観光研究最前線

・これからの観光政策に関する研究2025
・責任ある観光(Responsible Tourism)に関する研究2025

バリ島における〝質の高い品格ある観光〞

〜モラトリアムと多層ガバナンスを中心に〜

公益財団法人日本交通公社
観光研究部主任研究員
後藤健太郎

1.はじめに‒成長の適切な管理

 近年の世界的な観光需要の急増において、観光地の「成長管理(Growth Management)」は、地域社会の生活環境や自然資源への負荷を制御し、持続可能な発展を模索するための重要な政策課題となっている。成長管理には、観光の量・質・速度を適切にコントロールする視点とアプローチが必要であり、その具体的な手段として、新規開発の一時停止措置「モラトリアム」を講じる地域が海外において一部確認される(後藤、2026)。
「モラトリアム」の厳密な定義はここでは避けるが、主眼は、開発の急激な変化速度を調整することで、地域を整える「時間的猶予」を創出し、地域社会が主体的な発展の方向性を描き直す点にある。同手法は、観光産業における過当競争の是正や投資の質的誘導、あるいは公共政策面における外部不経済の内部化や新たな長期的方針を検討するための戦略的猶予期間の確保など、それぞれの地域が抱える事情に応じて多様な目的を持って導入されてきた(後藤、2024)。導入のタイミングや運用のあり方によっては賢明な足踏み戦略として位置づけることもできるが、経済的影響なども踏まえ多面的な影響を考慮するなど、慎重な検討が必要である。
 こうした「観光地の成長管理」という普遍的課題を踏まえ、本稿では文化観光および島嶼型リゾートの代表格であるインドネシア・バリ島を調査研究対象とする【写真1】。同島は、急激な過密化や環境変化に対抗するため、過去数度にわたり独自の「モラトリアム」を導入・模索してきた歴史を有する。同島における一つのデスティネーションとしての観光地ガバナンス(統治)の試行錯誤の軌跡は、地方分権化に伴う行政権限のねじれや地方財政構造と密接に結びついており、公的規制が直面する制度運用上の課題や実務的な難しさを浮き彫りにする。同時に、そうした行政的な取り組みの背景には、伝統的共同体による独自の社会的規律や、産業間の連携といった現場の自律的なメカニズムが一定の役割を果たしていることも見逃せない。
 そこで本稿では、バリ島におけるモラトリアムの変遷を中心に、観光財源の再配分や地域社会・民間セクターの動向を含む多層的な政策の諸相を整理し、同島が目指す「一つの島、一つの管理
(One Island, One Management)」に向けた観光統治の実態を考察する。これらの一連の試行錯誤を紐解くことを通じて、持続可能な観光や適切な観光利益の地域還元の方策を模索する現代の日本の観光地マネジメントに対する知見やヒントを導き出すことを目的とする。
 なお、本研究にあたり、2026年3月に現地視察(ヒアリングを含む)を実施した。以下は、その前後に実施した文献調査による情報や知見を加えたものである。

2.バリ島の概要と観光政策

 バリ島は、「神々の島」、「愛の島」、そして「最後の楽園」などと称される。ここでは、バリ島の観光政策を理解する上での前提となるバリ島の概要と、観光地としての発展の歴史について概観する。

2‐1 バリ島の基礎情報

① バリ島の社会的紐帯と行政機構

 インドネシア共和国の観光においてその中核を担うバリ島は、独特の宗教的・文化的背景と、強固な地域共同体システムに支えられた観光地である。島域の人口規模は約440万人を擁し(2000年は約315万人、現在も人口は増加中)、州内の行政構造は1市8県(計9地方自治体)で構成される。
 加えて、バリ島の統治構造における特徴は、公的な行政単位の配下に、伝統的な自律的住民組織が重層的に機能している点にある。公的な単位とは別に、信仰と紐付いた伝統村(Desa Adat)が存在し、さらにその最小単位として「バンジャール(Banjar)」と呼ばれる地縁社会が組織されている。バンジャールは、冠婚葬祭や治安維持、伝統文化の継承のみならず、地域の観光資源の自律的な管理等においても実質的な決定権を有しており、バリ島固有の草の根ガバナンスの基盤となっている。
 このような社会構造の根底にあるのが、バリ・ヒンドゥーの核心的哲学である「トリ・ヒタ・カラナ(Tri Hita Karana)」である。これは「神と人」「人と人」「人と自然(環境)」の3つの調和・融和が社会の幸福をもたらすという宇宙観であり、バリ島の景観や空間秩序の規範となってきた。この思想が具現化された代表例の一つが、独自の協同組合的アプローチによる水利システム「スバック(Subak)」であり、美しいライステラス(棚田)を維持する文化的景観としてユネスコの世界文化遺産に登録されている。

② 地方自治とバリ島の慣習

 スハルト政権崩壊後の1999年に制定(2001年施行)された「地方自治法」は、国、州、県・市の関係性を劇的に変化させ、バリ島の観光地ガバナンスに多大な影響を与えた。この分権化により、主要な許認可権限や財政自主権が基礎自治体である県・市に移譲された。州と県・市の間では階層的(上下)関係を持たないとされており、州政府は中央政府の出先機関としての調整機能に留まる。実権を握る県・市が独自の開発や地方税収の確保を優先する構造となっている。
 国の法改正により県・市の権限が制度化される一方で、バリ州政府は、県・市より小さい単位の草の根の社会統合と文化的尊厳を法的に再定義する「伝統村に関する地方条例第4号(Perda No. 4/2019)」を2019年に制定した。本条例は、前述の伝統村に対し、明確な法的地位と自律的な統治権を付与した。これにより、伝統村は州政府からの直接的な予算措置を受けつつ、地域の開発や環境保全、文化防衛において独自の行政規則を執行する強力な法的根拠を獲得し、地方分権下のバリ島において公的行政と伝統共同体が重層的に交錯する独自の統治空間を形成している。

