活動報告

「第34回 旅行動向シンポジウム」を開催

「第34回 旅行動向シンポジウム」開催概要

開催日時…2024年
10月31日(木)14: 00〜16: 30
11月1日(金)13: 30〜16:30
開催方法…リアル開催
(日本交通公社ビル・ライブラリーホール

 2024年10月31日および11月1日の2日間にわたり、東京・青山の日本交通公社ビルにおいて、第34回旅行動向シンポジウムを開催しました。本シンポジウムでは、初日は、当財団が実施した独自調査に基づき、コロナ禍からの回復をテーマに市場動向を分析。
加えて、研究員による海外観光地の最新事例の報告や、東京大学の中島直人氏と山本清龍氏による専門的な解説が行われました。続けて2日目には、アメリカ・セントラルフロリダ大学の原忠之氏が基調講演を実施。地方創生における観光地経営のあり方について講演が行われ、これに続き、観光庁や京都市観光協会の有識者を交えたパネルディスカッションが行われました。
テーマは「地方創生の財源活用」で、具体的な実践事例や課題解決策について議論がされました。
 以下、各セッションの概要を報告します。

10月31日(木)

1.旅行年報 2024レビュー

 まず前半では、当財団五木田上席主任研究員より、国内旅行、海外旅行および今後の旅行意向に焦点を当て、調査データを基に分析を行った結果が報告されました。その主なポイントは以下の通りです。
●国内旅行について
・2023年の国内宿泊観光延べ旅行者数は、コロナ禍前の水準に回復。
・旅行経験率はコロナ禍で一時半減したものの、2023年には約9割まで回復、旅行実施者の平均旅行回数は1割増加。
・年代別では20代が最も早く回復し、70代以上は回復が遅れている。
・旅行スタイルでは、平日利用の増加や個人手配が定着し、行動範囲が広がる傾向。
・宿泊施設の利用はコロナ禍前の水準に戻り、ホテル利用が増加している。
●海外旅行について
・2023年の出国者数は1000万人と大幅に増加したものの、2019年の半分にとどまる。
・旅行経験率は年代問わず減少しているものの、旅行者の平均回数は増加するなど、二極化が進む。
・円安や物価高による割高感の影響が大きく、韓国やベトナムなど物価の安い地域への需要が高まる。
●今後の旅行意向
・国内旅行意向は高い水準を維持しているが、海外旅行に関しては「行きたくない」との回答が依然として高い。
・海外旅行を控える理由には物価高や治安不安が挙げられ、回復には時間を要すると考えられる。
・日常生活の中でも、レジャー・余暇生活の位置づけが低下している。
・20代にとっては、旅行時における手配の手軽さ、通信環境の充実も重要なポイントとなる。
続けて後半では、当財団柿島上席主任研究員より、インバウンドの市場動向について、「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」の結果より、解説が行われました。その主なポイントは以下の通りです。
●日本の人気と再訪意向
・日本は次の海外旅行先として依然高い人気を維持。
・アジアでは再訪意向率が非常に高く、欧米豪でも訪問経験者の再訪意向率が高い。
・欧米豪での初回訪問者誘致が重要。
●訪日旅行者の傾向
・2022年10月以降、ミレニアル世代の割合が増加。
・中高年層の割合が低下する傾向。
●円安による影響と課題
・円安が訪日旅行や消費を後押し。
・需要増による混雑や地域偏在が課題。
・地方部への旅行者分散が必要。
●地方部の観光振興
・自然資源を活用した体験型観光に成長の可能性。
・地域資源を活用した多様な体験活動の拡大が重要。
●サステナブルな観光への意識
・観光地保護のための入場料値上げや税の賦課に約6割が賛成。
・サステナブルな取り組みへの関心は高いが、行動には結びついていない。
・貢献意識を行動につなげるプログラムやプロモーションが求められる。
 データの詳細については、当財団発行の『旅行年報2024』を参照ください。
〈参考〉『旅行年報2024』(公財)日本交通公社2024年
https://www.jtb.or.jp/book/annual-report/annual-report-2024/

