観光を学ぶということ

ゼミを通して見る大学の今

第29回 福知山公立大学 地域経営学部

谷口ゼミ

埋もれし地域資源を社会とつなぐゼミ活動と「観光まちづくり」


谷口知弘(たにぐち・ともひろ)
福知山公立大学地域経営学部教授。工業デザイナー、大学教員(京都工芸繊維大学、立命館大学、同志社大学大学院)、まちづくりコンサルタントを経て2016年より現職。ワークショップの専門家として、嵐山さくらトイレ、京都市未来まちづくり100人委員会、福知山ワンダーマーケットなど市民参加のまちづくりプロジェクトに参画。「Tシャツからまちづくりまで」をキャッチフレーズに学生や地域の人々と共に、協働型まちづくりの実践的研究に取り組む。2015年より、京都ミニツアー「まいまい京都」のガイドとして出身地の煎茶発祥の里宇治田原町を案内する。編著書に「はじめてのファシリテーション」(昭和堂)。

1.人口7万3千人の地方小都市にある福知山公立大学と谷口ゼミ

 福知山公立大学は、京都駅から山陰線特急「はしだて」号・「きのさき」号で約75分、北近畿の中心都市の一つである福知山市が設置した市立大学である。この春、開学10周年を迎えた。地域経営学部と情報学部、大学院地域情報学研究科から構成される小規模大学であり、人口約7万3千人の地方小都市が設置した公立大学として、地域に根ざした教育研究を展開している。

① 地域協働型教育研究

 本学は開学以来、「市民の大学、地域のための大学、世界とともに歩む大学」を基本理念に掲げ、地域協働型教育研究を柱としてきた。大きな特徴は、1年生から地域をフィールドに、市民、行政、事業者と協働しながら学ぶ演習プログラムを実施している点にある。
 学生たちは、教室で理論や知識を学ぶだけではなく、地域での出会いや対話、協働実践を通じて学びを深める。
 地方都市や中山間地域では、人口減少や担い手不足が深刻化する一方で、地域固有の文化や風景、暮らしの知恵など、多くの地域資源が十分に活かされないまま埋もれている。こうした地域社会の課題に主体的に関わる人材を育てることが、本学の重要な使命の一つである。
 そして、この理念に共感した学生たちは、沖縄から北海道まで全国各地、とりわけ地方都市や中山間地域から集っている。多様な地域で育った学生たちが出会い、それぞれの地域での経験や価値観を持ち寄りながら学び合うこと自体が、本学の地域協働型教育研究の特徴となっている。福知山市という地方小都市で学ぶ経験は、学生たちが自らの故郷や地域社会のあり方を見つめ直す契機にもなっている。

② 谷口ゼミの基本理念

「出会い、学び合い、育て合いの場づくりを通して、『人間の成長』と『ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の醸成』を試みる」ことがゼミの基本理念である。多様な背景や価値観を持つ人々が心地よく暮らせる持続可能な地域社会づくりに貢献すること、今ある地域資源の価値を再創造すること、未来のステークホルダーを集め、豊かな人間関係や信頼、ネットワークを育むことを目標としてゼミ活動を行っている。
 もっとも、3年間のゼミ活動で実現できることには限界がある。
だからこそ重視しているのは、地域との協働によるプロジェクト実践を通じて、学生たちが地域の人々と出会い、対話し、共に試行錯誤する経験である。
その過程で、人との関係性を大切にしながら地域と共に生きることが、地域を豊かにし、自らの幸福(ウェルビーイング)にもつながることを実感し、社会へ巣立ってほしいと願っている。

2.地域と共に学ぶ3年間のプロジェクト実践

 谷口ゼミでは、2年生から4年生までの3年間を通して、地域資源を活かした協働のまちづくりについて、理論と技法、そして地域と関わる姿勢を、地域協働型プロジェクトの実践を通じて段階的に学ぶ。
 活動拠点は、福知山駅北側の旧中心市街地、新町商店街にある本学サテライトキャンパス「まちかどキャンパス吹風舎(ふくちしゃ)」である【写真1】。元写真館を改修したまちなかの学舎で、学生たちは地域に身を置きながら、大学と地域を往還し、理論と実践の架橋を試みている。

① 2年生ゼミ
〜地域と協働しよう。小さな社会実験をやってみよう

 2年生前学期では、多様な人々の知恵を集めながら協働のまちづくりを進める「ワークショップ」の基礎を学ぶ。加えて、地域イベントで授乳・おむつ替えスペースを提供するなど、子育て世代が参加しやすい環境を整える小さな社会実験にも取り組む。地域社会に働きかける第一歩を踏み出す経験することが狙いである。
 後学期には、学生自身の問題意識からテーマを設定し、2〜3のプロジェクトチームを形成する。重視するのは、「観察(オブザベーション)」↓「発想(アイディエーション)」↓「試作(プロトタイピング)」というデザイン思考のプロセスである。この段階のプロジェクト実践において大切なことは、与えられた成功体験ではなく、まずは社会に小さな働きかけを「試みる」こと、「失敗する」ことであると考えている。また、試行錯誤の地域協働実践を通じて、プロジェクト実施の知識や技術よりも地域と関わる姿勢や態度を体験的に学ぶことを重視している【写真2】。