2‐2 観光地としての発展

① 観光開発と国際評価

 バリ島の観光の発展は、地域文化の保全と観光振興を両立させる「文化観光」の体現を理念としてこれまで進められてきた。近現代における観光地化の大きな契機となったのは、1960年代後半の空港整備と、1969年のングラ・ライ空港の国際化である。1970年代には 世界銀行の支援を受け、島南部のヌサドゥア地区において、マスタープランに基づき大規模リゾート開発が進められた。同時に、島全域の空間開発においては、伝統的な空間規則に基づいた景観形成が図られた。象徴的なものが「ヤシの木の高さ(約15メートル、建築物として4階建て以下)を超える建物の建設を認めない」という規制である(1)。これにより、高層ホテルの乱立による景観の破壊が防がれ、自然環境と調和したバリ島独自の価値が維持されることとなった。
島中部に位置するウブド地区は、かつての王宮文化を色濃く残す伝統芸能や芸術とともに、広大なライステラス、洗練された宿泊施設やカフェ文化と融合し、精神的な癒やしを求める文化的・高付加価値な客層を引きつける拠点ともなっている【写真2】。バリ島は、2002年および2005年に爆弾テロによる一時的な停滞を経験したものの、同島の観光需要は強固なレジリエンス(回復力)を示してきた【図1】。
 今日、インドネシアを訪れる外国人観光客の45%がバリ島に集中しており、その国際的な評価は揺るぎない。2026年現在においても、世界的なトラベルメディアの市場調査において、バリ島は再び「世界最高の観光地(World’s Best Destination)」および「アジア太平洋地域で最高の島(Best Island in Asia-Pacific)」に選定されるなど、世界有数のトップブランドとしての地位を確固たるものにしている。

② 空間的過密/スプロールと現代の構造的課題

 観光主導による経済成長はバリ島に多大な恩恵をもたらした一方で、空間的な開発の不均衡と、環境容量の限界に伴う新たな課題を顕在化させている。地理的な開発動向を見ると、かつての中心地であったクタやレギャンといった南部沿岸部から、スミニャック、さらに北寄りのチャングーへと過密化の波が急速に拡大している。チャングーに代表される新興エリアでは、ノマドワーカーの拠点として人気が高まり、ビーチクラブなどの施設も次々と開業している。水田だった土地は急速に観光インフラや中長期滞在者向けヴィラへと転用され、スプロール現象が進行している。
 この急激な島内での転用開発とインフラ整備の遅れは、負の外部性をさらに増幅させる結果となっている。特に近年の都市部における水害(洪水)の頻発は、自然の排水機能を軽視した空間開発の結果であり、地域社会の生活基盤を脅かす問題となっている。また、従前から抱える「南北の地域格差」は深刻である。観光投資や消費などの富が南部エリアに極端に集中する一方で、島北部や東部・内陸部は開発の恩恵から取り残されており、島内における経済的・社会的分断の是正が急務となっている。

③ 持続可能な観光統治に向けた多角的な新施策

 近年、バリ州政府およびインドネシア政府は、需要・供給の質的制御と空間の多極分散等を目指す多角的な政策を展開している(以下では一部を概観)。
 第一に、観光客の質の管理と受益者負担の適正化を目的に、外国人観光客を対象とした「外国人観光客徴収金(Tourism Levy)」制度を導入した(詳細は後述)。ここで得られた財源は、バリの文化保全や環境インフラの整備に直接充てられる仕組みとなっている。また、「質の高い品格ある観光(high-quality and dignified tourism)」の実現に向けて、過度な観光開発がもたらす文化的尊厳の毀損に対処するため、不適切な行動を律する観光客に向けた包括的なガイドライン「Do’ s and Don’ ts」(観光客の行動規範)を2023年に作成し、その遵守に向けて発信している(2025年に改訂版公表)【写真3】。
 第二に、質の高い観光地へと転換を図るため、バリ州政府は総合的な「空間計画(RTRW)」の作成を進めると同時に、中央政府はサヌールを「健康経済特区(サヌール医療特区)」に指定した。従来のウェルネス観光から最先端医療とリゾートを融合させた経済特区への昇格により高付加価値型観光へのシフトを促している。
 第三に、南部一極集中の構造と国際空港の処理能力が上限に達しつつある状況を改善するため、広域インフラ整備と分散型の開発政策が推進されている。2016年に始動した国策「10の新しいバリ(10 New Balis)」構想(2017年に4カ所、2019年に5カ所のへ絞り込み)では、インドネシア国内でのバリ島観光需要の多極・分散化を促し、バリ島への過度な依存を緩和する試みが続けられてきた。また、島内最大のボトルネックである南部の慢性的な交通渋滞を解消するため、近年の動向としては、ングラ・ライ国際空港からクタ、スミニャック等の主要拠点を結ぶ次世代型交通インフラ「Bali Urban Subway(LRT)」の起工式が行われ、公共交通の導入が進められている(バリ島内での観光客の移動交通は、基本的にタクシーやカーチャーター、バイク(Grab 等))。さらに、長年の課題であった南北格差の構造的解消に向け、島北部のブレレン県において「北バリ新空港」の建設構想が推進されており、南部集中を物理的・空間的に分散させ、島全体の均衡ある発展を実現するための新たなグランドデザインが模索されている。

