、娯楽費については全体は増加しているが、日本人は減少している。

 日本人においては、物価の高騰や円安により消費を抑えた旅行をしているのではないかと考えられるが、実際にハワイ旅行中、例えばスターバックスでアイスコーヒーとホットサンドを頼むと、約10ドル、2023年8月のレートは約144円なので、1440円である。また、レストランでの食事となると、食事の料金に対し18〜22%程度のチップも合わせて支払うので、贅沢に旅行をするのではない限り、食事もよく考えて過ごさなければならないと私自身感じながらの滞在であった。

 旅行者の活動や消費については、旅行業関係者へのヒアリングでも、「チョコレートやクッキーをお土産に買うのであれば、ウォルマートやドン・キホーテ等の大きなスーパーで安いものを探し、大量買いはせず、帰ってからも一部の友人、知人にしかお土産を渡さないようなかたちでセーブしているのではないかと感じている。ホテルの宿泊代もガソリン代も高くなっており、レストランでは食事料金も上がっており、外食はとても高いので、お金持ちの人が旅行に来ても食事はセーブしたり、ホテルラウンジが利用できるツアーに申し込まれる傾向も出てきている」とあり、データと一致した内容であった。

4.それでも再びハワイを訪れたい

 しかし、ハワイの魅力は買い物や飲食だけではない。海や山があり、穏やかな文化もある。飛行機から降りたその瞬間に空気を吸うだけでハワイに来たと感じる、その瞬間を味わいたいという人もいる。ゆったりと流れる時間の中に身を任せて過ごすのもハワイ旅行の醍醐味である。高価な旅行先になったけれど、それでも訪れたいと思うハワイファンをターゲットにどのようにアプローチしていくか。難しい課題に直面していることが感じられた視察となった。今後ハワイがどのような旅行先になっていくのか、引き続き、旅行者の動向や関連レポート等を注視していきたいと思う。

※注1…… JTBF「新型コロナウイルス感染症影響下の日本人旅行者の動向(その23)」より
※注2…… JTBF『旅行年報2023』p.39より
※注3…… 2023年8月20日閲覧時点
※注4…… HTA(Hawai’i Tourism Authority:ハワイ州観光局)
※注5…… 2019年のハワイの旅行者総数(空路)のうち15.4%を占める国際市場最大のマーケットだった。ちなみに2番目は5.3%でカナダ。HTAデータより
※注6…… HTA「2024年ハワイ州議会定例会に向けた2023年年次報告書」より

〈参考文献〉
1) Hawaii Tourism Authority(2020):2019 Annual Visitor Research Report
2) Hawaii Tourism Authority(2023):2022 Annual Visitor Research Report
3) https://www.hawaiitourismauthority.org/media/11670/august-23-pppd-by-category-for-posting.pdf
4) 岡田悠偉人(2023):ハワイ州における再生型観光「Malama Hawaii」,観光文化,第257号
5) ハワイ州観光局(2021):第5回「ハワイ旅行意識調査」(2021年10月~11月)
6) 佐々木土師二(2007):『観光旅行の心理学』
7) 山口一美(2023):『ハワイ読本―日本人がハワイを好きな理由―』