② 3年生・4年生ゼミ
〜まちをもっと楽しく面白く。コミュニティをデザインしよう

 3年生から4年生にかけては、2年生での経験を土台に、新たな地域協働型プロジェクトを立ち上げ、2年間継続して取り組む。テーマは白紙から考え、学生たちが抱く違和感や関心を出発点に、地域との対話を重ねながら企画・運営する。地元の酒蔵や高校と連携した産学連携事業「若者酒づくりプロジェクト」だけは、6年間継続する継承型プロジェクトである。
 こうしたチームプロジェクトと並行し、学生たちは個人研究にも取り組む。卒業研究は、プロジェクト報告と個人研究を統合した報告書としてまとめ、卒業間近の3月に協働先へ届ける。 
 この3年間の学びの中で、学生たちは地域に身を置きながら、人と出会い、地域資源と向き合い、小さな実践を積み重ねて成長する。
 また、地域との協働実践では、学生の思いだけで物事は進まない。住民、事業者、行政など多様な主体と対話し、時に立ち止まりながら合意形成を図る必要がある。こうした試行錯誤を通して、学生たちはプロジェクトマネジメントやファシリテーションの力を実践的に身につけていく。

3.埋もれた地域資源を社会とつなぐプロジェクト実践

 ここでは、今年度の4年生が取り組む「若者酒づくりプロジェクト」と「なぞときさんぽプロジェクト」を紹介する。いずれも、地域に既に存在しているにもかかわらず、十分に社会と接続されていない地域資源を見つめ直し、新たな関係性を生み出そうとする試みである。

① 若者酒づくりプロジェクト
〜日本酒文化と若者をつなぐ

 綾部市唯一の酒蔵である若宮酒造の経営者は、日本酒離れが若者世代に顕著であることに強い危機感を抱いていた。「若者のための日本酒は、若者自身と共につくるべきではないか」という問題意識から、本学北近畿地域連携機構に相談が寄せられたことが、本プロジェクトの端緒である。そして、2021年度に若宮酒造、綾部高等学校、京都工芸繊維大学、福知山公立大学谷口ゼミによる産学連携事業「若者酒づくりプロジェクト」が始まった【写真3】。

 本プロジェクトは、地場産業の商品開発に留まらない。日本酒文化を若者の感性で再解釈し、日本酒離れが進む若者世代とつなぎ直す文化の継承と創造の活動でもある。また、学生たちは、酒蔵に通い、経営者や杜氏との対話や共同作業を重ねながら、地場産業の現実に触れ、事業を継続し、文化を受け継ぐとはどういうことかを実践的に学んでいる。そこには、経営と文化の複眼の視点を持つまちづくりの担い手を育てる教育的意義もあると考える。
 今年度の4年生チームは、3年生時から「飲みやすさ」と「日本酒らしさ」の両立に挑戦した。アルコール度数を抑えながら香り高い日本酒にするという難題に、杜氏は長年の経験と創意工夫で応え、学生たちの想像を超える酒を生み出した【写真4】。


 
 さらに今年度は、クラウドファンディングのリターンに酒蔵見学ツアーを企画した。商品販売に留まらず、地域に人を呼び込み、交流を生み出す「観光まちづくり」への挑戦でもある。

② なぞときさんぽプロジェクト
〜まちへの関心を育てる仕掛け

「商店街に若者がいないのが寂しい」
 駅前商店街のバーでアルバイトをしていたゼミ生の一言が、本プロジェクトの出発点であった。魅力的な店舗や人が存在するにもかかわらず、若者に十分知られていない。ならば、楽しみながら地域と出会うきっかけをつくれないか。そんな問題意識を共有した。
 当初は駅前商店街での実践を模索したが、商店主との問題意識のずれから実現には至らなかった。しかし、その経験を通じて、地域との協働には地域の文脈や価値観を理解しながら共に歩む姿勢が必要であることを学んだ。
 その後、別の商店街界隈で始まったイベント「ふくくるさんぽ」と出会い、協働が始まった。学生たちは、プロの謎解き制作ユニットに学びながら、「謎解きまち歩き」を活用した実践を試みている。
 まちを歩き、謎を解き、人と出会う。
その体験を通して、若者が商店街の風景や歴史、人の営みに自然と関心を持つ仕掛けを創ろうとしている。「なぞときさんぽ」は、若者が地域を「消費する場」としてではなく、「関わる場」として捉え直す試みでもある。参加者が楽しみながらまちの魅力を発見し、地域との新しい関係性を築く契機となることを目指している。

4.まちづくりに観光を掛け算する「観光まちづくり」の可能性

 前章で紹介した二つのプロジェクトに共通しているのは、地域に既に存在している資源や風景、人々の営みを、学生たちが新たな視点で読み解き、社会との接点を生み出そうとしている点である。
 その現場においてヨソモンでありワカモンである学生は、地域住民とは異なる視点から地域資源の価値を発見し、小さな社会実験を試みながら、多様な主体をつなぐ媒介者としての役割を担っていた【写真5】。
 では、ゼミ活動に「観光まちづくり」の視点を掛け算したらどうだろうか。
ヨソモンとしての学生に加えて、観光者も含めた地域外の人々が、住民と出会い、相互作用し、学び合う交流が生まれたらきっと楽しいだろう。そして、学生も住民も新たな視点や知識、ネットワークを得てより豊かな地域社会づくりの担い手へと成長できるのではないだろうか。今後のゼミ活動ではこの視点をより大切にしていきたい。
 人口減少と高齢化が進む地域社会において、まちづくりに観光を掛け算する「観光まちづくり」は、新たな出会いと交流から、交流人口や関係人口も織り込まれた豊かなソーシャルキャピタルの醸成を促し、関わる人々の成長にもつながるツールとして大きな可能性を有していると考える。
 最後に、本稿の執筆が、ゼミ活動を改めて見つめ直す機会となったことを記し、感謝申し上げる。