2.欧州視察 2024報告

 本セッションでは、当財団那須副主任研究員より、欧州視察でオランダの国立公園を訪問した結果を踏まえて、オランダの新しいスタイルの国立公園について報告を行いました。続けて当財団後藤主任研究員より、アムステルダムの観光政策について報告があり、オーバーツーリズム対策や新しい観光条例の説明が行われました。その上で、東京大学の中島直人氏と山本清龍氏による解説が行われました。

解説におけるポイント

 オランダの国立公園に関する報告に対しては、まず山本准教授より、保護地域の世界的な動向や国立公園の役割について解説がなされました。「30by30イニシアティブ」により2030年までに陸域・海域の30%以上を保護地域にする目標が進められ、農地なども保全に役立てる動きがあることを説明。また、保護地域には従来の制度に属さない民間の管理による自然も含めるべきとの議論が進展していることを指摘しました。加えて日本やオランダの事例を挙げ、防災や地域振興と連携した新たな国立公園の価値を紹介。さらに、地域性やブランド化の視点から国立公園のあり方が多様化し、EUを含む国際的な動向が重要と示唆した上で、研究と成果の公表を進める重要性を強調しました。
 続けて中島教授からは、自然保護の対象や管理システムの新しさに関する問いかけがありました。これまでの自然性の高い地域だけでなく、都市や水辺などの新しい領域を含む総合的な連携が求められている中で、環境問題を都市、農村、自然がつながる一体的な視点で捉え直す重要性を指摘。国立公園については、固定的な風景観賞から移動や体験を通じたストーリー性が重要となること。また、企業の協力を活用しつつ、地域住民や小規模団体を含む多様な主体の連携を持続可能な形で実現することを課題として挙げました。さらに、環境保護が企業や市民にとって「当たり前」となる新しい時代が到来することを見据え、持続可能な取り組みの推進の重要性について指摘しました。
 アムステルダムの観光政策についての報告に対しては、中島教授より、オーバーツーリズム対策としての都市政策の重要性が指摘されました。続けてヨーロッパのアムステルダムやバルセロナが、観光客ではなく生活者を重視する都市づくりへと方針を明確にした事例を紹介。観光の増加が不動産価格の高騰や住宅供給の減少、中心市街地の空洞化を引き起こし、都市構造に深刻な影響を与えていることを指摘した上で、観光と生活の調和を具体的に政策化する必要性について述べました。
また、都市の「キャパシティ」概念が取り上げられ、受け入れ可能な観光客数を設定しつつも、その基準や測定方法の議論が求められていること、観光と生活のバランスを最適化するためには、最大限の収容を目指すだけでなく、住民の生活の質や観光の質を維持する包括的な方策が必要だという点も指摘されました。
 そして山本准教授からは、日本でも参考になる事例として、アイルランドでの国際地理学会で報告されたイタリアやドイツの新たな規制の取り組みについて紹介されました。加えて、国立公園における入域料などの価格政策に対して反対意見が多かった過去を振り返りつつ、観光税による利用者抑制が世界的に普及しつつある現状について指摘。アムステルダムの観光税導入による宿泊者数抑制の試みについても触れた上で、負担の妥当性や公平性の議論が求められると解説。日本でも具体的な対策を講じる必要性があると指摘されました。

11 月1日(金)

