機関誌「観光文化」

山岳宗教都市・高野山 (観光文化 197号)

山岳宗教都市・高野山 (観光文化 197号) 全文無料公開中

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特集 : 山岳宗教都市・高野山
     ―その美と歴史文化

 高野山は、約千二百年前に弘法大師空海によって開かれた真言密教の修行道場で、全国に広がる高野山真言宗の総本山。二〇〇四年(平成十六年)には、『紀伊山地の霊場と参詣道』として世界文化遺産に登録された。今号では、国際宗教都市・高野山に刻まれた歴史と、育まれてきた自然、文化・宗教など視点から、高野山の魅力を紹介します。

発行年月
2009年09月発行
判型・ページ数
B5判・32ページ
価格
定価1,540円(本体1,400円 + 税)

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[巻頭言] 高野山 その美と文化 写真家・大阪芸術大学教授  永坂 嘉光

 高野山は空海が開山し、千二百年を迎えようとしています。これを機に中門の再建等、伽藍を再生し、古式豊かな時代美の再現に取り掛かっています。
 仏教がインドで興り他教に追われ盛衰を繰り返しながら、ヒマラヤの山々を越え、中国に伝わり、やがて唐の末期に密教が衰退し始めたころに入唐していた空海が、名僧・恵果阿闍梨から密教の本質を伝授され、多くの経典や文物等を日本に招来し、帰国後には日本各地にその思想や技術を伝えることとなったのです。
 帰国後九州太宰府に停められ、やがて京都・高雄の神護寺に入山し、ここを密教道場として開き結縁灌頂を開壇します。やがて、高雄を離れ、空海は都から遠く離れた紀伊山地の高嶺にある高野山を自己の目指す密教道場として開き、大規模な伽藍の造営にかかるのです。インドで興った密教が時を経て、極東の小さな島国・日本の深山幽谷の高野山で再現され、今もなお、その形が生き続けていることは人類の奇跡でもあると思います。
 空海は密教の根本思想でもある「五大」を、高野山で初めて五輪塔として造形化しました。地・水・火・風・空を意味した五大を五輪塔に刻んでいます。これは、宇宙を形成する五大元素を意味しています。いわゆる自然が営まれる原点です。「地」は基礎・基盤・大地であり、「水」は水がなくては生命が宿らない、「火」は生き物の根源であり、「風」は気候を創り、種子を運ぶ「空」がなければ存在すらできない、これらが個性を持ちながら混じり合い五大となり、自然の生命の原点を創り上げています。
 空海は若き日、高野山に足を踏み停めています。その折に、水がわき出て緑が豊かな原野を目の当たりにし、ここは生命が宿る原野だと、思ったと思います。高地であり雨が多い湿潤な高野山はこの地独特の風情を醸し出し、温度が変容する季節の節目のころには、霧に包まれた根本大塔が雲間から顔を出す、幻想的な墨絵の世界そのものが見られるのです。その墨絵の世界の中で密教の塔・根本大塔の朱が異彩を放ちます。
 雨の後は、深い霧に包まれ、物音一つしない静寂な朝を迎えます。私は風景との一期一会の機会を感じると、とっさに大型カメラを持ちその地に向かいます。
 霧雨や濃霧が伽藍の堂塔を覆い隠すと、現世の世界から異次元の世界へ誘われるようです。霧の中の黄昏時は、灯火が反映して神秘的な世界を演出します。空間の中から空海の声明が聞こえてくるような微妙な情景が展開するのです。
 雨が上がり晴れ間が見えてくると、鮮やかな朱塗りの根本大塔が宙にそびえ、厳かな霧に包まれた世界から晴れた青空にくっきりと現れます。インド、チベットを源流にした色と形をほうふつさせ、高野山独自の密教文化に彩られた美が見られるのです。
 高野山には空海が造営し、そこに住み修行したといわれる「伽藍」と、空海が入定し、今も生きていると伝えられる「奥の院」の二つの聖域があります。特に空海入定の奥の院に向かう参道(約二キロ)には鎌倉時代から近代までの武将等をはじめとした大きな五輪塔等が群をなし、また地中に埋没した墳墓等、何十万基というおびただしい数の方々の墳墓があり、日本の総菩提所を形成しています。高野山の栄枯盛衰を語る遺跡であり、日本の歴史を含み込むこのような墳墓はどこにも存在しないでしょう。
 現代の高野山は世界遺産に登録されてから、世界の多くの方々が訪れるようになりました。空海が密教道場として開創した高野山に空海が自ら入定され、今日まで千二百年間、空海の永遠の命(空海は生きている)について信仰され続け、世界にも類を見ない信仰のメッカともなりました。
 今後、未来に向かって偉人・空海の思想を基に高野山は世界に向かって新しい形を形成していくでしょう。

掲載内容

巻頭言

高野山 その美と文化 P1 永坂 嘉光

特集 山岳宗教都市・高野山 ―その美と歴史文化

特集1 高野山の「魔力」 P2 五十嵐 敬喜
特集2 高野山の歴史と密教美術の神髄 P6 山口 浩司
特集3 弘法大師が伝えた聲明 P10 井川 智雄
特集4 森林セラピー 世界遺産高野山 千年の森 P14 楠 博州
視点 温泉地の魅力向上のための財源を考える
  ―入湯税のあり方とは P18
朝倉 はるみ

◆連載

連載I あの町この町 第35回 差金が右腕
  ―岐阜県飛騨市古川 P22
池内 紀
連載II 風土燦々(8) 町住みのリアル・ハンター(前編)
  ―静岡県浜松市天竜区 P28
飯田辰彦
連載III ホスピタリティーの手触り 56
  エアラインの使命 P30
山口由美
新着図書紹介 P32