 そして、先述した構造的課題に対処すべく、州政府は地方自治の変革期において、開発の一時停止措置(モラトリアム)の発動や観光財源の再配分などの施策を模索し、試行錯誤を繰り返してきた(後述)。近年は、長期計画「バリ州新時代100年ビジョン(Haluan Pembangunan 100 Tahun Bali)2025‒2125」(2023年作成)等に基づき対策が講じられており、「一島一体・一つの統一的運営(Satu Pulau, Satu Pola, Satu Tata Kelola)」の理念で島全体のバランスある開発を進めている。

3.モラトリアムの発動と実態

3‐1 バリ州政府による「モラトリアム」

① 理念とアプローチ

 バリ島における「モラトリアム」とは、現地語で「istirahat sejenak(一息つくこと、一時的な休息)」という独自の概念に根ざした地方発のアプローチである(2)。本制度は、観光客の急増に伴う客室稼働率の著しい低下や、事業者間における過当競争(価格の低下)に対し、「一度立ち止まり、地域全体の呼吸を整える時間」を確保するために2001年に提唱された。
その目的は、新規の許認可を一時的に凍結し、その猶予期間を活用し、観光地や市場構造において生じている歪みを把握し、是正措置を講じることである。そして、その間に島全体の環境容量を把握し、受け入れ可能な「適正キャパシティ」(必要な客室数やレストランの座席数など)を算出・検証することが試みられた。

② 動的手段としてのモラトリアム

 バリ島において発動されてきたモラトリアムは、法的な強制力や罰則を伴うものではなく、バリ州知事が発する行政指導の一種である「通達(Surat Edaran)」という形式をとってきた。
これまで「モラトリアム」と称される対応は歴史的に3度行われており、同島の観光開発の進展やそれに伴う環境変化の都度、そのあり方が議論されてきた【表1】。しかし、分権化により、実際の許可権限を有する県・市政府(基礎自治体)が新規の許可発行(3)を継続したため、州政府の意図したモラトリアムが現場で形骸化する事態が繰り返された。

3‐2 モラトリアムの変遷

 バリ島での「モラトリアム」(一時停止措置)は、その時々の状況と政策目標に応じて意味的な変化を遂げてきた。以下では、各モラトリアムの発動の背景と内容を整理する。

第1期モラトリアム(2001年〜)
不健全な競争による価格低下、客室稼働率低下への対応

 当時、バリ島内には約300社以上の旅行会社が乱立し、ホテルの供給過剰も相まって事業者間での不健全な価格競争が発生していた。客室稼働率の低下が島全体の観光品質を脅かす事態となったため、当時のバリ州政府観光局長(今回の視察でのヒアリング対象者)が就任した年にモラトリアムを提案し、州知事が旅行会社のライセンス等の新規認可の発行停止を打ち出した。ただ、発行の凍結を試みたものの、市場では規制の網の目を潜り抜けるために、既存のライセンスを非公式に売買する免許転売行為が横行した。さらに、2001年の地方自治法施行に伴い、ホテル・レストラン税(PHR)等の地方自主財源(PAD)を独自に確保したい県・市政府が、州の意向に反して許認可を出し続けた構造的要因も先行研究では指摘されている(Sudaryana,2017)。結果として事業者数を実質的に抑制することはできず、実効性を欠いたまま終了した。

第2期モラトリアム(2011年〜)
過剰供給と交通渋滞の深刻化への対応

 バリ島南部のリゾートエリアを中心に、大型ホテルや分譲型ホテル、ヴィラ等の宿泊施設が急激に増加した(4)。
これにより深刻な客室の過剰供給(オーバーサプライ)が引き起こされ、事業者間での過度な価格競争が常態化することとなった。経営環境の急激な悪化を懸念した民間セクターからは、新規開発の一時停止を求める強い要望が寄せられた。また、同時期には、主要幹線道路や空港周辺において交通渋滞が深刻化していた。
 こうした状況への対応として、州知事が観光関連の新規建設を停止する通達を発行した(南部地域に対してのみ)。しかし、2001年の事例と同様、地方分権下で許認可権を持つ各県・市政府による独自の許可発行を抑制するだけの実質的な効果を発揮できない状況であった。特にバドゥン県等においては、州政府の方針(モラトリアム)が現場の利害関係や行政実務のレベルで事実上形骸化していたことが実証されている(Mastuty et al., 2015)。ただ、その後、アンダーパス(地下道)や海上高速道路といった大規模インフラが整備され、空港周辺の交通渋滞は一定程度緩和された。

