わたしの1冊 第40回『緑の文化史 自然と人間のかかわりを考える』
俵 浩三・著
北海道大学図書刊行会・1991年

愛甲哲也
北海道大学大学院農学研究院教授
公園緑地や造園、自然観光に関心をもって研究室に入ってくる学生に薦め、自身でも度々読み返している。著者は、1953年に厚生省に入省し、日本で最初の国立公園管理官の一人として活躍された。その後、北海道庁を経て、専修大学北海道短期大学で2001年まで教鞭をとられた。論文も多く執筆されたが、その著作は歴史的な文書を探索して、平易な文体で読みやすく書かれたものが多い。「日本造園学会誌」の研究論文をはじめ、自然公園財団(以前は国立公園協会)発行の「國立公園」に多くの記事を投稿されている。著書としては他に『北海道の自然美をたずねて』『北海道の自然保護 その歴史と思想』『牧野植物図鑑の謎』などがある。本書は2008年に出版された集大成ともいえる『北海道・緑の環境史』の姉妹編とも言えるもので、エッセイ風ではあるものの、自然・緑・植物と私たちとのかかわりについて様々なエピソードを膨大な古書や文書から掘り起こして解説されている。
著者が信条とされていたのが「温故知新」である。本書の冒頭にも「先人が歩いた道、昔の事がらのなかには、現在の、あるいは将来の方向を示唆するものが含まれていることが多く、それを探すことに楽しみが見いだせる」と述べられている。冒頭のペリーの黒船来航と北海道への西洋式農業の導入の関係からはじまり、異国の植物を求めるヨーロッパのプラントハンター、今昔物語にみる我が国の森林資源の利用、明治以降の都市公園や国立公園の成立と、その内容は多岐にわたる。豊富な資料を引用し、その内容を丁寧に検証し、点と点をつなげ、私たちと植物や緑とのかかわりの由来が立ち現れるのは、推理小説でも読んでいるような気分にさえなる。著者は、1994年からは、北海道自然保護協会の会長としても活躍され、士幌高原道路の建設中止などに大きな貢献をされた。「自然保護は人間が自然環境と共存共栄し、自然の恩恵に感謝しながら、どのように自然を傷つけず永続的に有効に活用していくかを求めるもの」と定義し、自然的要素と人間的要素のスペクトルからなる自然保護体系図が最終章に提案されている。自然資本にねざしたネイチャーポジティブ経済がもとめられる今、深い示唆を与えてくれる。
残念ながら2020年に逝去されたが、晩年まで著者の探究心は衰えず、北海道大学の宮部金吾博士が大正14年頃に執筆されたと思われる「高山植物園新設設計書」を発見された。関連する資料と照合され、地域で活発に活動していた大雪山調査会の依頼により作成され、国立公園指定への運動や北海道の高山植物研究の歴史を知るうえで貴重な資料であることを明らかにした。現在、北海道大学植物園の宮部金吾記念館に所蔵されている。もし本書を改訂することがあったならば、新たな一章になったかもしれない。
国立公園誕生から90周年などで、過去を振り返る機会が増えたが、著者にならい「温故知新」の姿勢で臨みたい。
※『緑の文化史・自然と人間のかかわりを考える』は現在絶版となっています

愛甲哲也(あいこう・てつや)
北海道大学大学院農学研究院教授。鹿児島県出身。自然公園の収容力、利用者管理、都市公園の計画、市民協働の緑地管理などを研究している。著書に、『自然保護と利用のアンケート調査』『利用者の行動と体験』など。