1.基調講演

 2日目の冒頭では、アメリカ・セントラルフロリダ大学の原忠之氏による基調講演「インバウンド客観光支出を利用した地方創生に向けた人材育成」が行われました。講演で指摘された主なポイントは以下の通りです。
●観光の目的と観光地経営の重要性
 講演の冒頭で、観光の主な目的は、納税者の生活水準の質の維持・向上であると強調。また、観光地経営には、観光地の開発、経営、地域社会との共存、持続性を意識した組織行動が含まれると解説しました。特に、アメリカのDMOの例を挙げ、セールスマーケティングだけでなく、観光地経営や地域社会との共存も重要な要素であると指摘しました。
●マーケティング戦略と日米の観光協会の違い
 観光地のマーケティング戦略について説明し、認知、考慮、優先順位付け、準備、訪問、拡散のステップがあることを解説。また、日本型の観光協会と米国型DMOについて財源の点から違いを説明しました。具体的にはアメリカでは特別地方税からの資金をエスクローアカウントに入れ、一般財源には依存しないファンディングモデルを採用していることを説明しました。
●季節性の問題と観光資源のポートフォリオ戦略
 観光産業の最大の敵は季節性であると指摘し、これを克服するためには観光資源のポートフォリオ戦略が必要だと述べました。例えば、スキー場と沖縄のピーク時期が異なることを利用して業務提携を行い、正規雇用を増やす可能性について解説しました。
●人材育成とホスピタリティマネジメント教育の重要性
 観光産業における人材不足、特に中間管理職の不足を指摘し、ホスピタリティマネジメント教育の重要性を強調しました。英語でホスピタリティ経営を勉強し、現場で業務遂行できる経営人材が日本では不足していると指摘し、世界で通用する人材育成の必要性を訴えました。
●賃金問題と女性の雇用
 観光産業における低賃金問題を取り上げ、特に非正規雇用の女性の賃金が低いことを指摘しました。日本とアメリカにおける宿泊業界の女性の平均年収の差を例に挙げ、賃金引き上げの必要性を指摘。また、女性の消費が経済に与える影響についても言及し、女性の賃金を上げることが経済全体にプラスの影響を与えることについて強調しました。
●インバウンド戦略と英語力の重要性
 インバウンド観光の重要性を強調し、特に英語力の必要性を指摘しました。
DMOのセミナーなどを英語で行うべきだと主張し、英語力に対するプレミアムを付けるべきだと述べました。また、TOEIC等の英語資格に応じた資格手当の導入を提案しました。
●空港インフラの活用と入国管理の効率化
 最後に、日本の空港インフラの潜在的な可能性について言及し、より効果的な活用を提案しました。特に、アメリカやカナダの例を挙げ、海外の空港に日本の入国管理官を派遣することで、入国手続きを効率化できる可能性があることを指摘しました。これにより、地方空港の活用が促進され、インバウンド観光の拡大につながると解説しました。

2.JTBF自主研究「観光財源研究会」報告

 続けて、当財団菅野上席主任研究員より、JTBF自主研究として進められてきた「観光財源研究会」の活動についての報告が行われました。
 観光財源研究会の活動内容の詳細については、以下をご参照ください。
https://www.jtb.or.jp/project/non-profit/network/zaigen/

3.パネルディスカッション

 そして、原テニュア付准教授、菅野上席主任研究員に、観光庁・河田敦弥氏と京都市観光協会・赤星周平氏が加わり、当財団理事/観光研究部長・山田の進行の下、「これからの地方創生と財源活用のあり方」をテーマにパネルディスカッションが展開されました。
 パネルディスカッションでは、観光振興財源としての宿泊税の導入と活用を中心に議論が展開されました。まずモデレーターの山田より、宿泊税が観光振興の重要な財源となり、DMOに優秀な人材を集め、地域活性化に寄与する点について投げかけが行われ、原氏からは、アメリカではホスピタリティマネジメント教育が盛んで、高い初任給が観光産業への優秀な人材の流入を促している点について指摘がなされました。一方、京都市については、赤星事務局次長が宿泊税の使途が観光以外に転用される懸念や定率制導入の課題が生じていること、さらに、河田観光戦略課長からは原テニュア付准教授の講演内容を受けて、観光産業が女性の活躍に適していることを述べ、就業環境改善や働き方改革の必要性について指摘がされました。そして、最後に原テニュア付准教授より観光産業の政治的影響力の強化に関して、アメリカの例を基にロビー活動と政治家との関係構築の重要性が指摘されました。議論を通じて、財源確保、人材育成、地域特性の尊重、女性の活躍推進、政府の役割など幅広いテーマにおける課題が浮き彫りになるパネルディスカッションとなりました。
 以上、非常に充実した内容の2日間となりました。今後もJTBFでは旅行・観光分野の実践的な学術研究機関として、社会に求められる研究テーマに積極的に取り組み、旅行動向シンポジウム等の場を通じて、皆さまにより有益な情報を提供していきたいと思います。   (文責:JTBF・中島 泰)