第3期モラトリアム(2026年〜)
生産的な土地等での観光施設の建設禁止措置

 近年の過度な開発は、ホテルやレストランなど商業目的の観光セクターに留まらず、人口増加にともなう住宅需要の高まりも重なり、土地転用を島全域で拡大させることとなった。また、河川沿いや断崖絶壁、海岸付近での違法建築が横行した結果、自然の排水機能の喪失による洪水など、深刻な環境破壊が顕在化するに至った。
外国人投資家らによるヴィラ開発目的の土地の長期リースは、将来世代の土地を利用する権利やコミュニティの景観維持(世代間正義)を脅かす法的課題としても議論されている(Prianjaya et al., 2024)。
 こうした状況を受け、バリ州政府は規制戦略を、より上位の法的枠組みである空間計画と土地利用規制へと移行させた。2023年には、バリ州の空間計画(RTRW:2023‐2043年)に関する地方条例(2023年第2号)を施行し、県・市政府での建築承認(PBG)の前提となるマクロなゾーニング計画を明確化した。州政府は、PBG(旧IMB)の発行権限自体を県・市政府から直接剥奪するのではなく、その上位概念である土地利用転換を厳格に規制し、空間計画の遵守を義務付けることで、事実上の開発抑制を行うとした。
これは島内全域での開発を一律に禁止したものではなく、伝統的な水田をはじめとする「緑地(農地)」での地目変更を厳しく制限する性質のものであり、単なる観光規制を超え、災害対策および環境保全の観点から不可避の措置であった。環境保全や持続可能な農地保護に関する国家レベルの各種法令とも緊密に連動している。
 しかし、州空間計画に関する条例発効後も南部を中心に相次いだ水害や過密化の深刻化を受け、2026年1月からは、生産的な土地(農地や森林、保水地等)、特に水田におけるホテルやレストラン、商業施設の建設を一層厳しく制限する、新たな「モラトリアム」措置が講じられるに至っている。
これは、過去2回にわたる市場の需給調整を目的としたモラトリアムの議論を超え、公衆衛生の維持や環境保護を大義名分とした介入措置である。なお、コロナ禍の収束から回復期にかけては、ホテルだけでなくレストランやヴィラ、ビーチクラブ、さらにはナイトクラブをもモラトリアムの対象に含めるべきかという議論や、断片化した県・市政府の建設許可権限を州や中央政府へ再一元化(集権化)すべきであるという、地方分権のあり方そのものを揺るがす権限帰属の議論が行われたことも確認されている。

3‐3 モラトリアムを形骸化させた構造的要因

 現在実施段階にある3度目のモラトリアムに関しては、その実効性を今後の動向から見極める必要があるが、過去2回の試みが十分な成果を収められず形骸化を繰り返した背景には、地方分権化に伴う行政権限のねじれや、地方財政構造に起因する以下の3つの構造的要因が存在する。
●地方分権化による地方自治体の権限
 1999年の地方自治法制定(2001年全面施行)により、それまで中央集権的であったインドネシアの統治構造が一変し、許認可権限は「県・市」政府であることがより明確化された。
州知事が広域的な開発停止の通達を出しても、実権を握る各県・市の首長は州の指示に拘束されることなく、独自の判断で新規許可を発行し続けることが可能であった。
●行政手続き上の制約
 地方自治体の許認可窓口において、申請者が法律や条例で定められた形式的要件(必要書類の提出や技術的基準の充足など)をすべて満たしている場合、州知事による通達のみを理由に許可を拒否することは、法的な大義名分を欠き極めて困難であった。
●税収確保との不一致
 各県・市政府にとって、管轄地域内における観光開発は直接的な地方税収の拡大に直結する。特に、地方自治体の主要財源である「ホテル・レストラン税(PHR)」(後述)の歳入を最大化するため、自治体間でホテルやレストランの誘致競争が激化した。また、建設許可の一時停止措置は、不動産業や建設業にも影響を与えることが予想できる(例:建設工事のための地元雇用等)。結果として、州全体が掲げる「環境・文化保全のための抑制方針」と、地方自治体が抱える「財政基盤強化というインセンティブ」が衝突し、モラトリアムの実効性が崩れることとなった。

3‐4 適正な管理

 過去のモラトリアムは実効性を欠いたが、現在のバリ島では、新規ライセンス発行停止に留まらない、島全体の空間秩序を法的に再構築するための総合的な空間計画(RTRW)と連動した土地利用規制への転換が進められている。モラトリアムを適正な管理へとつなげていくためには、過去のモラトリアムの教訓から以下のことが必要であると考えられる。
●データの整備
 持続可能な成長管理を実行するためには、政策の前提となる正確なデータの把握が不可欠である。バリ島では実態が把握しきれていない状態にあった。この課題に対処するため、地元のウダヤナ大学等が、島内全体の観光施設に関するデータ整備を試みた。データ整備は、過密化が深刻な南部3県市(バドゥン県、デンパサール市、ギャニャール県)だけでなく、島内全域への適切な管理を目的に、バリ島全域を包括的に網羅する形で進められた。また、モラトリアムの対象となった宿泊施設だけでなく、受け入れに連動するレストラン等も対象にされた。しかし、刻一刻と変化する開発動向に対応し、陳腐化しない正確な台帳を維持・管理していくことは至難の業であった。成長管理体制の構築には、データ駆動型の観光ガバナンス基盤の構築が欠かせない。島の統合的管理を視野に入れるのであれば、観光以外の要素も含めた台帳が必要だろう。
●監視体制の構築、法の適切な執行
 先進的な空間計画やデータおよびその基盤を構築したとしても、それを現場で運用する行政側の「法の適切な執行」が担保されなければ、規制は形骸化の歴史を繰り返すことになる。過去のモラトリアムにおいて、一貫した法執行がなされず、社会的な抗議等を受けてから行政が動くという後手の取り締まりが常態化していた事実は重い教訓である。基礎自治体(県・市)を含めたすべての政府機関が、利害関係や独自の財政的インセンティブに左右されず、一貫した監視体制を維持し、違法開発に対して厳格な法執行を継続できるかという懸念は、依然として根強く残る。今後のバリ島観光の持続可能性は、この執行力のギャップを埋めるガバナンスの構築にかかっていると言える。

4.観光財源の再配分

 バリ島では、観光振興によってもたらされる経済的利益を地域住民の生活向上や観光資源・環境の保全に還元することが、持続可能な観光地経営における重要な政策課題となっている。ここでは、地方税であるホテル税・レストラン税を巡る島内の異なる政府間配分の仕組み(地域間の均衡ある発展の仕組み)の変遷と、近年州政府によって導入された外国人観光客徴収金について整理する【表2】。

4‐1 ホテル税・レストラン税‒異なる政府間での取り組み

① 概要と制度的変遷

 インドネシアの地方税制度において、「ホテル税(Pajak Hotel)」および「レストラン税(Pajak Restoran)」(以下、PHR)は、宿泊・飲食サービスの利用者に対して一律に課される地方税である(現在は特定財・サービス税PBJT)。これは国内外を問わずすべての顧客が対象となり、ホテルやレストランの事業者が代理徴収して地方自治体に納付する仕組みをとっている。税率は原則として上限10%に設定されており、地方自治体の主要な自主財源を構成する。なお、これらの宿泊サービスや飲食提供は国の付加価値税の対象外とされ、その代わりに地方税としてのPHRが適用される性質を持つ。
 PHRの制度的枠組みは、中央政府による地方税体系の統合・簡素化と税率・税目の全国標準化のための法改正に伴い、段階的に改変されてきた。まず1997年に地方税制度が整理された際、ホテル税・レストラン税は全国統一の制度として「県・市税」に規定された(5)。翌1998年の政令では、PHR収益の一部を観光振興財源として直接活用する運用のルール(使途規律)が中央政府によって定められた。
具体的には、徴収された税収の80%を地方政府の一般歳入とする一方、残りの20%を国内外の観光プロモーションや観光イベントの開催支援等に充当する観光目的の財源として中央政府が直接管理・確保する仕組みが導入された。

② 地方分権化と税収の偏在問題

 1998年のスハルト政権崩壊以前の中央集権体制下においては、地方自治の権限が脆弱であり、バリ島内における観光財源の地域間格差に対しては、州政府が調整役となり、州レベルでの再配分による地域間調整が行われていた(6)。しかし、1999年の地方自治法の制定(2001年施行)に伴う一挙分権化以降、州政府はこうした配分調整に関与できない状況となった。
 分権化後の再度の地方税法の改正によりPHRが100%県・市の財政に帰属するようになると、観光インフラの地理的偏在がそのまま自治体間の圧倒的な財政格差へと直結した。特にクタ、ヌサドゥア、スミニャック、チャングーといった主要な国際リゾート地を内包する島南部のバドゥン県は、他の基礎自治体を圧倒する突出した地方独立の財源を保有することとなった(7)。
 この財政格差を是正するため、税収の多い基礎自治体(バドゥン県やデンパサール市など)から、観光開発の恩恵が及びにくい他県(ブレレン県、カランガセム県、ジェンブラナ県など)に対して、財政支援を行う仕組みが模索、実施されてきた。ただし、これらは法的な義務に基づくものではなく、あくまで自治体間の政治的合意によって成り立つ協力的・政策的な任意スキームに留まっていた。

③ 新たな合意と財政再配分メカニズムの制度化

 こうした長年の課題に対し、2025年にバリ州知事は、バドゥン県・デンパサール県・ギャニャール県などの南部観光依存地域(いわゆるSarbagita地域)(8)から、財政的に脆弱な他県へより公平に歳入を分配すべきであるとの方針を打ち出した。これは過去から蓄積されてきた地域間格差の是正議論やPHR収入の分配の延長線上にあるものであるが、自治体間の任意協力を超え、州全体を網羅する包括的なガバナンスへと昇格させる試みと言える。2025年の合意により、バリ州政府と各県・市は、PHR収入の再配分を公式な行政制度として導入することを確認した。州政府は従来の「調整役」から、公式な「再配分の管理者」へとその役割を転換させることになる。
 新たな制度の核心は、バドゥン県、デンパサール市、ギャニャール県の南部3県・市政府が徴収するPHR収入の10%(従来と異なり算定方法を明示)を州政府が一旦受け取り、「特別財政支援金(BKK: Bantuan Keuangan Khusus)」という制度を介して、財政基盤の弱い基礎自治体(6県)へとバリ州政府が配分する点にある
(Sarbagita 地域が観光収益を担い、北部・東部6県にその一部を回す)。このメカニズムは、従来の任意協力とは異なり、州条例および知事令に基づく「義務的な制度」として運用される予定である。本制度の導入は、バリ島内における観光税収の極端な偏在を是正し、島全体の均衡ある発展を促すとともに、環境負荷や災害リスクを抱える地域への支援体制を構造的に強化することを目的としている。
 なお、再分配は、南部の観光開発を阻害・抑制することではなく、資金を受け取る側の県における、インフラ整備や伝統文化および自然環境の保全を支援することである(9)。また、こうした合意の背景に政治情勢があることも付記しておく(10)。

4‐2 外国人観光客徴収金の導入と現状

① 制度の法的根拠と導入目的

 バリ州政府は、持続可能な観光開発に向けた新たな財源確保策として、「外国人観光客徴収金(PWA: Pungutan Wisatawan Asing)」(11)を2024年2月14日より徴収している【表3】。
本徴収金は、インドネシア中央政府が2023年5月4日に制定・交付した「バリ州の範囲および権限を再規定する法律」(12)を上位法とし、バリ州条例を法的根拠として運用されている。
 同制度が掲げる主な目的・柱は、風習、伝統、芸術、および地元の知恵(ローカル・ウィズダム)の継承と保全を目指す「バリの文化保護」と、バリ島の自然景観を清潔かつ美しく保ち、持続可能な環境インフラを整備・管理する「自然環境の持続可能な管理」の2点に集約される(13)。本制度はバリ島を訪れるすべての外国人観光客を対象としており、旅行者は公式のオンラインシステム「Love Bali(ラブ・バリ)」等を通じて、1人当たり15万ルピアを事前に支払う必要がある(14)。

②導入の背景:オーバーツーリズムによる環境や社会への負荷

 外国人観光客の観光税に関しては、新型コロナウイルス感染症の拡大前(コロナ禍前)から長年にわたり議論されてきた。その背景には、当時の外国人観光客の急増に伴う様々な影響がある。観光需要の過度な膨張に対して、島内のインフラ、特に廃棄物処理能力が追いつかず、深刻なゴミ問題や観光地周辺での水資源の枯渇、さらには聖域や文化遺産の損傷といった負の外部性が顕在化した。このように、地域社会や自然環境への負荷が限界に達したことが、受益者負担を原則とする制度設計を加速させる契機となった。

③ 運用実績と徴収率向上への課題

 制度導入から2年が経過した現在(2026年)、運用の実効性を高めるための実務的な検証が進められている。導入翌年には、現地の主要な寺院や観光地の入り口において、徴収金の支払証明書である「レヴィ・バウチャー(Levy voucher)」の確認を行う運用も開始された(エンドポイント制の導入、最大3%の報償費あり)(15)。しかしながら、これまでの財政実績を見ると、納付率は依然として低い水準に留まっている。2024年の実績は、納付者数が約212万人で納付率は約33%に留まり、税収総額は約3182億ルピアであった。続く2025年の実績は、納付者数が約240万人、税収総額は3690億ルピア、納付率は約35%であった【表4】。

 このように、来島する外国人観光客の約3分の2が未納のまま入国している実態を受け、州政府は2026年の総徴収金目標として5000億ルピアを掲げ、大幅な徴収率向上を目指している。今後はシステム運用の改善に向け、主要観光地におけるエンドポイント徴収を拡大することや、オンライン旅行会社(OTA)や航空会社とのシステム連携を強化して航空券購入時の同時徴収化を図る方針である。さらに、法務人権省入国管理局(移民局)のデータとの連動システムを構築することや、モバイルアプリの改修をはじめとするデジタル決済プロセスを簡素化することなど、これらの施策を重層的に推進していくことを検討している。

④ 徴収金の使途と優先事項

 徴収された資金の適切な管理とともに、その使途について、バリ州政府は透明性を確保しつつ、地域の課題解決へ直結させる方針を採っている。2025年度における最優先課題としては、前述した文化保護プロジェクトと、廃棄物管理におけるクリーンアップや処理施設の拡充という2つの分野が設定された。ただし、具体的な予算配分割合や各プロジェクトの執行結果、および詳細な実績データについては現時点でまだ公式に公表されておらず、今後の使途公開と説明責任の担保が注視されている。

5.観光地ガバナンスを補完する社会的・経済的メカニズム

5‐1 地域共同体による社会的規律と民間事業者との協定

 先述の通り、バリ州においては「伝統村に関する地方条例第4号(PerdaNo. 4/2019)」が2019年に制定されたように、伝統的な村落共同体や慣習法が現代社会においても極めて強固な影響力を維持している。バリ島における観光管理の実効性を担保する上で、公的な行政法規と同等、あるいはそれ以上に強力な自律的統治機能として働くのが、伝統村(Desa Adat)およびその構成単位である地縁社会「バンジャール(Banjar)」との合意形成である。
 外部資本や外国人投資家が特定の地域に進出してホテルやヴィラを開発・運営する際、公的な行政許可を取得しただけでは、実務上、円滑な事業継続を図ることは現実的に容易ではない。
事業者は、進出先の伝統村や地元バンジャールと公式・非公式の「地域協定」を締結することが、必要となってくる。
この協定の具体的な内容には、地元住民の優先雇用割当、地域インフラの整備負担、そして共同体が維持する伝統儀礼への定期的な参加や財政的拠出金の支払いなどが盛り込まれる。
 ここにおいて、外部資本にはバリ固有の「地域尊重の思想」への同調が厳格に求められる。事業者にとっては、単なる経済活動の場として土地を消費するのではなく、地域社会の調和を説く「トリ・ヒタ・カラナ」の精神を体現し、伝統村やバンジャールが守ってきた空間秩序や固有の文化的文脈を毀損しない持続可能な経営姿勢を維持することが、リスクマネジメントの観点からも極めて重要視されている。
 このように、行政法規の隙間を埋めるように、バリ島の現場では伝統村と外部のホテル投資家との間で、互恵的な合意形成が展開されている。先行研究(Sanjaya et al., 2018)においても、伝統村の持つ社会的・文化的規律と、民間事業者の投資行動が、対立ではなく独自の「協調的相互作用(Consensual Interaction)」によって調整されている実態が示されている(法的・公式的コンセンサス、社会的コンセンサス、文化的コンセンサス)。この現場主導の自律的な仕組みこそが、外部資本の参入による地域社会との摩擦を和らげ、実効性のある地域協定(雇用担保や拠出金制度)の基盤として機能している。

5‐2 観光と農業セクターの産業連関

 バリ島の宿泊セクターにおいては、観光消費による経済的便益が島外(中央資本や外資)へと吸い上げられてしまう「観光リーケージ(経済的漏出)」の高さが、長年構造的課題として指摘されてきた(Suryawardani et al.,2014)。近年においては、急激な観光開発がもたらす農地消失や一次産業の衰退を抑止し、観光の恩恵を内陸部の農村へ波及させるため、バリ島では民間事業者と農業セクターを結びつける、産業間連関による地産地消の仕組み構築が模索されている。その中核を担うのが、インドネシア・ホテル・レストラン協会(PHRI)バリ支部と、地元の農業協同組合、および各県政府との間で交わされる「農産物供給・農地保全に関する協定」である。
 本取り組みは、バリ州政府が制定した知事令(Pergub No. 99/2018)を法的根拠としており、島内のホテルや高級レストランに対して、一定割合以上の地元バリ島産の農水産物(米、果物、肉類、およびその加工品)を優先的に調達・購入することが規定されている。同協定による連携は、観光産業が創出する収益を一次産業へと直接的に還流させ、生産者の生活基盤を安定させるだけでなく、ユネスコ世界遺産にも登録されている伝統的な水利システム「スバック(Subak)」や、美しいライステラス(棚田)の景観を経済的に維持・保護するための持続可能なメカニズムとして機能している。

6.まとめに代えて‒日本の観光への示唆

 本研究は、バリ島における観光モラトリアムの変遷と、それを巡る多層ガバナンスの実態を検討してきた。同島の経験は、地方分権による権限の断片化や形式的合法性の壁の前では、空間計画や行政通達といった公的規制単体での成長管理は形骸化しやすいという教訓を示す。しかしバリ島では、伝統村の地域協定による社会的規律や、知事令に基づく農業との産業連関がこれらの不全を実効的に補完してきた。
 この多層的な統治構造は、観光需要や供給の集中・集積及びその分散の検討等が求められる今後の日本の観光政策に新たな視点を与える。第一に、法執行が厳格な日本であっても、現行法上は形式的要件を満たした建築申請を拒否できないため、環境容量や災害リスクに応じて新規開発の総量を機動的に制御する「総量管理」の視点が必要であろう。第二に、地域コミュニティやDMO(観光地域づくり法人)に対し、開発者と実効性のある「地域協定」を直接交渉・締結できるような、自律的な開発規律の権限の付与やプロセスを改めて検討してみることである。第三に、観光需要を地域の一次産業や景観保全へと直接結びつける産業連関の制度設計である。公的規制と現場の社会・経済メカニズムを重層的に連動させることこそが、持続可能な観光地マネジメントの鍵となる。そして、最後にこれらの政策や制度を根底で支える「文化的ならしさを守るための強い意志」「地域の結束」の存在を見落としてはならない。(日本の報告書(2007)でも触れられている)。

【謝辞】
本調査研究の実施にあたり、インタビューにご対応いただきましたウダヤナ大学名誉教授ピタナ様、そして通訳の方とその企業様、観光ガイドの方に感謝申し上げます。なお、本稿は、文献資料調査も踏まえて著者が整理したものであり、その一切に対する責任は、著者が負うものです。

<注>
(1)…バリ島の景観を規定する「建物の高さはヤシの木の高さ(15メートル)以下とする」という規則は、1966年の高層ホテル建設(サヌール地区の「グランド・インナ・バリ・ビーチ・ホテル(10階建て・約40メートル超)」(日本の賠償金で建設))による景観破壊への危機感から、1971年11月に発布された「バリ州知事決定」を起源とする。この規制の根底には、空間を神聖な上層から不浄な下層へと垂直的に序列化するバリ・ヒンドゥーの空間哲学が存在する(「トリ・アング(Tri Angga)」と呼ばれる、空間を垂直的に3つに区分する哲学)。各民家の最神聖位に祀られる家寺を、人間が上階から見下ろす構造は宗教的な不敬とみなされるためである。近年の都市密集地では土地の制約から2階に家寺を設ける事例も見られるが、その場合でも神聖な領域を最上層に維持する規範は厳格に守られている。
(2)…ヒアリングより。
(3)…開発における行政手続きは、土地の用途指定や空間計画との適合性を精査する「開発許可」と、実際の事業運営を認める「営業許可」の二つに分かれる。基礎自治体は、建設許可(IMB)の申請を受け付け、審査し発行する。現在は、新たに「PBG(建築承認)」と「SLF(機能適格証)」の二段階制度へと完全に移行し、許可から承認する仕組みへと移行している。
民間事業者は、建設開始前にPBGを取得して設計の適法性を証明し、建設完了後にSLFを取得して建物が安全に運用可能であることを証明しなければならない。PBGを電子統合システム(SIMBG)で申請する前提条件として、その土地の用途が地域の空間計画(ゾーニング)に適合していることを証明する「KKPR(空間利用適合承認)」の取得が必須となっている。なお、PBGの最終的な署名(デジタル)と発行主体は県・市であるが、審査の基準設定、プラットフォームの運用、そしてプロセスの透明性の担保は、中央政府が基準の設定とシステムを通じてコントロールする。
県・市の恣意的な裁量権やローカルルールによる遅延は大幅に削減されることが意図されている。
(4)…民間事業者による開発・営業スキームと法規制について。バリ島における宿泊インフラの供給形態は、主に大規模な「ホテル」と、プライベートな居住空間を提供する「ヴィラ」に大別される。これらは単に建築構造やターゲットとする客層が異なるだけでなく、法的な許認可手続きや、背景にある不動産契約の枠組みにおいても明確に区別されている。インドネシアの現行法において、ホテルの建設・運営には、星の有無や客室数に応じた厳格な商業ライセンスの取得が義務付けられている。これに対してヴィラは、個人住宅の延長である「民宿・ホームステイ許可」の枠組みで比較的緩やかに許認可されてきた。しかし近年では、外資系事業者による大規模な高級商業ヴィラ開発が急増し、制度の網の目を潜り抜ける形での乱立が問題視されてきた。ヴィラ開発において、インドネシアでは、外国人は完全な土地所有権を取得することは法的に不可能である(期限付き)。
近年、各基礎自治体は、違法な名義借りによる無許可ヴィラの取り締りを強化しており、法執行の厳格化が進められている。
(5)…近年の改革として、2022年に制定された「中央政府と地方政府の間における財政均衡法(HKPD法)」に基づき、現在PHRは地方税の大分類である「特定財・サービス税」の枠組みへと統合され、運用されている。
(6)…1998年以前は、バリ州政府は、ホテル・レストラン税の約30%を留保し配分したという(ヒアリングより)。
(7)…バリ島におけるPHR税収は、特定の地域に極端に偏在している。主要リゾートエリアの大半を内包するバドゥン県が全体の約70%(約3兆ルピア)を独占する一方、デンパサール市(約20%)、ギニャール県(約10%)と続き、内陸部のバングリ県などは約500億ルピアにとどまる。この約60倍に達する自治体間の税収格差は、バドゥン県が県民の国民健康保険料を全額公費負担(実質ゼロ円)できるほどの圧倒的な財政力の差となって表れている。
(8)…Sarbagita(サルバギタ)地域とは、バリ州南部の都市圏を構成する4つの独立した行政区域(Denpasar市、Badung県、Gianyar県、Tabanan県)を指す地域名称。県(Kabupaten)と市(Kota)は同格の地方自治体
であり、どちらも「第二級地方自治体(Daerah Tingkat II)」に分類される。州(Provinsi)と県・市(Kabupaten/Kota)。
(9)…配分された財源は、県政府の一般財源に組み入れられる。
(10)…闘争民主党(PDI-P)所属のワヤン・コスター氏が2025年にバリ州知事に再就任。主要な県・市知事は、同政党で足並みを揃えたこと、さらに、PHRによる財政豊かなパドゥン県の元副県知事がバリ州知事に就任したことなども合意に至った背景の一つと言える。ワヤン・コスター氏が州知事に就任(2018‒2023)していた2019年にも一部では既に配分は行われていたという(ヒアリングより)。
(11)…「観光税」(一部では、「入島税」)とも呼ばれているが、本稿では地方税法に基づく税ではないことから、「徴収金」と表現する。
(12)…バリ州を再規定する法はインドネシア憲法の範囲内であり、ジョグジャカルタ特別州のような地位、権限を得たわけではないことに注意。
(13)…バリ州条例では、観光税収入の使途を以下の3分野に限定。
 1. バリの文化遺産・伝統芸能の保存・修復
 2. 自然環境の保全・清掃・廃棄物処理
 3. 持続可能な観光インフラの整備・観光サービスの質向上
 具体的な支出事例
 - 文化遺産の修復(寺院、伝統舞踊、儀礼の維持等)
 - ビーチや観光地の清掃活動、廃棄物処理施設の拡充
 - 交通インフラ(渋滞緩和のための道路整備等)
 - 地域コミュニティ(デサ・アダット)への分配と観光管理支援
 - 観光地の安全対策、観光客向けサービスの改善
(14)…日本からはバリ島を訪問する場合、オンライン支払い以外に、イ・グスティ・ングラ・ライ国際空港国際線到着ロビー出口付近に設置されているカウンターでの支払いが可能。周知については、今回は成田空港、現地の宗教施設(一部)などでの掲示が確認された。
(15)…2025年の条例改正を受けて、ホテル・旅行代理店・観光地等の事業者が「エンドポイント」として観光税の代理徴収を行うことが可能となった。
事業者が観光客から観光税を徴収し、州政府に納付した場合、徴収額の最大3%がインセンティブ(報奨金)として支払われる。今回の視察中は確認現場には遭遇しなかった。

<参考文献>
1)…井澤友美(2017):バリと観光開発 民主化・地方分権化のインパクト,ナカニシヤ出版
2)…国土交通省(2007):3.インドネシア・バリ島における観光投資・開発の実態,観光投資に関する調査・研究報告書,pp.119-151
3)…北村倫夫(2008):国内における世界水準のデスティネーション・リゾートの形成に向けて,知的資産創造,pp.88-101
4)…後藤健太郎(2024):ホテルモラトリアム―公共政策による環境変化への介入(特集1ハワイにおける観光パラダイムシフト),
観光文化,260号,pp.17-20
5)…後藤健太郎(2026):賢明な未来を選び取る、観光地のグロースマネジメント,(公財)日本交通公社Webサイトコラムvol.538
6)…齊藤功高(2020):バリ島における観光と雇用、その課題,文教大学湘南総合研究所紀要,pp.99-108
7)…山下晋司(1999):バリ観光人類学のレッスン,東京大学出版会
8)…Pramono, J., Wiranatha, A. S., & Susrusa, I. K. B. (2014). Model of sustainable environmental management
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Legal protection from an intergenerational justice perspective: A concept for leasing freehold land in the tourism area in Bali.
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investment in Bali tourism development. Jurnal Multidisiplin Indonesia, 3(2), 1‒23. https://doi.org/10.62007/joumi.v3i2.404
13)…Suryawardani, I. G. A. O., Bendesa, K. G., Antara, M., & Wiranatha, A. S. (2014). Tourism leakage of the accommodation sector in Bali.
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14)…Utama, I. G. B. R., Suardhana, I. N., Sutarya, I. G., & Krismawintari, N. P. D. (2024).
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●以下インドネシア語文献
15)…インドネシア統計局(BPS)バリ州>経済統計>観光
https://bali.bps.go.id/en/statistics-table?subject=561&sortBy=date%2Ctitle&sortOrder=desc%2Casc
16)…Mastuty, I. T., Noak, P. A., & Supriliyani, N. W. (2015). Implementasi kebijakan pemerintah Provinsi Bali dalam
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